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幻想武侠片:八極  作者: 山下三也
前日譚・第零章・〝World End/prominence blue〟
10/233

五、〝急転直下〟

◇◆◇◆◇  ◇◆◇◆◇  ◇◆◇◆◇

人勝歴35年・9月9日・12:07

◇◆◇◆◇  ◇◆◇◆◇  ◇◆◇◆◇


「わ!これ本当においし~い!さいこ―!」


「うん……うん……おいしい……」


――現在12時7分。場所は九娘の言っていた穴場の飯店。


内装は綺麗で従業員は普通、肝心の料理は「繁華街のコックさんたちがお店を終えてからくるお店」だけあって絶品のひとこと。


マオもレラも喜色満面で料理を頬張り、満足げである。


このお店のメインターゲットが「一仕事終えた後の料理人」だけあって、今現在客は彼女たちだけだ。


――しかし。

九娘が「変ねえ……」と漏らす。


「?何がです?」と理花。


「この時間、少ないとはいえもうちょっと他にお客がいるはずなんだけど……」


「ふうん?」

と、理花はほかのテーブルを見渡す。


――そこに、すさまじい違和感があった。


いない。……彼女達以外に(・・・・・・)客はおろか(・・・・・)この店の(・・・・)従業員並びに(・・・・・・)カウンターの(・・・・・・)向こうにいたはずの(・・・・・・・・・)コックまで(・・・・・)いつの間にか(・・・・・・)いなくなっていた(・・・・・・・・)


刹那――


「!」


いきなりレラが、テーブルを思いっきりこちらに向かって突き飛ばしてきた!


「きゃあ!?」


「ひゃあ?!」


たまらずテーブルの端を腹に食らい、椅子ごとひっくり返る理花と九娘。当然テーブルの上にあった料理と皿は床に落ち、けたたましい音を立てて割れていく。


と――。


そんな彼女たちの目の前を、何か紐のようなものが高速で通り過ぎて行った!


ちょうどそう――二人が普通に椅子に座っていたら、大体首のあたりの位置――


「……!」


理花と九娘は素早く頭のスイッチを戦闘モードに切り替える。後転受け身で座っていた椅子から離脱。そして理花は素早く〝結界域〟を展開。

そしてその〝結界域〟を、特に背中の羽に集中させ、花鈴、マオ、レラを包み、覆い隠す。


「はあっ!!!」


次の瞬間、無数の弾丸が彼女達の方に向かって飛来してきたが、全部理花の〝結界域〟により高質化した羽にはじかれて終わる。


――危なかった。〝結界域〟を展開する前だったから、直撃してたら流石に死んでたわ。


理花は安堵する。

理花と九娘は同時に〝結界域〟を展開しながら、


「GJ美香ちゃん!って言うかいきなり急転直下ね!!」


九娘の言う通り。


この憩いの場はいきなり戦場と化した。

状況を確認。理花は思考を高速回転。


飛んできた紐――あれはたしか『グレイプニル』だった。


グレイプニル――一見黄緑色の、何やら不規則に糸が絡み合ってできた紐だが、これには〝結界域〟を中和する効果があり、よく犯罪を犯した武侠の風上にも置けない者を捕縛するために開発された、どの国でも警察官ならだれでも持っている標準装備だ。もちろん理花や九娘も持っている。


〝結界域〟を中和すると言っても、これで捕縛されたものの方が使ったものより

〝結界域〟が強ければただ〝結界域〟の威力が半減されるだけで、万能ではない。つまり欠点は「効果のほどは結局使い手次第」という点だ。故にその欠点をカバーするために、多人数で仕掛けるのが一般的な使い方だ。


〝しかし――あの型のグレイプニルはもしや……!〟


彼女の最悪の予想を裏付けるように、この店のドアから、裏口から、しまいには派手に窓をぶち破ってまで、大人数の――理花や九娘にとってはどんな時でも会いたくない者たちが、どかどかと侵入してきた。


「ゲッ!?……黒衣僧ブラックモンク!?」


と九娘がうめく。九娘がうめかなかったら、理花がうめいていた所だ。

理花は下唇をかむ。


――最悪だ。奴らの目的が何なのかはわからないが、ここまで派手な事をした以上、どんなことをしてでも最悪な結果になることは確実だ……!


黒衣僧ブラックモンク


黒の皮靴に黒のスーツの上下に黒のネクタイ。まるきり葬式に行くときの格好だ。


サングラスをかけていて、皆の表情が読み取れない。


頭部は永久脱毛しており、額には、サイコロの六と同じように点々が六つ付いている。これは電子機器に接続するための彼ら式の外接デバイスだ。


ここに突入してきた者は、みなそういう格好をしていた。


もちろん、全員〝結界域〟は展開済みだ。


気味の悪い、ドドメ(・・・)色の陽炎がそこらじゅうに立ち上っている。


――彼らは理花と九娘と同じ、司法機関のエリートたちである。


三五年前、「異思の物共」平定完了宣言の後、とくに多大な功績をあげた

小林拳ハイモンクアーツ〟一門を中心に「戦後、国家全体の治安を維持するために作られた、超法規治安維持部隊」である。


その活躍は目覚ましく、全武侠の憧れとして、また市民にとっては安全の代名詞として、ある意味絶対権力の象徴として崇められていた。


そう。……絶対権力。


賢明な読者諸兄におかれては、こんな言葉を知っていることと思われる。

即ち――


     『絶対権力というものは絶対腐敗する。』


彼らもまた、この言葉通り、腐敗した。

英雄とあがめられ、思いあがり、暴君と化すのに、さして時間はかからなかった。


正義の味方から、金と権力さえあれば何をしても許されると思いあがった金持ち達の走狗へ。


ありきたりな賄賂から犯罪者との癒着、ほとんど暴力団と変わらない――否、権力という背景があるだけに数倍たちの悪い所業の数々、とにかく悪事を繰り返して、たまりかねた市民と何より在野の武侠達の蜂起により、一時は奴らは壊滅寸前までいった。


そのとき理花と九娘もその蜂起に参加した。当然である。彼女らはどれだけ黒衣僧等に失望したか筆舌に尽くしがたい。


その後、実に癇に触る〝大人の事情〟とやらが発動し、どういう訳か黒衣僧等は息を吹き返していた。


ちなみに。


実は八州役人は、今では屑の代名詞となったこの黒衣僧のカウンター的存在として、〝小林拳〟以外の門派の武侠達によって作られた存在なのだ。


一応国家機関に属してはいるものの、半ば以上、いわば『民営警察』と言ってもいい存在なのだ、八州役人とは。


閑話休題。


――そして大方の予想通り、黒衣僧たちの体制は変わらなかった。……そういうスポンサー(・・・・・)には事欠かなかったからだ。


もちろん表向き、もとのいわゆる超法規治安維持部隊に戻ってくれたように見える。しかし見えないところではしっかりと金と権力さえあれば何をしてもいいと思いあがった金持ちの走狗にあいも変わらずなっており、ただ以前は堂々と悪事をしてたのが、今はこそこそとするのに変わっただけだ。


もはや今では黒衣僧は「最悪」の代名詞だ。


かつては情け深い好漢侠客の集まりだった黒衣僧の、昔日の姿をしのぶ事すら空しい。

そういう経緯があるだけに、同じ国家機関とはいえ、八州役人と彼らとの仲は最悪だ。


それもそうだろう。


台所から出てきた黒衣僧の一人が、この店の従業員全員と思われる数人の遺体を、グレイプニルで首のあたりをひとまとめにして引きずってきたのを理花と九娘が目の当たりにした日には。


当然グレイプニルでくびられたもの全員、真っ青な色になってうっ血で顔が膨れ上がって――二目と見れない姿になって物言わぬ肉塊になっている。


――さっきまで労働にいそしんでいた、おそらくは何の罪も無いものが――


「ひとつ、いいかしら?」


ギリ、と軋らせる歯の隙間から絞り出すように、理花は怒気を漏らす。


「仮にも、落ちぶれたとはいえ、法を守るものが、一般市民の店舗に押し入って、惨殺して、……あなたたち、納得のいく説明をしてくれるんでしょうね……?」


〝まさか。

そんな、納得のいく理由でこいつら司法機関の面汚し共は動くわけない。

こいつらは最早、何時だって、〟


この黒衣僧たちのリーダー格らしき男が口を開く。


「――説明をする義務はない。ただ秩序を守るため、この場にいる者全員に、死んでもらう、という事だけは宣告しよう。」


「へええ?私たちが何者かわかってそのなめたセリフ、ほざいているの?」


おそらくは理花と九娘の身元は確認しているのだろう、確認してる上で言っているのだろう。


「それに、八州役人の私たちならともかく、この人ら(と言ってマオさんとレラちゃんを指す)は一般ピーポーにしか見えないけど?」


と、九娘。


にやり、と最悪の化身のようなリーダー格らしき男が口をゆがませる。


「秩序を守るため、事故が起きた。あくまで事故だ。それを見届けた証人が、ほれ、こんなにもいる。」


〝手前勝手なルールを作って悦に入るクソに尻尾を振ることしか考えてない。〟


ほんとにこのなめた真似をして腐ったことに対する弁解も説明もしないな。


理花は怒りで視界が沸騰しそうになるのを戦士としての冷静さで抑えながら、頭の回転をさらに速める。


〝まあ、今の状況に大体想像がついたわ。

おそらく、マオさんとレラちゃんは、何か悪いことをしている、いわゆる黒幕フィクサーといわれるウジ虫にとって都合の悪いことを知ってしまったんだろう。そしてその二人を消すために黒衣僧をけしかけた。


……そして偶然知り合いになっていた私たち八州役人という目の上のたんこぶを、ちょうどいい機会とばかりに消すことにして、こんな大人数を募ったんだろう。――勤勉だ事……〟


そう理花はあたりを付ける。


確かに、これだけの人数はいくら九娘と理花がかなりの猛者だとしてもきついものがあるだろう。しかも腕は立つようだがしかし一般人でしかない者二人を守りながらだと、ここから生き残るのはかなり難しい。


理花は内心顔をしかめる。どうやってこの急場を凌いだ物か。


九娘が、


「……とりあえずマオさん、後で事情を説明してくださいね、私たちも素性を話すから。」


と、いいつつ、マオとレラの方を振り返りつつそういう。

――そこで理花と九娘は度肝を抜かれた。


「「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!」」


驚愕。


マオとレラが、いきなり、大爆笑し始めた。

あまりにピンチな状況になって、気がふれた――わけではない。

それにしては、余裕がある。


……黒衣僧たちのみならず、理花と九娘たちさえ、何か不吉なものを感じずにはいられないほどに。


そう――なんというか、その、例えるなら、たとえゴミ虫がいくら集まっても象に勝てると思っているのか、と言わんばかりのような……


「あーはははおかしい……

いいわあその相変わらずの(・・・・・・)下素野朗っぷりは……屠殺するのに何のためらいも覚える必要がないもの……むしろ爽快だわ…あなたたちが絶望と断末魔にまみれながらくたばるのかと思うと、今からもう濡れちゃいそうよ……」


「マオ、それ下品……」


そう窘めるレラの方は無表情。


そしてマオは八州役人の二人にこう言った。


「ああ、私達の方こそ後でちゃんと事情を説明するから。……逃げないでね。


私達の狙いは(・・・・・・)、 貴 方 達(・・・) だから。」


(化けの皮を、ヌギすテた)


ゾッ…!!


その時点で理花と九娘は直感した。歴戦の武侠としての勘が。

気づかぬうちに、ゴクリ、と生唾を飲んでいた。

ヤバい。

この二人は、兎に角――……

                ……――ヤバいッ!!







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