第六話 コスプレ大会
ネット案件はひとまず放置することにして、夏美と美保子は俺たちの新しい家を物珍しそうに見て回った。
「相当広いお家よね、家と言うより屋敷よね。私もひと部屋欲しいわ」メガネをクイッとあげて美保子が言った。
「ひと部屋くらい、いいよ」俺が言うと、即座に夏美が「ダメよ!」と反対する。
「美保子は私の家に泊まるからいいの」と夏美はプンスカしながら言うのだった。
「じゃあ、誰が来ても泊まれる客間も用意しておくことにしよう」
俺は、自分たちが住むことしか考えてなかったので、他人の視点から見た意見はありがたいと思った。
全部の部屋を何かに割り当てるのではなく、何の用途も無く空けておく部屋も必要なのだとわかったのだ。
「ねえ氷堂君、この家って監視カメラって仕掛けてあったりしないのかな? 異世界から来た人を監視したりしちゃうんじゃないかしら、政府って」
またまたメガネをクイッとあげて、美保子が言った。
「デスノ○トみたいに、いっぱいカメラが仕掛けられて監視されちゃうのかなぁ」
夏美のやつ、なんか嬉しそうにしてないか?
「カメラか……。それは考えてなかった、ちょっと調べて見るよ」昨日イーシャが使えると言っていた透視の魔法を、俺も使えないかと集中してみた。
家中をMRIで輪切りにしたような感じで、全てを透視するのだ。
「あ、カズ君の目が光った!」
「本当に光ったわよね」
出来た!!
なるほど、こういう感覚なのか。でも、色はついていない。
昨日見たMRIから透過のイメージを持ってきたので、俺には色つきで透過出来なかったようだ。
魔法はイメージを元に発動するので、イメージに制限がかかってしまうとこういうことになる。
女子の体も輪切りに見える。
激しく興味を引かれたが、今は自重して家中を調べて回った。
「無いね。カメラも盗聴器も全く無いよ、部屋の壁の中やコンセントや電気配線にも怪しいところは無かったよ」
俺たちの信頼を得て、長期に渡ってゆっくり情報を収集していった方が得だと判断したのだろう。
あらためて、内閣調査室と国家権力を凄いと思った。
新居を見て回るのに飽きたので、一度、氷堂家に戻った。
すると……なんと言うことか!
玄関先には、荷物の山が届いていた。
新居に運び入れると、半分食材だった。発泡スチロールの保冷容器に入ったものもある。あとは衣料品だ。
昨晩注文したばかりなのに、早いな。さすが国家権力!
食材は氷堂家の台所や冷蔵庫に運び入れ、衣料品は新居に持って行く。
荷物は、注文した分が全部届いたわけではなかった。
また、伝票にサインを求められることも無く、いきなり玄関に放置だ。
検疫隔離の関係だろうか。
食品が一番に届いたのは、買い物には出られないからだろう。
衣料品は、おもに夏美と美保子がノリノリで注文したメイド服やゴスロリの服など、コスプレ関係の服だった。
「ちょっと二階を借りるわね」夏美と美保子が、異世界女子勢を連れて新居の二階、寝室と定めた一番広い部屋に上がる。
俺は荷物を運ばされたあと、一階で待たされた。椅子も何も無いので、フローリングの上に座る。
しばらくすると、ゾロゾロ降りてくる。
一番最初は、ファンシア王女だ。
夏美と美保子も降りてきたが、イーシャとアイラは階段の途中で待機しているようだ。
ファンシア王女は、メイド服を着ていた。
何故にメイド服? しかも裾の短い秋葉原のメイドのようなスタイルだ。
胸の谷間も思いっきり出ている。超ミニだし肌色が多い。
ニーハイソックスで『絶対領域』も色っぽい。
「あの、いかが……ですか?」恥ずかしそうにファンシア王女が尋ねた。
なんで王族が下働きの衣装かと思うけど、異世界でも英国メイドめいた衣装はあって、王女は「可愛いな、着てみたいな」と思っていたらしい。もちろん、立場上、そんな衣装を着ることは叶わなかった。
「とても似合ってるよ」俺が答えると、バラ色に頬を染めて、ファンシアはニッコリ笑った。
後ろから『ドヤァ!』と頭上にホログラフィを掲げたみたいな夏美が顔を出した。
俺はサムズアップ(親指を上に突き上げ)して、「GJ!」と言った。
美保子が、また悪い微笑みを浮かべたのは、ちょっと怖かったが。
続いて降りてきたのは、エルフのイーシャだ。
イーシャさん、旧スクとか、それは反則だ!
旧スクは、スレンダーで微乳の胸にはこのうえなく似合う。
恥ずかしそうに、イーシャは胸と股間を手で隠しながらも、自分を見て欲しいと前に出る。
股間に手を置く少女の姿というのは、萌える。エロくていい!
「どう……かな?」
見られたいのか恥ずかしいのか、どっちなんだよ!
「イーシャ、可愛いよ、凄くいい」俺がそう言うと、パーっと嬉しそうな顔をして、隠していた手を離すイーシャ。
手を後ろに組んで胸を張るどころか、反り返っている。
白い手足が白く美しい。イーシャの165㎝という身長もあり、モデルのような均整の撮れた身体を誇る。
ありがとな、イーシャ。
そして最後はアイラだ。
「これ、ゴスロリっていうんだって」
リボンやレースなど、装飾の多い黒いワンピースだ。
普段から、黒系の服を着ているので、パッと見の印象はあまり変わらないが、地味な服から華やかな服に代わり、現代的なネコ耳美幼女になった。
「アイラは、もうずっとその姿でいるのがいいよ」
「わかった、カズヒコがそう言うのなら、そうする」
俺は、アイラの頭をグシャグシャと撫で回した。
アイラは嬉しそうにキャッキャと笑う。
俺は子供が大好きだ。
本当にアイラには癒されるなぁ。
俺はもう、飛びかかって全身撫で回したくてたまらなかった。
だが獣人は、ネコ耳や尻尾をなかなか触らせてくれないのだ。
くそ~、自由に好きなところをモフモフしたい! したいよ~。
だが、俺の魂からの叫びは、口に出されることはなく、ぐっとこらえることしか出来なかった。
だからせめて頭だけは撫でまくるのだ。