初陣
そして、地上ーーカオリの方では、地上に出てきたものを追っていた。
「スーちゃん!アレはなに?」
(「ふむ……さしずめ、悪魔堕ちした精霊といったところか」)
悪魔堕ちした精霊?
「そんなのいるの……いや、現に目の前にいるもんね。対処法は?」
(「倒すしか無い」)
つまり、悪魔堕ちしたものは、人間、動物、精霊に限らずーー滅ぼさなくてはならないと。
「かおちゃん先輩っ!」
「え?」
突然の懐かしい呼び名。それほど昔でもなかったや。むしろ、数ヶ月前なだけ……
「サホちゃん?」
コウノ=サホ。里では、後輩で親しかった女の子。でも、どうしてここに……?
「かおちゃん先輩の晴れ舞台を見にきたのに……私が避難誘導している内に倒しちゃうし…………あっ、それよりも速くアレも倒さないと!」
せわしない子だ。でも、状況がわかっているだけでも、頼りになる。
「うん……急ごう!」
「はいっ」
スサノオの加護のおかげで程なくして到着、サホちゃんもすぐにきた。でも、現場は悲惨だった。何よりーー
「うっ…………」
「そんな…………」
食い散らされた人間であったものが、何より酷い。
「………………絶対に、許せないですね」
「…………いくよ」
真っ先に向かうは、悪魔堕ちの精霊。これ以上の被害は出せない。
「「はあああああああああっ!」」
同じ里の後輩だ。息を合わせるなんて造作もない。だけど、私達のコンビネーションをひらりとかわしてみせた。
「キシャアアアアアアッ!!」
あまつさえ、威嚇?……いや、嘲笑っている様だ。
「このっ!」
「サホちゃんっ、待って!」
間に合わない!敵もそれに気づいてる……これは、まずい!
「キシャアアアアアア!!!」
「えっ?……きゃあああっ!」
ダメだ。届かない。間に合わない!
「サホちゃん!!」
次の瞬間、青い光が、視界を覆った。何が起きたのかわからない。
「…………………………あ、れ?」
サホちゃんが無事で、悪魔堕ちの精霊はいなくなっていた。
「サホちゃん!」
とにかく、無事でよかった。あんなことで、死んでほしくなかった…………本当によかった。
「かおちゃん先輩……わ、わたしっ……ぐすっ」
胸で泣くサホちゃん。でも、さっきの青い光は、なんだったんだろう。
(「人間だ。それも、とびっきり強いな」)
「スーちゃんがいうほどか……」
(「私の知っていることなど、少ない。なんせ、この世は広いのだからな。たまたま、命を拾えたということだ……ちなみに、剣を持った男だったぞ」)
「見えたの!?」
(「あそこまで、速いのはなかなかいない。が、アレが全力なら、追いつけないことは無いかもしれん」)
もし、まだ力を隠していたら……それは、人間と呼べるのだろうか?
「でも、まだまだ修行が足りて無いんだね」
(「フン!お前など一生修行が足りんぞ」)
「いったなぁ〜…………うぅ、これからも付き合ってもらうからね」
(「ああ、いいだろう」)
それにしても、誰だったんだろう。
(「ああ、補足だが……翼がな、背中に四枚、後ろ腰に二枚、ふくらはぎから二枚の合計で八枚だったぞ」)
「え?……それって、最近の学会で無駄だっていってたやつだと思うけど…………」
翼は、多ければ良いというものでも無いし、速くなるわけでも無いというものだった。実証データ込みのかなり確実性の高いものだったはず…………。
(「現に、速くなった者もいたということだろう。他人のことなど知らずでも良い時があるぞ?」)
だとしたら、本当に誰なんだろう。一度でいいから、話してみたい。
「かっこいい人なら、いいなぁ」
(「欲望丸出し……人間らしくなってきたな」)
「うるさい」
早く戻って、危機は去ったと思われるという情報を持っていかないと!
安全になったとなれば、皆喜ぶだろう。少なく無い犠牲は出たが、やはり、安堵できる瞬間があるのはいいことだ。
カオリ達が会話している頃、はるか上空ーー雲を超えた辺りの空域で戦いは行われていた。
「蹴飛ばしてからの、蹴り上げ四連発。それ食らっても体が凹んで無いんだから、お前は相当丈夫なんだな」
魔力回路が浮かび上がっている状態。世間では、「魔力回路解放」状態というのだが、ユウトは我知らぬ顔で「本気モード」といっている。
(「確かに……今のユウトの攻撃を受けて、吹き飛ばされるくらいでいられるのは、すごく頑丈な証拠ですね」)
「キシャアアア!シャアアアアアア!!」
若干、苦しみながら威嚇する悪魔堕ちの精霊ーーそれを一瞥すると、ユウトは動いた。
「とっとと、終わらせる」
八枚の翼での超加速。残像を残す勢いで悪魔堕ちの精霊との距離を詰める。
「次は、逃がさねえ」
容赦の無い斬撃と蹴りを織り交ぜた攻撃で悪魔堕ちの精霊は、なすすべも無くボロボロになっていく。
「これで、終わりだ」
魔力を剣に集め、巨大な剣に成り、一気に振り下ろす。一方的な、魔力による純粋な攻撃は、悪魔堕ちの精霊を溶かすように、消しとばした。
「はあ……もうちょっと、強いと思ったんだけどな」
物足りない。顔がそう語りながらも、彼らは街の人気のつかない場所まで移動した。平常状態に戻り、そこから避難していたというふうに装うためという、浅い考えであった。
「んんっ……ふぅ」
「エスト…………格好がエロい」
「っ!?あ、あまりこっちを見ないでください……」
エロかわいいっす。マジで!
「わかった。服を生成すっから、少し待ってくれ」
「?……服を生成なんて、できるのですか?」
「俺が今来ているパーカーも生成したやつだぞ」
魔術と錬金術辺りをかじっていれば、だいたいできる…………はず!
「それじゃあ、ユウトと似たようなのがいいです!」
要望がきた。これは、期待どうりのを作らねば!
「他にご注文は?」
「ん〜。そうですね、スカートとハイソックス、このシャツも気に入りました…………あ、あとは……その……し、下着も」
赤くなったよ。お互い。エストのサイズとなると……
「…………一回、大きめに作ってみるな」
「…………はい」
気まず!!??なんだこれ!?
その後、二、三回ほどの調整を終え、カオリ達の方へと歩いていくのだった。