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26 共同研究?長距離転移

真世歴7年4月になり院生になったわけだけど大学には1週間も通っていない。

本当は講義とかも受ける必要があるはずだが魔法に関してはまだまともな講座が無く、有っても既に大学生の時に単位を取得済みなので問題はない。

俺と沃土は自衛隊の研究所で転移魔法の共同研究をする事になっている。

そして距離的に家から通うのは無理だったので官舎で寝泊まりしている。

官舎と研究所を行ったり来たりしている訳だ。

研究所の敷地内では身分証の形態が義務付けられていて内蔵されたICチップで研究棟の出入りを管理しており扉のロックも身分証が無いと解除されない。


転移魔法の共同研究となっているけど今の所は短距離転移魔法の実施講習みたいな感じだ。

共同研究するにも自衛隊側の研究者が転移魔法を知らないと出来ないからこうなった訳だ。

こちらとしては以前講習で教えたと思っているけど機密事項で情報が管理されていているからなのか組織が細分化されているからなのか以前講習で教えた情報が上手く共有化されていない感じだ。

「短距離転移は自衛隊でも出来る人がいるはずなのに何故この講習を開く必要があるんですか?」と研究者の人達に聞いたらどうも上司同士が張り合っていて情報の共有化がなされていないみたいだ。

まぁ、面倒だし少し問題かなとは思うけど他所事なので口は挟まない事にした。


そして一通りの講習が終わって短距離転移については皆さん習得したのでこれからは共同研究だと思っていたのだが専用の研究室が与えられて隔離放置状態となっている。

共同研究?のはずなのに一緒に研究する人はいないのか聞いてみたんだが「ただいま選定中です」との答えでいつ決まるのか聞いても同じ答え。

元々機密保持が目的の共同研究なんだから勝手に進めればいいのか。

沃土と相談して勝手に進めることにした。


短距離転移では転移先が視認できる範囲であれば転移可能である。

長距離転移するにあたって問題なのは転移先が視認できない事だ。

①転移先の認識がモニター画像での視認で良ければ衛星画像とかでも転移可能かもしれない。

②転移先の認識が視認でなくても良ければ気を感じ取るとかでも転移可能かもしれない。

③何か転移先の目印を決めて転移先を設定できれば転移可能かもしれない。

④使い魔を転移先に送り込めば使い魔からの情報で転移可能かもしれない。

現状は距離に関係なく視認できない所には転移出来ないので衝立の向こう側に転移する方法はないか色々試すことにした。

衝立の向こう側にカメラを設置してディスプレイのモニター画像を見ながら転移魔法を試してみる。

転移元に棒を差し込んで転移先に棒の先端が出るかを確認する。

モニター画像には棒の先端が映っている……成功だ。

転移する距離とかで違いが出るかもしれないので別室にカメラを設置して試してみる。

モニター画像を見ながら棒の先端が差し込めない……失敗だな。

何が違うんだろう?

沃土にも試してもらった。

モニター画像を見ながら棒の先端を差し込むと棒の先端が転移先に出る……成功だ。

あれ?

その後で色々試して分かった事は転移先に一度は行かないとこの方法では転移が成功しない事だ。

モニター画像を見るだけでは転移先を認識した事にはならないようだ。


長距離転移の研究を進めるため大学の研究室にカメラを設置して貰ってこちらでモニター画像を見ながら実験する事の許可を申請したが許可が下りなかった。

自衛隊の駐屯地なら良いとの事だったので飛ぶ魔法の講習を行った施設にカメラを設置して貰い実験したら成功した。

これなら自身も転移出来るだろうと試したらやはり成功した。

自分で行った事が有る場所であればカメラを設置してモニター画像を見れば転移可能な事が確認できた。


そこで更に進めて監視衛星を使って色々試したいと申請したが却下された。

監視衛星の上からの俯瞰画像であれば現地に行かなくても転移できる可能性が有るので何度も申請したが機密なので無理との事だ。

部外者に使用許可は出そうにないので諦めてカメラを使用した実験は取り敢えず終了とした。

そしてカメラを使用しないで転移出来ないか色々考案して試す事にした。







自衛隊の施設で共同研究?を始めて半年ぐらいになるけど共同研究者は未だに選定中のようだ。

権藤先生は月に一度だけ進捗を確認しに来るので現状報告をしてレポートを提出する。

今はカメラを使用しないで転移出来ないか色々考案中のため実験はしていない。


「権藤先生、共同研究の話はどうなっていますか?『選定中です』と返答は有るけど誰も研究者が来ないんですよ。研究者同士の会合もないから自衛隊の研究者が何をしているかも分からない。これなら大学で研究していても同じですよ。一々申請書を書いて許可を貰うのに時間を取られるし面倒なんです。長距離転移も一応は成功したし、応用とかは自衛隊の研究者が研究するようだし、戻ってはいけませんか?」


「今戻るのは無理かな。転移魔法については情報漏洩の可能性を考えると大学での研究はNGだ。習得が困難な魔法なら何とか出来たけどね。長距離転移もカメラとかの道具が必要なだけで魔法自体は変わらないみたいだし。今考えているのはカメラなしで長距離転移転移する方法だろう?これが簡単に習得出来る様だと漏れたら不味いからねぇ。君達のレポートとかも持ち出し禁止なんだよ。読んだ後で没収されるんだ」


「そうですか。共同研究のはずが共同研究者はいないし2人だけ隔離されている感じだから確かに情報漏洩の可能性は低いですけどね」


「機密保持が一番の目的だからかなぁ。共同研究に積極的な中堅研究者はいるみたいだけど、組織の上に行くほどあの日以前の慣習が強いからうちの大学だと下に見られて中々話が進まないみたいだ。君達は今迄通り進めて良いから」


「監視衛星を使った転移魔法の実験は進んでいるんですか。監視衛星だと上空から俯瞰した画像になるから現地に行かなくても転移先を認識出来るのではないかなと思っているんですが」


「それはノーコメントとの返答だ。実験をしたかどうかについての返答がだよ。それ以上の追及は不味そうなんで止めた」


「核物質の無害化のために原子力発電所の位置を認識するのに軍事衛星を使っているんだから出来ないとは思えないけど」


「まぁ、そうなんだろうけど。これ以上の追及は止めなさい。答えはノーコメントだから」


「でも可能なら対処方法を考えないと不味いですよ」


「それを考えるのは彼らの仕事だ」


「報復攻撃とかを優先しそうで信用できませんよ。転移魔法で逃げるのが一番簡単そうですからカメラなしで長距離転移出来る方法を優先的に考える事にします。でも一人だけ逃げてもなんだかなぁ。他にいい方法がないかも後で考えますよ」







先に上げた構想の内でカメラを使わずに長距離転移する方法を検討してみる事にした。


一番簡単に検証出来そうなのは使い魔を利用する方法なんだが家のペットは姉と妹の使い魔になって自分の使い魔にはならなかったので使い魔にする動物を飼うところから始めなくてはいけない。

施設内も官舎も動物の持ち込みは原則禁止だそうで許可申請から始めることになった。

考えるに許可が下りる頃には誰かが検証を済ませて結果は出ているだろう。

月一で来る権藤先生の話からして自衛隊の研究者は発案者に対して事前に了承を得る必要を感じていない様なんだ。

そして結果もこちらには流さないから既に検証済みかもしれない案件を検証している可能性もある。

魔法に関しては結果が同じになるとは限らないから無駄ではないけどね。

こちらの情報はレポートとかの形で流しているのに自衛隊の研究者からは情報が入らないので共同研究の筈なのに彼らが何を遣っているのかさっぱりわからない。


気を感じ取って転移先を確認する方法は生態系のエネルギー場を感じ取れる様になってからの話で暫くの間は修行する必要があるので当面は無理、シイャン師匠に相談しないと出来そうにない。


転移先を認識できる目印になるようなものが無いか考える事にした。

転移元に居ながら転移先を認識しないといけない訳でさっぱり見当もつかない。

色々考えた。

「データボックスの記憶を使って転移先を認識出来るかも」……俺には出来なかった。

「経度と緯度を使って転移先を認識出来るかも」……俺には出来なかった。

「物に刻み込まれた記憶を辿って」……俺は漫画の主人公か!サイコメトリーなんて出来るわけないだろ。

色々と考案して実験して失敗ばかりだけど俺に能力が足りないだけかもしれないので「出来るかも」と思った研究者の方は試してみると良い。

今は俺と沃土の2人だけの検証なので出来ないとの結論を出すにはデータが乏しい。

特に緯度と経度を使って転移が出来る様なら地球儀を見ながら地球上のどこにでも行けるしどこにでも物を送り込めるからかなり有用だ。


最後にふと思い出したのはアイテムボックスを使って亜空間に入れた物は術者が死ぬとその場にばら撒かれるのではなく物を入れた場所に戻る事だ。

アイテムボックスを使って亜空間から出した物が手元に出るのは術者の意志がそうあるからで術者の意志が介在しないと物は元の場所に戻ろうとする。

これは亜空間に有る物には世界から元の場所に戻るように復元力が働いていると推定できる。

この復元力を転移に利用出来るかもしれない。

結果としてはこれが成功した。

魔法で亜空間に物を入れて置くとその物に復元力が働く、それを利用すると転移先にゲートが容易に開ける。

方法は簡単で転移先で予め物を亜空間に入れて置く、転移元で亜空間に入れた物を思い浮かべて転移魔法を使うと転移先にゲートが開く。

後は今迄の転移魔法と同じで、物でも自分でも転移出来る。

この方法ならまた来たいなと思う場所で亜空間に物を入れて置けば転移魔法で何時でも行くことが出来るようになる。

カメラを使うよりは簡単ではないかな。

因みに転移先に人がいると魔法が発動しないのでカメラを併用した方が確実ではある。

まぁ、自分の部屋とか人気のない場所を選定して転移先にしておけばあまり問題ない筈だ。

俺の場合は飛べるので、ある程度の高度の空中を転移先にすればまず問題ない。


結局、共同研究とかは無しでここまで研究は進んでしまった。

後は転移魔法の発動条件とか法則を纏めて検証するだけかな。

転移魔法の戦闘への応用とかは自衛隊の研究者に遣らせておけばいい。








最近は研究室で今迄の転移魔法についての研究成果を纏めて論文にしている。

転移魔法を日常的に使って検証するために研究室と官舎の自室の間を転移魔法で移動していたのが発覚して出退勤時には身分証を携帯して所定の出入り口を通るように念押しされた。

研究棟に1週間ぐらい閉じ籠っていた事に成っていた様で何をしているのか確認しに来て発覚したんだけど、出退勤は端末の専用ページに記入して管理しているから問題ないと思っていた。

労務管理規定とかで出退勤と出入りのデータの辻褄が合わないと問題に成るみたいだ。

「俺達は自衛隊の職員ではないし給料をもらっている訳でもないから問題ないはずだ」

「防衛省から大学には研究費用として幾らか出ているようだけど俺達は大学の職員ではないので就労による研究ではないから問題ないはずだ」

「俺達は唯の学生で研究も教育の一環なわけで本来は何時間研究しようが本人の自由意思である限り問題ないはずだ」

「屋内間の転移なら機密保持も完璧だ。不慮の事故にも遭いにくいし、拉致の可能性も減る」

色々反論してみたけど「規則ですので」と押し切られた。



転移魔法についてはもうすぐ論文も書き終わるし、転移魔法の共同研究のはずなのでこれで大学に戻れるはずだけど権藤先生と話していても戻れるような雰囲気ではない。


「長距離転移については一度行ったところになら転移出来る魔法を発明して発動条件等も調べたので論文を仕上げたら一旦終了としたいんですが良いですか?」


「そうだね。そうなんだけどなんか研究本部の上の方で揉めているみたいなんだよ」


「え~と、なんでですか?」


「だから君達は2人だけで遣っただろう?『共同研究の筈なのになんで自衛隊の研究者の名前が無いんだ』と今頃になって言い出した人がいるみたいでさ」


「共同研究は方便で情報漏洩を防ぐのが目的だったのではないんですか?何度も尋ねたけど『ただいま選定中です』としか返答が有りませんでしたよ」


「いや、私もそう思っていたんだけどね。知り合いの自衛官に何度も尋ねたけど途中からは『情報漏洩を防ぐのが一番の目的ですから』と言っていたしね。どうも君達の挙げた成果を知って欲が出た人がいるみたいで揉めているみたいなんだ」


「はぁ、でも2人で挙げた成果ですし仕方がない話ですよ。研究者どころか手伝いの助手すら来てません。研究棟も別だったし、他の研究者の方とは廊下ですれ違うこともありません」


「そうなんだよ。それで君達が考案して機密保持の関係で許可が下りなかった案件とかまだ申請中で許可が下りていない案件とか有るでしょう?実は内々で実験して良い成果が挙がっている様なんだ。機密なんでハッキリとは言わないけど」


「以前、少し聞いた気がします。成果とかは聞いてないけど。衛星を使うやつとか使い魔を使うやつとかですよね?」


「そうそう、ハッキリとは言わないんだけどね」


「実験計画書とかも提出して申請してますから出来るでしょうね。今迄の実験レポートも提出しているから当然再検証もしているでしょう。ん~衛星を使う実験で成果が挙がっているなら教えてもらえませんかね?やっぱり機密事項なんで無理ですか?」


「そこら辺りも問題なんだよ。君達が発案者だろう?共同研究の形にして論文とかに名前を入れないといけないけど監視衛星の性能等は機密事項なんで君達には論文等は閲覧できない。変な話だろう?共同研究者が論文の内容を知らないなんて。でも共同研究者にして置かないと研究を盗んだことになるからね。以前ならいくらでも誤魔化せたけどあの日以降出来ないし」


「正直に魔法の発案者として名前を入れて機密事項に抵触するから研究には未参加な事を明記して置くしかないですね。こちらが了承していれば問題ないと思いますけど。俺は事後承諾で充分です。そんなことより口頭でもいいから成果が知りたいんですけど無理ですか?」


「事後承諾の件は伝えて置くよ。成果の件は研究者と話すぐらいなら大丈夫かもしれないから伝えて置くけどあまり期待しない様に。あとは生態系のエネルギー場を感じ取って転移先を認識する件なんだけど上手くいきそうかい?」


「それは現状で成功する可能性があるのはシイャン師匠ぐらいです。天谷師匠の弟子の自衛官なら修行すれば可能性があるかもしれません。俺達だと1年ぐらい修行しないとだめかな。成功すれば地球上なら何処へでも行けそうな気がしますけど」


「1部の人しか習得出来そうにない感じだね。自衛隊の研究テーマとしては習得する技術よりは習得した相手にどのように対処するかが重要そうな気がするな」


「前提となる技術を習得するのに1年ぐらい必要で、転移魔法の実験はその後に成ります。その上成功するかどうかは分からない。急ぐのであればシイャン師匠の協力が必須ですね。失敗の可能性もありますけど何らかの成果は挙がるでしょう。そうだ前提としてシイャン師匠が転移魔法を使えないと無理です。師匠夫妻には事前にいろいろ相談したのでもう短距離転移ぐらいは出来るかもしれませんが機密事項なので正式には伝授してません」


「師匠夫妻には君達の成果が逐次報告されているから転移魔法は習得済みだよ。だからこの先の研究については協力が得られるかどうかだけだね」


「協力が得られる様なら続けて研究しても良いですけど自分で遣る様なら転移魔法については中断となるので大学に戻っても良いですよね」


「大学に戻れるかどうかは置いといて論文を仕上げたら非公開の場だけど発表するから準備しておいてね」


転移魔法に関する成果については暫く揉めていたようだけど半年前ならともかく終了した案件については如何しようもないことなので終息したようだ。

申請中の実験については既に自衛隊側で実験済みなので権藤先生と話した様に事後承諾となった。

国家機密に関わる事なので仕方がない事なのかもしれないが事前に了承は得るべきだよね。

それに共同研究の体裁を取りたいなら週に一遍ぐらいは会合を持つべきだと思うな。

飛ぶ魔法の時はこちらが明らかに先を進んでいて習得も困難だったから気にならなかったけどこのやり方は相手に不信感を与えるだけで良いことは何も無い。

まぁ、今更言っても仕方のない話ではあるが御上意識が強いと民間相手にはこんなもんか?

衛星画像を使った転移魔法の実験結果については行ったことは認めたが結局何も情報を出さなかった。

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