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36 転移陣

新年度に成ってやっと好きに研究が出来る環境に成った。

私は魔法研究者としては能力不足で自衛官による特別研修を受けた4人を呼んでどの程度魔法が使える様になったか確認した。

研修のレポートやら結果報告は回ってきて読んだが自分の目で確認しないと安心できないからな。

魔法学部の学生とは思えないほど使えなかった4人が底上げ研修でどの程度に成ったのか。

確認したが今年の4月に開講した魔法技術習得の専門講座の初級・中級・上級の上級を始めたぐらいのレベルには成っている。

これなら講座の上級を修めれば何とか使えるし、指導を受けながらであれば研究も開始できるであろう。

時間を掛けないと駄目な類の修練は半ばだけど何とかなりそうだ。


「君達何とか使える様になったね。これなら魔法技術習得の専門講座の上級を修めれば4期生に間に合いそうだ。だから受講すれば修了だな。それにしてもよく半年でここまで底上げできたもんだ。自衛隊の教官は優秀だな。特にダメダメだった2人はよく付いて行けたね。最悪脱落するかなと思っていたが」


「そんなに駄目でしたか?」


「駄目だったね。2人は脳の使い分けすら出来ていなかった。今なら生体魔法回路への魔法の組込も始めれそうだ。何とか間に合ったね」


「生体魔法回路への魔法の組込?ですか?生体魔法回路は知っていますが魔法の組込は聞いたことが有りません」


「去年から魔法学部の研究室に所属と成った学生が修得する事を許可された秘匿技術だ。国家機密でまだ一般公開はされていないから君達が他の人に教えたら捕まるから注意する様に。魔法研究者と一部の公務員にしかまだ公開されていない」


「どんな技術なんでしょう?」


「魔法の常時発動に関する技術だ。魔法は使い続けると脳が疲れて停止するだろう?それが起きない様にする技術だ。研究室で個別に教える事になっているから君達には私が教える。一寸前まで学生には教授出来なかったんだよ。魔法研究者には必須だと政府関係者に認めさせたんだ。君達は運が良い」


「はあ、そうですか」


「君達は詰め込まれるばかりだったから常時発動に有難みとか実感が無いんだな。これから魔法を研究して修得していけば分かるからね。特に駄目だった2人。君達、楽できると思って頼んで共同研究者に加えて貰ったんだろう?」


「えーと、どうなりますか?所属は取り消しとか」


「別に処分とかは無いよ。友人同士で組むのは問題ない。まぁ、そんな事は君達が研究に使える人材ならどうでも良かったんだ。だけど見事に使えなかったからなぁ。研究で楽をしたいならこの研究テーマでは無理だと思うから変えた方が良い」


「今からでも変えられるんですか?」


「幸い力も付いたし山南さんか菅野さんの所に移って地味な研究をした方が良い。それなりに発見はあるし魔法研究を支える立派な研究だ。コツコツとデータを集めて分類してを繰り返す。魔法の基礎となる法則を見出したりする研究だ。対象を絞り込めば楽と言えば楽だな」


「今の研究とどう違うんでしょう?移った方が良いと思いますか?」


「私が遣っているのは主に魔法の開発とか応用研究だからね。まぁ、向き不向きが有って何とも言えないけど移るかどうか決めるのは君達だ。言えるのは研究者を続けたいならどんな研究でも楽しいと思う事が無いなら止めた方が良い。楽と楽しいは漢字は同じだけど日本語の意味は違うからね」


「考えさせて下さい」


「移るのなら新しいテーマを考えて提出しないと駄目だよ。山南さんと菅野さんには紹介するから一度研究内容とか聞いてくるかい?自分に合いそうだったらその研究に沿ったテーマを提出して移れば良い。山南さんも菅野さんもテーマの一つや二つは抱えていると思うからそれに沿ったテーマぐらいは一緒に考えてくれると思うよ。普通は仮所属でそうやってテーマを出すんだから問題はない」


「宜しくお願いします」


「じゃあ、今から直ぐに行こう。残った矢代君と城君は今日は取り敢えずもう良いから。そうだ4人とも上級の講義は修了しないと駄目だよ。権藤先生は今年入った学生には必須にしたから後輩はみんな出来るようになるし、早い奴は高校の頃から出入りして単位を取るからね。来年になって最低限出来ないと恥ずかしい目に合う。早い奴は1期目から研究室に所属して研究を始めるからさ」


2人を山南さんと菅野さんに紹介したんだけど1人は戻って来た。

如何にも合わなかった様で2日後には研究室に来て報告があった。

もう1人は新しい研究テーマを提出して正式に移っていった。




月一の会議で式神の利用については自衛隊の研究所で着々と研究が進んでいる事が分かっていた。

この半年で大分出遅れた感が出ているが仕方がない、式神を使える研究者が研究テーマを出した4人の中に居なかったのだから。

私がいれば研究はそれなりに進んだろうけどそれでは意味が無いからな。

学生の3人には使い熟した魔法を少しづつ生体魔法回路に組み込むのと併行して式神を作成させる。

研究テーマに合わせて色々な条件を魔法回路に組み込んで魔法回路を自立させたら式神は完成だ。


もし考えたような式神に成らなかったら繋がりを断てばどこかの魔素生命に吸収されて終わりだ。

そのままにしておけば出来損ないの式神は個人情報を蓄えて子孫に受け継がれる事になる。

普通の式神も放置するとそうなるが普通は術者が式神に命令して子供との繋がりを断たせる。

そして術者は式神を弟子の一人に継がせるか子孫の誰かに継がせる。

代々引き継がれた式神は故人の情報が蓄積して運用方法とか失敗経験とかが残る。


自衛隊では組織的運用として3交代以上で運用する事を検討中で1つの式神を引き継ぎながら数人で運用する事でどの様な形態が効率が良いのかの検証中である。

1つの式神に対し術者が最低2人常時接続して引き継ぎながら交代して24時間フル運用する。

戦闘員は戦闘中は常時接続で通常任務時は交代でローテーションに従い接続と遮断を繰り返す。

1人1人の負荷を減らす事となるべく個人情報を集積しない様に考慮している。

あまり無理な運用をして潰れると費用が無駄に成るので戦闘以外の負荷を減らす様にしているのだ。

まだ半年なのに良くここまで研究が進んだものだ。

ただ何回も演習して実証試験をして訓練して最終的に採用されるのは当分先だ。

バリアとシェルターなんかは歩兵の生存率にてきめんに反映されるのですぐに採用されたが組織的運用とかは未だにアイデアが続出して検証している。


魔法の組織的運用は集団行動のノウハウが蓄積した組織でないと検証が困難だし、式神のこんな使い方をするのは軍隊ぐらいなので普通の大学の研究には向かない。

構想を練って共同研究にして進める方法もあるけどあまり気が進まない。

それで学生の3人が研究するのは精々5人のチームを式神を使って上手く運用する方法だ。

研究中に何か思いついたら次の研究のネタにすれば良い。

そう言った訳で3人の学生にはデータボックス・アイテムボックス・生命エネルギーの強化魔法・リミッター解除の魔法の魔法回路をひと月置きに生体魔法回路に組み込み馴染ませるのと併行して式神の作成を行った。

3人それぞれに式神の仕様を検討させて仕様書を作成し、仕様書に基づいたイメージで魔法回路を作成して自立させる事で式神とする。

これでやっと研究を開始する条件が揃ったので以前に遣った実験の復習をそれぞれ順番に遣らせた。


「これでやっと提出した研究テーマに沿った研究が自分達だけで出来る様になったねぇ。随分出遅れたけど能力が無かったんだから仕方がない。自衛隊の方は部隊運用とか組織運用とかの研究を進めているから君達は少人数での活用を研究すると良いよ。じゃあ研究を進めなさい」


「えーと、どう進めればいいんですか?」


「研究テーマに沿った研究を進めればいいんだよ。式神を使って何が出来そうかそのためにはどうしたら良いか考えて実験して検証するんだよ。そうだな、まずは初めに遣った研究の再検証をしなさい。以前は自分達では何もできなかったから私の式神を使って検証しただろう。自分で実際に行うと色々考えるから新たなアイデアも出るんじゃないかな」


「分かりました。その後はどうしたら良いですか?」


「後は今年度は好きにして良いから自由に遣りなさい。行き詰ったら相談に乗るから。君達は自分の式神を作成して持っているんだから色々試したら良い。何か別に良いアイデアを思いついたらテーマは修正しても良いからね。研究の経過報告はレポートにして提出する事」


3人の学生については暫く様子を見て駄目だったら一緒に考える事にした。

後は転移魔法とバリアとシェルターを教授して生体魔法回路に組み込めば安全確保も修了だな。

以前私達が警護されていた頃とは違って最近は個人を警護するような事は無く成って来た。

既に来日するような観光客は見無くなって久しいし、日本人が海外旅行へ行く余裕も海外旅行を安全に出来る環境でも無くなっている。

来日するのは仕事で来る人々だけだ、だから増える一方の魔法使いを直接警護するより来日した者を監視した方が効率が良いと言うか警護を増やし始めたら切りがない状況だ。

それでバリアやシェルターの発明もあり魔法使いは個々に身を守るのが当たり前に成りつつあるのだ。

対応は個々の大学に任されているけど個人で身を守れるようにある程度以上の知識を持った研究者等の魔法使いには逃走用や守護用の魔法を修得させる事を義務付けている。

権藤研究室の学生については私と沃土が教授して修得させることになっていた。

全研究員には既に教授済みだから2人だけで遣る事も無い様に思うのだが一番下っ端だから仕方がない。


式神についての3人の進展具合は………見事に停滞中だな。

私は少人数での活用だと「義兄弟の契り」「師弟の絆」「奥義伝授」等の変なのや登山パーティー等の少人数編成での統率への活用、集団教練の評価用、団体競技の統率用、その他の私が面白いなと思いついたものは月1の防衛省での会議で出してもう自衛隊が遣っているんだ。

少人数での活用だから何か思い付くと考えていたけどなかなか思い付かないもんだ。

3人が何も思い付かなかったら変なのでも良いからとにかく研究させよう。

研究中に何か思い付くかもしれないし………








今、私が主に研究しているテーマの一つは『転移における転移先の認識について』で院生の川上君に指示して中心になって色々動いて貰っている。

転移の際に転移先を認識していないと転移が発動しない訳だが今までは一度行って場所を認識しないといけないとなっていた。

その場所の認識と言うのが如何言ったものかは分かってはいなかった。

そこで私と川上君で色々と考えて川上君のチームで実験し調査した結果、場所では無くて特定の物を無意識のうちに転移ポイントと定めて転移先の基準としている事が分かった。


術者が転移ポイントと定めた物を標的にしてそこに向かって転移するのでその物が移動すれば転移先も移動するし、その物が破壊されたりすると魔法が発動せずに転移失敗となる。

そして術者が転移ポイントをどの様な基準で定めているかは未確認だが調査結果から傾向が掴めた。

此処から先の研究は色々派生する訳だけど転移ポイントの選定基準を知る事の研究とは別に無意識に行われている転移ポイントの選定を意識的に出来ないかと試行錯誤した結果、転移陣の開発に成功した。

権藤研究室で確認した限りはこの転移陣を意識的に転移ポイントとする事に成功して検証済みだ。

これで転移陣を設置すれば移動体の中にでも転移出来る。


今迄はこの転移先の認識が如何言ったものか分かっていなかったので移動体への転移は上手く行かなかったのだ。

例えば自動車の車内を転移先とした場合、以前は無意識で転移ポイントを定めていたのでどこに転移するかは分からなかった。

ある者は車内に転移するしある者は自動車のあった場所に転移する。

これでは移動中の艦船とかを転移先にするのは危険なので禁止されていた。

でも転移陣の開発で潜水艦の中に転移する事も解禁となる。

経験的に潜水艦内への転移に問題のない事は分かっていたが今迄は危険なので禁止されていたのだ。


転移陣が開発されてみるとリンクに式神も使い魔も必要はないなとなって術者のレベルも下げることが出来る筈だ。

今迄は式神か使い魔を通してリンク先が認識できないとリンクも通信も不可能だったのが転移陣を設置するだけで式神も使い魔も不要となる。

式神の術者は式神を維持して管理するだけで良いので負担も軽くなり、通信担当の術者は転移陣に向けたゲートを通信に対して開くだけなので式神は必要ない。

私の様に一通り熟せる人は必要なくなり役割分担で同程度の事が可能になったのだ。

これで術者に対する要求水準が下げれるので人員養成もずっと楽に成る筈だ。


月1の防衛省での会議で川上君に皆さんの前で彼の研究成果を発表して貰った結果、川上君は3ヶ月程自衛隊の研究所に行く事になった。

「行かないと駄目ですかね。まだ遣ることが有るんですが」


「行った方が良いと思うよ。行かないと代わる代わる押しかけて来ると思うんだ。派閥とかが有って面倒なんだよ。向こうに行って一気に教えれるだけ教えてきた方が良い。その方が面倒が少ない」


「転移ポイントの選定基準について研究を進めたいんですが」


「研究は私が学生をフォローするから何か特別に遣りたいことが有れば言って。修士論文は今迄の成果で充分書ける」


「でも3ヶ月も時間が盗られるんですよ」


「私も2年間向こうで遣って来たから3ヶ月なんて直ぐだよ。以前と違って時間が空いたら転移して研究室に顔を出せるし休日も転移して戻って良い。あまり問題はないと思うな。以前は転移禁止で学校へも出入り禁止だったんだよ」


「転移禁止と学校へ出入り禁止ですか?それは嫌だな」


「国家機密とかで修士課程の2年間は沃土と2人で隔離されて放置状態だったんだよ。まぁ、好き勝手出来て長距離転移もバリアもあそこで開発したんだけどさ。気分的には良くなかった。行き来もできる3ヶ月なんてすぐ終わるよ。転移陣も今の所は国家機密扱いだから仕方がない」


「国家機密ですか。面倒ですね」


「今更遅いけど面倒と思うなら私に師事なんかせずに山南さんの下で研究をするべきだったかな。あっちだったら学界に引っ張り出される事はあっても防衛省とかは無かった筈だから」


「国家機密とかが面倒なだけで研究が嫌な訳ではありません。そんな基準で研究は選びませんよ。楽がしたい訳ではありませんからね。楽か楽しいかの選択なら楽しいを取ります。今の研究は楽しいですからね」


「そうだね。私もそうしてきた。まっ、我慢して3ヶ月行って来なさいな。転移陣の小型化だったか3ヶ月で限を付けて戻って来なさい」


「成果が無くても戻ります。良いですね」


「それで良いよ。今のままで要求水準は満たしている筈だ。実験用の転移陣が大きいから設置場所に困っているだけだろう。それは転移ポイントの選定基準について研究が進めば対応出来ると思うんだよ」


「それならばこちらで研究をしていた方が良いんじゃないですか?」


「向こうは研究者はともかく現場では小さな転移陣が早く欲しいんだよ。目的が違うんだから仕方がないよ。君は研究の結果として転移陣が小さく出来てもそれは研究の成果ではあるけど目的ではない。君の研究は転移陣を小さくする事ではないからね。我慢して3ヶ月行って来なさい」


「学生のフォローを宜しくお願いします」


「そうだ、転移陣の小型化については式神で行き詰まっている3人組に少し考えさせよう。何か良いアイデアが出たら直ぐに連絡するよ」

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