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First.

どこで話数を区切れば読みやすいか分からなかったので、無駄に長いしおかしな所で切れていますが、どうか最後まで読んでくださると嬉しく思います。

 父さん…。母さん…。ここは…どこ…?僕は……だれ……?

「きみ、名前はなんて言うんだ」

 暗く狭い洞窟の中で目の前の男に声をかけられる。知らない人だ。

「僕…名前は…。…わからない。…ごめんなさい…」

「記憶喪失か…。売られたショックで消え去ったか…?」

 売られた…?記憶喪失…?

「きみは親に売られたんだ。奴隷商人である私に」

 奴隷…なに…それ…。

「奴隷っていうのがわからないか…。簡単にいうと豚や牛、馬などの家畜みたいなものだ」

「僕…食べられちゃうの…?」

「あっはは!食べられはしないさ。まあ力がなければ食べられちゃうな。でも食べられるような心配はしなくても大丈夫だ。私が力を付けさせる。そして、きみをいい所に買ってもらう。きみは…私が育ててやる」

 僕の状況はわからない。でも、これだけはわかる。

 この人は良い人だ。


「形だけでもそれっぽくしなきゃならなくてね。こんな洞窟みたいな汚い場所だけど、牢屋の環境はできるだけ良くしてる。感染病になったりはしないはずだから心配しないでね」

 僕は商人に手を引かれ、無数の檻が立ち並ぶ通路を歩いていた。

 檻の中には屈強な男がたくさんいた。

「こわそうなおじさんたち…」

「まあ、そう見えるよね。でも、彼らは怖くないんだよ。私のせいでああなっているだけで、本来は家族がいたり仕事をしていたり、自分の営みをしていたはずなんだ。私の…ランクが低かったせいで…」

 ランク…なんのことだろう…?

「すまない。卑屈になりすぎたね。ああ、ここがきみの部屋だ。既に人がいると思うが、悪い人じゃない。仲良くしてやってくれ」

 商人が檻の扉をあけた。

 中は暗いが、窓からの月明かりによって何も見えないという訳では無い。

「では、私は行く。また用があれば呼ぶからそれまで寝たりくつろいでしていてくれ」

 商人はそう言って扉を閉め、離れていった。

「くつろぐって言っても…」

 何も無い。敷き布団と机があるだけだ。

「坊主」

 声をかけられた。壁の方で寝そべっているおっさんにだ。

「な、なに…」

「名前、なんてんだ」

「わ、わからないよ…。僕、きおくそうしつ?っていうのらしいから…」

「ほう、記憶喪失。ちいせえのに大変だな。俺はセピルドってんだ。周りからはセピアって呼ばれてる。坊主も気軽に呼んでくれよな」

 セ、セピア…?見た目に似合わずかわいいあだ名…。

「ああそうだ。記憶喪失とかいったな。ちょっと頭貸してみろ。気になることがある。大丈夫だ。痛いことはしねえ」

 そういうことなら…。

 頭を差し出すと、セピアは僕の頭を両手で包んだ。

「?」

「ははーん。なるほどな。よし坊主。ありがとな」

 何かわかったのだろうか。満足げな表情で僕のことを見てくる。

「お前は多重人格だ」

「た、多重人格…!?…ってなに?」

「まあわからんよな。つまりだな、お前の中にはお前以外の人がいるってことだ」

 僕の中に…僕以外の…?

「多分今まで生きてきたのはそのお前じゃない誰かだ。だから記憶もそいつと共に封印されたってわけだな。でも大丈夫だ。記憶は何かがきっかけで呼び起こされることがあるし、まだ10年も生きてねえんだろ。なら支障はないはずだ」

「でも!父さんや母さん…それにお兄ちゃんやお姉ちゃんがいたかもしれない…」

「お前を捨てるような奴らだ。覚えてる必要なんかない。これからは俺やアザレア、それからここにいる奴らみんなを家族だと思え。誰一人として悪い奴はいない。まあそれも、買い取られるまでの話だがな」

 アザ…レア…?誰のことだろう…。

「あの…アザレアって…?」

「あん?自己紹介してねえのかあいつは。あの商人、お前をここに連れてきた奴のことだよ。あいつも悪い奴じゃない。学校の教師を目指していたくらいだからな」

 目指してたってことは、諦めたのか…。どうしてだろう。

「噂をすればなんとやらだな」

「セピルド、時間だ。いつもの場所に。少年、きみは見学でもしに来るか?その体じゃまだ難しいだろう」

 子どもの体では難しいこと…?力仕事かなにかかな。

「さ、坊主。寝てるだけじゃ生きていけないぜ。いずれお前も歩む道だ。ついてこいよ」

 僕は何も考えず、ただセピアに言われるがまま彼の手に引かれて目指す場所まで歩いていった。


 少し歩くと目的地に着いたらしい。そこにはダンベルやサンドバッグなど、筋トレ用の機械が沢山置いてあった。

「ここで俺らは筋肉を鍛えてる。ここにいる奴らはみんな買い取られたら力を使う仕事に就くことになるだろうから、そのために鍛えているんだ」

「僕もセピアやあの人たちみたいにムキムキになるの?」

 周りにいる人は皆総じて全身の筋肉が盛り上がっている。

「まあ、中にはあの野郎のように筋肉が出てこない奴もいるから一概にそうとは言えないな」

 少し細い少年を見てセピアはそう言った。確かに彼は筋肉はあまりついていない。

「あ、おい坊主!どこ行くんだ!」

 僕はその細い少年のところに走っていき、話をしようと思った。

「こんにちは」

「…あ?なんだァ?このガキ…。見ねえ顔だな…」

 僕が話しかけると、変なものを見るような目で見てきた。口が悪そうだ。

「お兄ちゃんはなんでそんなに細いの?」

「あぁ?なんで、な…。俺ァ筋肉がバカみてえに表に出ねえんだよ。そういう体質なんだよ。それに、俺が得意なのは魔法なんだよ。こんなクソ暑苦しいもんじゃねえ。できれば魔法の練習をさせて欲しいんだがな。なあ?アザレアァ!」

 セピアの隣に立っているアザレアに向けてそう言った。

「魔術だけで世間は渡っていけないぞ。肉体を鍛えなければすぐに魔力切れになるだろ。それと、お前が自分の部屋に戻ったら魔術を使ってるの知ってるぜ?あれで大丈夫だろ。毎日毎日やってるんだからよ」

「あんなんじゃ足りねェんだよッ!俺の理想じゃァ時間のある昼間に魔法の訓練をして、夜中の短い時間で筋トレをするってのなんだ。今と逆転したやり方なんだよ」

「君のわがままだけ聞く訳にはいかないんだよ。ほかの人たちもみんな文句言わずにやってるだろ?それ以上反抗するようなら死んでもらうよ」

 少年の顔が歪んだ。実に嫌だというように。

「チッ。わァーったよ。あそこには絶対(ぜってえ)行きたかねえ」

 そう言うと少年はダンベルを持ち上げ、腕の筋トレをし始めた。

「何をしたの?アザレア」

「君はまだ知らなくていいよ。幼い少年にあれを見せるほど私も外道じゃないんでね」

「ふーん」

 僕も別にそこまで興味がある訳では無い。それ以上踏み込まずに、男達がトレーニングしているのを眺めた。


 トレーニングの時間が終わったようだ。

「坊主、戻るぞ」

 セピアが僕を肩車し、元の場所に向かって歩き始めた。

「あ、待って。最後にあのお兄ちゃんの所に…」

「…あいつとは関わらん方がいいと思うんだがなぁ…」

 そう言いつつ、セピアは彼の所に僕を連れていってくれた。

「あぁ?なんだよデカブツ…っとまたてめぇか、ガキ。今度は何の用だ」

「お兄ちゃん、名前はなんていうの?」

「名前だァ?…いや、断った方が面倒か…。キナリ。キナリ・エクルベージュってんだ。さ、俺が名乗ったんだ。てめぇの名はなんだ」

「僕に名前は…」

「すまねえなキナリ。こいつ記憶喪失でよ。ここに来るより前の記憶が全部吹き飛んでんだわ」

 セピアが説明してくれた。

「記憶喪失…だと…。こんな小さえのに苦労してんだな。ま、なら名乗ってくれなくていい。ってか名乗れねえもんな。なんか俺に出来ることがありゃ言ってくれ。精神系の魔法は苦手なんだが、多少心得はある。なんなら、俺が魔法を教えてやろうか?」

「そ、そこまでしてもらう必要は…」

「いいんだよ。俺の自己満足。弟子ってのが欲しかったんだよ。魔法は俺、肉体的なのはセピア。これでちょうどいいだろ。ま、無理強いするつもりはねえけどな」

 嫌なら嫌と言ってくれれば俺は諦める。

 そう言ってキナリは去っていった。数日で考えておけということだろう。

「魔法、ねえ。俺は魔法の知識がねえから分からんが、うちの兵団の魔道士共は凄かったな…。特にシアン…。ああいや、昔の話だ。聞かんかったことにしてくれ」

 セピアがなにか呟いていたが、聞かなかったことにしろと言われたのですぐに忘れた。

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