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19 魔法を使って体を動かすこと

中華人民共和国が崩壊して独立した国々から独立に反対する漢族が追放されて政情が落ち着いた頃に日本では非常事態宣言が解除された。

でも俺の傍に張り付いている自衛官はそのままだ、大学構内の警官や自衛官の数もそのままだ、まだまだ安心はできない。

俺は魔法の軍事的な応用について思いついてから半年近くは身の危険を感じて武技の鍛錬ばかりしていた。

付け焼刃でどうなるものでもないが強くなって置けば対処可能なレベルが上がって危険から遠ざかることが出来る様な気がしたから。

天谷師匠夫妻からは当然いろいろ習ったんだが、大学の空手部とか柔道部とかで魔法を応用して使っている奴に色々聞いてみた。

大体は自分が今まで習った技に魔法を組み込んで技に威力を増す様に使っている。

リミッターを解除すれば当然威力は増すし、拳を魔法でボールを飛ばす要領で動かせば威力を上げることが出来るし、体全体を同じ要領で動かせば体重を一時的に増やしたり減らしたりする感じになる。

これはみんな普通に考えることだし俺も習得するよう鍛錬している。


俺は一通り聞いた後でみんなの稽古を見ながら独りで考えていた。

『今は同じ様に出来るけど昔の体だったら動きに付いて行けなかったよな。今でもダンサー達の体の動きには付いてはいけないし、何とか同じ動きが出来るのは魔法で動きを補っているからだ。単純に飛ぶだけでもダンサー達は身体能力だけでバランスを取れるのに俺は魔法を駆使しているからな。整形質魔法で以前よりは良くなっているけどそれでも身体能力はダンサー達には追いつけそうにない。いっそのこと身体全部の動きを魔法で動かしたら………出来るのか?』

 

俺は早速思いついた全ての動きを魔法で行うことを天谷師匠に相談してみた。

「え~とそれどうやって思い付いたの?」


「飛ぶ時にダンサー達の動きに付いて行く為に俺は魔法を駆使しているなと、ダンサー達は身体能力だけなのにと思って、いっそのこと体の動きを全部魔法で行えばと考えたんです」


「そうか飛ぶ魔法か……結論から言うと可能だ。既に自衛官には教え始めている。中々自分で思い付く人はいないけどね。この技術を生み出した人は君の様に元々身体能力の高くない人で戦闘で身体を動かす時に魔法で補っていた人だ。君が思い付いても不思議ではない」


「それで教えて頂けますか?」


「あぁ、教えるよ。飛ぶ魔法で基礎は付き始めているみたいだし、独学だと危険なこともあるから。基本は自分の身体を操り人形の様に魔法で動かすことだ。始めは脳が疲れて短い間しかやれないはずだけど出来るだけ滑らかに歩くことから始める。筋力は使わずに魔法で動かすんだよ。後は歩けるようになってからだね。コツは脳を神経から切り離す感じでやることかな」


「分かりました。遣ってみます。最終的にはどんな感じになりますか?」


「極めると神経系を通さずに動ける様になるから時間の感覚が切り替わる様になるよ。脳も体の性能に能力が規制されているからその規制から解放されると思考速度が上がって周りがゆっくり動いていると感じる様になる。脳が慣れるまで長時間は出来ないけどね」


「周りがゆっくりって高速道路から降りた時に速度が遅く感じるみたいにですか?」


「ああ、そんな感じだね。極めると止まっているみたいにだけどね。脳の感じる時間感覚も身体に囚われているから鍛錬して脳を切り離す感じを掴むと時間感覚が変わるんだ。魔法を使えばその感覚の中で身体を動かせるから凄く速く動けるんだ。ただ魔法を使い熟して身体を普通に動かせるようにしないと危ないんだ」


「危ないってどの様に?」


「例えば拳を魔法で飛ばすように動かす技があるよね。この時に怪我をしないのは身体も技に合わせて動かすことと身体がある程度の衝撃には耐えられるように鍛えてあるからだ。これを魔法だけで全て遣ろうとすると拳を魔法で飛ばすように動かすと同時に身体もそれに合わせて魔法で動かさないと拳が千切れて飛んでいくことになる」


「それは考えたくもない状況です。武器を飛ばすならともかく拳は飛ばしたくありません」


「普通は手順を踏んで修行すれば問題ないんだけど、君は何か裏技みたいのを思い付くかもしれないから注意してね。何か思いついたら相談するように!」


「分かりました。だけど今迄も相談してきましたよね?」


「だから君が当たり前だと思っても相談するように!どうもそこがずれている気がするんだよ。それからこの技術を身に着けると脳の思考速度が上って日常生活の時間感覚も他の人とずれて来るから注意しないといけない。当分先の話のはずだけど」


俺は飛ぶ魔法に応用出来る良い技術を聞いたと思って機嫌が良かった。

飛ぶ魔法で人形は上手く飛ばせても、自身は上手く飛ばせないことがあって何とかならないか考えていた時期があったけどこれなら何とかなるかもしれない。

脳を神経から切り離す感じで身体を操り人形の様に魔法で動かす。

続けると時間の感覚が変わって周りがゆっくり動く様に見えるんだっけ。

始めは筋力を使わずに魔法だけで歩くだったな、どうせならあとで飛ぶ魔法でも試してみよう。

この時点で俺は少し勘違いしていた。

天谷師匠が飛ぶ魔法で基礎は付き始めていると言っていたので飛ぶ魔法を応用して魔法で歩くことが天谷師匠の意図とは違うことに気付いていなかった。


俺は半年近く飛ぶ魔法の研鑽と併行して武技の鍛錬を行い、気が向いたら半分浮いた状態で歩くような動作で移動していた。

その半年間、天谷師匠夫妻は自衛官に対する指導で忙しくなって大学には週に一度だけ顔を出すようになり、休みの日は子供たちの指導をしていて、俺は天谷師匠が大学に顔を出した時に指導を受けるだけになっていた。

データボックスがあるから一度指導を受ければ繰り返し思い出すことが出来るし、今までも週一だったから特に不都合はなかったけど天谷師匠との雑談は減ったな。


毎日鍛錬を続ける中で鍛錬を始めてから2か月ほどで周りの動きがゆっくり見えることも経験したが天谷師匠に話を聞いていたので別段不思議に思わずにいた。

そして鍛錬を始めてから3か月ほどで周りの動きがゆっくり見えるのも当たり前になり魔法で飛ぶのも格段に楽になった。

動きがゆっくり見えるから動きの修正も楽に行える、飛ぶ魔法では武術と違って動きに威力や速さを求めている訳では無いのでゆっくり丁寧に動けばいいのだ。

そこでゆっくり動くなら魔法を使って動くこともないなと考えてやってみた。

うん、大丈夫だ、このぐらいの速度なら態々魔法を使って体を動かす必要はない。

魔法を使って体を動かす方が速く動けるとの話だったのでではどのぐらい違うのかと確認してみようと考えた。

腕を前後に振って動く速度を少しずつ上げながら魔法を使って体を動かすのと普通に体を動かすのを交互に遣って限界を見極めることにした。

速度を上げていくにつれ動きにずれを感じる様になるとここらが限界かなと暫く確認のため同じ速度で続ける。

暫く遣っていると慣れてきて動きに違和感が無くなるのでまだ限界じゃないなと速度を上げる。

こんなことを毎日繰り返していた。

当たり前だけどあまり連続して遣ると体を損なうから適宜に休みを入れながらだ。

休憩時には忘れずに体をチェックして必要であれば治癒魔法を施す。

練習だから少しづつ速度を上げる様にして怪我をしないようにする。

手を前後に振るだけでは日常動作での確認にならないので途中から習得した型を使って遣るようにした。

そうやって毎日鍛錬している内に魔法を使って体を動かす方が反応が速いことは確認できた。


この頃は他の天谷師匠の弟子のみんなも忙しそうだったので手合わせは武道場に行って空手部の知り合いと遣っていた。

技術交流みたいな感じで天谷師匠に許可を貰って魔法を利用した技術の初歩を教えたりしていた。

監視の自衛官2人は天谷師匠の弟子になって2年弱で、自衛官の中では最古参になる。

だから2人とも俺よりは確実に強い、俺は2人にも交代で手合わせをして貰っていた。

手合わせと言っても約束組手のようなもので技の掛け合いをするだけのものだ。

同じことの繰り返しだけならデータボックスの記録を使って独習可能だけど対人で遣って気付くこともあるので大切なことだ。

威力を上げるだけなら独習で良いけど人に技を掛けないと身に付かないものもある。

ゆっくり見える様になったおかげか途中から手合わせも楽に熟せる様になった。

初めは付いて行くのがやっとだったからな、俺も進歩したもんだ。


俺がこんな毎日を送っていた時にアメリカで魔法で核爆発させる自爆テロがあって、その報復の結果として中華人民共和国は崩壊した。


俺はそれからも毎日飛ぶ魔法の研鑽と併行して武技の鍛錬をしていた。

それで魔法を使って体を動かす方が反応が速いことは確認できていたが、でもこれぐらいなら行動予測とかで対処可能かなと言ったレベルだ。

そこで魔法を使って体をどこまで速く動かせるか試してみたがあまり速くは出来ない。

ここで無理をすると天谷師匠が言っていた様に拳だけが千切れ飛ぶ事に成りかねない。

やがて眼で見て確認するのも速度が速く出来ない要因ではないかと考えるようになった。

ここで思い出したのが相手の気を感じ取れれば目で見ないでも相手の動きが分かる様になるとの師匠の言葉だ。

相手の動きが分かるなら自分の動きも分かるだろうと考えて思い出しながら鍛錬することにした。

気を感じ取る鍛錬は飛ぶ魔法には応用できそうにないかなと思って中途で後回しにしたからな。


気を感じ取る鍛錬を思い出したのは良かったのだがまだ障りしか聞いていなかったので監視中の2人の自衛官に聞いてみた。

俺よりは鍛錬していて実戦で使えるようだけど、脳で気を感じ取るとかはやっていない。

話を聞いていると自分の生命エネルギー場で相手の生命エネルギーを感じ取るみたいだ。

そこで問題なのが脳が体を通して感じ取るのか、脳が直接感じ取るのかだ。

鍛錬して脊髄反射するレベルだと脳では感じていない可能性もある。

生体魔法回路に組み込まないと脊髄反射は利用できない。

さてどうしようか、飛ぶ魔法についてはこのぐらい出来るようになったら生体魔法回路に組み込もうと考えていたレベルまでは達していると思うが気を感じ取る鍛錬が上手く行けば更にレベルが上がる気もする。

気を感じ取る鍛錬だから魔法とは別に鍛錬しても構わない気もする。

これは天谷師匠に相談して決めた方が良いな、前に何か思いついたら相談するように言われていたしな。


俺は天谷師匠が大学に来た時にいつもの様に鍛錬内容を報告してから気を感じ取る鍛錬と飛ぶ魔法の生体魔法回路への組み込みについて相談した。

「飛ぶ魔法を生体魔法回路に組み込む件については分かった。それで君は魔法を使って筋肉を使わずに歩けるようになって今は筋肉を使わずに魔法を使って型稽古をしているんだよね」


「はいそうです。その過程で師匠に言われたように周りの動きがゆっくり見えるようになって飛ぶ魔法も楽に出来るようになりました」


「うん、それは聞いた。それで魔法だけで体を動かすのと筋肉を使って体を動かすのを交互にして型稽古をしているんだよね」


「そうです。魔法で体を動かした方が速く動けると聞いていたので交互に遣ってみて差を確かめました。初めは前後に腕を振っていたんですけど型の方が良いと思いついて途中で変えました」


「それも聞いた通りだ。監視している自衛官の報告もそうなっているから間違いない。それでなんで気を感じ取る鍛錬なの?」


「速度を上げて行って魔法で体を動かした方が速く動けることは確認できました。でも行動予測が出来れば対処できるぐらいの差かなと思って、もっと速く動くためには目で捉えるのではなく気を感じ取れば良いと考えて気を感じ取る鍛錬をしようと思いつきました」


「経緯は分かった。でもなんでそんなに速く動けるの?指示した順番で鍛錬してもまだそんなに速く動けるようになるはずはないと思うけど」


「え~と、そうなんですか?指示通り遣っていますけど。報告してますよ」


「そうだね、監視している自衛官の報告もそうなっている。何か見逃しているな。何か変だ」


「何ですかね。指示通り遣っているつもりですけど」


「そういえば忙しさにかまけて君の鍛錬は遠目でしか見てないな。一度ここで遣ってみて」


「分かりました」

俺は天谷師匠の前で魔法だけで歩いて型稽古をした。


「あ~分かった。確かに筋肉を使わずに魔法を使って動いてる。でも俺が思っていたのとは違う」


「何か不味かったですか?」


「結果が出ているから不味いわけではないけど……どうだろう検討しないといけないね。まず言っておこう。俺が指示したつもりでいたのは筋肉の代わりに魔法を使って動くことだ。君は飛ぶ魔法を応用して動いているだろう?だから一見同じ動きでも全然別の技術を使っている。君は魔法で動かす体の動きに合わせて手足等を動かしているけど。俺が指示したつもりでいたのは魔法で手足等を動かして体を動かすことだ」


「全然違いますね」


「そうだね。一見しただけでは分からないけどね。俺も遠目では分からなかった」


「え~と、俺はやり直しですか?」


「いやそれはない。ただこの方法の方が遣り易い人が多いかもしれないし、飛ぶ魔法と合わせれば効率よく習得できるかもしれない。そこら辺りは権藤教授や沃土君が自衛官達と検討するんじゃないかな?」


「そうですか。だったら良かった。それで気を感じ取る鍛錬の方はどうなりますか?」


「飛ぶ魔法も絡むんだよね。だったら術師のシイャンの方が良いかもしれない。考えておくよ」


「宜しくお願いします。そうだ飛ぶ魔法を生体魔法回路に組み込む件は進めていいですか?」


「それも考えておくよ。気を感じ取る鍛錬の件と一緒に検討するから。権藤教授には君からも報告しておいてね」


「分かりました。宜しくお願いします」

どうやら問題は無さそうだ。

権藤先生には今から報告しに行こう。



12月に培養肉が発売開始になって肉類の配給制が終了したけど自衛隊の海南島への派遣と非常事態宣言解除が話題になっていてパッとしなかった。

培養肉は調理してしまえば以前食べていた肉と変わらない。

ただスーパーでパックになっているのを見ると全部同じ形で少し気になった。

まぁ、見慣れれば気にならなくなるんだろうな。


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