迷子
ここは、大和の都市ーー中宮。
そこでは、春と夏の間に神と精霊と人間に日頃の感謝を込めて演舞祭が催される。これには、中宮中から人が集まり誰の演舞が一番か決めるコンテストもあるくらいだ。
ちなみに、『演舞』とはーー剣術の型や魔術によるサーカスめいたもの、巫女の舞までとにかく華やかに、勇ましく、美しく、幻想的に等様々な解釈の元、個々の個性豊かなものである。
さて、今年も演舞祭の季節がやってくる。毎年恒例の賑やかさがある中ーー
ーー暗い、暗い。
ひた、ひた、ひたーーと誰かが歩く音が響く。
ーー怖い、怖い。
場所はわからない。だが、どこかの祠か洞窟の中であることかはわかる。
ーー寂しい、寂しい。
たった一瞬だけ感じた。あの人の魔力。感じた方向に足を進める。
ーー会いたい、会いたい。
もう一度、もう一度だけでいいから。優しいあなたに会いたい。
「私のマスター。あなたの剣は私です」
彼女は、たった一つの光を頼りに歩く。孤独に耐えながら、過去に突き放してしまった。今となっては、とても後悔している。だから、今度は私が彼を見つけるんだ。
「待っていてください。ーーユウト」
一ヶ月も歩けば、もう習慣付いてしまった。
「ふぁ…………ん」
今日も眠い中歩いてる。俺はミナセ=ユウト、まあ誰に名乗ってんのかわかんねえけど。
いつもなら、そろそろ、バカップルが来る頃だろうけど今日は違う。
なんてったって、今日は毎年恒例の祭があるからだ。めんどくさいことに朝から翌朝まであるかったるい行事である。当然、不参加を決め込むけどーー見に来いってやつが多いんだよな。しかも、クラスの担任教師からのお達しなんだから、顔を出さないとまずい。
「寄り道……いや、探検しながらいくか」
なんでも、都市の中央区で開くもんだから、結構遠い。本来なら車で行くような距離を今は歩いてる。まあ、途中で飛ぶけどさ。だってそっちの方が速いんだぜ?そりゃ速い方を
選ぶだろう。とはいえ、普段なら行かないとこに行くのだから楽しんでいかないと。
「とりあえず、暑いし……川沿いにいくか」
そう、初夏の兆しがあるこの季節。結構しんどい。みんなもわかると思う。なんかこう、しんどいんだ。だから、水に近づきたくなる気持ちもわかるはず……。それに、記憶が正しければ、この川は中央区までいってから海に向かうはずだ。もちろん蛇行しているが、それもまたいいもんだと思う。
「ふむ。眠いな」
この調子だと、どこを歩いていても眠いだろう。やっべえ、ベンチがあったら横になりたい。最高に気持ち良いだろうな〜。
ーーーー。
「…………」
なんだ、この感じ。誰かに見られてる?
ーーーート。
「……誰だ」
とにかく一刻も早く問題に対処しないといけない気がした。
ーーウト。
誰かを読んでいると思われるが、ここは河川敷だぞ。隠密魔術でも使ってるのか?そうなら……人気もないしいけるか。
誰にも見せたことのない……いや、タツとシンジ、タクヤと家族にしか見せてない高等技術ーー
「『サーチ』」
本来なら長ったらしい詠唱が必要な魔術。でも、やっぱどんな技でもコツとセンスさえあれば、どうにでもできる!っていう暴論で実行する。もちろん、たった一言で魔術は行使できるほど簡単じゃない。もっと高度なやつはね。
「……反応なし」
まあ、予想はしてたけどさ。なんかやばいな。急いで離脱した方がいいか。
「音を超え・光を追って・駆け抜けろ」
機動強化魔術『ラムダブースト』を行使する。が、空間が歪んだ。
「えっ!?ちょちょちょ!」
緊急停止を試みたが、もう遅かった。
「うっへぇ。どこだよ……洞窟?」
暗いがどこからか光が差しているのだろう。濡れた岩が反射していてわずかに暗闇ではない。
「とりあえず、光の方向へいくか」
警戒しつつ俺は進んでいく。
「ここから光が差しているのか」
大きな空洞に辿り着いた。天井が高い。数十メートルはあるだろう。天井の中央から光が差し込んでいた。
「いい景色だな……こんな状況じゃなければ」
勿体無い気がするが、今は身の安全が先だ。
出口を探すため、道を探す。
「うお……三択か」
道は三つ。どれが正解か……勘でいくか。いや、とりあえず『視て』からのほうがーー
ズドンッ!!
「!!」
右側の道から土煙が漏れている。絶対ヤバいやつだ、コレ。
「ゴアアアアアアアアアアアッ!!」
「魔獣かい!!」
思わずツッコんでみたけど意味ねえな。…………ん?なんかそれ以外にも音がーー
キンッ!カンッ!ガキン!
剣撃の音が混じっている。
「誰か戦っているのか…………腹をくくるのって、久々だな」
酷い状況だが、一撃離脱でなんとかするしかないよな。
彼は葛藤しながら進む。
運命の相手の下へ。
二つの光が合わさる時、大きな光へと変わる。
「ユウトの下へ行くんです、邪魔をしないでください!」
彼女は戦う。自らの主と会う為に。