芽生えた希望
一方、その頃地上ではーー
歓声の中、演舞を披露する少女が三人いた。
その中には、フシミ=カオリがいた。彼女は、巫女装束に着替えており、彼女の魅力が増すように施された控えめの化粧、華やかな飾りは、最早巫女では無く、大和撫子であった。
私は、フシミ=カオリ。呉のくノ一です。世間を知るために里を出て見たんだけど、そんなことがどうでも良くなるくらいの出会いをしました。ミナセ君。彼は放課後、私の補佐をしてくれるサアヤから苦手な魔術理論を教えてもらってる時にひょっこりと現れました。きっと、あの時は先生に絞られたあとだったと思う。結構、疲れてたっぽかったからーー
「あれ?えーと、フシミさん?だったっけ」
「う、うん。ミナセ君どうしたの?何か忘れ物?」
「あ、そうだったそうだった」
こっちに来る。サアヤ、フォローして!
「やあやあ、ミナセ君。あたしはナゼ=サアヤ、よろしくね」
「ん。よろしく」
なんで自己紹介してるの!?わけがわからないよ?
「いやいや、実はカオリってばさ〜。魔術理論がサッパリでさ〜」
「ちょ、ちょっと!サアヤ!」
なんてこと言うの〜〜!?
「ん〜?ああ、ここか」
「おっ?」
「え?」
理論式の一点を指差す。それがどういう意味なのか、サッパリ分からない。サアヤですら分からないといった顔だ。
「ここができてないからわからないんじゃないかな」
「「???」」
もう、二人して頭を傾げるしかない。彼は一体、何をいっているのだろう?
「この部分はさ、先生がそのまんま暗記って言ってたけどさーー」
確かに。先生はそう言っていた。でも、なぜかどうしても違和感が拭えない説明でもあった。
「これって、理論の核を支える重要な部分なんだよ」
「あっ」
「ほう」
何かストンッ、と腑に落ちる。
「だから、この部分を無しに魔術陣を構築しようとしても起動しないんだ。よって、核を支える部分は、見えるので四つ、んでもってこいつで五つ。最低でもそれが無いと魔術は起動しない。さらに、こいつはこの位置で無いと魔術は起動しない。こいつは、核を支える力が強いからだ。だから、近くにあると核を押さえ込んでしまう」
今、すごいことを教えてもらっている気がする。魔術の根幹に関わるなにか?
「で、こいつの構成は、基本的には他のと変わらないけど〜、ここ。ここの式が他の四つと明らかに違うんだ。この部分がいわゆる「魔術のツボ」みたいなもの。ここを変えてやると強力になるんだ。それは、この魔術陣そのものにもいえることなんだ。だから、部分部分を照らし合わせてやると、この部分をいじくるとこの魔術は多分、人一人殺せるくらい強くなってしまう」
なんだろう、これ。何かとってもーー怖い。
「だから、教科書にも書いてあるように、みだりに書き換えてはいけないんだ…………ん〜、こんなもんじゃ無いかな。フシミさんがわかってないのって、どう?」
どう?って言われても、今はそれどころじゃ無い。
「あ、魔術が怖いって思ってるだろ?」
「ーーっ!?」
図星の表現が出てしまった。どうして?訓練されたくノ一なのに……どうして?
「それを教えるために魔術理論を俺たちは学んでるんだぜ?よかったな」
なんで笑ってられるの?世界を改変するってこんなにも恐ろしいものなのに……
「すごいね〜ミナセ君。もう、鳥肌がスゴイことになってるよ」
「ん?それを知らずに魔術使ってたらいつか死ぬんだぜ?鳥肌が立って当然だろ?」
なんで、そんなにも、死を強調するの?
「ほら、他も教えてあげようか?いつか、大切な人を殺めてしまわないように……自分達がどんな『力』を学び、行使しているのかーー」
知りたいって思った。本心から……
「ーーまあ、きちんと制御できてりゃ心配することなんか何一つ無いけどな」
魔術をーーううん、彼を。
ーーそんなインパクトの強い出会いをして、私は彼のことが気になってて……多分、私の中では、きっと特別な存在。
だから、今の私を見て欲しかった。先生に頼んで「絶対来るように」って言ってもらったのに……。まあ、それでも……その……後から来るなら、一緒に出店くらいは、回りたいな〜。
ゴゴゴゴッ!
「っ!?」
この感じは、殺気?なんで、下から!?
すぐさま、距離を取る。数秒後、私がいたところからゴーレムが出てきた。
「え!?ゴーレム?でも、様子が……」
何か、囚われているような、苦しんでいるようだった。
「ゴアアアアアアアアアアア!!!」
だからだろう。ゴーレムは突如出現し、暴れ始めた。辺りは当然混乱し、酷い有様だ。
ゴーレムは、岩に精霊か悪魔が取り付いたもの。あたりに瘴気が出ていないことから狂化した精霊が取り付いてしまったのだろう。狂化した精霊はもう、倒すしか無い。これは、精霊から得た、事実だ。だから、正気に戻った者から武器を取り出す者がどんどん増えていく。多勢に無勢かと思われたがむしろ足りない……この大きさで、現在の戦力では倍無いと厳しい。
「ここで、本性を明かすのは……」
正直、怖い。みんなに恐れられるのが、怖かった。でも、震えた手で武器を展開し、ゴーレムと戦おうとしているみんなを見て、これから行われる惨劇を想像したーー
『俺はさ。あんまり人に向けて魔術を使いたく無い。でも、みんなを助けるためだったら、喜んで使ってやる。それが、俺が学んだことかな……使えるかどうかは、別として』
ーー男の子としては、情け無い彼の言葉を思い出した。不思議と足が前にでた。
「はあああああああっ!」
小刀を魔晶石から展開する。
カキンッ!
弾かれてもいい、とにかく、こっちを向いて!!
小刀が岩に弾かれる音が連続して響く。そしてようやく、小刀がゴーレムの痛点を突いた。
「グガアアアア!!」
ゴーレムはカオリを敵と認識したようだ。
「みんな!今のうちに逃げて!!」
とにかく、叫んだ。みんなが傷つく様を見たく無い。そんなことになるくらいならーー
「スーちゃん!来てっ!」
胸元の紋章が輝く。私の『使役精霊』スサノオだ。天パで無精髭の青年という容姿だ。
「うむ。主よ、ようやく呼んだな」
「うん!これからも、たくさん呼ぶと思う」
「ふん。任せろ」
「ありがと」
スサノオが光となって、私を取り込む。光が収まると小手と脛当て、背中には小刀を二刀。これが、私とスサノオの精霊武具。
くノ一の私を強化するための装備だ。
(「邪魔な衣類は消した。男のためにがんばるといい」)
「ちょっと!なんで知ってるの!?」
(「主、お前の中にいるのだから当然だろう」)
たまらないよ〜。恥ずかしくて死にそうだよ〜〜。
(「ほら、危ないぞ?」)
「っ!!」
ゴーレムの攻撃が続く。会場は既に、穴だらけになり、もう滅茶苦茶だ。そして、しぶとい事に十数人残って、戦っているのだ。
(「大した、ダメージは与えておらんようだな」)
「いくよ!スーちゃん!」
駆け出す。体が、軽い。スサノオは、属性的には風だ。風精霊の加護と忍としての身体能力があれば、縦横無尽に駆け抜けられる!
「はああああああ!!」
ガッ!バキッ!!
スサノオの小刀だ。容易に刃が貫き、砕く。ゴーレムもどんどん削られていく。
「グギャアアア!ゴアアアアッ!?」
そして、ようやく核が見えた!
「そこだあああ!!」
二本目の小刀を抜いて、両手で突き刺す。
「ガアアアアアアアア!!???」
核は砕け、ゴーレムはただの岩に戻った。
「ふぅ。終わった」
被害は酷いが幸い、死者は出ていないようだった。
「フシミさん……」
背中には戦っていた数人のクラスメイトからの視線が刺さっていた。もう、ダメかな……
「フシミさんって、すごいんだね!」
「ふぇ?」
予想外の答えに慌てて振り返る。
「こんな大きなゴーレムを一人で倒しちゃうんだもん!」
「え、あ、いや」
「使役精霊も持ってたんなら言ってよ〜。私達にも精霊の使い方教えて!」
あったかかった。優しかった。私は恵まれてたんだ……
「……ぐすっ」
「え!?ど、どうしたの!フシミさん」
「大丈夫?」
「……うん。大丈夫……ありがとう」
きっと、心から笑えたと思う。これからもみんなのために戦いたいって強く思えた。
ガアアアン!!!
二箇所から、戦いの煙が登っていた。