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最悪じゃないかもしれない悪役令嬢。

 

 その日の放課後。

 帰り支度をして校門に近づくと彼女が待っていた。


「よぉ。遅かったじゃねーか」


「うん。ちょっと調べ物してたりしたからね。ごめん」


「言えばアタシも手伝ってやったのによぉ」


「うん。大丈夫」


 改造制服に木刀にマスク。どこからどう見ても怖い人にしか見えない。

 でも、今の申し出も純粋に僕を手助けしようとしてくれたんだよね? 深い意味はないよね?


「なら、帰るか」


 ん、と言って彼女がいつものように僕の腕を掴もうとした。なので、今回は僕の方からヒビキさんの手を掴んだ。


「なっ、ななななんのつもりだテメー!!」


「いえ。いつも腕だと疲れるので」


 しれっと言ったが、内心は非常にドキドキしてる。大丈夫、表情に出さないようにするのは慣れてる。いつも通りに自分を消せばいいだけだ。


「そ、そそうだな。うん。仕方ねぇな」


「あぁ、今日もお弁当ありがとうございました。とても美味しかったです」


「ふーん。そっか。そっか…………」


「ヒビキさんさえ良ければ、今夜はどこかで食べて帰りません?」


「それはアタシの料理が嫌だって言いたいのか?」


「いいえ。いつも作ってもらってばかりなので、今晩はお休みにしましょう。もちろん僕の奢りです」


「そう? じゃあ、テメーの言う通りにしてやるよ」


 はぁ、見方を考えれば彼女の一挙動に反応してしまう。握られた手に意識を集中すれば僕よりもドキドキしている様子がわかる。



「ではマスクを外しましょうか」


「はぁ⁉︎ なんでだよ!」


「ドレスコードですよ。制服のスカートはもう少し短くして木刀はもちろん持ち込み禁止ですよ」


「ならいかない。家に帰る!」


「………僕のおすすめの店、ヒビキさんにも紹介したかったのに」


「ず、ずりぃだろそんな言い方」


 いそいそと身だしなみを整える彼女。

 どうしよう。ヒビキさんに対して少し強気に出れるのが嬉しい。というか彼女、素直過ぎじゃない?


「いいか。マスク外すけど笑うんじゃねぇぞ」


 初めてマスクを外した顔が見れる。この数日、彼女のマスクが外れるところを見たかったけど、朝食は先に食べているし、昼休みはお弁当を食べてから僕のところに来た。夕食も先に食べていたか僕が食べ終わってからだった。

 僕が食べている様子はずっと見られていたけど。


「ほらよ」


 恥ずかしそうにマスクを外したヒビキさん。予想ではすごいたらこ唇だったり、アゴが二つに分かれてたりするのかと思っていた。


「何か変化ありますか?」


「こうすると、見えるんだよ……」


 彼女が口を噤むと、八重歯が一本顔を覗かせていた。


「な? 変だろ」


「別に。……というかこのためだけにマスクしてたんですか?」


「そうだよ! 昔からこの歯が嫌いだったんだ。でもよ、歯って抜くときものすげー痛いっていうからよ………なんだよ! 笑えよ!!」


「勿体ない。逆にその八重歯がチャームポイントになっているのに隠すなんて。ヒビキさんは綺麗なんだからもっと素顔を出すべきですよ」


 どんな秘密があるかと思えば歯が一本あるだけだった。

 初対面でこそマスクをしていたから威圧感があったけど、外してみたら可愛い牙みたいな歯があるだけ。これだったらただのじゃじゃ馬姫くらいにしか思わなかっただろうに。

 しかも、歯を抜くのが痛いからマスクしてたって………可愛すぎる。


「き、きれいとか言うな! アタシはワルだぞ! そんな言葉はとっくの昔に忘れたよ」


「いいえ、言います。ヒビキさんはもっと自信を持つべきです。自分にしかない強みがあるんですからそれを活かしていくべきです」


「くぅ………っ!! うっさいうっさい! ハルのバーカ! ささっとメシ食べに行くぞ!」


 顔を真っ赤にしながら彼女に手を引かれて僕らは走りだした。


 今夜の夕食は同棲を始めてから一番楽しい食事になった。




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