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第八話 柏木むつみ再び

 それから数日、俺たちは家具をああでもない、こうでもないと配置し直したり、Amas●nで追加の注文をしたりして過ごした。

ちなみにその間は、ずっと夏美と美保子も新居に泊まり込みだった。

あー、バラ色の俺の夢と希望を返せ~!


 俺はその他には、溜まっていたアニメを見たり、ネット小説の続きを読んだりしていた。

引きこもりのニートの生活そのものだ。

ただ、ちょっとしたシーンですぐ涙が出たり感動してしまったりする。

我ながら、どうしてしまったのだろうと思うくらい、涙もろくなっている。

どちらかというと、クールだった方なんだけどなぁ。

帰って来たということが、俺の精神状態に影響を与えているのだろうか?



 今日で隔離が終わりの日の朝、俺たちは氷堂家のリビングで、食後の雑談をしながらボケーッと過ごしていた。

ピンポーン。

「はぁい」

また母が出る。

父は、今日から出社だともう家を出ていていない。


「おはようございます」

「あら、柏木さん」

そう、柏木むつみさんがやって来たのだ。なにやら沢山の大きな紙箱を持ってきている。

大きさとしては、アタッシュケースのような大きさのものが三つある。

箱を下ろすと、柏木さんの姿が見えた。


 今日の柏木さんは、なんと婦警の制服姿だ。

柏木さんは、何を着てもカッコイイなぁ。


 「隔離期間の終了と、向かいの交番が完成したので、ご挨拶に参りました」

「わざわざありがとうございます」

「私、柏木むつみは、内閣調査室から警視庁へ一時出向となりました。向かいの交番のあるマンションに住み込みとなりました。なお、マンションの住人は全員転居していただき、警察関係、自衛隊関係など関係省庁の人員が入居することになりました」

「凄い……ですね」

「皆さんを守るための措置ですから、当たり前の事です」

「ありがとうございます」

「それから、今後のことのご相談です」

柏木さんは、真剣な顔をして俺を見つめる。

美人さんに、ジーッと見つめられると、背中がなんだかゾワゾワする。


「今後……ですか」

そうだよなぁ。帰って来てからAmas●nで買い物したり、家の中を整えたり…。

アニメを見たりネット小説を読んだりする以外、まだ何もしてない。

これから長い人生がある。考えなきゃなぁ。

ちなみに、アニメは異世界勢にはとても好評だった。


 さて、柏木さんはリビングで俺たちを見回して言った。

「皆さんには、明日から新桜台高校に復学していただきます。異世界からの皆さんも全員氷堂さんのクラスに転入していただきます」

「へぇ! 凄いよカズ君」

夏美が驚いている。美保子も驚いている。メガネの奥から輝く光が見えた。美保子さんの眼力、ハンパねぇ。


「俺、ずっと休んでたので……」

「大丈夫です。それは無かったことになります。それから、一週間後に試験に合格なさったら、氷堂さんは普通の高校生活に戻れます。試験に合格しなければ、毎日放課後補習と夏休みもずっと補講になります」


「……はい、頑張ります。ご配慮いただけただけでも感謝します」

俺はハキハキ答えた。


 無かったことに出来るのか。すげぇな、国家権力。

でも、試験かぁ……勉強漬けにはちょっと涙目だ。

何としてでも合格しないと、夏のコミケ○トに原稿が間に合わない。


しかし、こいつらまで高校転入か……、アイラなんか年齢足りてないぞ。

第一、こっちの一般常識が無いけど、大丈夫なのか?


「兵藤君、勉強なら私が見てあげられるわよ」美保子が、メガネをクイッと上げて言った。

「カズ君、あたしも勉強見るから頑張ろう?」

お前、俺の心配できるのかよ、そう思ったが、夏美の気持ちに感謝して、俺は「ありがとう」と短く答えた。

美保子とも目を合わせ、感謝の念を伝える。

「クラス委員として、当然です」美保子は胸を張って言った。美保子は一年の時も

大きな胸がプルンと震えた。


 柏木さんは、ピンと背筋を伸ばして続ける。俺は、視線が美保子や柏木さんの胸に、つい引き寄せられる。

いかん、いかん、真面目な話しをしている時に。

「異世界の皆さんは、高校に通っていただくだけで大丈夫です。期末試験なども受けていただきますけれど、進級にテストの点数は加味しません」

なんか、夢のような高校生活だぜ、いいな、こいつら。俺だけ勉強かぁ。

まあ、異世界から帰って来れたし、普通の高校生活に戻れるだけでも充分かな。


「それから、これが皆さんの制服です」

柏木さんが持ってきてくれたのは、高校の制服だったのかぁ。

三つの紙箱は、それぞれ人数分の高校の制服、夏服の入った箱だ。

サイズは、この前の身体測定でわかっているのだろう。

冬服は、冬期が来る頃にまたサイズを測って注文をするのだそうだ。


 ファンシア王女、イーシャ、アイラと、それぞれに合った箱を渡している。


「嬉しい、私も和彦さまと一緒に、高校という所に通えるのですね」とファンシア王女が嬉しそうに言った。

「知識の魔法を使って、私も頑張ります」とイーシャが言う。オイオイ、そんな素敵な魔法があるのか。

そいつはありがたいぜ、俺も頭が良くなれるのか? だったらいいのだが……、地獄の勉強生活はゴメンだからなぁ。

真剣に俺はイーシャを見つめた。

イーシャはニッコリと微笑む

「頑張りましょう」

「お、おう」

相変わらずイーシャは完璧に美しいなぁ。何度見てもそう思う。


 アイラは、「ガッコウ、ガッコウ」と喜んでいる。

まあ、異世界にも学校はあったからなぁ。通えることは嬉しいんだろう。


 少し雑談してから、柏木さんは帰っていった。

まだ近所を出歩く位しか外出しないよう、念を押される。

学校には、マイクロバスが用意されるという。

明日から俺の家まで向かえに来てくれるのだ。

途中、冷泉院家にも寄るよう美保子が交渉していた。

クラスメイトのため、委員長の職責で学校への送り迎えには付き沿うのだという。

ちゃっかりしてるぜ、うちの委員長殿は。


 見送りのため外に出ると、昨日まで覆いが掛けられていたビルが、覆いの青いビニールシートも足場が外され姿を現していた。

大きなマンションは、すっかり姿を変えていた。

ビルの外壁には新しいタイルが貼られて、新築のようだ。

一階は二つに分けられ、正面側は交番、右側はコンビニが開店していた。しかも、かなり大きなコンビニだ。

 ちょっとした買い物はここで済ませられるな。

っというか、そのためにこそコンビニが作られたのだろう。

交番も、かなり規模が大きい。警察署だ言ってもおかしくない規模だ。


 この新しいマンションに住人が入居するため、引っ越し会社のトラックが止まっていた。

しかも、何台もある。マンション全員の住人が引っ越してくるのだから、トラックは何十台も来ることになるのだろう。


 近所では、他にも引っ越しをしている家が何軒かあった。

この辺りの住人をどれだけ入れ替えるつもりなんだろう。

凄すぎるぜ、国家権力。


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