プロローグ
太古から、精霊と人間は縁があった。人間は、精霊に魔力を与え、精霊は人間には無い力と加護を与える。
そうして、精霊と人間は共に歴史を刻んでいった。
しかし、どんな関係であってもいつか必ず、衝突し合うことがある。それは、精霊と人間の間でも起こったーー世界戦争。精霊と人間との世界レベルの戦いは、多くの傷跡を星に刻んだ。
一、精霊も人間も喰らう魔獣が生まれた。
一、多くの文明が失われ、自然が溢れる世界になった。
そして、最後にーー
一、引き分けにより、人間>精霊の関係が生まれた。
これは、優しさが世界を滅ぼし、世界を作り変える物語。もう一度、人間と精霊の立場を考えた物語。
世界戦争から十年。東方の島国ーー大和。この国は大半が緑、自然に溢れ、人間の住める場所は主要都市やその近辺だけになってしまっていた。原因はーー魔獣。かの世界戦争によってこの星に生まれた新たな生命体である。
彼らは、主に微精霊という精霊のなりそこないと人間を喰らう。一部の種類は、草木を食べるがそれは、人間の数が減ったのが理由であって、決して、人間を喰らわないことはない。つまり、人間の天敵を世界は生み出したことになる。
しかし、魔獣に対して人間も愚かでは無かったーー魔術。全ての生命は、等しく魔力を持っている。その法則は人間にも当てはまる。人間は魔力を使って魔術を行使し、魔獣と対抗していた。
しかし、精霊達は違った。高階位の精霊は単独でも抵抗できたが、多くの精霊が同じようなことを行い、ーー消えていった。
精霊は、人間には無い力を持っているが魔力供給無しでは運用できない欠点を持っているものが多くいた。その欠点を補うのが『使役精霊』となることで、人間に精霊の加護などの恩恵を与え、自らの姿を武器に変え、共に戦うーーそれが、精霊のとった手段であった。
大和という一番国の中で大きな島ーー本島。その丁度中央部にあたる都市『中宮』。その中程に位置する都市の工業地帯は、東、西、南、北、中央地区の五つに分けられた街の北区。そこには、「都立北高校」と「区立高校」二つの高校がある。両高校には、目に見えた違いがあり、それによって子ども達は各々の進路を決める。特に、大きな違いは、「区立」は武術、「都立」は魔術ーーと別れていた。
別に、どちらか一方でしかできないというわけでは無いが、設備や配慮といった点で違いが出てくる。
これは、お互いが教え、励み合うよう国がとった方針だったが、これ程上手くいかなかった例は無いほど狙いは外れた。
そう、両高校はいがみ合って、競い合っていた。互いを追い越そうと切磋琢磨するのは良かった。だが、それだけでは済まないのが人間の心理であった。
両高校の生徒のレベルに差が出てくると、強者の方が潰しにくるのだ。過去の例を遡れば死人が出ることもあるほど激しいものもあった。そこで国がとった方針がーー「魔獣狩り」であった。
生徒や「魔獣狩り」を生業としているものに「端末」を配布するように法律で定め、騒動になりそうな生徒は強い魔獣を狩ろうとするので、首都の国立学院がヘッドハンティングするという無茶苦茶な対策をとった。が、これはご都合主義のごとく成功し、生徒の暴走も無くなり、首都の戦力が強化、もとい国力の増加に繋がった。これを機に、国は大和の主要都市全七都市にこれを命じる。これにより、毎年首都では編入生徒の歓迎といつ始まったのか定かではない「洗礼」を行なっていた。
今年の編入生は各都市一名ずつであり、首都のヘッドハンティングが終わって一ヶ月ーー季節は春を迎えていた。
今日も今日とて眠たい体を引きずって、ようやく歩き慣れた新しい道を歩く少年。
この物語の主人公こと、ミナセ=ユウトだ。
都立高校に通う一年である。
「……ふあぁ…………ぐぅ」
欠伸をしていると後ろから頭を抑えられる。
「相変わらず眠そうだな!ユウト」
「眠いのはお前だけじゃないだぞー」
「……バカップルは黙ろうか」
今日も彼らの日常が始まる。
こいつらは小学校からの付き合い。俺より若干背が高い男がツダ=リクト。そいつの彼女であり、男二人の間にいる小さいくてスーパーフラットボディの持ち主がナカタ=リエ。幼馴染ではあるが、今は心底うざい。
「お前が都立の方にマジで入れるなんてな。正直無理だと思ってたのにな」
失礼な男だ。
「そうそう。あたし達の勉強会に不参加だったのに……よく塾行くだけで受かったよね」
カップル揃って失礼なやつらだ。魔獣狩りで心中してこいよ。
ともかく、真実を隠しつつ事実を話しとくか。
「別に塾なんか行ってねえよ」
そう、みんなに力を隠してる。
あいつとの約束だからーー
「親戚にアレコレ教えてもらっただけだ」
まあ、あのバカは隠しきれずに連れてかれたっぽいけど……。
「はあ……」
ため息が出る。あ〜あ、二人がわけわかんないため息つかれて首傾げてるよ。
そんなことを考えながら高校の昇降口で上靴に履き替え、それぞれの教室へ向かう。
俺は、七組。リクトは、一組。リエは、四組だ。
これで静かになる。
「そんじゃ、食堂でな〜」
「でな〜」
……最後にうざいことをしてくれたな、このバカップルども……くたばれちくしょう。
シカトを決め込んで、教室へ入るとーー
「おっす、ユウト!オラアアアアッ」
事実を述べよう。ゴリラが突進してきた。多分、男子全員受けているはずだ……多分。
「くっさいのが近ずくなあああああ!」
慌てて、サイドステップでかわす。が、この生物は追ってきた。
「はっ!甘いなああっ!」
無駄に機敏なパワーゴリラだ。駆除してやろうか!
早くに来ているクラスメイトから哀れみの視線が注がれている。これは、助けは来ないな。プランBだ。
ガラッ……と扉が開く、ゴリラと同じ武活に所属している、シミズ=セイ。ーー今日はこいつにヘイトをくれてやろう。
早速、行動に出た。シミズはいきなりすぎて困っているようだ。すかさず、ゴリラと俺の間に行くよう移動する。そうするとーー
「おっす、シミズ!オラアアアア!」
なんということでしょう!ゴリラがシミズの方へ向かうではありませんか!
「こっちくんな、ゴリラアアアア!!」
あ〜あ、もう逃げられねえな。悪いとは思わんぞ。二日前に同じことをされたし……そこらへんでくたばっているヤツラと同じ目にあいたくねえし。
教室内には、ゴリラの突進を食らったのであろう男子が転がっていた……二人ほど女子だった気もするが、名前が思い出せない。放っとこう。
こうして、俺の高校生活は幕を上げたのだが、楽しく、面倒くさい。充実したものだ。
これを壊されるのはーー絶対にイヤだ。