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幻想武侠片:八極  作者: 山下三也
前日譚・第零章・〝World End/prominence blue〟
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四・五、【理花の回想】

◇◆◇◆◇  ◇◆◇◆◇  ◇◆◇◆◇



現在いまから四二年前の神州での事。

とにかく、のちに〝武神衆計画〟と呼ばれることになる国家的プロジェクトは始まった。


それは歳端のいかない孤児達を引き取り、それぞれの古流武術の達人たちがマンツーマンで自己の流派を教え込むというものだ。孤児には特に運動神経の鈍い子供を選ぶ。〝結界域〟を展開できるものが天才にしか開得出来ない奇跡ではなく、学べば一律に使用可能になる技術であることを証明するためだ。


目論見通りであった。


修行開始3カ月目で全員程度の差こそあるものの、〝結界域〟の展開が可能になった。


半年で武装したサイボーグ一個大隊を手玉にできるようになった。


一年で戦車一個大隊を軽くあしらう事ができるようになり、


そして一年半後、彼らを「武神衆部隊」と名付け実戦投入、たった十数名で大規模な「異思の物共」の軍勢を殲滅することに成功。


彼らを教え込んだ盛田植雄老を筆頭とする古老達を始めとする国家首脳人・科学者たちは狂喜乱舞し、半年後、〝武神衆計画〟を最終段階に移すことにする。


即ち――彼ら「武神衆部隊」を鍛え上げた修行の体系メソッドを、書籍・テレビ放送・インターネット問わずありとあらゆる情報媒体に乗せ、半分だけではあるが――広く神州国国民に開放する。


全神州国民は喜び勇んで、むさぼるようにこの修行体系を学び、実践していった。当然である。当時、あの忌々しい「異思の物共」を紙の様に引き裂くことができるのなら悪魔にすら魂を売るものがほとんどだったのだから。


――〝結界域〟なんて胡散臭すぎる、というまっとうな意見の持ち主は本当に少数派だった。


……後にこの修行体系一般公開を歴史の教科書は〝武化大革命〟と呼ぶ。今からちょうど四〇年ほど前の話である。


もちろんこの計画は大成功。才能あるものは一カ月で〝結界域〟を展開できるようになり、ほぼ神州国民全員が「異思の物共」を圧倒するほどの戦闘力を有するようになる。


そしてたったその後一年――たった一年で領土内の全「異思の物共」を全滅に追い込み、神州国の「異思の物共」を率いていた〝ヤマタノオロチ〟と言う最大級の恐竜種を討伐したことにより、神州国は「異思の物共」根絶宣言をした。


たったの一年で。このちっぽけな島国は世界最大の軍事国家と化す。


もちろん、他の国々も負けてはいない。神州国にならって自国の、今となっては時代遅れのはずの伝統武術の再生に取り組んだ。


(この世界的な動きを後に「武盛復古」と呼ぶ。)


例えば理花の使う白鶴拳ホワイトクレンヒル小林拳ハイモンクアーツ太極拳タイチーアーツ八卦掌ウロボロスリング洪家拳クルツボマー酔拳デュオニソスファングとか。


そして武術の流派を問わず、気の流れをもって筋肉を鍛える鍛練法(というより気功法といった方が正確か)〝易筋経〟と、反射神経を主に鍛える〝軽功〟を修練することを国は奨励した。


そしていつの頃からか、〝結界域〟を体得した人間を、人類は〝武侠〟と呼ぶようになった。


そして、人類は誰もがほんの少しの努力でその〝武侠〟になる事ができ、

人類は誰もがほんの少しの労力で「異思の物共」を超える戦闘力を得ることができるようになる。


何より人類が『異思の物共』に対して有利になったのは、


この〝結界域・・・を出せる(・・・・)のはあくまで(・・・・・・)人類側だけ(・・・・・)


で、『異思の物共』側からは一切〝結界域〟を出せる個体が発生しなかったのだ。


かつて人類の(・・・)化学兵器の(・・・・・)類には(・・・)進化・・対応・・できた(・・・)というのに、「異思の物共」はこの〝結界域〟に対しては対応できなかったのである。


「異思の物共」はいまだに人類にとっての脅威ではあるが――しかしこれによって、人類の絶滅の心配は皆無になった。


そしてその翌年、人類は〝「異思の物共」平定完了宣言〟をし、半恒久的な平和を手に入れたと浮かれ騒いだ。


当時の理花も涙を流して九娘と抱き合って喜んだ。


今から三五年程前の事。


こうしてこの世界の歴史は、〝武術〟とその修練によって発生する〝結界域〟を文明技術の根幹となす、いわゆる


〝武導文明〟時代


へと突入していくことになる……


◇◆◇◆◇  ◇◆◇◆◇  ◇◆◇◆◇


〝――〝「異思の物共」平定完了宣言〟……あれから三五年か……微妙よね……振り返るにはあまりに短く、忘れるには余りに長い……

少なくとも、こんな時代が来るとは想像もできなかった……〟


理花が過去を振り返る。


武化大革命が起こる前までは、当然化学兵器が主流だった。理花も花鈴も、それまでは多目的汎用ライフルを己の獲物にしていた。


故に世界的に「武盛復古」がおこり、国が時代遅れの古武術の修行を奨励しだしたときは


「これは世界規模のエイプリルフールなんじゃないか」


と理花も花鈴も多いに戸惑ったものだ。


――戸惑いながらも、理花は白鶴拳を、花鈴は太極拳を習い、その一ヵ月後たったあたりだろうか。


自分の体から“結界域”が出てきたときの驚きと興奮と――

何より“畏れ”の感情は。

理花も花鈴も、その時の感情は今も覚えている。


時代の移り変わりをリアルタイムで見てきた理花なら、人類最初の武侠「植田盛雄」が自身の、そしてのちに全人類が少しの修練で出す事が出来るようになるこの「オーラみたいな物」を、畏れと共に〝結界域〟と呼んだ気持ちがよくわかる。


とどのつまり、


〝この〝結界域〟という「超能力」が一体何なのか、誰も、現在いまだによく分からない……〟


からである。

これが人類にとっての希望の福音なのか、

これが人類にとっての破滅への足音なのか。


〝……まあ、少なくとも『異思の物共』なんてメじゃなくなったっていうのは大歓迎だけどさ……〟


◇◆◇◆◇  ◇◆◇◆◇  ◇◆◇◆◇




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