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幻想武侠片:八極  作者: 山下三也
前日譚・第零章・〝World End/prominence blue〟
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六、〝蹂躙〟

黒衣僧のリーダー格らしき男もそれを察知したのだろう。すかさず、


「――総員グレイプニルを投て――」


部下たちに命令を下すより早く。


音すら置き去りにして、残像だけを残してマオの腕が動き、


(腕がピンボケしてぶれた、としか言いようのない動き)


魔法の様に銃?が両腕に現れ、


(この時やっと音が追い付いてきて、「ヒュバッ!!」という音がした)


そのまま黒衣僧のリーダー格らしき男に発砲!


(そのとき理花と九娘は見た)


(あり得ないほどの密度の〝結界域〟が、弾丸二つにこめられているのを!!)


安っぽい発砲音二つとともに、

黒衣僧のリーダー格の男の胸のあたりに、心地良さそうな大きい風穴が空くとともに、

同時に首から上が消失し、


……――のみならず弾丸ふたつは貫通し、後ろにいた黒衣僧数人を貫いて始末した!!

飛び散る鮮血。響き渡る断末魔の絶叫。



『『『……ッ!?!?!?!?!』』』


――この場にいる者たちは、絶句した。。

信じられない。

信じ、られないッ……!


理花と九娘は堂目して絶句するしか出来ない。


――前にも記述したが、〝結界域〟と言うのは、自身の体から離れるほど拡散して、消失する。

故に飛び道具とかに〝結界域〟を込めて撃っても、距離があくほど威力が落ちて、不意打ちならともかく、相手も〝結界域〟を展開していた場合、大したダメージを与えられない。


これをカバーするために理花とかは弾丸に毒をぬったり工夫してはいるが、基本的に今の時代、銃などの飛び道具はいまや牽制ジャブくらいにしか使えない。


使えないはずではあるが。


なのに――


〝あッ…相手も〝結界域〟を展開してたのよッ……なのにッ…貫通ッ!?しかも数人まとめてッ?!ありえない!!どんだけ……

どんだけの量の〝結界域〟を弾丸にこめられるというのッ!!?


悔しいが、私では無理だ。そんな芸当。九娘さんでも!〟


理花は内心驚嘆する。

マオが取り出した銃は、二挺。


規格外の大きさの、オートマグナムが二つ。……それも異様な形状の。

銃の両側を挟むように、鴛鴦鉞えんおうえつ(三日月2つを上下両端を互い違いに交差するように組み合したような形状の、刃の付いた古武器)がそれぞれ2つ付いており、柄の部分は銃把と一体化、刃の部分は銃口の両脇にそれぞれボルトで固定されている。


それだけでも理花の〝牙狩り〟よりトチ狂っているが、さらにすごいのは過剰なまでに鳳凰の様な幻鳥の彫刻が刃にも銃身にも施されており、さらにさらにすごいのは赤、オレンジなどの目の覚めるような派手な色でカラーリングされていることだ。


なんという、かぶいた銃。

そして遅ればせながら、理花と九娘は気づく。


――白炎、というものをご存じだろうか。

これは、とにかく高温になりすぎて真っ白にすら見れる、超高温の炎の事だ。


次に青炎、というものもご存じだろうか。

これも、高温になりすぎて色が真っ青になった炎の事である。


即ち。


マオの体から、最早白炎としか言いようのない〝結界域〟が、そしてレラの体からも、もはや青炎としか言いようのない〝結界域〟が、ものすごい勢いで吹き出していたのである!!


この場にいる、レラとマオ以外の者の、膝の、震えが、止まらない。


〝かッ……格が違う……一ランク二ランクも格が違うッ!!〟


この場にいる誰もが、二人の〝結界域〟に恐れおののいて身をすくませていた。

が。


「クッ……!」


呻きと共に、何とか身じろぎする理花。

呆けてはいられない。

理花は〝牙狩り〟を抜こうと腰に手を伸ばし――


ぬっ、といきなり眼前をふさいだものに挙動を制された。


――とたん、何故か鼻孔に突き刺さる悪臭。


〝えっ、何これ、……鉄柱?〟


そう。

それは一見鉄柱に見えた。

鍛えあげられた鉄で出来た、実に頑丈そうな柱。とはいえ柱にしては少し細い。

しかしよく見ればそれは、


〝いや違うッ……これは……

!槍!?〟


それが鉄柱に見えたのは、それがあまりに規格外のサイズだったからだ。

これが鉄柱では無く槍と気づいたのは、ただの鉄柱にしてはあまりにも臓物臭がきつかったからだ。


そして、鉄柱と見紛わんばかりに大きい柄の先には、このごつい柄にふさわしい…斧のごとく分厚く、剣並みに長い槍の切っ先が、赤い穂を従えてそそり立っている。


そしてこのごつい槍…というには余りに物騒な代物の持ち主は……


「!……レ……レラちゃん……?」


――ゴシック・ロリータの格好をした、絶世の美少女が、どんな力自慢でも持ちあげることが困難そうな槍を、片手で持っている様は……――あまりにシュールだった。


〝つーか二人とも、歌舞いた銃といいこのごっつい槍といい、どこに隠し持ってたのお!?〟


そしてレラは理花の方をちら、と振り返り、


「大丈夫。すぐ終わるから。あなたの手を煩わすことじゃ、ない……」


ものすごいことを。


そういうとつかつかと無造作に黒衣僧たちに歩み寄り、


(ザザザッ!と黒衣僧たちは思い思いの武器を構え、)


まるで小枝の様にレラは槍を軽々と振り上げ、


(黒衣僧の中で飛び道具を持っているものは引き金を引こうとし、接近戦武器を持っているものは間を詰めようとし、)


……――するより早く。


レラは音速すら超えんばかりに槍をブン回し、

黒衣僧十数人を右上から左下へ、袈裟切りに真っ二つにした!!


――そして振りぬいた後、やっと音が


轟っ!


と吠えたてた時すでに、


黒衣僧十数人の上半身が斜めの形で下半身に別れを告げていた。

下半身達に別れを告げた上半身たちは、まるで紙のように空中でくるくるくると冗談の様に回転し血飛沫や臓物をまき散らしながら、重力にひかれるまま床に行儀悪く散らばっていく。


……このありとあらゆる意味であり得ない光景を目の当たりにし、理花と九娘は「「ッ…………!?」」と絶句するしか出来ない。


たしかに、〝結界域〟を展開すれば、人は超人になれる。筋力だって倍増する。だがそれにだって限度というものがあろう。


こんな幼子が、こんな冗談のようなサイズの武器を小枝の様に振り回すなんて、武侠の常識からしてもあり得ない。


百歩譲って、修練で操れるようになったとでもしよう。これだけの〝結界域〟を展開できるのであれば、そんな真似ができてもおかしくはない。

問題はそこである。理花のあいた口がふさがらない。


〝私たちのような八州役人になるほどの武侠よりも格が上だなんて……何者…なんなのッ?!〟


理花たちが恐れおののいている間にも、マオとレラは黒衣僧たちを蹂躙していった。


蹂躙。そう。


最早これは戦闘ではなく、蹂躙としか呼べないほど、一方的だった。


レラが片手でこともなげに槍を振り回すたび、大気がものすごい断末魔をあげ、そのたびに黒衣僧たちがちぎれて吹っ飛び、元形をとどめることなく、死体ですらなく、肉塊になっていく。


あはは。もう笑うしかない。


理花の頬がひきつった。


大気のあげた断末魔の名残が、血煙りをはらんで、いちいち二人の髪や服の裾をなびかせていく。槍の穂先に当たったものは当然ながら、柄の部分にあたった者も一様になめらかな切断面を見せて吹き飛んでいく。


たとえ、柄の部分は「鈍器」であっても、こうも高速で振り回せば、それは「打撃」ではなく「斬撃」になるだろう。


マオの放ったマグナムの弾は黒衣僧たちの〝結界域〟をたやすく引き裂き、数人まとめて「田楽刺し」にしていく。


いまや逆に時代遅れになりつつある銃が、かつての猛威を取り戻したかのようだ。


中にはすばやい黒衣僧がマグナムの弾をかいくぐってマオに接近する。


確かに、ものすごい量の〝結界域〟で弾の〝威力〟は格段に上がってはいるが、しかし〝スピード〟自体は上がってない。逆にこちらは〝結界域〟で弾丸すら見きれるほど動体視力も上がるから、そうすることも容易に可能だろう。


しかし理花は、


〝ああそれをするなら、さっさと逃げればいいのにッ……!〟と思う。


相手は格が違うと言うに。


マオの腕が陽炎のようにぶれた後、スピピピッという音が聞こえる。その直後、


マオに肉薄した黒衣僧は突然小さいばらばらの細切れになって飛び散る。


〝ああ、あの銃の、鴛鴦鉞の部分で切られたんだ……〟


と理花は漠然と理解する。漠然と、とあいまいに言うのは、鴛鴦鉞の部分には血が一滴も付いてないからだ。きっと返り血が付着する間もないほど振り回したからだからだろう。


かくして、蹂躙はものの数秒で完了した。


槍が大気にすら悲鳴を上げさせ、

実に歌舞いた銃がやすっぽい歌をぱぱぱん、と歌うたび、

確実に二桁の黒衣僧が安らかな思い出になっていく。


そして一番臆病なやつが――ある意味見どころがあるかもしれないがあの二人相手ではきっと無意味だ――股間を自分の体液でぬらしながら「ひッひいいいいいいいいいいいッ!??」と悲鳴を上げ逃走に入った背中を、無造作に振ったレラの槍が撫でて、股間どころか全身どこからどこまでが体液なのかわからない状態になった時、この蹂躙は完了した。


理花と九娘は嘆息。

物の数秒。


ここまでくればもはや蹂躙ですらない。


ただの草刈りだ。


黒衣僧たちは腐った根性の持ち主ばかりとはいえ、鍛え上げられた武侠のはずだ。


そんな武闘派集団の奴らが。

抵抗どころか、動く事すら出来ない雑草扱い。


「っていうかレラ――っていうのはもういいか――レイってばひどーい!こいつらやったの殆ど雷じゃなーい!少しは私の分も残しておいてくれてもいいじゃないの!」


とぷりぷり怒るマオ。しかしレラ――否、本名はレイというらしい――が涼しい顔で、


「いいじゃない。(と、ちら、っと向かって左側の、へばりついた肉塊と血痕以外何もないはずの壁に視線を向け、)――食い出の多少ありそうなやつが残ってるんだし。」


という。マオもつられて視線を向けると、なぜか、「あ、ほんとだわ」という。


何を訳の分からないことを言っているんだろこいつら、と理花と九娘は一瞬思ったが、一瞬後、ピンときた。


〝!まさか新手が――!?〟


大当たり。

その一瞬後、実に鼓膜に優しくない破壊音が響くとともに、壁が外側から粉砕され、


何かが雷に向かって飛んでくる!


しかし事前に察知していたレイは事も無げにひょいと避ける。

理花は見た。


〝あれは――多節鞭!?〟


鞭、といっても一般人の誰もが思うような皮とか紐を束ねて作った代物ではない。だいたい手首から中指の先ぐらいの長さの細長い鉄の棒を、複雑に編んだ鉄の輪でつないで作ったものだ。だから威力は皮や紐で作ったものとは段違いである。


そしてその多節鞭の一撃で空いた壁のドツ穴から二人の男がはいってきた。


「ハッはああァァッ!不意を打ったつもりだったが勘づくとはな!さすがだな〝八極エイテイアルティマ〟の雷!」


「ブへへへへへ!兄ジャア、八極はくれてやるから〝崩拳のマオ〟はおでにやらせてくれよおオオオオ!」












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