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35 式神の使い方

沃土と他の研究者達が魔法学界で魔素について発表しているがそれらを大まかに纏めると、

魔素は虚数世界を漂う虚数世界の根源粒子で物力世界の人が感じ取れるのはその影でしかない。

2つの世界は互いに直接干渉する事は無く重なって存在していて互いに影響を受けている。

虚数世界で何を意味するかは分からないが物力世界の影響で魔素は虚数世界を循環している。

物力世界の影響で魔素の流れが出来ていて、魔素の流れを利用して魔法は発動する。

物理法則すら魔素の流れの影響を受けて変動している可能性があって人が不変と考えている法則も物力世界から見れば世界の一瞬の揺らぎでしかないのかもしれない。


科学技術の産物が物理法則を利用する技術の集積であるように魔法は魔素の流れを利用する技術の集積である。

『もしこれらが一瞬の揺らぎの上に構築されたものならいつ崩壊するか分からない』とか考えていたのだが沃土曰く「人から見たら膨大な時間の内なので心配しても意味が無い」そうだ。

急激に変化したら対処の仕様が無く、当事者達が如何にかするしかない。

徐々に変化したら気付かずに適応している筈だから問題ない。

文書に残して置けば後々の科学者の役に立つかなぐらいの話だそうな。

仮に水の凝固点が10度に沸点が50度に成るとして急激な変化なら絶滅の可能性大だし、億年単位の徐々な変化なら人も適応して別種に進化している筈だ。

どちらにせよ今の人が絶滅するのには変わりないし事前に対処できる様な類でもない。

人は今を生きるしかないのだ。


沃土は論文も魔素についてとか虚数世界についてとか提出していて博士論文もその類なのだが俺はバリアとシェルターについて博士論文を書いている。

俺は常々ゲートやバリアの研究に沃土を巻き込んで悪いなと思っていて口に出したんだが、沃土の方は自分の研究のデータ収集のためなので巻き込まれるのはウェルカムなんだそうな。

研究のデータ収集のために色々な研究室に伝手を作っていて実験の手伝いも理論の補間に重要みたいで何も問題にしていない。

新しい魔法も次々に覚えられるし一石二鳥なんだそうな。

傍からは俺が沃土を良い様に使っている様に見えて実際に他の研究者に言われた事もあるが本人は全然気にしていない。

そう言えば権藤先生には一言もその類の事を言われた事は無いな。








権藤研究室に仮所属と成っている学生たちを週一で集めて会合を開き、特定の魔法を課題に与えて新しい使い方や応用方法を考えて貰う事にしている。

その場ではなにも思いつかなくても研究中にふと思い出して研究への応用に繋がるかもしれないし、その場の1人の思い付きが何人かの頭で揉まれる内に使えるものに成るかも知れない。

今迄俺が開発した魔法も既存の魔法の応用から新しい魔法に展開となった事も多いから上手くすれば次の研究のネタになる。

転移魔法もアイテムボックスの亜空間を使えばと考えて今に至る訳だし、バリアも転移魔法の研究過程で考え出された亜空間の膜を発展させたものだ。

今ではどの魔法も裾野が拡がり色々な分野への応用が考えだされて特許が成立している。

アイテムボックスですら物流や清掃関係で応用特許が目白押しである。

そんな中からまた新しい魔法が出て来るのだ。


それである日の会合で式神を課題に与えて考えて貰う事にした。

式神はマイナーな魔法なので如何いったものか説明する所から始める。

式神は魔素生命の一種で能力を限定して術者本人にしか繋がらない様にしてあり主に諜報活動に使われている。

国の魔素生命と同じ様にどこにでも現れることが出来るのを利用して調べたい地に送ってその地の情報を術者に伝える。

式神の情報は魔素の情報なので解析に熟練と手間が必要でこのため使用者が少ない。


「術者本人にしか繋がらない様にしてありとありますが術者の許可が有れば繋がることが出来るのですか?それとも術者限定ですか?」


「それはどちらでもだね。式神の魔法回路を作成する時に決めた様になる」


「許可が有れば繋がれるタイプのものも作成可能なんですね。でもそれだと普通に魔素生命に成ってしまいませんか?」


「能力を限定しとある様に規模が拡大しない様に回路に組み込んであるし術者を上位者として命令を聞く様にしてある」


「術者が死んだらどうなりますか?」


「そのまま存在し続けるんだよ。滅亡した種の魔素生命と同じだね。あるいは優位にある魔素生命に飲み込まれて統合かな。因みにどのような条件下で飲み込まれて統合するかはまだ分かっていない。飲み込まれて統合する事実が分かっているだけだ。興味が有るなら研究テーマにしても良いよ。その場合は沃土の下に就いた方が良いな。この研究テーマは何人もの研究者が研究中だ」


「話を戻しますけど術者の許可が有れば式神に繋げられるなら、チームの全員に式神に繋がって貰えば術者がチームを管理出来ます」


「ああ、それは面白いね。色々応用出来そうだ。私の知る限り研究している人はいない。調べてみるか。思い付いた君は……矢代君だっけ。考えを纏めて研究テーマとして提案書を権藤先生に提出しておいて。採用されたら仮所属から正式に所属に成るから真剣に書いてね。いいなぁ。これはいいよ。一寸色々回ってくるから今日はこれで解散だ。他の人もこれに関連して思い付くことが有ったら矢代君に伝えて盛り込んで共同提案にして良いから宜しくね」


早速に転移してシイャン師匠に相談して、この使い方に問題は無いか聞いてみた。

聞いたところでは狩りに利用する人もいたけどあまり使われていない方法だそうで使う事自体は問題ないみたいだ。

式神の特許を調べたけどマイナーな魔法のせいか殆ど出ていないこれなら行けそうだ。


「矢代君。式神の件は提出した?」


「今書いている所です。共同提案者として2人追加しますけど問題ないですか?」


「問題ないから早く提出してね。このテーマは採用するから。研究チーム発足だ。君達は式神の作り方は当然知らないよね。知らないと話にならないんで明日から教授するから早く習得する様に。今から権藤先生と話して来るから提案書は今日中に提出して」


権藤先生に週一の会合で学生が思い付いた式神の利用方法について簡単に説明して研究テーマとして採用する方向で進めている事を話した。


「私が思い付いただけでも色々応用できます。例えば術者を管理として本部に置いて潜水艦の乗務員全員に式神と繋がって貰えば潜水艦の状況が逐次分かります。式神と繋がっている間は小さな群れの仲間との意識に成るので纏め易くなります。私が研究中の式神を利用しての転移が可能なら通信チップの遣り取りが可能に成ります。今は通信のために使い魔を飼育して乗せているのでは?任務修了の度に式神との繋がりは外せば問題ない筈です」


「あぁ、また忙しくなりそうだね。来週の会議には間に合いそうにないから根回しだけにしておこう。あまり具体的な話はしない様に注意してね。君の式神の研究で通信に使えそうならそのぐらいは検証して出しても良いな。新しいテーマについては仄めかす程度で終わらせよう」


「シイャン師匠に確認したら狩りには使っていたようですからこの研究に問題はないと思いますよ」


「防衛省は式神は諜報に使っていてそんなにたくさんの術者を養成していない筈だ。これが成功するようならそんなレベルでは済まなくなる。これから大変だな。学生たちの安全確保も宜しくね」


「最低でも生体魔法回路にバリアを組み込んで常時発動出来ないと不味いですよね。自衛隊に協力して貰いましょう。教育カリキュラムは充実しているから短期で済みそうです」


「では来月の発表に向けて学生に準備させて、まずは君の式神で色々試してみよう。学生達の式神が出来たら研究は学生達に任せて君は通常業務に戻りなさい。論文を優先だよ。面白そうだけどね」


「時々様子を見るだけにしますよ。レポート等は回しますからそちらでもチェックお願いします。いざと成ったら論文は少し位遅らせても良い筈です」


「論文がこれ以上遅れるのは駄目だ。早目に書き上げて次の研究に専念した方が良い」


「分かりました何とかします」


次の日に成ると3人の予定が4人に増えていた。

まず4人がどの程度魔法を使えるか確認したのだが、魔法学部を目指すにしては水準が低い。

理論研究だけなら何とか成るかも知れないけど権藤研究室は実践もある程度出来ないと実験に使えない。

特に俺と沃土の下では無理だ。

山南さんの下でもこれでは使えないだろう。

来週の会議は根回しだけだ、これをどうにかしないと進まない。


「君達の魔法熟練度は想定よりも低い。式神の教授を始めるのは無理だな。取り敢えず君達の研究テーマについての構想を1ヶ月後に防衛省の会議で発表するから構想を纏めておいて。発表は矢代君にして貰おうか。私が構想に基づいた式神の実演をするから。ここまでで質問は?」


「研究テーマについて構想を纏めて発表すのは分かりましたけどあまり自信が有りません」


「それは私が実演しながら補佐するから問題ない」


「発表もして頂く訳にはいけませんか?」


「それは駄目だな。君の研究だから君の仕事だ。共同研究者3人の誰かと代わるのなら問題ないから嫌なら代わって貰って。向き不向きもあるからな。でも研究者なら何れは遣る事になるよ。早いうちに体験しておいた方が良いと思うよ。他に質問は?」


「魔法熟練度の話が出ましたがどの程度熟練すれば良いんですか?」


「想定していたのはデータボックスを常時使用して飛べる事とデータボックスを常時使用してアイテムボックスから物の出し入れがスムーズに出来る事だ。確か成体になった後の魔法のカリキュラムでもそうなっていた筈だ。2人は何とか及第後の2人は落第だな」


「それが出来れば良いんですか?」


「想定していたのは魔法学部を目指して大学に来る上での最低限のレベルだ。君達は魔法学部の権藤研究室の所属に成ったんだよ。それで良い訳がない。それで君達には研究と併行して特別研修を受けて貰う。今のままでは式神を作成する事も出来ないからね」


「研修期間はどれ位ですか?」


「想定しているのは1年ぐらいかな。それで知りたいんだけど仮所属の学生は皆このレベルなの?」


「ええあまり変わらないと思います」


「じゃあ、纏めて研修だな。他の研究室はどうなんだろう?他の研究室の友達はどんな感じ?」


「3人優秀な奴がいて高校の時から大学に出入りしてました。1人は沃土さんの下でもう研究しています。2人は核物質に興味が有ってそこの研究室です。他は皆同じ感じだと思いますけど」


「魔法学部全体で底上げが必要かな?君達は今日中に構想を纏めておいて明日チェックするから」


権藤先生に自衛隊から講師を呼んで学生達の魔法熟練度の底上げをしないと使い物にならない話をした。


「権藤先生、考えが甘すぎました。使いものに成りません。それで学生全体の底上げをしないと研究が何れ停滞します。自衛隊から講師を呼びましょう。他の研究室への根回しお願いします」


「使いものに成らないってどんな感じなの?」


「成体になったら受ける教育カリキュラムの内容をマスターしていないんです。魔法学部の研究室に仮所属の2期生ですよ。彼らは1期生の間は何をしていたんでしょう?魔法が使えない魔法学部生なんて話に成りませんよ。私の研究は秘匿性が高いので仮所属の学生は使ってなくて気付きませんでした」


「あぁ、君達の時と同じだよ。優秀な奴は優秀で他はそんなレベルだ」


「そうなんですか?皆結構優秀だったと思うけど。企業に囲い込まれたりしてましたよ」


「それは魔法を扱っていた研究室自体が多くなかった事と君と沃土君が皆を引き上げていたからだね」


「でも私達の下も同じ様な感じだったですよね。私が4期生の時にこんな事で困った覚えはありませんよ。魔法だって教えてはいたけどこんなレベルの話では無かったし違いましたか?機密で教えれない魔法は有ったけど教えていればマスターした筈です」


「それはそうなんだけどそれも君達が引き上げていたからだ。沃土君の所には大学生だけではなく高校生が出入りしていただろう?君も聞かれれば許された範囲で教えていた。沃土君は天谷師匠への仲介もしていたからね」


「私は師匠の弟子が医療関係者ばかりに成った時に武技関係を教えたいから仲介するなら格闘技を遣っている様な人にして欲しいって話が有ってから仲介はしていません」


「あれから随分状況が変わっただろう?一時は自衛官とか警察官とか公安関係者ばかりに成った。それでそんな制限は無くなったんだ。君は修練に明け暮れている感じだったからね。そのおかげで飛ぶ魔法は完成した。君レベルで飛べるのは天谷師匠と自衛隊でも数人だけだ。飛ぶ魔法を完成させる過程でクロックアップも出来るようになったから武技も普通の自衛官が勝てないレベルなんだろう?」


「でもそれは試していませんよ?」


「君は武道場で自衛官や空手部の連中と手合わせしていたじゃないか。結構目立っていたんだよ」


「そうなんですか?武道場だから見ていたのは空手部とか柔道部ぐらいの筈ですけど」


「いやだからその連中が君から武技の魔法を使うコツみたいのを教わって良い成績を残している訳さ。そうすると理由を周りに吹聴するだろう?そして大学の魔法関係の人間は刺激されて君達がいる間は誰も言わなくても修練して当たり前な雰囲気が有った訳さ。今やその雰囲気を覚えている学生は当時大学に通っていた高校生だった学生と今の4期生だけなんだ」


「初めて聞きました。知らない所でそんな事になっていたんですか」


「だから君は来年から魔法技術習得の専門講座を開いて雰囲気を元に戻しなさい。初級・中級・上級と開設して修練の場を設けるんだよ。権藤研究室では必修にして単位を取らないと入れない事にするから」


「え~と、そんな話になっているんですか?」


「そう、もう大学内の根回しは済んでいるから。みんな危機感を抱いていてさ反対は無かったね。だから君は式神の話はひと月だけ協力して会議の発表が終わったら博士論文に専念する様に。自衛官の講習による底上げの話は私が進めておくから気にしなくて良い。論文を書き終えたら自衛隊の教育カリキュラムと訓練プログラムを参考に講座の準備をしなさい。講座は君と沃土君が講師だから相談して好きな様にして良い」




式神を使った転移については特定の物を特定の場所に転移するのであれば魔素の情報でも解析し易く転移が可能で通信に利用する事は充分可能な事を確認した。

電波も転移可能で亜空間の膜を調整して置けば戦術データリンクに潜水中の潜水艦も繋ぐことが可能だ。

同様に戦術データリンクと戦闘機器をほぼ直接繋ぐことが可能で衛星は必要なく電子攻撃にも強い。

ここまでは使い魔を使っても似たような事が可能だ。

術者が管理者に成って式神にチーム全員が繋がって小さな群れを創って纏める事も可能な事を確認した。

チームの規模がどの程度が適当かは未確認だ。

使えるものと確信しているがシステムに用いる場合は検証が必要な事も多い。

防衛省の会議で以上の事を発表して、実際に式神に繋がって貰いどんなものか体感して貰った。

既存のシステムとも併用可能かな?

使い魔を使ったシステムの方が容易に構築できるかもしれない。

まぁ、その辺りは研究して検証するしかない、どんな弱点が有るかも分からないしな。

予想通り反応が良くて権藤先生と学生4人はこれから忙しくなるだろう。

学生の4人は魔法の修練から始めないといけないのでこの先は当面遊ぶ暇もない筈だ。




俺は年度内は忙しくて式神の件にはタッチできなかった。

面白そうなんだけどな。

魔法技術習得の専門講座は技術習得とある様に技術習得を目的とする講座で技術を身に付けないと単位が取れない様にしてある。

自衛隊の教育カリキュラムと訓練プログラムを参考にしてあるから初級中級上級と真面目に修練していけば魔法の基礎能力が付いて単位が取れる講座だ。

自衛隊ではこの先に実戦を想定した訓練が有る訳だけど大学では魔法研究に必要な魔法の基礎能力と捉えていて後は研究の必要に応じて個人で技能を伸ばすしかない。

魔法の研究者にとって魔法は個人のもので集団で共通のものを身に付ける様なものでは無いのだ。



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