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この作品には 〔残酷描写〕 が含まれています。

不連続殺人事件(ホラー編)

「酷い有様だったわねぇ」
 警察車両に乗り込みながら、女刑事は部下の刑事に言った。言葉の割には街灯に照らされた女刑事の顔色は普通で、形の良い唇には薄い笑みさえ浮かんでいた。
「どうやったら、あんな風に殺せるんですかねぇ」
 女刑事とは逆の扉を開けた部下の声にも、緊張感はなかった。
 二人が乗り込んだ警察車両の後部座席の真ん中には、ひとりの男ががちがちと歯を震わせて座っていた。
 殺人事件のあった部屋の住人で、同時に、重要参考人でもある。
「さて。署につくまでに、何があったか話して貰えるかしら」
「あ、ああ」
 男が声にならない声を上げる。
 怯えすぎてるわねぇ、と思って、女刑事は部下にちらりと目をやった。同じことを考えていたのだろう、部下も軽く肩を竦めた。
「ちょっと寒いわね。ねえ。暖房の温度を上げてくれる?」
「はい」
 ハンドルを握った制服警官が暖房の温度を上げる。部下が頷いて、スマホを構える野次馬の群れを抜けて、黒い警察車両は深夜の街を走り始めた。
「ええと。あなた、『みんなの意見』というサイトの運用管理者で、名前はXXXで間違いないわよね?」
 女刑事の問いに、男は震えるばかりで答えようとしない。女刑事と視線を合わせ、今度は部下が男に声をかけた。
「もう判っているんだから。全部、話してくれませんか?あなたの部屋で死んでいたあの人、あなたのサイトに被告として名前が挙がっていた人ですよね。
 あなたのサイトに名前が挙がった人がもう何人も殺されてる。それも、被害者と何の関係もない犯人によって。御存じでしょう?」
 人形の様に、男が頷く。
 一度、そうして、もう一度。
 不連続殺人事件と、マスコミやネットで騒がれている事件だ。
 『みんなの意見』という名の裏サイトで被告とされ、一方的に有罪とされた人々が殺されているのである。それも、被害者とは直接の繋がりがない人々によって。
 いずれの事件でも犯人はすぐに捕まった。
 なぜなら、犯人が逃げないからである。
 それどころか、ネットで殺人を誇らしげに報告する者までいた。
 彼らの共通点は、罪の意識をまったく持っていないことだった。「だって、これがみんなの意見でょう?」と、彼らはまったく悪びれることなく、異口同音に口にした。
 女刑事が嘆息する。
「信じられない時代よね。ネットでみんなが言っているってだけで人を殺して、しかもそれをネットで自慢するなんて」
「ホントですね。なあ、あんた、どうしてサイトを閉鎖しなかったんだ?警察からもサイトを閉鎖するよう、何度も依頼があったんだろう?」
「あの人も、殺されたくなくて、あなたのところに来たんでしょう?サイトから名前を消してくれって。それで、揉み合いになって」
「殺した。そんなところだよな」
 念押しするように言った部下の言葉に、それまで震えるだけだった男が反応した。
「違う」
 ポツリと男が、警察車両の床に言葉を落とす。
「オレが殺したんじゃない」
 部下は、わざとらしく溜息をついた。
「部屋はどこも施錠されていた。監視カメラにも怪しい人物は映っていない。酷く怯えた様子で被害者がマンションに入る姿以外はね。で、死体が発見された時に部屋にいたのはあんただけ。
 他に誰が犯人だって言うの」
「し、知るもんか!」
 不意に顔を上げて、男は叫んだ。目は血走って焦点が合わず、口元からは涎が滴り落ちていた。
 女刑事は殺害現場を思い出して、コイツ狂ってるのかな、と思った。
「オ、オレだってサイトを閉鎖しようとしたさ。でも、出来ないんだ!な、なんでだか判らない。け、消した筈なのに、翌日には元に戻ってて……。あ、あの男だって、オレの、オレの目の前で……!」
「そう言えば」
 と、運転している制服警官が後部座席に声を掛けた。
「ソイツ、XXXでしたよね。サイトの被告欄に名前が載ってたらしいですよ」
 男がぎくりと身体を震わせる。
「本当?」
 女刑事は声に笑いを含ませながら訊いた。
「それで、どっちなの?」
「有罪。90%を越えてたらしいですよ」
「へえ。だからそんなに怯えているのね。次は自分かも知れないって」
「自業自得ってヤツですよね」
 部下の言葉に、女刑事も、制服警官も笑った。
 不意に、男が奇声を上げた。
 とても人が発したとは思えないほどの甲高い声を。
 女刑事と部下は驚いて男を見た。制服警官もまた、バックミラーを覗き込んだ。
 男は白目を剥いて、がくがくと全身を震わせていた。
 そして、どろりとした赤黒い血が、男の目や鼻、耳から流れ出た。
「きゃっ」と、女刑事が場違いな声を上げ、部下は息を呑み、制服警官は「うわっ!」と叫んだ。
 車が大きく蛇行する中、男が仰向けに倒れ、泡を吹いた。
「止めろ!」と部下が叫び、制服警官が慌てて車を路肩に寄せる。
「おい、おい!」
 部下が呼びかけるが、男は答えなかった。
 男の身体が小刻みにぶるぶると震える。そして突然、バンッと音がして、男の頭が破裂した。血と脳漿が車内に撒き散らされ、制服警官が悲鳴を上げた。
 停車した警察車両の中で制服警官がひいひいと叫び、そんなことはお構いなしに何台もの車が脇をすれ違っていく。その中の一台が、止まっているのが警察車両であるにも関わらず、苛立たしげに激しくクラクションを鳴らして通り過ぎて行った。
「これって……」
 警察車両の中で、女刑事は血に塗れたまま、呆然と呟いた。
 どうやったか判らない、頭を内側から砕かれた死体。殺人現場に撒き散らされた血と脳漿。それは、男の部屋で死んでいた被害者と、まったく同じ殺害方法だった。

 警察が引き上げ、誰もいなくなった男の部屋の一角に置かれたパソコンの電源が、不意に上がった。
 人影は、どこにもない。
 やがてOSが立ち上がり、ブラウザーが開いた。
 表示されたのは、『みんなの意見』のサイトである。
 キーが、一つずつ下がる。ローマ字入力。m、i、n、……。変換。
 被告の欄に打ち込まれたのは、『みんな』という文字。
 そして、Enterキーが、押下された。

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