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第五話 炎上なんて関係ない

第五話 炎上なんて関係ない



「MRIと言うのは面白かったですわね」ファンシア王女が言った。

「うるさかったですけど、人体の中身をあんな風に見ることが出来るなんて」

「ボク、魔法を使えばたぶん、同じように見れると思うな!」とイーシャ。

「透視の魔法か……。それは悪いところがわかるのか?」と俺が聞いたら、それはわからないらしい。

人体を輪切りのように関知出来たとしても、医術の経験が無いと臓器の状態までは理解できないようだ。


透視の魔法、俺も覚えられないかな。

女子の体の輪切りを知覚出来たら、ちょっと興味深いな。

と言うか、服を透過する視覚の魔法は無いだろうか?

妄想すると、ちょっとムラムラしてしまう。

新しい魔法の練習をしなくては!

目指せ、透視魔法!


「検尿や検便は、王家ではあった」とファンシア王女は言う。

さすが王家と言おうか、健康に万が一のことがあっては困るし、日々毒殺などの脅威にさらされているがゆえのことだろう。

異世界では、一般人においては予防医学はあまりなく、怪我をしたら回復魔法をかけてもらう程度だ。

病気はあるので、回復魔法も万全ではない。

怪我と違い、病気は回復魔法では完治しないのだ。


それにしても、検尿かぁ。

女子の尿もロマンがあるなぁ。

検尿カップに向けて尿をする女子の姿を思い浮かべると、たまらない気持ちにさせられる。

俺が検尿カップにするなら、女子にカップを持ってもらいたいなぁ。

マニアックな妄想が暴走して止まらない。

異世界女子勢に心を読む魔法がなくて良かった、と思ったら、

「カズヒコ、なんかえっちなこと考えてる顔だニャー」アイラに指摘された。

鋭い! 幼女のくせに鋭いぞ!

アイラの前では妄想は厳に慎もう。



 * * *



「ベッドはキングサイズというものを選んだけれど、この家にどうやって入れるのかなぁ」

俺たちは、今、旧伊東家改め新居に来ている。

壁のクロスが新しく張り替えてあり、清潔感があった。

「それは、分解して入れるんだよ」イーシャが言った。

「ああ、それもそうか」

「いざとなったら、私が分解します。大工さんの補助に、魔法を使うのです」

どうやら、イーシャは魔法を使って分解組み立てが出来るようだ。

力を使って支えたり、引きはがしたり、と言う事を魔法の力で行うらしい。


旧伊東家、広くてお金持ちだとは聞いていたけど、中に入ってみて実感した。

ホテルっぽいというか、三世帯が同居出来るくらいの設備だったのだ。

三階建ての最上階は、異世界女子勢にそれぞれ個室を振り分けることになった。それでも部屋は余る。

二階の一番大きな部屋が寝室となった。

その他に、俺の部屋も二階にふた部屋もらうことにする。トイレ、風呂などは各階にある。


一度三階まで登り、上から順々に見て回り、最後に一階に戻ってきた。


一階は、リビングの他に幾つか部屋がある。

そのうちのひと部屋を魔法工作用の実験室にあてることにした。

「色々実験してみたいな!」とイーシャ。

異世界とこちらの世界は、出来る事が違うだろう。

どれだけの違いがあるか、知りたいとイーシャは言う。


実験は、男のロマン、夢、あこがれだ。

実験室を作るのは大賛成だ。

俺もやってみたいことがあったりする。

まだ何も無く天井の高いフローリングだけの部屋を見ながら、俺はこれからの事に思いをはせた。



リビングに戻ってきて、ソファーをここに置こう、あそこには棚だ、などとあれこれ皆で話し合っている時……。

慌てた様子で夏美と美保子がやって来た。

美保子は、隔離期間中は隣の鳥越家にずっと泊まり込むことになっている。

「ちょっと氷堂君、ネットで大変な事になっているわよ!」メガネをクイッと上げて美保子が言った。

「え?」


俺は、夏美の持っていたタブレット端末を借りて、美保子の教えてくれたまとめサイトを見せてもらった。

「う~ん……」俺は声を漏らした。

サイトには、色々な動画や画像が貼ってある。

J-C●Mがオンエアした動画やキャプチャだけでなく、個人がSNSや投稿サイトにアップロードしたものだ。

ほとんどが異世界女子勢だが、俺が転移して来た時の動画なんかもあった。


白光と同時に爆煙が画面を覆い、それがイーシャの放った風で吹き払われると俺たちが現れた。

「おー!」自分の視点でない光景は、他人事めいて見えてカッコイイ。

何だか不思議な感じがする。


夏美、美保子もごく小さくだが静止画があった。

これだけでは、誰が誰だかよくわからないと思う。

とは言え、写真を載せられた本人にとっては、自分だと認識出来るのだし、重大な問題だ。

これは、現場にいた野次馬の誰かが携帯で撮影した写真なのだろう。

俺の写真はほんの少しで、エルフのイーシャと獣人幼女のアイラの写真が多かった。

エルフ耳やケモ耳で、異世界の住人だと一目で分かるからだろう。

その次がロックだ。


ファンシア王女の写真は意外に少なかった。

美人なのに、写真の数が多くないなんて……。

親しみやすく、かつ美しく華やかな容貌を持つファンシア王女。

少しだけ背が低いことがファンシアの悩みではあるが、それでも充分美人ではある。

だが、異世界らしさと言う面では他の二人ほど特徴的ではなかった。


ファンシア王女は、自分が注目されていないことにちょっと不満げだ。

逆に、王女に劣等感を持っているイーシャは、ファンシアより大きく取り上げられていることが嬉しいようだ。

表情には現さないようにしているようだが、頬に笑みがうっすら現れている。

イーシャだって、超絶美形で、スーパーモデルのようなすらりと高い上背を持つ少女である。

エルフ耳と相まって、耳目じもくを集めることは当然であった。

アイラは、ネット上のそれらをどう思っているかわからないが、自分の写真を見てうんうんとうなずいている。


「夏美、それに委員長、これは今は仕方が無いよ」

俺は、美保子のことをいつも委員長と呼んでいる。

「俺たちが日本で生きていく以上、ずっと世間から隠れて生きて行くことは出来ない。だったら最初は騒がれても、そのうちに慣れてもらい、受け入れてもらうしかないんだ」

「でも、私、カズ君がネットで色々言われるのは耐えられないよ」と、夏美が言う。


「だからと言って俺たちが騒いだら、余計に火種をまくだけだ。炎上したら放置するのが一番なんだ。それに今は『エルフキター!』とか『猫耳ガー!』とか騒いでいるのがほとんどだろ。様子を見ようよ」


「そうね、一理あるわね」美保子は冷静に言った。

「会見が必要なら政府から要請があるでしょう。それ以前に『ネットに降臨』なんて、インターネットへの書き込みは規制されてて出来ないと思うわ」

美保子は淡々と言葉を継ぐ。それもそうだ。電話や通信を規制するくらいだから、ネットも規制されてる可能性があった。

「わかった」夏美は、頬を膨らませ口を尖らせながら、しぶしぶ同意した。


ネットの事など放置しておけばいい。俺はそう思った。

異世界に転移したばかりの時の、孤独と絶望。

言葉が通じない、でも腹は空く。

どうしたらいいのかわからない、先の見えない不安。

そんな中で出会って行く事になった仲間達。

毎日が、命のやり取りの日々。ちょっとしたミスが生死を分ける世界。

そして、やっと実った転移の門への道。

帰還に向けた最後の戦い。


そうやって、苦労に苦労を重ねて帰ってこれた俺達からすれば、転移の時の写真や動画を撮られた程度の事など些細な問題なのだ。

かけがえのないパーティメンバーの、誰一人も欠けることなく同行出来た奇跡。

それ以上を望むのは、俺には贅沢なことのように思えた。


美保子はそんな俺を見て『なにもかも分かってるわ』と言ったような笑みを浮かべて、メガネをクイッと上げた。



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