(????)背教の黄泉、照らすは愛
2020→1300~1324。感情は時を治め、理を揺るがした。そして矛盾はいつしか破綻し、「地獄」というカタチで結実する。
ーその歴史は、罪業に始まり、愛憎を以て、罪業に終わる。
遂に、全てが決する…!
プスーン!
杖が、光線を飛ばす。
「橋本、いきなり原爆ぶつけちゃだめか!?」
「何を言ってる一野!こいつは、原爆の炎を再現できる、耐えられるんだぞ!」
「じゃあどうする!」
プスーン!
杖の向きにかかわらず、次々四方八方に放たれる光線。避けるので精いっぱいだ。
「くそ、どうすれば...そもそも原爆でダメなものを倒す方法なんてあるのか!?」
「それを今考えてんだろ一野!うっせえぞ!」
橋本が、前転する。その上を、光線が進む。
「…ほう避けるか。では、これはどうかな?」
「げっ!」
文観が、杖を投げ捨てた。空になった手に、もう一本杖があらわれる。そして捨てられた一本も、空中に浮遊してビームを放ってきた。
「それ」
再び杖が放られ、新しく出現する。計3本の杖から放たれる光線。
「どうなってやがる!正体が3人だからって、3本の杖は反則だぞ!」
プスーンプスーンプスーン!
プスーンプスーンプスーン!
3つの杖から同時に放たれる光線は、確実に3人を追い込んでいく。
高時が、鉄砲を発砲した。
杖が砕け散り、文観のホログラムのような胴体に小さく閃光が奔る。
「高時!思いついたよ!」
「登子、なんだ!?」
「言葉だよ!言葉で、文観を弱らせられるかもしれない!」
百松寺兄妹がうなずく。
「どういうこと!?」
「だから、文観というカタチをとらせ、私たちをタイムスリップさせ、神様仏様を北海道や地獄に生み出し、天国地獄を作り出したのが愛憎の力なら、少なくとも片っぽには説得の余地がある!」
「なるほどな時乃。だが、どうする!打ち合わせの余裕なんて!」
「おけ、知ってる!だから、思ったままぶつけて!」
「…登子、キレてる?」
もしかして、ただ、言いたいことを言いたいだけなんじゃ...
「面白い、俺の理性も限界だったからな!
言いたいこと言わせてもらうぞクソなまぐさ坊主!」
橋本が、手榴弾をコロコロ転がしながら叫ぶ。
手榴弾から、白煙が噴き出した...
―*―
「文観、と言っていいのか怪しいが...
ともかくお前、勘違いも甚だしいぞ!」
「そうだよ!
愛も憎しみも、こんなことのためにあるわけじゃない!」
「考えてみろなまぐさ坊主!
なぜ愛と憎しみが、物理法則を越えられるほど強い感情なんだ!?」
「-決まっている、強く願うからだ。愛と憎しみを持つものが、それがゆえに世界を変えたいと。-」
「そうか?俺はそうは思わないな!世界を変えたいと願うなら、もっと世界は、一人の愛や憎しみに揺らいでいるだろうに。」
「いや、現に拙僧は14万の死で目覚めた。一人一人の愛憎はさほど強いものでは」
「文観、わかったような口でなめたことを言うな!自分と橋本が、登子への愛でどれほどのことをしたと思っている!強くないわけがない!」
「一野の非理性的な意見に賛同するのは癪だが、その通り、愛憎の力あって、俺は大きく歴史を変え、ここにたどり着いた!
お前、それを、何を軽く見てる!」
「軽く、見ているだと?拙僧が愛憎の力をまとめ上げて成したことにこれだけ振り回されて、まだ」
「覚えがあるんじゃないかな!愛と憎しみの、本当の意味!」
「何!?世界を変えたいと願うほど強い想い、それ以外の意味があるか!」
「違うよ!」
―*―
ー魂が、崩れ始めている。
ー我々のもろい魂では、この異常な世界で術を支えるのは無理があるな...
「-100秒保たせるつもりだったが₋」「-無理みたいねー」「-これは、この世界も終わりかなー」
百松寺の特徴ー「同時にすべての世界に同じ魂で存在する」、それは同時に、「百松寺がいない世界が成立できない」ことをも表している。
それが、百松寺の余裕の理由。そして、あきらめの理由。
-ここで負けたとしても、死んだとしても、それは、無かったことになる。それも世界ごと。
百松寺1000年に、失敗はあり得ない。残るのは「すべてがうまくいった」平行世界のみ。
「-でも、悔しいなー」「-そうね、確率分岐で私たちが捨てられる側の世界に立つのはー」「-我々にも、救われて、笑顔をー」「-笑顔でー」「-迎えられる世界がー」
―それでも、この世界の百松寺歩と百松寺祈の終わりは、無かったことになるとしても、変わらない。
「-もう一度―」「-五人でー」
二人の合わせた手が揺らぎ、金色の、光のシールドにひびが入る。
噴き出す核の業火が、正方形のシールドを砕き、二人に殺到した。
「「想像は現実化しうる。私たち、そしてあなたたちの存在の観測こそ、その最たる証明」」
どこからか、声が響く。
「「反射R」」
瞬間、無数の六角形からなる平面が出現し、文観が作り出した原爆の業火が反射され、煙を貫いて出どころである白銀の円を消し飛ばし、文観をも呑み込んだ。
「-…遅かったじゃー」「-ないー」
「…誰のために来たと...それ以前に、また勝手やってるのかと殴りに来たはずなんですけどね...」
どこからともなく出現した人影二人に、百松寺兄妹が手を振る。
「…ハッピーエンドのためには、北条は放っておいた方がよさそうね。帰るわよ。」
影が、薄れゆく…
―*―
「その意味はね、『世界を無視するほどの強い想い』だよ。」
私は、文観が起こしているのと似たようなことを、いくつも知っている。
-どんな時でも、高時と一緒に、橋本くんと一緒に、この決して明るいと言えない時代で、不可能であるはずのことを、可能にしてきた。
-愛憎は、運命とか世界のことわりっていうものを、超えていることがある。そうしたものを無視して「こうなってほしい」と強く願うから、狙いもしないのに、世界を変えてしまう、そういうことは、あって。
それを他人は、偶然とほめ、もしこれが物語なら「ご都合主義」と笑うのかもしれない。だけど。
「人はそれを、『奇跡』って呼ぶんだよ!」
だから。
「ちょうどなタイミングで私たちが出会ったのも。
何度危険に陥っても私と高時が打ち勝ってきたのも。
橋本くんが戻ってきて、仲直りできたのも。
存在しない地獄をあなたが生み出せたのも。
地獄が敵って絶望的な状況で、私たちがここまで来られたのも。
全部、奇跡。
愛と、時には憎しみあっての、奇跡。
…だから、世界をも無視して、自分のことしか考えられなくなるような純粋な想いを、その人たちを踏みにじるために使うなんて、許さない!」
そもそもわかり切った大きすぎる矛盾。だって、誰かと一緒にいたいと願う愛の力で、それを引き裂いて世界を侵食する「地獄」を作るなんて。
「私は、こんなことは望んでない!」
―*―
1324年12月17日、大和国、吉野北方上空
飛行船「強兵六号」は、北へ北へと一路直進していた。
さして強力ではないプロペラエンジンが精いっぱいうなり、南へ吹き下ろそうとする季節風をよけていく。
そんな中、手が空いている人々はみな、南を見つめていた。
未だ、巨大な黒い球体は、下は山々を大きくえぐり、上は青い空に突き刺さって天まで届くかと思うほど、空間を圧していた。
「…空って、雲って、近かったんだな。」
義貞が、球体をまばらに取り巻く雲を見上げ、つぶやいた。
「…高時様、登子様...」
あや姫が見つめる腕の中の赤子が、何も知らずに笑っている。
「兄上、なんでも勝手にやるんだから...」
桃子内親王が、ため息を繰り返す。
「…あ」
「カムイシラ、どうした?」
「いえ、直義様...
声が、聞こえなくなりました。」
「それは...
神仏がいないところを飛んでいるのか?」
「いえ、わかりませんが…
…もう、未来永劫、カムイの声が聞こえない、そんな気がいたします。」
「…そうか。」
誰もが、なぜだか、その一言を境に、確信したー
-全て、終わったのだと。
「…船尾を『地獄』へまっすぐ向けて。」
桃子がつぶやく。
―*―
「もう、止めて、私」
「そうだ、俺」
「すべて終わりだ。もう、いいじゃないか、自分」
「お前ら、お前ら...
...拙僧を、拙僧を惑わすなあ!!!!!」
白煙が吹き飛び、文観の胴体が消失し、ドクロが膨らむ。
「ちっ!」
トラックぐらいあるドクロが、虚空に虚ろな大口を開く。
杖3本が転がり、灰になって崩れる。
いつの間にやら地面も消え、誰もが、虚空に浮いていた。
3人の服もまた、ブレザー制服に変わり、橋本にはメガネがかかっている。
「なるほど、な。」
橋本が、メガネを、クイッと上げる。
「ー貴様を倒して、拙僧は!拙僧は、その先へー!ー」
ドクロの目が白く光る。
そして真っすぐ、飛んでくる2条の光線。
「橋本くん!」
「橋本!」
橋本理の身体を、ビームが直撃する。しかしー
-2本の光は、メガネで止められていた。
「効かねえんだよクソなまぐさ坊主!
人様の想いなめんな!
お前のようなよこしまな心では、俺のメガネすら超えられん!」
「ー貴様ぁー!ー」
「QEDだ!時乃、一野!」
―*―
…橋本の眼鏡が、魂を消し飛ばすビームの太いバージョン2本を、メガネだけで受け止めている...
「そうか…この姿も...」
高校の制服。なんだか、若くなった気もする。
「治くん、これって...」
「そうか、精神世界って、そういうことか。」
百松寺兄妹の姿がない。攻撃に耐えられなかったか、気まぐれに帰ってしまったか。
3人、つながってる感じがする。
ー今見えているのは、心。
ー今起きているのは、心と心の、ぶつかり合い。
「QEDだ!時乃、一野!」
「いいんだな、橋本!」
「いいわけあるか!こっち来い!」
「おけ!」
トキが、明るく応える。
「トキ、いいんだよな!」
「もちろん!だから、手、つないで♪」
「ああ!」
左手で取り出すのは、一枚のお札-原子爆弾、「壊二号」。
右手をトキの左手に重ね。
「消滅しても」
トキが、右手を橋本とつなぐ。
「3人」
橋本が、自分の左手に手を添えた。
「一緒でよかったよ。」
巨大ドクロが、目からビームをやめて、口を大きく開ける。
「「「起爆用意!」」」
「-それでも拙僧は、あきらめん!
死後の世界は、無くてはならんのだ!
そなたらが、間違っている!
拙僧は、ここに、永遠の力と、なくならない伴を...!
そなたらだって、悔やんでいるだろう!
愛する者を守れない!
憎むものを害せない!
愛する者も憎む者もすべていなくなった!
運命を、否定する力を、欲するだろう!
だから、だから拙僧はこの地で、この力でー!-」
「…どれほど罪業を重ねても、いや、だからこそ、悔やんでなんかいられない!
結局、運命って、愛って、もっと、ロマンチックなものでしょ♪」
3
「何が正しくて何が間違ってるか、勝手に決めんじゃねえよ。
俺たちは、俺たちのしたいことをした。その願いで、あまさかさまなこと考え、あまつさえ実行しやがって!」
2
「そうだよ!私たちも、私たちの想いも、私たちのためにあるんだよ!赦して!」
1
「そうだ、確かにお前は自分だ、正史の。」
-愛憎の力で、恨みを晴らしたかったんでも、支配したかったんでもない。ー
-ただ、天国、いや、地獄すらなかったことに、絶望してー
-だから、作った。途中から、死後の世界での再会という目的すら、時空改変に消されー
-何かが絡まれば、あそこで牙をむいていたのは、自分ー
「でもな、人に愛され、憎まれることを求めるなら、こんなもの造る前にー
-まず、自分が人を、愛してみろよ!」
0
「「「起爆」
-刹那。
文観ドクロは無限の白光に包まれて消滅。
核爆発が生んだエネルギーが、無数の量子の衝突の間隙から、破れた因果を圧倒しー
-創造者を失った世界は、700年分の膨大な破綻を呑み込み、爆散するように消失した。
ー3人の笑顔もまた、光に包まれていった...ー
ー終わりません。まだ、エピローグとして1話投稿させていただきます(同時に、かすかにほんのり続編である、異世界物語を投稿する予定ですのでどうぞ)。