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(続1322春)彼らと彼女らの死戦の先へ

 航空時代突入話後半戦です。※ただし戦は続きます。

 よく考えると、戦闘シーンすさまじく苦手かも。生意気と言わず下手の横好きと受け取っていただければ。

 全員そろったので、そろそろどこかの前書きで登場人物紹介しようと思っております。

                    ー*ー

1322年3月16日、富士山麓上空

 ギギ...

 ドン!

 「どうした!」

 飛行船を、突如として不快な振動が襲った。

 次いで床が傾き始め、人や物が船橋の後ろから前へずるずる落ちていく。

 「殿下、機関の操作が狂ってございます!」

 「…逝っちまったか。機関緊急停止!」

 「了解っ!」

 すでに護良親王は、飛行船の現状をかなり正確に把握していた。

 全速で進む「飛電ヒンデンブルク号」は、風力だけではなくエンジンによりスクリュープロペラを回して速度を上げていた。しかしその進行はすでに、機関がないので流されるわけにはいかず気球のプロでもない義貞と高時が気球の下から地面までつなぎとめていた綱、それが四苦八苦の末飛行船前端のあらわになったジュラルミン骨格に結び付けられことにより、阻まれていた。

 綱のあそびがなくなると同時に、機関と綱の強度は引き合いを始める。しかししょせん強力なエンジンを積めない技術水準と積載重量による悲哀、飛行船が押し負け、エンジンがオーバーヒートし、壊れてしまったのである。

 慣性で前に進もうとする飛行船は、風の影響もあり前に進もうとした結果、繋ぎ止められた前端を支点に倒立しようとしていた。

 「総員、何かにつかまれ!」

 「殿下!傾いたせいか、ここからでは機関部の操作ができません!」

 「くそ!」

 

                    ー*ー

 飛行船の前端から船内へ躍り込んだ幕府勢も、全く動けなくなっていた。

 総勢12名の気球乗組員だが、1人は気球に残り、飛行船の前端に結び付けられてしまったちっぽけな2つの気球の面倒を見なければならない。かごの根元が結びつけられているために様々な方向から力がかかり、非常に不安定なのだ。そのために斬り込み隊は11人。ただし高時は戦力としては半人前である。

 飛行船はふつう上か下に中枢がある。しかし樽をたくさん投下してきたところを見るに、下には(毒ガス)倉庫があり、そんなところに親王がいるとは考えにくいと高時は上へ向かうことを提案した。

 そうして、ジュラルミン骨格と要所要所に取り付けられた木製の手すりを進んで、上方から矢を射かけられたその時、飛行船が震え、傾き始めたのだ。

 矢が、あらぬ方向へ落ちていく。

 慌てて、幕府勢も頭上の朝廷勢も通路や支柱にしがみついた。しかし通路はジュラルミン。手が滑ったのか、落下した朝廷の兵士が落ちていく。

 さらに傾きを増し、ついにはほぼ倒立してしまった飛行船。しかし義貞は、手すりの支柱をはしごにして上へよじ登り始める。

 「義貞やめとけ!今落ちたら入ってきた穴から地面まで真っ逆さまだぞ!」

 「頭つぶして死ぬのは勘弁だな...」

 「ちなみに非常に高いところから落下すると、恐怖で心臓が止まって、地面にぶつかる前に死ねるらしいぞ。」

 「ぞっとしないことを言うな!」

 いくら軽装とはいえ、背中には銃をしょっているし、刀もある。みだりに動くのは自殺行為。

 「しかしおかしいな。上に気嚢がある以上、上に力がかかりすぐ持ち直すはずなんだが...」

 高時はそっと振り返り、天井(?)でうねうねしている布の袋を眺めた。

 「どうやって気密袋なんて作ったんだ...しかも熱ではなく、さすがにヘリウムではないはず...水素だろうし間違って撃ち抜いたらドカンだなぁ。」

 ひいっと何人かが震える。大の男たちがおかしな向きの木の支柱にぶら下がって連なる、なかなかアホな光景が広がっていた。

 「そうだ、手がある。」

 「手?」

 「そうだ義貞。こんなのはどうだ...?」


                    ー*ー

1322年3月16日、鎌倉、赤橋家屋敷

 「…わかったわよ。」

 「どうするの?」

 「もう、言わせないで!」

 「おけ!」

 「で、どうするの?もう鎌倉は落ちてるといっても過言ではないのよ。」

 「だから勾子、あや姫を先導して、鎌倉を出てほしいんだ。」

 「…逃がす、わけじゃなさそうね。」

 「攻め、ですわ。頼めるかしら?」

 「安達家と新田家の名にかけて。」

 「では行きますわよ!事は一刻を争いますわ!」

 「登子様も、死なないでよ!」

 「高時がまだ生きてるのに、死ねるわけないよ!」

 「…さっきとおっしゃること違いませんこと?」

 

                   ー*ー

1322年3月16日、富士山麓上空

 「こりゃこのままだと死ぬなぁ!」

 高時が大声で怒鳴る。そして11人がさんにーいちで声を合わせる。

 「「「「「「「「「「「どうせ死ぬなら、火でもつけるか!」」」」」」」」」」」


                   ー*ー

 「なんてことを!」

 俺は突如響いてきた声に心底震え上がった。

 水素飛行船だぞ!ロケット撃たせるのも躊躇したんだぞ!火が付いたら大爆発、そうしたら船底に塩素タンクと一緒にあるアレも...

 「すぐに何とかしろ!」

 怒鳴りながら、こういう時のために船橋の壁に取り付けておいた横はしごを必死によじ登り、自分でも重心を後ろへ寄らせるのに寄与する。

 努力の甲斐あってか、だんだん船体は元の水平に戻っていく。

 「総員、防戦だ!」


                   ー*ー

 気球側で浮力を上げてもらったためか、飛行船は水平を取り戻しつつあった。

 正直まだ怖いが、今のうちにと走る。先に上り階段があるのはさっき確認済みだ。

 上でも、走る足音がする。

 上から、矢が飛んでくる。

 「避けられないぞ!今はまだいいが、狙えるほど安定してきたらどうする!?」

 「義貞、そうなっても上には撃つなよ!撃ったら墜ちるぞ!」

 「どうしろってんだよ!」

 そうしている間にも矢が降り注ぎ、ついには一人の首筋に突き刺さる。

 「ぐっ!」

 「大丈夫か!」

 「高時様...先へ、お行き、くだ、さ...」

 そのまま兵士は支柱と支柱の間から船底へ落下していく。彼の傷口は紫色になっていた。

 「毒だ!気をつけろ!」

 さらにもう一人が、手すりにもたれ動かなくなる。

 全滅は必死か...!

 しかしその時、先頭の義貞が、上り階段にとりついた。

 「なあ高時、あの袋に当たらなきゃいいんだよな!」

 「ああ!好きにやってくれ!」

 「おっしゃあ!」

 階段を一段飛ばしに駆け上がる義貞の姿が見えなくなる。

 「海兵隊なめんなあ!」

 バビュン!

 弓矢にしては強すぎる音が響き、矢が降ってこなくなる。

 階段を上った自分たちが見たのは、ひとり残らず倒れ伏す朝廷兵の向こうを走る義貞の背中だった。

 「ぐあ!」

 後ろから弦音がして、一人が倒れる。

 「ちくしょう!」

 鉄砲を後ろに向け、確認する前に撃つ。

 タアン!

 ドサ!

 「今度は上です!」

 「上!」

 見上げれば、手すりから身を乗り出し弓をつがえる人影。

 「走れ!」

 遅れてきた兵士たちを引き連れ、通路を全力疾走する。

 次の瞬間、毒矢が背中に刺さるのでは?

 次の瞬間、足を踏み外して通路から落ちるのでは?

 次の瞬間、前端の破孔の燃え残りが水素に引火するのでは?

 様々な恐怖すら置き去りにして走り、階段を駆け上る。

 頭の上をかすめる矢!

 頭をかがめ、階段で身を隠し、矢筒から矢を取り出す。

 短いおもちゃのような矢。矢じりの布を内側に触らないよう気を付けて取り去り、弓につがえ、前へ射る。

 人が倒れる音。

 ごめんな、ロケットだけじゃなく毒矢もあるんだ。でも前回は百姓兵に毒矢使わせてたろ?

 頭を出すが、敵はいそうにない。

 走り出す。

 「高時様、横です!」

 「横!?」

 平行に走るもう一つの通路に、上から降りてきたらしい何人もの人影。

 うわ弓つがえてる!

 弓が一斉に弦音を立てる。

 まにあわないっ!


                    ー*ー

1322年3月16日、鎌倉、赤橋家屋敷

 塹壕に板橋が掛けられる。

 馬に乗った武士たちが、橋を駆け抜ける。

 「南ですわ!由比ガ浜へ!」

 「了解っ!抜けるわよ!」

 突然打って出てきた12騎の騎馬隊に、反乱軍の武士が色めき立った。

 「あれは誰だ!」

 「女子だ!二人いるぞ!」

 「登子様なら捕らえればほうびが出るぞ!」

 「者どもかかれえーっ!」

 塹壕を攻めあぐねる武士たちは、簡単そうな少勢の追撃のほうを選んだ。

 すでに正面には敵がわらわら立ちふさがっている。

 「二人を守るよ!南方の全砲門、一斉射!ロケット隊、残弾の限り、撃てーっ!」

 登子の叫びに応じ、七寸砲5門、三寸砲1門、さらには新開発の元亨元年式二寸半塹壕歩兵砲17門が、一斉に鼓膜を破ろうとする。さらに後方からは、ロケット弾数十発がふらふら飛んでいく。

 騎馬隊の行く手を遮ろうとした武士たちが、爆発に巻き込まれる中、騎馬隊は気にする風もなくクレーターを突っ切り、そのまま街中を走っていく。

 区画整理のため、海まで道は一本。

 前方から騎馬隊が走ってくる。数えきれないぐらい。

 「弓、射てくださる!?」

 あや姫が指示するや、限界まで引き絞られていた弓矢が弦音を立て、前方の騎馬隊が乱れる。

 「馬でも10数える間に倒れるというのは本当でしたのね!」

 「姫様、横でございます!」

 「火事対策が隠れ場所を提供するなんてね!」

 勾子が毒づくとともに、家と家の間に設けられた小路から矢が数本飛び出し、馬に突き刺さる。

 「もうちょっと耐えて!」

 安達家自慢の駿馬が、うなき声を上げ加速する。

 -今度は、横合いから、馬に乗り刀を擬した武士たちが数十人現れた。

 「…できるなら戦いたくはなかったのよ。長崎とは血のつながりもあるし。ね、円喜殿。」

 「ほう、勾子殿ではありませんか。」

 後方にいた武士の一人が、兜の額を持ち上げ、にやっとうなずき前に進み出ながら、太刀を抜いた。

 勾子がなぎなたを構えなおす。

 円喜の馬が、一歩、前に踏み出した。


                    ー*ー

1322年3月16日、富士山麓上空

やっとの思いで船底にたどり着いた尊氏と桃子内親王は、機関から煙が出ているのを見て、早く上に報告せねばと焦った。

 しかしすぐに思い至る。機関部の補修要員は?と。

 倉庫に入った二人は、20個ほど並ぶ樽の真中で、厳重に固定され黄色い丸に黒いマークの付いた卵型の物体と、そこにもたれかかり死ぬ何人もの人間を目にした。

 ーこれ以上近づいてはいけない気がした。

 「尊氏殿、これが、兄上の本性よ。」

 尊氏が慎重で臆病な人間でよかった、そう言うべきだろう。彼が回れ右して扉を閉めていなければ、命はなかった。

 「裏切る、いえ、表返るときね。私はあなたに従うわ。」

 

                    ー*ー 

 ピュン!

 あれ、死んでない?

 見回すと、連れの兵士が全滅し、生き残りは自分と義貞だけだ。

 何のつもりだ?

 「北条高時、いや、一野治、よくもまあ自ら来たな!」

 なぜ、知って...まさか!

 「橋本!」

 「おい、橋本ってまさか!?」

 「そうだ。あの、情けないほうの自分の幼なじみの、彼氏だ!」

 「天才とだけ言ってほしいね。さてと、チェックメイトだ。」

 「殿下!どういうことです!」

 「「「たかうじ!?」」」

 弓矢をこちらへ向ける護良親王。その斜め下の通路で、自分たちを裏切ったはずの仲間が、弓矢を護良親王へ向けていた。

 

                    ー*ー

1322年3月16日、鎌倉

 瞬間、勾子がなぎなたを振る。

 パシュ!

 おじけづいたかと思った円喜の後ろで、うめき声が上がった。

 振り返り、短剣が首筋に刺さった兵士を視界に収めた円喜。しかしその時すでに、勾子は円喜に迫っていた。

 なぎなたが馬の脚を切り払う。

 馬から転げ落ちた円喜に、馬から降りた勾子がなぎなたを突き付ける。

 「今度は替え玉じゃないようね!」

 「安達殿、貴女が加われば、安達家を執権に...」

 「新田殿と呼びなさいな。

 時間がないからとどめはささない。潔く義貞の沙汰を待つことね。

 あや姫、急ぐわよ!」

 再び馬に飛び乗った勾子は、馬の背に鞭打ち、なぎなたで立ちふさがる武士を一なぎ、顧みることなく走り出した。

 タアンタアンと銃声が鳴り響く。勾子を追おうとする者は、一掃された。

 あや姫の馬が、隊列の最後尾で立ち止まる。

 「私は田舎者ですので、血縁やしがらみによって敵にとどめを刺さなかったばかりに争いを終わらせられなかった例をたくさん存じておりますわ。

 貴方様の生への執着は、美しいものかしら?高時様のごとく。」

 あや姫が、オパールの瞳で円喜を覗き込み、小さなピックをひょいと放った。

 円喜が倒れる。

 「美しく眠るか、美しく起きるか、ですわ。」

 馬は、走り去っていった。

 

                    ー*ー

 同じころ赤橋家の屋敷では、攻め手が恐慌をきたしていた。

 まだ攻撃型塹壕というものが世に出ていない今、攻め手には塹壕内からの攻撃を防ぐすべがなかった。

 一方で、塹壕には強大な砲火力が加わっていた。

 長砲身スナイプ砲である三寸砲はもちろん、短砲身臼砲であるところの七寸砲も、塹壕内では狭すぎて、拡幅せねば装填に必要なほどの低角度が取れない。塹壕内に敵が入ったときのことを考えれば幅をやたらめっぽう広げられないので砲は塹壕線の内側から発射されることが多かったが、それでは前線の状況に即応できない。

 様々なアプローチが考えられた。塹壕から砲陣地への連絡兵は外側から射られる危険性が高く、旗を用いて砲撃要請する手は「砲煙があるのに見えるか!」と砲兵側に一蹴された。

 一方で海兵隊でも、大砲の必要性は指摘されていた。少勢で攪乱や奇襲、初動作戦に当たる海兵隊は、かなめである一人当たりの武力を増すため、そして攪乱として騒ぎを大きくするため、「一人で使える軽い大砲」を求めて独力で開発を進めており、「鉄を扱える知識はないが木なら扱えるだろう」という素人考えが相まって、木製の大砲「試製元亨元年式二寸半砲」が昨年完成していた。

 人の背丈の半分ほどの砲身から、7,5センチの砲弾を斜め上へ撃ち出し、一人でも運搬・操作できる、くりぬいた廃材を竹のたがで締めただけの簡易軽迫撃砲。この木砲を見せられた高時と登子は、誰の力も借りていないと聞いて驚愕したものだ。何せつくりはほぼ、日露戦争で前線の日本兵が花火筒を参考に自作したすべての迫撃砲の祖先、「軽迫撃砲ジャパニーズ・モーター」そのものだった。

 武器の収斂進化を示す木製大砲は、直ちに塹壕歩兵砲の名で制式化された(海兵隊は名前まで横取りされたと抗議したらしい)。そして、さっそく、塹壕の壁面にもたれるように設置された塹壕歩兵砲は圧倒的な効率性を示していた。

 軽迫撃砲なので、正確さは三寸砲はおろか七寸砲にも劣る。

 口径が小さく、威力は七寸砲はおろか三寸砲にも劣る。

 砲身長が短いので、飛んでいる弾を視認、避けることもできる。

 それでもなお、塹壕の機能を損なわずに、前線が必要だと思った時に必要だと思ったところへ運び砲撃できる点は重宝されるにふさわしい。さらに金属製ではないので量産が用意。

 どの方角から攻めようとしても、即座に塹壕歩兵砲がその方角へ運び込まれ、山なりに投射される小型砲弾が攻め手を殲滅する。

 登子も周りの家屋敷が残っていたなら砲撃を躊躇しただろうが、しかしながら攻め手は事前に周りの家々を破壊して戦いやすくしていた。自業自得である。

 基本的に物騒な花火に過ぎない塹壕歩兵砲は、ボン、ヒュー...と砲弾に放物線を描かせている。そのたびに砂煙が舞い上がり、赤橋家屋敷を包囲する1000を超える兵は、100いないだろう赤橋方に傷一つ付けられない。

 「こんなの、武家の戦いではない!」

 攻め手の武将が憤る。

 「敵将見ゆ!」

 「三寸砲、放てー!」

 武将が、四散する。

 -戦が敵味方相争うものならば、これはもう、戦ではない。

 やがて火事が起こり始めた。攻め手の武将はやむなく消火を指示する。

 「名越殿、ね、勝てたでしょ?」

 「こ、こんなことが...」

 「私たちも消火活動には参加すべきだし、交渉に向かってくれない?」

 「は、いいのですか?」

 「ダメなの?」

 名越時兼は、釈放されたことに首を傾げつつ、縄を解かれ屋敷を出て行った。


                    ー*ー

1322年3月16日、富士山麓上空

 「船底にあった卵型の物体...周りで何人も、人が倒れておりました。毒...ではありませんよね!」

 「まさか...そんな!」

 尊氏に問いただされ、護良親王は血相を変えた。

 「放射能漏れか!」

 「おい橋本!放射能って!」

 「ダーティ・ボム、放射性廃棄物を混ぜた爆弾さ。そんなことも知らんのか。」

 「いや知るはずないだろ。そんなもの生み出しやがって!」

 「残念ながらこの時代にそれほど愛着がないのでね。どうするか…

 総員退船!」

 「殿下、そうはさせ...」

 尊氏が走り出したと同時に、護良親王たちが手すりを乗り越える。

 「あ!」

 手すりから身を乗り出すと、朝廷兵たちは綱をターバンのように揺らして船腹にとりつき、背中に何かを背負って、扉のように持ち上げた布から出ていこうとしていた。

 「一野、次こそは時乃を奪い返してやる!」

 捨て台詞を吐きながら護良親王が船外へ出ていくと、あとには静寂が残された。

 「登子がそうはさせないよ。」

 「それで高時、なんだかヤバいもんがあるんだろ?それと...」

 義貞は、下の通路でこぶしを握る高氏を指さした。

 「どうすんだ?」


                   ー*ー

1322年3月16日、鎌倉

 私とあや姫を遮る反乱軍を、一人また一人と減る護衛とともに斬り伏せていく。

 全く、この程度の雑兵、いくらそろえても無意味よ。

 前方に、うじゃうじゃと群れる人影。

 「勾子様、お退きくださいませ!!」

 馬を横にずらすと、ヒューーーーーと後に引く音を残して、白い煙とともにロケット弾が飛んでいく。

 煙に包まれる人影。

 「やあー!」

 なぎなたを左右に払う。

 (「勾子も、なぎなたに興味があるのか?」)

 (「うん!勾も、父上みたいにお家を守りたい!」)

 (「そうかそうか」)

 ごめんなさい、父上。

 太刀が跳ね飛ぶ甲高い音が響き、顔に血しぶきがかかる。

 視界が明けた。

 由比ガ浜の砂浜。ここからどうするつもりか予想はつくけれど、浜に置かれている船はいつもよりずっと少なく、しかもすべて打ち砕かれている。

 「あや姫、どうするの?」

 「どうしましょう...と言うとでも思いましたかしら?」

 するとやおら、追い付いてきたあや姫が、馬から飛び降りながら鎧兜を脱ぎ捨て、そしてさらには、小袖にまでも手をかけた。

 「ちょっと貴女、服脱いで、どうするの!?」

 「どうするって、決まっているでございましょう。」

 追手の反乱兵も呆然とあや姫の裸体を見て...て、とっても白い、私よりきれいじゃない!

 ドボン

 あや姫が、しぶきをあげて海へ飛び込んだ。


                    ー*ー

1322年3月16日、富士山麓

 「…どうするって...義貞、信じてはいなかったのか?」

 「…高時!? 

 気づいていた、のか?」

 「…あんまり気づけることであってほしくなかったよ。」

 正史において、北条高時は楠木正成討伐に向かう足利高氏の裏切りを恐れ、その妻登子と嫡男千寿王を鎌倉で人質とする。高氏が六波羅探題を滅ぼしたと聞いた赤橋守時が真っ先にしたことは、登子と千寿王を鎌倉から逃がすことだった。

 「守時が、登子の損になる選択肢を取るはずはない。寝返ったふりだろうとは思ったが、どこで戻ってくるかタイミングがわからないから誰にも明かせなかった。

 高氏、ありがとう。」

 「高時、信じて、くれたのか...」

 「信じるさ、信じるとも。」

 「高氏っ!」

 自分たちのいる通路まで上がってきた高氏に、義貞が頭を下げる。

 「俺は高時ほど、高氏を、足利を、信じられなかった。ほんとうに、すまないっ!」

 「私も、これで本当に良かったのか、ずっと悩んだからな。

 ...守時殿の分まで、成しえることをできているのか、と。」

 「守時...」「守時殿、か...」

 しばらく、三人手を合わせていた。

 それから、慌てて思い出した。

 「急ぐぞ!この飛行船を、無事に不時着させる!」


                    ー*ー

1322年3月16日、鎌倉、由比ガ浜沖

 物心ついた時から、海はそばにありました。

 松浦の城は皆、海沿いに船着き場を持つ砦です。京の人間が歩くように、松浦の人間は泳いでおりました。

 ですから、残酷な子供心が思いつくことも知れていたのです。

 (「お前夷人の子だろ!」)

 (「違う!私は...」)

 ...なんなのかしら?

 (「ならお前、泳げるのかよ?」)

 (「泳いでみろよ、ほら!」)

 ードボン!ー

 でももう、私が何であっても構わない。

 登子様、高時様...

 刺すような冷たい海。心臓が心配だけど、私は水をかき、沖合を目指します。

 登子様に言われたとおりに「ぽにぃている」にして、正解でしたわ。いつもより髪の毛が余計じゃないもの。

 埠頭の石積みに手をかける。

 よじ登るとそこには、松浦でよく見た、「海男」たちがいました。

 「姫様、ご無事でしたか!」

 「吉蔵、『せいらぁ服』を!」

 「ここにございます。」

 「抜錨準備は?」

 「艤装はほぼ済ませております。」

 「誰一人として水軍の力を評価していなくて助かったわ。さあ、出るわよ!」

 私は登子様が作られた未来の服を羽織り、「ほっく」をはめて袴...じゃなく「すかぁと」を着つけ、帯...ではなく「べると」を締めます。頻繁に脱ぎ着する場合普段の服装に比べはるかに楽に着られるこの服は、私のためにあるようなもの。

 「錨を上げて!」

 「抜錨せい!」

 「取舵一杯!」

 鉄「だけ」でできた船。そんなもの浮かぶのかとだれもが首を傾げた船。それが、ゆっくり海へ漕ぎ出していきます。

 海中において船底を支えているはずの木の台座がこすれる、ググという不快な音と振動が響いてきます。

 -本当に浮かぶのかしら?高時様、登子様...

 ガラ

 船がぐらりと大きく揺れ、足元が沈み込みます。

 「姫様!」

 「大丈夫、私と、私の信じたお二人を信じるのですわ!」

 前後に大きく足元が揺らぎ、そしてー

 -海に浮かびました。

 「浮かびましたぞ!」

 「浮かんだぞ、浮かんだぞ!」

 よし!

 「浮かれるのはまだ早いですわ!

 機関始動!取舵一杯!

 砲手、主砲駐待機確認!」

 

                    ー*ー

 敵味方ともに、あっけにとられていた。

 あや姫の美しい身体と泳ぎに魅せられていた私たちは、和賀江島で作られる途中だった黒い船が動き出したのを見て、「嘘!」と叫びそうになったものだ。

 だってあの船は、鎌倉中の笑いもの、「高時様の鉄の船」。浮かぶはずが...

 船は、煙を上げながら、櫂も出さずに曲がり始め、完全に前後を逆転させて、そこで停止した。

 「止まった...?」

 「沈みそうになったのか?」

 「だから高時様には任せておけないと...」

 -違う、あの動きはー


                    ー*ー

 「投錨!

 主砲、装薬装填!」

 「機関、停止を確認しました!」

 「速度、ほぼ零!」

 「投錨します!」

 「主砲、装薬装填完了!」

 「投錨完了!」

 「空砲弾装填、目標赤橋家屋敷上空!」

 ガクンと完全に止まった船の上で、船体の5分の1の長さを占める長大な鉄の筒に紙弾が押し込まれます。

 ー思い返せば、高時様の篭絡も倭寇の許可も不可能だと察した私がせめて持ち帰ろうと思ったものが、この「大砲」を作る技術でした。あの時も、寒い中、二度と帰らない覚悟で泳ぎ出したのでしたっけ。

 今度はその大砲、世界一の威力を誇る「元応元年式長射一尺砲」を、絶対に帰るつもりで動かしているのですから、出逢いとは不思議なものですわ。

 結局、私が何者でも、あそこにいられればもう贅沢はー

 -いえ、ぜいたくを申すためにも、決着と参りましょうか!

 「上甲板から退避!耳をふさいで!」

 自分も扉を閉め、両耳をふさぎます。だけどそれはもう、悪口を聞かないためじゃない。

 「砲艦『和賀江』、撃てー!」

 ドゴオォーン!

 ぐらぐら激しく船体が揺れ、扉越しでも硝煙の臭いと轟音が鳴り響きます。

 -お願い、持ちこたえて!

 願いか、それとも高時様と登子様の、「モニターの『アーカンソー』の半分しか積んでないし、大丈夫だよね?」「でもはるかに砲身長いよ?」「まあ砲塔じゃないんだし、いけるいける!」という会話が正しかったのか、すぐに揺れは収まり、扉を開いた私たちが見たのはー

 -空いっぱいに開く、大輪の花でした。


                    ー*ー

 由比ガ浜は、完全に狂騒をきたしていた。

 長崎の兵が多く、そうでなくても大砲を見たことがない兵は少ない。それが自分に向けられたらと思うと、それだけで私だって身震いする。

 轟音と風をもたらし、第二の太陽かと思うような閃光とともに吐き出された砲弾が、どこへ落ちるのか...

 私は振り返って市街を見て、それから、呆然とした。

 赤、青、黄...

 大輪の花が、青空を背に、咲いていた。


                    ー*ー

 「たーまやー!かーぎやー!」

 さび付いていた部分を削りだいぶ艦載用に改造したとはいえ、すぐそばで一度発射に携わればわかる。いくらなんでも音が小さすぎた。

 空砲弾に仕込んだのは花火。橋本くんが花火デートの時に語っていたから、花火の色を付ける方法はだいたい知っていた。ストロンチウムの鮮やかな赤は無理だけど、ナトリウム、カリウム、カルシウム、銅を含む化合物なら海水や鉱物から抽出できる。それで花火を再現することも。

 我が家の上空で爆発音を響かせて咲いた花。鎌倉中、いや相模中から見えたかもしれない。

 「もうわかったよね、私たちに逆らわないほうがいいって。」

 板橋の向こうにいた武将たちが、黙りこくって土下座した。

 

                    ー*ー

1322年3月16後、富士山麓上空

 「痛いところとかないよな?」

 高氏が「まだ船底に一人残っている!」というから行ってみたら、護良の妹とかいう超VIPがいた。

 「ええ。」

 「吐き気は?めまいは?」

 「めまいも吐き気もないわ。」

 つまりたいして放射能漏れしてはいないらしい。

 「とりあえず人が寄りそうにないところ...富士の樹海か。」

 そこまで古い原生林ではない青木ヶ原樹海は今はまだ日本のどこにでもある広大な森だが、とりあえず簡単に人が入れる場所でないのは後年自殺の名所になることからわかる。700年後には遊歩道も作られるらしいけど、それまで放射能が漏れたままもあるまい。

 「そこへ飛行船を下ろして、自分たちは気球で逃げる。」

 「戦死者はどうするんだ?」

 「残念だけど、見捨てるしかない。気球に載せきれないことはないけど、樹海上空まで移動するには綱が短すぎる。綱ナシで自由飛行するなら、軽くして操縦性を上げないと。」

 「そうか...」

 「高氏、お前のせいじゃない。それはそうと、この方は、もしかして高氏の彼女?」

 「えっ」

 「そうですよ。」

 「良かったなあ!」

 「なるほど、どうして護良殿下の妹なのに我々につくのかと思ったが、そういうことか!」

 「…そういうことなのか?」

 高氏が、不思議そうに殿下に聞いている。おいおい。

 「今さら何を言っているのですか?そうですよ。」

 「ならますます4人、とっとと去らないとなぁ。

 殿下、この飛行船の操縦方法は御存じですか?」

 「ええ、ついてきて下さい!」


                    ー*ー

 本来の飛行船の上下移動は、プロペラなどを使って行われる。しかしむろん鎌倉時代の技術力で再現できるエンジンは重く弱かったので、姿勢制御用以上の機関部を搭載する余裕はなかった。そのために多少大げさなギミックを採用せざるを得なかったのもやむを得ない。

 「だから、この骨組みを広げるのよ!」

 「広げる?それで降りれるのか?」

 「らしいわ。」

 折りたたまれた末端の骨組みを広げ、外側から空気を取り込む。空気量が増えても浮力源の水素は増えないならば、比重が重くなる分飛行船は下降し始め...

 「ってそれだけ?」

 「仕方ないでしょう、機関部が壊れているのだから。それも多少は修理できないと、綱を外したとたんに流されるわよ。」

 「それは勘弁だな...

 桃子殿下、自分と機関部を頼めますか?エンジンというものを多少なりとも知っている者が行ったほうがいい。

 義貞、高氏、飛行船の操縦を頼む。終わったら船橋へ行くから。」

 「わかったわ。」「おう!」「任せてくれ。」


                    ー*ー

 船体中央通路のあちこちに、大きな弓矢、弩のような形の器具が備え付けられている。船体を広げて空気を取り込むために骨組みを外側へ延ばす仕掛けだ。

 「なぁ義貞」

 「なんだ?」

 義貞が何を聞こうとしてくるのか、内心とてもびくびくしていた。

 「お前、どうして幕府につこうと思ったんだ?」

 「え?」

 「だってそうだろう。幕府方として奮戦する、朝廷に寝返る、寝返ったふりをする...

 寝返ったふりだったのも、登子殿のために守時殿と図ってのことだったのもわかった。けどそれは、一番難しい道だ。どうして選んだんだ?」

 「…私は、臆病な男だ。」

 「ああ...」

 一つ一つ、留め金を外しては外側へ骨組みを押し出していく。

 「けれど守時殿をこの手で斬ったときから、せめて守時殿の強さを、強い意志を、受け継がねばと思ったのだ。」

 「なるほど、な。」

 「どうだろうか?」

 「それは、高時や登子と墓参するとき、墓前で守時殿に聞くんだな。」

 残る骨組みはあと一本。

 「義貞、一人じゃ重いから手伝ってくれ。」

 「ああ」

 「「せーの!」」

 最後の骨組みが押し出される。

 風が流れ込んできて、足元が下がり始めた。


                    ー*ー

 幾本もの骨組みに支えられ、筒型の灰色に輝く物体が鎮座している。

 「これが、エンジンか?」

 幕府の箱型蒸気機関も傑作だと思っていたが、橋本、やはり天才だなぁ。

 「そうよ。動いているものを無理に止めたからおかしくなっているけれど。」

 桃子殿下がそういいながら筒の上側をパカッと開く。

 歯車が一個、飛び出してきた。

 「ギヤボックス? ...歯車が外れたのか。」

 ならば歯車をはめればよいだけだ。そう思い、歯車の本来の位置を探す。

 「ところで殿下、どうして、高氏に近づいたのです?」

 おや、一か所、どう見てもずれてる。

 ここか!

 「…護良を実の兄と思ったことはないわ。でも、いつも一人の女子を追い求めていることが、私にはわかった。だから私も、追いかけてみたくなったの、誰かを。」

 歯車がかみ合い、再始動のレバーを引くと、エンジンは再び動き始めたー

 「そう...信頼して、いいのですか?」

 -グギ、という、名状しがたい異音を伴って。

 「おい、なんで...」

 「もちろん。高氏殿は、兄上と違って、慈愛あるお方だから。

 ...それと、潤滑油切れ。」

 「焼き付いてるってことか…

 ...慈愛?」

 「少なくとも、未来ではそう言われてたのよね?」

 はは、その性格診断は、「北条高時」としては認めたくないが、確実だな。

 「ってなんで知ってるんだ!?」

 「心を読める陰陽師が仕えておりまして。」

 「…陰陽師?」

 「百松寺、という者たちよ。」

 「百松寺?」

 あの兄妹の祖先か、本当に時々ふと自分たちに絡んでくる奴らだ。

 「なあ、ひと段落したら、会わせてもらえないだろうか?」

 「かまわないけど...」

 答え合わせぐらいなら、させてもらってもばちは当たるまい。


                    ー*ー

 足元が動き始めた感覚がする。

 「高氏、義貞、どうなった?」

 「こっちは何とか!どうだそっちは!?」

 「あまり持たない!」

 「そうか…」

 「とりあえず動かすわよ!」

 重い操舵ハンドルを全員で回すと、不気味な振動とともに少しずつ、眼下の景色が変わり始める。

 「高時様!」

 「どうした!?」

 「綱は外しましたが、気球の燃料が持ちません!」

 「「「何!」」」

 気球の番に残してきた兵が、さらなる危機を告げた。

 「いったん火を消せ!」

 「それでは気球がしぼんで、再び膨らませられるかどうか...」

 「くそ、だったら燃え尽きる前に飛行船を降ろして離れるしかないか!」

 「危険だけど、水素を開放して一気に降りるしかないわ!」

 「着陸前に速度を下げられるか?」

 「もう一回船体を縮められるなら...」

 「タイミングがわからない以上、それも運任せ、か...

 全く飛行船といい核物質といい、時代の身の丈に合わないものばかり作りやがって!」

 「とにかく、賭けるしかないんだろ?」

 「ならば、何としても成し遂げよう。」

 「ああ」

 

                    ー*ー

 「第一水素気泡開放!」

 「エンジン出力最大!!」

 「降下速度、速くなってるぞ!」

 ガクン

 「エンジンが止まった!操縦は完全に不能!」

 「樹海はまだ...」

 -頼む、勢いで何とかなってくれ!

 「追い風だ!」

 もう少し...!

 「第二気泡開放!」

 5分の一もの水素が放出され、一気に浮力を失った飛行船が、みるみる降下する。

 「樹海だ!」

 「錨降ろして!」

 船橋でロックが外されることにより、船底に固定されていた錨が落下し、縄の分軽くなった飛行船が、少しゆっくりで墜ちていく。

 「今!!」

 「気泡開放停止!二人とも、船体縮小よ!」

 高氏と義貞が走り出していく。

 船体の縮小による相対浮力上昇がまにあうか、今も少しずつ加速落下する飛行船が地面に激突するのが早いか…

 緑の森が、だんだん近づいていく。

 船体が、ぐらぐら揺れ始めた。骨組みとともに強制的に縮めさせられた船体から空気が排出され、バランスが一気に変わっているのか。

 なおも、樹幹は迫り、一本一本が区別できるようになる。

 飛行船の勢いが弱まるのが、体感で分かった。

 このまま、ぶつからないでくれ...!

 「止まれぇーーーーーえ!」

 ザ!

 ミシ!

 ググギ...!

 「止まったぁ...」

 「「止まったぞお!」」

 4人、歓声を上げる。

 「地上に降ろさないといけないがそれは後日として...

 脱出するぞ!」

 そうして自分たちは、気球が待つ船首へと走り出した。


                    ー*ー

1322年3月27日、鎌倉、北条得宗家屋敷

 「とまあ、そうして脱出を果たした自分たちは、残り少ない燃料と素人5人、何とか気球で拠点へ帰還し、後日山男たちとともに樹海の木を切って放射性廃棄物を空中から降ろし、帰ってきたというわけ。」

 「高時、無茶するね。」

 「亡くなられでもしたら私も登子様もどれほど悲しむことか…」

 「ま、まあ、無事に帰ってきたんだから、ほっぺた膨らませないで...」

 そんなこと言っても、心配したんだから!

 「登子こそ、すごい頑張ったよ。

 ...まさか本当に鎌倉で何かあるなんて。予想してなかったわけじゃないけど、それでもうかつだったなぁ。」

 「それで、どうなさいますの?」

 「そうそう、橋本くん、じゃない護良親王を取り逃がしたなら、また何度も飛行船が現れるかもしれないってことだよね?」

 「海軍だけじゃなく空軍も作らないといけない。それと実は、もう鎌倉には来ないはずなんだ。」

 「鎌倉には来ない?」

 「たぶん封鎖解除して初めて箱根の関を通ったの自分たちだから...」

 それから高時が告げた秘密に、私とあや姫は気が遠くなった。

 「さすがに頭上を通って放射能をばらまくのは遠慮するだろ?」

 「高時、天才だよ!ただちょっと根回しが足りないけど!」

 「…今から準備に頭が痛いですわ。」

 「あはは」

 「だからね!」

 「私たちを頼ってくださいですわ!」

 「そういうことで大仕事になるんだから、今くらい甘えても、いいよね♪」

 

               ー*ー

1322年4月3日、鎌倉

 鎌倉全市が、時ならぬ喧騒に包まれていた。

 武士たちが直立不動で並ぶ中、先導役の赤橋英時の後ろを、鎌倉中の豪奢な輿・牛車が進んでいく。

 やがて隊列の先頭で輿は停止した。

 すかさず隊列そのものがひさまずく。

 「この片田舎まで行幸なされたこと、臣たる高氏並び武家一同から民草の果てに至るまで、恐悦至極に存じます。」

 御簾がゆっくり持ち上がる。

 「朕こそ、そなたらに感謝し、そして、大いに期待しておるぞ。のう、足利山城守、新田上野介、北条相模守。」

 「は!京を取り戻し、再び日の本を一つにして申し上げることこそ、我が亡き友赤橋守時の願いであり、我らが願い。必ずや陛下を都へお連れ申し上げます。」

 するすると御簾が下がる直前、「高時、頼みにしておるぞ。」と、持明院統最高位、前天皇実父、後伏見上皇陛下はつぶやいた。 

 暑くなってきまして、冷房のない実家の自室は辛いです。早く下宿に移りたい…

 やっと、最終話執筆にこぎつけました。まだ10話近く先の話にはなりますが。その次の話の題名を「第三次『異』世界大戦」にしようかと思ったら、もうあるのね...

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