ユウトとエスト
ちょうど、ゴーレムが一体地上に出現した頃――
「あー、もう来ちゃったか」
ユウトは、残る二体と対峙していた。
愛しのエストは俺のもとにいる。さあ、散々やってくれたんだ。仕返ししなくちゃな!
「エスト!君はどんな精霊なの?」
「……それを知らずに私と契約したのですか?」
あ、あれ?呆れてらっしゃるよ……
「私は剣になれます」
「ほっ……そっか、それなら大丈夫だわ」
そんなのんきな会話をしてたらゴーレムが一体、パンチをしてきたので――
「ッ⁉ユウト!」
「――ん?」
左手で受け止めた。
「は……え……」
エストが困惑している。落ち着かせなければ!
「エスト。大丈夫だ、心配ない」
「無茶苦茶です!」
なんで?このくらいタツやシンジですらできるのに……
「とりあえず――邪魔」
力を込めて、握手した。
バガンッ!!!
ゴーレムの右腕ごと、粉砕。本体は後ずさり、様子を伺っている。
「そんなに余裕があるなんて、最近のゴーレムはなってないなぁ~」
全力でなくても倒せる。さっきまでビビッて損した。
「そんじゃ、エストさん!」
「は、はい」
「俺の力で一体倒すんで、もう一体は――二人でやろうな」
「……はいっ」
よし!かわいい子の前でかっこよく見せてみる作戦開始!
「回路変更」
魔力回路を通常回路から戦闘用回路へシフト。身体中に魔力回路が浮き彫りになる。髪の色も魔力と同じ、深い青色に――
――魔力が若干外に漏れだしたけど、構わない。
「ふぅ……」
目は魔力で青く輝いていた。
「ユ、ユウト……」
私の知っている、さっきまでの優しいユウトはどこに行ったのでしょう。目の前にいるユウトは――
「ゴオオオオアアアアアアア!!??」
ゴーレムが素手で粉砕されていく。
――いえ、これもユウトなのですね。
「ガアアアアアアアアア!!!」
核を破壊されたゴーレムはただの岩となってしまった。私にユウトの足を引っ張らない自身がなくなってしまった。これでは、完全に足手まといなのではないか、そういう思いが胸を、心を支配していく。
「っと。おまたせ」
「あ……ユウト」
「へへへ、どう?すごいだろ?」
すごいなんてものじゃない、こんな人間初めて見た。ゴーレムを素手で倒すなど、夢だと言われれば信じられるくらいだ。
「わ……私の、力が……本当に、必要なのですか?」
何を言っているのだろう。主に対して、精霊がなんてことを――
「ぶっちゃけ、この程度の敵ならいらない。けど、エストの力が知りたいし、使いたい」
なんて言ったんだ、私の主は……ぶっちゃけ、いらない?
「エストと一緒に戦ってみたい……ダメかな?」
なんか……なんなのだろう。この気持ちは、モヤモヤする。ええい――
「わっ私の力の方がすごいです!!」
「へえぇぇ~」
……しまった。本当に何を言っているのんだ私は……ユウトと出会ってからなんか変だ。
「そんじゃあ、俺の地力よりすごいエストの力、見せてほしいなぁぁぁぁ」
もう、考えたところでおかしいと結論づけて、許可を得よう!
「ユウト!私は、私の思うように考え、行動してもいいですか?」
「?……まだ、そんなこと考えてたのか?」
「っ……そっ、そんなこととはなんですかっ!これでもまだ、迷ってて……」
気持ちを分かってほしいよ……マスター。
「最初に言ったろ?本当の君が見たいって、俺や周りがどうしようが関係ないよ――」
そう言って、笑顔で――
「――エストのやりたいようにやればいい。俺はそれを受け止める。どんなことであってもだ」
ああ、そうだったんだ。最初から、許されていたのか――
「……わかりづらいです」
顔がなんか熱い。身体も少し。
「ごめん。でも、こういうことしか言えないからさ、俺」
ああ、私は、最高に恵まれた精霊だ。
「だから、これからも負担かけると思うけど」
私は、最高に幸せな精霊だ。
「末永く、よろしく!」
私のマスターは――
「はい……ユウトは、最高のマスターです」
恥っず!!!!ぎゃああああ!
もし、これが誰かに聞かれていたら口封じ改め、切り裂いてやる!
「それでは、マスター。行きましょう!」
エストが光となって俺を包み込む、光が収まると、右肩に一刀の剣が吊ってあった。
「これが、エストの剣――精霊武具」
(「はい、これが私とユウトの剣です」)
「なるほど、直接頭にエストの声が響いてくる。天国か……」
(「もうっ、こんなときまで茶化さないでください!」)
ぷうっ、とむくれてるエストが想像できた。かわいい。
「だいぶ、素になってきたな。いい傾向、いい傾向」
(「その点は……ありがとうございます」)
やっべえ、俺の精霊かわいすぎっ!
「ゴアアアアアアアアアア!!!」
空気読めないゴーレムが叫びだした。いや、ここまで待ってくれたんだ、逆か。
「なんか、待たせて悪かったな!速攻で切り刻んでやるよ!!」
剣を抜く、純白の剣。白いエストらしい剣だ。
「くっふううううううう」
(「あ、あまりジロジロ見ないでください」)
あかん。これ、マジであかんやつ。俺の中で何かが崩壊していくっ!
「うっし、そんじゃあ気を取り直して――やってみたかったことその一!」
そう、『使役精霊』を宿したらやりたかったこと!
「魔力を供給してみる!」
(「そ、その程度のことがやりたかったことなのですか……」)
エストが呆れている。これは、マズイ。誤解なんだ……。
「俺なりのやり方で魔力を流すんだ。ちなみに、実験ではかなりいい線いった」
(「まあ、期待してます」)
「あと、耐えられなかったらすぐさま離れてもいいからな?」
(「ありえません!もう、ユウトから離れるなんてっ、絶対いやです!」)
俺の精霊ってば、なんでこんなにも天使、天使しているのだろう?
「まあ……じゃあ、そこは臨機応変な対応をよろしく。そんじゃ、いくぜ!」
ちなみに、魔力回路は戦闘用なので……この間、結構ゴーレムから攻撃が来てたんだけど、おっそいんだ。
「まずは、全体を優しく、守るように覆って――」
エストの全体を魔力で覆う。これは、日々の魔晶石トレーニングと同じ。
「それができたら……本命を流す!!」
この方法なら、対象の限界までじゃなく、俺自身の限界まで魔力を流せる。結構な魔力コントロールが要求されるから、毎日練習してたんだ。うまくいったかな?
「ひゃああああああああああああああああああああ!!!???」
…………剣から、元のエストに戻ってしまった。
「はぅ…………ひゃう……」
なにやら、かわいく、いやらしい声が漏れているぞ?
「こ……こんにゃの…………あぅ」
「えーと、大丈夫?」
横目に見ると、ゴーレムも様子をみている。俺がゴーレムでもそうするわな。
「こっ、こんなの!初めてですっ!!」
そりゃそうだろう。
「いや、だって、エストが初めてまともに流した精霊第一号だぞ?」
「こっ、こんなの!られが予想れきますかっ!!!」
大層、御立腹のようだ。けど、呂律が回ってないせいでいやらしさ倍増だ。かわいいなぁ。
「ご、ごめんって……えと、次からはどうしたらいいんだ?」
もう、どうしていいかわかんないから聞いてみたら、きっ、って睨まれた。ショック!
「もう一度!やってくださいっ!」
「ふぇ?」
「こ、こんなのぅ!たまりませんっ!!」
顔を赤くして「たまりませんっ!!」なんて言われたら……
「うおっしゃあああああ!!何回でもいくぜええええ!!!」
男としてっ!それこそ!!――たまらんだろう!!!
あんなすごい魔力供給……初めてです。きっと、過去の精霊まですべてにおいて、こんな魔力の流され方をしたのはいないでしょう。
本来、魔力供給とは、人間から精霊に直接魔力を、唯々、流すだけで成立する。その間に、周囲に少し、魔力が漏れたり、それにあてられて、そこら辺にいる小さな精霊からの魔力も混ざることが普通なのに――
(まったく無駄のない、純度百パーセントの魔力。こんなの、全ての精霊を従える気ですか!?)
ユウトはそれを自身の魔力で内も外も遮断、純粋な魔力を流してきた。
(そして、ユウトのことです。きっと、魔力障壁?は、物理的にも作用する……これがユウトの言っていた「守る」ということですか)
こんなにも大切にされた精霊は自分だけだ。そう考えると――
「ユウト。私の無二の力をっ……ユウトに捧げます!」
全力を見せたところで釣り合うだろうか……いや、釣り合うよう、私も変わらなくては!
「マジで?そんじゃ――バッチコーイ!!」
私に置いてかれても、知りませんからねっ。
再び、エストが光となって精霊武具へと変わる……
「おおっ!鎧か!」
腕と身体、腰回りと脛を守る軽防具と剣が左右、二刀へと変更されていた。
「すごい、こ……うっ、ぐ」
あれ?なんが、魔力回路が……すごい力で、抑えられる!?
「う……はぁ……なんだ、これ?」
(「ユウト。私も成長するんです。だから、もたもたしてると置いていっちゃいますよ?」)
ああ、なるほど。それで抑えられたのか。
「ははは……主の成長を促す精霊とか、初めてだよ!」
畜生、やり返された気分だ。いや、その通りか。
「ああっ!魔力回路をエストに合わせて再構築しねえとな!」
(「!?そっ、そんなことができるのですか!?」)
「できる!さっきの魔力回路も三代目だしな!」
成長を促す精霊……ならきっと、俺の限界を引き出す魔力回路じゃないと受け付けてくれないだろう。
「見つけ出す、必ず!エストが導いてくれた、今の俺に最適な魔力回路を!!」
さすがに、ゴーレムもそろそろ攻撃しようか伺い始めた。戦いながらの自分探し……
「難易度たっけ~~」
(「がんばってくださいっ」)
ご機嫌なエストの声が頭に響く。
「負けてたまるかっ!」
ユウト史上、上位五位に入るくらいの戦いが幕を開けた。