28 共同研究?使い魔を利用した転移魔法
休み明け初日の研究室にて早速使い魔の仔猫ミヤを抱いての短距離転移を披露する。
共同研究者?は既に決まっている筈なのだがまだ研究室には来ていないため、見ているのは沃土だけだ。
因みにミヤだけを転移する事も可能なので遣って見せた。
ここまでの実験で術者の使い魔であれば術者の魔法によって転移が可能な事が検証できた。
後は共同研究者?にも確認して貰ってここから先の検証についてどう割り振るかを決めなくてはいけない。
そうだ、ミヤの飼育許可も取らないといけないな。
共同研究者?は結局来なかった。
1度問い合わせの電話を入れたのだが「只今会議中のため後程連絡を入れます」との事だった。
その日も次の日も連絡も何もなかったけど。
まぁ何が有るにせよ、向こうの問題でこちらには関係ない。
こちらはこちらで進めればいいさ、連絡の一つも無いと言う事は勝手に進めて良いって事だ。
唯、勝手に進めれそうな研究は使い魔を使用する研究と亜空間を利用して防御の検討ぐらいだ。
修行だけで1年潰すのはさすがに最後の手段としてとっておこう。
本来は休み前に考案したテーマについて調整する筈だったんだが共同研究者?は何を考えているんだろう?
1週間ほどは共同研究者?の件について問い合わせをしたのだが梨の礫だったので諦めて以前と同じ様に勝手に進める事にした。
ミヤについては飼育許可申請を出して置いて、何か言われたら「許可申請中です」と答える事にした。
馬鹿らしくなったので沃土と相談して提案とか要望も以前の様には上げずにただ行った事のレポートの提出と報告を権藤先生に上げるだけにした。
自衛隊側で遣れば良いと思っていた項目については共同研究者?との調整が必要なので共同研究者?が来るまでは教える必要もないだろう。
権藤先生に共同研究者?については話が違う事を伝えて早速権藤先生が研究所に問い合わせた結果。
どうも自衛隊の中でも方針が定まっていなくて共同研究者?は決定したけど名前だけの担当で上司からは何もしなくて良いと言われているみたいだ。
共同研究者として名を連ねたとしても現在の自身の研究で成果を挙げられないと評価としては減点されるので現場の研究者としては俺達の相手をしている余裕は無いのだ。
元々、共同研究は名目で機密保護のため研究棟を貸すだけの話が急に共同研究者を決めて共同研究しろと言われても誰も余裕のある人はいない訳で対処のしようもないのだ。
結局は上の無理難題に形だけ遣っていますと整えた感じだな。
俺としては理解は出来たけど納得は出来ない感じだ。
誰でも良いから権藤先生を通してでも良いから1度ぐらいはそちらから説明するべきではないかな。
こっちは共同研究者?が来る予定で動いているんだから状況が分からないと頭に来るだけだ。
少なくともこちらからの問い合わせに梨の礫は不味い対応ではないかな。
まぁ、上の思惑がどうあるにせよ彼らからしたら俺達に良い対応をしても評価には繋がらないのでどうでもいい事なのだろう。
権藤先生の話だと4月からは年度が替わって正式に共同研究者?が付くようだけどこちらは協力する気が失せている。
遣りたい研究については4月まで何もしないで置いたら遅くなるだけなので権藤先生に研究の構想を伝えて医療関係者の協力が必要な旨を強調した。
そして天谷師匠の整形質魔法の繋がりで自衛隊の医療関係者にも権藤先生の伝手が有る筈なので協力者を紹介して下さるようにお願いした。
自衛隊の研究所を通しているとなかなか申請は通らない、それどころか知らない内に申請中の筈の研究を進めておいて結果はこちらに教える気が無い。
馬鹿馬鹿しくてやってられないので研究所への申請は後回しにして独自に動く事にした、こちらから事前に情報を漏らす必要はない事後申請で充分だ。
そんなわけで以前は共同研究の建前と自衛隊の設備を使用していることで事前に色々情報を流したりしてきたけど止める事にした。
自衛隊側で遣れば良いやと思っていた研究についても結果の情報がこちらに来ない様なので発案するのは止めた。
色々考案したけど状況に変化が無い様なら全てを棚上げにして大学に戻ってから考える事にした。
この方針は共同研究者が本当に来たとしても変えずにそれなりの対応をする事にするかな。
春休みまでは使い魔のミヤを使った転移魔法の実験をして色々検証をしてそこから先は4月になってからの状況で考えようって事になったのでその様に動いた。
「権藤先生、来年度の学生の事なんですけど、今の状況だと俺達は大学に戻れないけどどうしましょうか。今年度の学生と院生に対する整形質魔法の施術は俺達が遣れなかったからシイャン師匠と姉に全員が遣って貰ったそうですけど来年度も同じですか?」
「その件は君達の状況を話してお願いしておいたから来年度も同じだ。学生達の研究テーマについては助教の山南君とも相談したけど今年度遣れなかった事を引き続き遣る事にしたから問題は無い」
「そうですか。来週の卒研の発表には行っても良いんですよね」
「君達が来るのは問題ない。だけど魔法に関する発表と論文は原則非公開に成ったから注意してね。公開するのは学校で検討した後だ。魔法学会も発足したけど公開出来る事が少なくて大変なんだ。機密事項が多くてさ。魔法によっては軍事転用が容易で習得も容易だろう?生体魔法回路への魔法回路の組込すらまだ非公開なんだよ」
「でも生体魔法回路の話は整形質魔法では必須だし、組込自体は公開されていますよね」
「整形質魔法は生体魔法回路の修正みたいな感じだろう?魔法回路を組込むのとは少し違う。飛ぶ魔法みたいに生体魔法回路に組込む事で効果が格段に上がる魔法もあるしね。今の所は非公開だ。確かに神様情報にはあるからいつ公知になるかもしれない情報だ。それでも習得技術は教えてもらわないとなかなか身に付かないから秘匿する意味はある」
「まぁそうですね。転移魔法なんかはトップシークレットですか?」
「転移魔法は習得は容易だし、軍事的な有用性は明らかだし、君達の研究次第では医学的な応用も色々発展しそうだ。当然の事だね」
「その医学的な応用の話なんですけど協力者は見つかりそうですか?4月からとは言いませんけどなるべく早く始めたいんですよ」
「その件は個人的な了解は貰ったけど自衛隊内で色々調整が必要みたいで少し遅れそうだ」
「何か問題でも?」
「天谷師匠の弟子の中の1人と話を進めていたら話を嗅ぎ付けた人が居て俺が遣りたいと言い始めてね。少し揉めて結局2人とも研究に参加する事になった。2人1度に抜けるのはなかなか大変そうなんだ。沃土君は2人とも知ってるはずだから問題ないと思うよ。ただ医療関係の設備がどの位必要か分からないからそこがネックかな。研究が進んだらここの設備では無理かもしれない」
「俺達は取っ掛かりが出来れば後は専門家に任せた方が良いかなと思っているんでどこまで一緒にやるかだけの話ですかね。動物実験も遣り様が有りそうだし」
「君達は医者ではないから流石に人では試せないからね。それで良いのではないかな」
「ではそうしましょう。それとここの研究所の共同研究者の方は決まりましたか?こちらの研究にどこまで関わってくるんでしょうか?自分の研究の片手間にやる唯の調整役みたいな感じなら今迄とあまり変わりない対応と遣り方で行こうと思うんですが」
「もう決まっているみたいだよ。4月から君達専属でそれ以外の研究は遣らないみたいだね。研究所内の設備も色々使える様だから楽になるのではないかな」
「だったら良いんですが。まぁ、4月になってからですね。それまでは使い魔が居なくて出来なかった実験でもしています」
「まぁ、それで良いのではないかな」
久しぶりに大学に行って卒研の発表を聞き、権藤研究室で雑談だ。
監視兼護衛は基本的に2名ついているけど権藤先生と沃土にも付いているので6名になる。
流石に手狭なので3名は研究室の外にいる。
自衛隊の研究所に居る時は研究室の中には入ってこなかったし、護衛って感じで就くのも官舎と研究所の間だけ、それに自衛官がいてもあまり違和感が無い施設なのであまり問題は無かった。
でも大学構内だと服装を変えていてもそれなりに目立つ、揃って歩いているとなんか体育会系の人間が集団で移動しているようで暑苦しく見えるみたいだ。
来年度に院に上がるのは4人で権藤研究室は外からは採らないみたいだ。
本来は俺と沃土も居るので院生が多い感じだけど、俺達は来年度も大学には通えそうもないし仕方がない。
学生は14人研究室に入るため、かなりの大所帯となる。
助教の山南さんは大変だ、で来年度の分までお礼を言っておいた。
山南さんは「2年もしたらお前達も同じ立場だからな。覚悟しとけよ」と言っていた。
魔法関係は研究室を増やそうにもまだ層が薄く、学校側は人を育てて増やす方針なので暫くは院生も外からどんどん入れる方針みたいだ。
山南さんは益々大変になる。
俺は「岸さんあたりを引っ張ってくれば良い」と言ってみたけど岸さんは会社で魔法関係の第一人者になっているみたいで会社側が手離さないって話だ。
権藤先生の話によると岸さんは天谷師匠の所にも不規則ながら通っていて転移魔法を除けば俺と同レベルみたいだ。
俺は暫く天谷師匠の所には通っていない、転移魔法を使えば可能なんだけど禁止されているからなぁ。
天谷師匠も自衛隊の関係者みたいなものだからばれたら不味い。
武技の修練だけは毎日欠かさず行っているけど、力は維持するので精一杯な状況だ。
使い魔が居なくて出来なかった実験とは使い魔をカメラ代わりに使って使い魔の視覚情報で転移出来るか確認する実験である。
既に自衛隊の研究者が実験済みで何らかの成果を挙げたらしい事は聞いている。
例によって実験レポートとかは見せてくれないので具体的に何をどうしたかは分からない。
で俺の使い魔の仔猫ミヤを研究棟の俺がまだ入って事の無い部屋に連れて行ってもらってその部屋に転移出来るか確認する。
結果は……普通に転移出来るな、成果が挙がったんだからまあそうだろう。
これで自分が行った事が無い所でも使い魔を潜入させれば転移出来る事が確認できた。
新鮮だったのはミヤの目を通して自分が転移してくるのが観察出来る事だ。
沃土が転移するのを観察したことはあるが自身の転移は動画でしか見たことが無い。
何回か転移してみて仔猫だからか使い魔だからかミヤから結構近くに転移出来る事も分かった。
その後で転移元に居たまま転移先に腕を出してミヤを触る事が出来る事も分かった。
ミヤの生体魔法回路とゲートの魔法回路が反発し合っていないと言う事だ。
これはどう考えても俺と使い魔の仔猫ミヤが繋がっているからミヤが触れるほど近くにゲートが開けるんであって仔猫だからではないな。
過去の実験では哺乳類のこんなに近くにゲートを開けれたことは無かった。
春休みに入るので実験はここまでとしよう。
ここから先はミヤが大きくなって成体になってからだな。
春休みに入って使い魔の仔猫ミヤを連れて天谷師匠夫妻に使い魔を使った転移魔法についての報告に行った。
自衛隊の研究がどこまで進んでいるかは分からないけど師匠夫妻に見せれば雰囲気で同じ事をしているかは掴めるだろう。
ミヤは俺の視界の範囲なら自在に転移させる事が出来る。
ミヤが俺の見えない場所に居てもミヤの視界の範囲内の場所にゲートを開いてミヤを俺の視界の範囲に転移させることが出来る。
ミヤは俺が転移可能な場所へなら転移させる事が出来る。
凡そ自身に出来る転移であればミヤに対して行う事が出来る。
ここまで話してその場で確認出来る範囲で転移魔法を実演して見せた。
「まぁ、今の所はこんな感じです」
「俺は使い魔を持っていないから分からないけどどんな感じなの?」と天谷師匠。
「ミヤはまだ仔猫で幼体なので繋がっていると言っても情報が入ってくるだけで情報のやり取りみたいなことは出来なくて、今の所は勝手に動く目とか耳が増えた感じかな?繋がっている感覚が有るので自分の一部の様な感じもあるし、でもミヤはミヤだと自分とは別な感じもあるんですよ」
「前から言っているけど自分の使い魔を持たないと分からないと思うわ」とシイャン師匠。
「そうですよね~……使い魔の話ではなくて転移魔法の話なんですけど」
「転移魔法ね~ 修君は次は何をするつもりかな?」
「使い魔は転移させる事が可能な事は確認できたので次は使い魔以外の生物が転移可能な条件を探すつもりですけど。不可能ならなぜ不可能かも知りたいですね」
「ならいいか、自衛隊の研究陣も生物が転移可能な条件を探っている。ただ君が使い魔で確認した様な事は自衛隊ではまだ確認した人はいない筈だ」
「まぁ、俺が確認した事は転移魔法が使えて使い魔を持っていれば誰でも出来るようになりますから、大事なのは知っているかどうかだけですね。応用は色々出来そうなんで考えている所ですけど」
「例えばどんな事?」
「例えば物資の補給の場合、転移魔法だけだと転移先に一度行ってから倉庫と現地を往復して物資を転移させる必要が有るけど使い魔を持てば使い魔だけ送って使い魔の目を使って倉庫から現地へ物資を転移させることが出来る。使い魔で視認できるので転移魔法の失敗を減らせます。仕事が終わったら術者が使い魔を現地から回収する事も可能です」
「術者が現地へ行かなくても良いんだ。転移の失敗も減らせるんだね。うん、良いんじゃないかな」
「大事なのは使い魔が回収できることです。任務とは言えあまり使い魔を死地に追いやると同じ種の動物を使い魔に出来なくなります。動物の魔素生命を通して情報が流れて信頼が保ちにくくなるんですよ」
「そうなの?初めて聞いたけど」
「まぁ、そうねぇ。動物の種類にもよるけど。犬は群れる動物だからなかなかそうは成らないけど猫はそんな感じみたいね。それでもそんな例はあまりない筈だけど……」
「日常生活で事故死したりなら問題ない筈ですけど、自衛隊ですから戦闘に巻き込まれることも多い筈だし気に留めて置いた方が良いと思います」
「その辺りの事は権藤教授には伝えたかな?」
「まだ実験結果しかレポートで提出していません。4月からは共同研究者も居る筈ですし急いで伝える程の事でも無い気がします」
「まぁ、自衛隊に伝わる様に成っていれば問題ないかな」
使い魔を利用する転移魔法については自衛隊も進めている様だし、4月になったら共同研究者と調整して遣る事を決めよう。
転移魔法の医療への応用については生物を転移させる方法が確立しないと病原菌の分離ぐらいは出来そうだけど病理部の削除となると難しそうだ。
病原菌の分離は患者が自身の魔法で何とか出来るかもしれないけど病理部の削除となると人体を熟知した医者が患者に魔法を行使しないと難しいだろう。
だから生物を転移させる条件の確認については先行してもしくは併行して進めて貰わないといけない。
調整は面倒そうだけど医者の協力者も自衛隊内の人だから俺達だけで進めるよりは良いのではないかな。
まあ、肉体から病原菌だけを分離出来れば薬で病原菌を殺すよりは体への負担が減りそれはそれで有用だからそれだけでも研究を進める意味はある。




