05 試作機への搭乗
冬休み明け、教室に入るとクラスのみんなが俺に話すことは「次はいつ?」ばかりで俺の返事は「日程は沃土に聞いて。飛ぶ魔法の手法についてなら話すよ」に決まっていた。
朝のホームルーム後に担任がついて来るように言って俺と沃土は校長室に連れていかれた。
担任が言うには校長に大学の権藤先生から俺たち2人を研究室に登録する旨の連絡があったそうだ。
そういえば高校が休みだったので許可申請は後にして、登録申請は先に出してあったんだった。
大学施設への仮入場許可書に2人だけ権藤研究室とかもついていた。
校長室には校長と教頭がいて、話を聞くために俺達を待っていた。
担任が俺達に話し出した。
「君たちについては研究室への登録は既にされているので高校の許可があれば大学に行けば高校は出席扱いになりますので許可申請を出してください。申請を出したら今日の午後から大学に行っても良いです。学校行事は学校のHPかクラスの掲示板に上げるので忘れずに見て下さいね。週に一度は朝のホームルームに出て下さい。それで何があったんですか、魔法で遊んでいる動画は見たんですが、誰もそれ以上は話さないんですよ。主導者は君達ですよね。権藤教授は何も言わないし」
「あの~機密保持契約とかがあって話すと研究もできなくなるし、大学にも行けなくなるんですよ。クラスの実験仲間は、全員そうだから退学者を出したくなければ聞かない方が良いです。権藤教授から許可がないと話せないし、あまり探って下手な話を聞き出すと先生も学校に居られなくなります。権藤教授に確認を取ってみて下さい。これ以上は言えません」と沃土が答えた。
「でも理由も分からないのに許可は出しにくいでしょう?」
「先生が知りたいのは理由ではなくて研究の内容でしょう?理由は大学に行って研究するからなんですから。動画を見る限り、遊んでいるみたいで個人的に納得できないだけでしょう?違いますか?」
「でも遊んでいるようにしか見えないよ。納得できないじゃないか」
「でも先生の仕事は許可申請に手続き上の不備があるかどうかを確認することで研究内容を知る事でも研究内容に納得することでもないです。この場合だと職務権限を拡大解釈して機密情報を探ろうとしていたと後で言われても言い訳は出来ませんよ」
「そんな大げさな。君たち高校生だよ」
「私が高校生かどうかは関係ないと思いますが……私では説得できそうにありませんので午後から大学に一緒に言って権藤教授と話してください。少なくとも権藤教授は大げさだとは思っていないことが分かります。校長先生と教頭先生も同行してください。これから先、私たちと同じようなことがいくらでもありますよ。そのたびに先生と生徒が揉めるのは面倒ですよね。一度、ご自分で確認した方が良いです」
俺は『まぁ、遊んでいるようにしか見えないな、遊んでいるし。でも遊んでいるだけではないのだよ』とか『沃土はよくこんな言葉が出てくるよな』とか『担任は高校生を子ども扱いして舐めてるよな』とか思いながら話を聞いていた。
午後は校長と教頭が2人ともいなくなるのは問題なので、校長と担任と俺達で大学に行った。
大学の研究棟は仮登録証では校長と担任が入れないので受付に行って権藤先生を呼んで待ち、権藤先生と一緒に研究棟に入り応接室に案内された。
権藤先生に校長と担任を紹介して、許可申請の際に納得されないので同行して貰った旨を伝えた。
権藤先生には予め沃土が伝えてあったので挨拶もそこそこにして話し合いを始めた。
「沃土君から大体は伺っています。今後のために説明します。今回のように許可申請に研究の機密に絡んで理由を詳しく書いていない場合はそのまま通すか納得できなければ生徒ではなく研究責任者の教授にお尋ねください。機密内容については話せませんが、研究についての保証はします。そうだな、今回は申請書に添付書類として私の記名と捺印して提出しましょう。えーと、神尾 修、神尾沃土の研究内容については教授 権藤 聖人が保証する。それと捺印。はい、これを提出します。今後は許可申請に保証人の欄を設けると楽かな。そこに記名と捺印があれば理由についての詳細な内容は生徒には聞いてはいけません。『先生が生徒に立場を利用して情報の漏洩を強要した』と訴えられる可能性があります」
「そんな。大げさな」
「全然大げさな話ではありません。あの日以来、人は魔法を使えるようになりました。そして魔法の専門家は、まだ地球のどこにも存在しないのですよ。神様情報にある魔法に関しては解析すれば誰でも引き出せます。でも古代人には科学の知識も技術も殆どなかったのですよ。魔法と科学技術は利用すれば互いにどんな発展をするか分からない状況にあるんです。それで成体であれば誰がどんな魔法を生み出すか分からない。過去に人が累積した知識は神様情報にありますから興味があれば中学生でも引き出し可能です。確かに専門知識がある方が専門に関することへの魔法の応用は進むでしょう。でもその分あの日以前の常識に囚われていて無意識のうちに出来ないと思い込んでいることも多いんです。魔法を使えば出来ることでも以前の常識で出来ないと思い込んでいる。あるいは魔法を使えば出来ることを簡単に行くはずがないと後回しにしたりすることもあるでしょう。でも、中学生や高校生にはまだその常識が付いていないそれで何を生み出すか分からないのです。今後、修君や沃土君のような例は増えると思います。彼らは世界で初めての魔法の専門家に成り得る存在なのです。教師ならその手助けをして上げて下さい。私はそうするつもりです」
「まだ話を聞いても納得できませんがすぐにこれが当たり前に成り得ることは分かりました。許可申請は受理します。近藤先生いいですね」
「分かりました。クラスの他の全員分をグループ申請として受け付けるので保証をお願いします」
「今後、このようなことが増えるのであれば高校だけではなく学校法人全体として取り決めをしないといけませんね。高校の校長としては大学の研究室への登録でも、必要あるのか疑問だったのですがね」
「あの日以前とあの日以後は違うことを学校全体で周知しないといけません。世界全体がこの流れに沿って動きます。流れに乗り損ねたり、乗る流れを間違えると大変でしょうね」
校長と担任はまだ納得できていない様ではあったが高校に戻った、手続き上問題がなく大学側の保証があれば良しとすることに決めたようだ。
「少し揉めたけど明日からは全員で来れそうだな。今日は浪人生と無職の人と他高の1人とうちの研究室の学生3人が実験しているから寄っていきなさい。他の2人は高校の許可が取れなくて私が今交渉中だ。これ以上揉めるなら転校して貰おうかと思っている。メーカーとの仮契約も済んでいるし、親御さんの方は何とかなる。そうなったら親御さんとあの校長との話し合いだな。何とか囲み込もうとしているところだ。浪人生はうちの大学に入れるとして、無職の人はメーカーと要相談だな。高校3年の彼は入試自体がごたついているからなぁ、うちの大学に引っ張れると思うけど、まぁ、何とかするさ」
俺たちは実験に混ざって遊んでから、夕方のミーティングに参加した。
メーカーの人から人が中に入るボールの3Dモデル画像を見せてもらった。
以前に俺が考えてメーカーの人と話し合って仕様を決めたボールだ。
設計は終わっていて、1月末にはミニチュアモデルが出来るらしい。
それで行けそうなら評価試作がGOになって実物大の形状確認試作品が出来て、3月末には実物大の実験評価用の試作機が出来るのでメーカーに行って動作確認をすることになる。
それまでは今のままの実験と1月末に出来るミニチュアモデルを魔法で飛ばして、魔法の手法を色々編み出して、その様々な手法を使って3月末に動作確認することになる。
実験評価用の試作機は初期が10台でその内の3台が大学の研究室に割り当てられる。
外側のボールは余分に作り、内側の機械がない物についても今まで通り人が入って実験できるようにする。
実験は当面はメーカーの施設で行うため、俺たちは順番に通うことになる。
残留者は大学でそれまでの実験を続けて行い、新しい魔法の考案を行う。
内外へは動作確認で今程度のレベルの操作が出来ればすぐに動画をUPして公表する。
製品化の時期については安全確認等が必要なので耐久評価の経過を踏まえて決定する。
予定は1年後だが前倒しの可能性が高い。
屋外、屋内での遊び方も思いついたら提案歓迎で今まで提案で上がったのは実験のように屋内にて数個のボールを用意して敵味方に分かれて敵を特定の場所に追い込むとか魔法を駆使して飛び方を楽しむとか、3D迷路を作って出るスピードを競うとかそんなところだ。
屋外だと広い場所が必要で草原や水面で飛んだり滑ったり転がったりすることや、あと飛ぶのではないけど密閉タイプの物を作れば水に潜ったりすることもできる。
飛ぶと魔法が切れたときに落ちるので高さ制限が必要、ボールの強度は上がるけど人は限度がある。
水に潜っても魔法が切れれば浮き上がるので深く潜らなければ安全かな?
とそこら辺りを注意すれば魔法を使ってこのボールでいろいろ遊べる。
そうして高校2年生の3学期は大学に行って実験して遊んで、メーカに行って実験して遊んで、高校に行って期末試験を受けて終わった。
春休み、メーカーの施設で評価モデルに搭乗して魔法で動かしてみた。
初乗りの具合はなかなかいい感じだ。
少し揺れるような感じはするけどスムーズに動ける。
転がったり、少し打つかったりするぐらいでは問題ない。
メーカーでも予め中の錘やスプリングなんかで調整して搭乗して試しているので当たり前だ。
勢いをつけて回転したり壁に打つけてみたりすると姿勢がかなり崩れる。
宙返りみたいに動いたら中の機械が回転してぐるぐる回った。
これは仕方がないこれ以上姿勢を安定させるには中に重い独楽をつけて回転させないと無理だ。
ただスペースが取られるのでこれは次の課題だ。
使い方を限定すればこれはこれで充分楽しめるし、使い慣れればさらに楽しめるだろう。
春休みの間はこれらの評価モデルを用いて色々魔法を試して遊んだ。
どちらも魔法で動かしているけどボールだけの方が自分で動いている感じが強く、機械付の方は乗り物に乗っている感じだ。
どちらもそれなりに楽しめる。
それと初乗りでは気が付かなかったけど、機械付の方は魔法を内側の機械にかけて飛ぶか外側のボールにかけて飛ぶかで感じが全然違っていた。
初乗りの時は、余り深く考えずにそれまで通りボールに魔法をかけて動かしていたけど機械にかけた方が俺は動かし易かった。
これもどちらもそれなりに楽しめる。
そして春休みが終り4月に入ると高校3年である。