18 中華人民共和国の崩壊
日本政府は南シナ海にある西沙諸島・南沙諸島の海賊や大陸の内戦状態より判断して中国共産党政府は既に統治能力を喪失していて、大陸全体の主権を認めるに値しないと断定し、主権を確立する勢力が現れるまでは個々の地域勢力と対応することを決定した。
そして大陸の統一を志向して互いに正統性を主張する勢力は争いを止める気配が無いので独立を志向する勢力を安定勢力とするべく援助することを決定した。
外縁部の民族自治区あたりの独立を促し緩衝地帯にして防波堤を造るぞと言うのが非公式な方針だ。
公式にはまだ中国共産党政府が存在するため一応は国の政府として扱うが発生した問題については中国共産党政府に対して声明を出して別々に対応する。
まず日本だけでは無理なので中国の周辺諸国と協力体制を構築してからチベット、ウイグル、モンゴル等の民族で纏まっている勢力と秘かに接触して支援を開始した。
所謂漢族は漢族同士で争って纏まる気配が無いので今の所は支援対象ではない。
周辺国の一つ台湾は大陸の混乱初期には返り咲きを狙って画策する政治勢力もあったが核兵器が無効化されて大陸で核テロが発生すると早々に独立を宣言、日本は即時承認している。
台湾政府は大陸侵攻を唱えていた一部の不満分子については勝手に遣れと大陸に放逐してしまった。
現在は大陸の混乱に巻き込まれないために他の中国の周辺諸国と協力体制を構築中である。
南シナ海にある西沙諸島・南沙諸島の海賊対策としてはまず日本が主導して諸島周辺国共同の保安組織を作り、中国共産党政府に数日以内に海賊に対処を開始しない場合はこちらで征伐することを通達し実行した。
中国共産党政府は「日本の侵略行為である」と非難したが「中国政府は度重なる海賊の取り締まり要請にも関わらず何もしていない事は確認済みである。これは海賊行為が中国側の意図的な侵略行為であるかまたは中国政府が統治能力を失って何もできない状況にあると判断せざる負えない。どちらにせよ非難されるべきなのは中国側である。我らには公海上の安全を確保する権利がある」として日本は南シナ海の西沙諸島・南沙諸島の周辺国と連名で中国共産党政府を非難した。
西沙諸島・南沙諸島に一番近い海南島は既に共産党の支配下になく軍事力は大陸からの防衛に向けているため、海軍力を西沙諸島・南沙諸島に向ける余裕はなく海洋の勢力圏を維持する能力を失っていた。
そもそも海南島だけで経済や軍を維持できるような体制にはなっていない。
元々の主な産業は農業で工業は発展していない、近々の観光産業で飛躍した土地で人口もそんなに多くはない。
農業のおかげで食べるだけなら何とかなるがサービス業で潤っていた人々は混乱の初期に逃げ出している。
海軍も海南島だけでは維持できないのは分かっていたので一部の幹部は真っ先に軍艦ごと逃げ出している。
人民解放軍と漢族は中国の常として逃げ出す時に略奪しているので都市部とその周辺地域は酷いありさまだ。
残ったのは元からの現地人と逃げ損ねた漢族と最後まで残った漢族以外の軍関係者達で漢族は今迄好き勝手してきた上に最後の略奪行為でかなり恨みを買っている。
広東省を拠点とする軍閥から守ることが出来ているのは海があることと彼らに海南島を攻める余裕が無いからに過ぎない。
そして南沙諸島の基地を拠点に海賊行為をしていたのは引き揚げ時に残された人々でまともな補給が無いため基地は維持できなくなっていた。
6月、周辺国はまず南沙諸島の海賊を排除することに成功した。
7月、西沙諸島も中国名永興島を拠点として海賊が跋扈していたため海賊を排除した。
西沙諸島もまともな補給がなされておらず容易に海賊を排除することに成功した。
周辺国が牽制し合わずに初めから連携しているか、どこかの国が抜け駆けで海賊を排除していれば海賊問題自体はもっと前に解決していたはずだ。
まぁ、そうなっていたら海賊問題が収まった後で周辺国間で諸島の帰属問題が勃発して争う可能性は高いけど。
日本が仲介しなければそうなっていたんだろうなぁ。
南シナ海の西沙諸島・南沙諸島の周辺国は諸島の帰属問題を棚上げにして共同の保安組織の拠点を西沙諸島の永興島に置き周辺海域全体の治安を保つことになった。
中国共産党政府は奪還を表明したが今の所は何も動きはない。
中国内外の中国人勢力が日本及び南シナ海の西沙諸島・南沙諸島の周辺国を非難したがそれに同調する国は皆無に近い。
まぁ、海賊がいなくなり海が安全になった事を非難している様なものだからな。
そもそも中国が海賊を放置しなければ非難に同調する国ももう少しあったろうに自国の船が海賊の被害にあった国も多いからな。
治安を維持する能力が無い勢力に海を任すわけにはいかない。
西沙諸島・南沙諸島の周辺国は早々西沙諸島・南沙諸島の帰属を巡って対立し始めているが日本が押さえている。
連携して当たらないと中国が盛り返した時には対抗できないことが共通認識としてあるのでまだ協力関係が瓦解するほどの対立は発生していない。
中国が共通の敵として存在し、各国がそれを周知している間は問題ないだろう。
日本政府は南シナ海の西沙諸島・南沙諸島の海賊問題の終結を周辺国と共同宣言し、チワン族と海南島の漢族以外の勢力に秘密裡に接触を開始した。
秋も半ばアメリカの原子力発電所が中国人のテロリストによって攻撃され、魔法による核爆発を起こした。
テロリストに狙われたのは州軍が防備していた原子力発電所で他の施設に比べれば防備が緩かった。
中国共産党政府と人民解放軍は報復に成功したことを高らかに発表し、各国に核物質の無害化を止めるように通告した。
アメリカ軍は魔素生命にある自爆して死亡したテロリストの情報を分析して中国政府の発表が正しいことを確認後に速やかに報復を開始した。
まず漢族の支配領域にある原子力発電所について順次魔法で核爆発させた。
俺が考えていた核ミサイルによる報復はなかったが半数以上の原子力発電所が核爆発で消えた。
アメリカは途中から核物質の無害化に切り替えて結局すべての原子力発電所を使えなくした。
共産党政府が瓦解するには充分な報復だ、シナ大陸は無数の軍閥が支配する無政府状態になった。
『中国人も報復をするなら同じ魔法による無害化にしておけば良かったものをなんで核爆発させるかなぁ』と俺は思っていた。
実際は中国共産党政府からは「アメリカの核施設をどこでも良いから魔法で無害化して報復出来ることを示せ」と命令がでていたのを「アメリカの核施設をどこでも良いから魔法で核爆発を起こして報復せよ」と誰かが命令を途中で摩り替ていたようだ。
中国共産党は日本軍を国民党と戦わせて国民党を追い落すことに成功したようだから誰かが似たようなことを画策したのかもしれない。
先進諸国は共同でシナ大陸の核物質の無害化を進めて1年後には修了する予定だ。
その後は戦いを継続するなり、纏まって国を造るなり好きにしてくれれば良い。
シナ大陸で核物質の無害化と並行して行った調査の結果、色々なことが判明した。
魔法が使える様になって以降、中国共産党の要人は魔法を使った暗殺を恐れて最近では外に顔を出さなくなっていたようだ。
通信機器の発達もあり、メディアに乗せて画像を流せば直接会わなくても命令は下せる。
魔法の研究も積極的には進めておらず、研究している者達には用心して合わなくなっていた。
魔法の研究自体も個人ですることは認めず、許可されているのは政府の研究者だけだ。
そんな中国で日本と同じか進んでいたのは魔素生命の情報を解析することだ。
魔法の研究も自ら新しく創るより古代人の情報から探り出すことに力を入れており、その面では日本より進んでいたぐらいだ。
ただ魔法についてはまだ体系化できておらず、天谷師匠のような存在は確認されていなかった。
だから何が出来て何が出来ないか魔法の研究者の間でも周知されていないことが多く魔法についての情報が断片的になっていた。
原子力発電所の防護については人がいれば魔法が防げることを共産党や人民解放軍の上層部は承知していたが理由を説明せずに防護するように命令するだけで組織の末端には自爆テロの情報と危険だとの情報しか伝わっていなかった。
この為、共産党政府がアメリカへの報復の成功を発表した直後に報復を恐れた人民解放軍の兵士が一番に逃げ出して人がいなくなるケースも多かった。
それでアメリカの報復が始まった時に報復が成功する場合が多くて、そうなると原子力発電所からは逃げ出す人間がますます増えた。
人が一人でも巻き込まれて死ねばその情報が魔素生命を通じて拡散するからこれは止めようがない。
共産党は情報統制のためインターネットも開放していないため、一般人の魔法についての情報は魔素生命の情報しかなく簡単な魔法は古代人情報から入手できるが魔法の最新情報は自国で起きた自爆テロや双方の報復攻撃による死者のものだけだ。
これでは恐怖心を煽る事しかできない。
原子力発電所から出来るだけ離れようとする人の流れはやがて暴徒となり、逃げた共産党幹部は人民解放軍とともに闇に潜った。
多くの共産党員の死亡が魔素生命の情報で確認されているが生き残った者については本人が死ぬまで情報が漏れることはないであろう。
この月の末日をもって日本にある中国大使館および領事館は閉鎖されたが、主要な大使館員等は既に亡命して大使館にはいなかった。
そして日本では昔の様に主権国家が存在しない内戦状態の地域をシナ、大陸をシナ大陸と呼称するようになった。
中華人民共和国の崩壊から暫くしてチベット・ウイグル・チワン・海南島が次々と独立を宣言し、モンゴルは旧モンゴル自治区を併合した。
世界各国はこれらを承認した。
シナ大陸にある無数の軍閥と世界中に住む華僑が反発したがこれに同調する国はない。
日本政府は独立した地域に援助を開始した。
中華人民共和国の崩壊後、華僑は贔屓の勢力を公に支援し始め、諸国に支援を求め始めた。
所謂漢族は民族より宗族という父系血統による結束が強く地域により言語も違っていて国として纏めにくかった。
中国共産党はこれを打破しようと言語の統一と伝統の破壊を行い、新たに国民としての結束を造り国を纏めようとしたが却ってバラバラになり、国家の崩壊後は伝統的な宗族による結束も国外の漢族にしか残っておらず国内に残っているのは過大な権力欲を持った軍閥の長達だ。
彼らが共通して持っているのは中華の統一の大義でここ4年ほどの間に離合集散を繰り返している。
日本政府は統一されればそれで良し、統一されなくても統一を諦め個々で独立を宣言する勢力が有ればそれを承認する予定である。
そして中華の統一を巡って争っている限りは特定の勢力に肩入れする予定はない。
華僑は世界を巻き込んでシナ大陸の贔屓の勢力に支援を与え統一を促すことを画策したが殆どの国家は自国を纏めることに汲々していて争いに巻き込まれる恐れのあるシナ大陸に干渉する気はない。
世界の趨勢は
「自らの群れも纏めれず世界の安定化に貢献出来ない勢力は支援する価値がない」
「自分で混乱を治めてから出直せ」
「混乱を世界に拡散するな」
である。
華僑に対しては国籍を確認の上
「自国の状況は分かってますか?自国と出身地どちらを優先しますか?自分の群れを間違えてない?」
「祖国を支援したければご自由に。ただしこちらを巻き込むな!」
との返答だ。
支援していると表明した日本は
「支援してますよ。チベット族、モンゴル族、ウイグル族、チワン族、ミャオ族等等群れとして纏まる意思があって実際に纏まっている群れについてはほとんど支援中です。漢族?今のところまともな群れはないですね。人口が多すぎて群れとして纏めにくいのに文字は同じでも言語は統一されていない、軍閥はあちこちで出来ているようですがみんな権力欲が強くて中華の統一を掲げているから混乱が深まるばかりで手の付けようがない、信仰でも何でもいいから群れとして纏めて独立する勢力があれば支援出来るけど中華の統一は外せないみたいでどうしようもないです」
と華僑の思惑とは逆の支援を行っていることを表明する。
内政干渉ではないかと華僑が非難すると
「それを言ったらどの勢力に支援しても内政干渉になって支援できませんよ。日本政府としては内戦状態が少しでも収まってくれればそれで良いんです。台湾みたいな勢力が出てくれば支援するんですけどね。それにしてもよく同族内で殺し合いができますね。あの日以降、殺人には強烈な抑制が掛かっていますよね。死者の情報は上がってくるから魔素生命とは繋がっているみたいだし、抑制を解除する方法の情報もないし、中華の七不思議の一番ですよね。我国では群れに良くないと抑制が掛かって殺人どころか軽犯罪も減少してるのに不思議でしょうがない。中華街の犯罪も減っているから血統は関係なさそうだし、治安が悪かった南米ですら殺人件数が激減してるのに原因はなんですかね?」
と話を逸らされて相手にされなかった。
漢族にとっては統一の大義を掲げていれば殺人は許容の範囲内の事みたいで抑制効果が無いようだ。
日本では防衛行動とか報復であれば群れを守る行為として殺人も許容の範囲内ではある。
戦国時代の日本では戦乱を収める為に戦ってはいるが群れの中での上下関係を定めるぐらいの感じだ。
シナはそもそも違う別々の群れを無理矢理に一つの群れに纏める感じで政争に負けたら皆殺しだ。
群れの基準そのものが日本人と漢族では異なるのではないか?