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第3話 モード選択

 




「……はっ!」




 ふと、暖かな視線が自分に向いていることに気がついた。

 視線を上げると、溢れんばかりの笑みをたたえたセラフィさんが、そこにはいた。

 それは先ほどから変わらない、優しくそして生暖かい視線だった。




 ぎゃ、ぎゃああああああああああ!!!




「ち、違うんですセラフィさん!こ、これは……」



 必死に弁明しようにも、夢中で自分の胸を揉んでいた理由など容易には浮かばない。

 『良いんですよ』と言わんばかりの優しいセラフィさんの視線が、何よりも痛かった。

 ゲーム世界とはいえ、人前で自分の体を弄りまくるとか、どう見ても変態じゃないか。

 いきなりとんでもない失態を犯した事実に、俺は思わず頭を抱えて身悶えた。




「――では、もう一度再設定いたしますか?」

「……はい?」




 ふいに告げられたセラフィさんの言葉に、思わず俺は間の抜けた声をあげた。


 てか、再設定って一体何の話だ。

 『その胸は女性初心者のあなたにはまだ早くってよ』とでも言っているのだろうか?


 ……なるほどそうか、そういうことか。

 確かにセラフィさんも、今の俺に劣らないそれは立派なものをお持ちでらっしゃる。

 そして舞い上がっていた俺とは違い、静かに佇むその姿は実に自然で絵になっていた。

 そんなおっぱい十段である彼女が、俺にはまだ早いと言っているのだ。

 実際に言葉にはされていないが、きっと副音声ではそう言っているに違いない。

 彼女はただの女神ではなく、おっぱいソムリエまでこなすスーパー女神だったのだ。


 すみませんセラフィさん。どうやら俺、調子に乗ってたみたいです。

 謙虚な心を取り戻した俺は、早速身の丈にあったおっぱいに再設定しようと決心した。



「って、あれ。なんだこの項目?」



 すでに眼前に立ち上がっていた青い画面に目を移す。

 するとそこには、何故か先ほどとはまったく別の項目が並んでいた。



「えーと『上限』に『下限』、『清濁』『かすれ』『鼻のかかり』『アニメ補正』と……

 ……これ、明らかに胸の設定じゃないよな?」



 セラフィさんに疑惑の視線を送るが、彼女は相変わらず誘い受けの構えだ。

 そこでふと、俺の頭に新たな可能性がよぎった。



「あ、あのセラフィさん。聞いてなかったので……『もう一度説明お願いします』」



 その言葉で、不気味に俺を見守るばかりだったセラフィさんが、ようやく口を開いた。



「では次に、あなたの声の設定をいたします。

 それぞれのステータスを、スライドバーにて入力してください。

 なお、現在性別や体型、年齢よりおよそ予想されるデフォルトに設定されています」



 やっぱりな。俺の予想は正解だったようだ。

 どうやら俺は胸を揉むのに夢中で、新たな設定項目を華麗にスルーしていたらしい。

 そうか、次は声か。




「あ、あー、おおっ!?あーあ~。あ~~~~♪」




 うおおっ!本当だ。

 確かに今の俺は、本来の野太い声とはかけ離れた、高く澄んだ女の声に変わっていた。

 てか、ここまで声が変わってるのに気づかないとか、どれだけ動転してたんだよ俺……


 うーん。

 別に今のままでも悪いわけじゃないんだけど、微妙になんか違うんだよな。

 このままテンションあげると、結構キンキンしそうな声だし。

 俺的にはもっと落ち着いた、クールな感じの方が好みなのだ。もう少し弄るか。













「あ~~あ~~あ~~~~……」



 透明感を残しつつ、落ち着いた声色になるまで細かく調節していく。

 ちなみに『アニメ補正』を大きくすると、いわゆるアニメ声に近くなった。

 別にそういう声を否定するわけじゃないが、自分がそうなるのは何か違和感があったので今回は切らせてもらった。

 つーかデフォルトの設定で、何で『アニメ補正』が50%もかかってたんだよ。

 道理で妙にキンキンしてたわけだよ。設定した開発者って絶対オタクだろ。

 うーん、しかしこの作業。

 ほとんどボイスチェンジャーで遊んでる気分だ。



「んー、こんなもんかな?……ん、ん、コホン。私の名前はアマネ、よろしくね」



 適当な台詞を呟いて、どれだけ脳内イメージに近づいたか確かめる。

 少し声の高い変声期前の少年っぽくなったが、まあこんなもんだろう。

 これで設定完了っと。



「以上でパーソナルデータの編集は終了となります。

 では最後に、アマネ様のスタート地点を決定いたします」



 お、これが最後の設定項目っぽいな。

 つかスタート地点って固定じゃないのな。



「アマネ様のスタート地点は、現在『エブラーセン』神殿前に設定されています。

 このスタート地点は任意で変更することが可能ですが、変更しますか?」

「ん?変更って、例えばどのくらいまで許容範囲なんだ?」

「エルヴァース全土に点在する『女神の石像』の前であれば、どこからでも可能です」



 うは、それは予想以上の自由度だな。

 下手すりゃ最初の敵がラスボスでした、とかも出来るんじゃないか?



「なお、スタート地点によって難易度が変化する場合がございます。ご注意ください」

「ああ、今まさにそれを考えてたところだな。

 敵が強い所をスタート地点にすると、いきなり詰む可能性も有りそうだし」

「地域によっては、初期レベルでは倒せないモンスターも出現します。

 リスタートは最寄の女神像からとなるので、打開は困難を極めるでしょう。

 また、敵対国において、宿や消耗品にかかる代金は基本的に跳ね上がります。

 更に戦争中になると、それらサービスを受けられない事態も発生します。

 それらの点も十分ご留意の上、スタート地点を設定してください」



 うわ、マジか。

 敵対勢力の場合、例え安全な町の中でも平気でふっかけられるってことか。

 結構世知辛いんだな、ゲームなのに……



「ちなみに、さっきの『エブラーセン』ってのはどういう場所なんだ?」

「『エブラーセン』は妖精族の国『ミストランド』の中心に位置する主要都市です。

 アマネ様は妖精族に属しますので、サービス等も適正に受けられるでしょう」



 なるほど、エルフも妖精の一種なのね。



「じゃあ逆に、俺にとっての敵対国って、具体的にはどこになるんだ?」

「『ミストランド』は現在、『フォトン王国』と『カザブロッサ』を相手に敵対中です。

 『フォトン王国』はドワーフ、『カザブロッサ』は悪魔族がそれぞれ統治しています」



 エルフはドワーフと悪魔族がお嫌い。アマネ覚えた。

 ドワーフはそのまんまだからわかるけど、悪魔族って結構種類あるんだよな確か。

 そのまんまのデーモン種やサキュバス、オーガに吸血鬼なんかも悪魔族なんだっけ。

 このゲーム選べる種族がかなり多いから、相性まで覚えるのはかなり大変そうだな。



 ……とか言ってる間に、セラフィさんが再び誘い受けモードに入ってしまった。

 あれ、この状態でどうやればスタート地点の変更が出来るんだ?

 てっきり今まで通り、青い画面が立ち上がると思ってたのに。

 国の名前すらろくに覚えてないのに、ピンポイント指示とか難易度高すぎなんですが。



「えーと、せめて選択肢くらいは表示して欲しいんだけど、出来ないのか?」



 しかしこの言葉では、セラフィさんのお気に召さなかったらしい。

 彼女の鉄壁の笑顔は、残念ながら1ミリたりとも動く様子はなかった。

 どうも今の言葉にキーワードは含まれなかったようだ。

 うーん、確実なのは『もう一度』と言って設問の最初まで戻ることだろうけど。

 正直……すごく面倒くさいです。



 うん、確信した。

 このゲームのインターフェース、やっぱりどう考えても不便だよな。

 会話のログが残らないから、要点を拾い損なうといきなり会話が通じなくなるし。

 リアルさ追求かもしれないけど、NPCの性能追いついてないから単純に不親切だし。

 この辺、後でまとめてサポセンに送っとくか。

 せめて会話ログを確認できるシステムくらいは必須だと思うんだ。


 スタート地点は、もういいや。

 いきなり高難度プレイ始めるつもりもなかったし、この際デフォルトで問題ないだろ。



「んじゃ、スタート地点はそのまま変更なしでよろしく」

「かしこまりました。

 それではこれより、アマネ様を『エブラーセン』神殿前に転送いたします。

 心ゆくまで『アンリミテッドヴァース オンライン』の世界をお楽しみください」



 その言葉とともに、セラフィさんを含めた真っ白な景色が波を打つように歪んでゆく。

 うおぉ。この転送時の景色、某国民的RPGのワープエフェクトっぽいな。

 なんとなく無人島のほこらあたりに飛ばされそうだ。


 なんてどうでもいいことを考えていると、再びポーンと青い画面が立ち上がった。

 うん?なんだ、まだ設定項目が残っていたのか。どれどれ……




 ==========================================================




 『オンラインモード、もしくはオフラインモードを選択してください』


 ⇒オンライン

  オフライン




 ==========================================================




 ふは、オフラインモードって何だよ。オンラインゲームの意味がないじゃないか。

 あ、でも誰にも邪魔されずレベル上げとかしたい場合には都合がいいのか?

 とはいえ、MMOの魅力といったらやはり何よりも人と人との交流ですよ。

 一緒に狩りをし、時に助け合い、時に奪い合い(経験値やアイテムを)、寝落ち連中を生暖かく見守り、そうやって友情を育んでいくものですよ。

 まあ、このゲームの性質上、寝落ちが存在するかどうかはわからないけど。


 それに今日はこのゲームの発売日、つまりこのゲーム世界でも初日なわけで。

 おそらくゲーム世界の内部はすでにお祭り騒ぎが起こってるだろう。

 なんといっても発売前からあれだけ騒がれたゲームだしな。

 そんなおめでたい日に一人黙々オフラインモードとか、あまりに無粋というものだ。

 こんな選択肢、言っちゃ悪いが選ぶ以前の問題だろう。

 俺は選択画面を操作し、あっさりとウィンドウを閉じた。




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 大きく波打っていた白い風景に、徐々に色がついてゆく。

 おぼろげだった周囲の風景は、ゆっくりとその輪郭を取り戻していった。

 白く無機質だった硬い地面は、いつの間にか少し乾燥した黄土色の土に変わっていた。

 頬をなで、わずかに髪を揺らす空気が、周囲に茂った植物の存在を鼻腔へと知らせる。

 やがて波打つエフェクトは完全におさまり、ようやく世界が眼前にその全貌を現した。





『ようこそ、エルヴァースへ』








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