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15 ある研究者の死

俺はプロテクトスーツを着て飛ぶ魔法の検討をしたり、魔法を使用した核物質の無害化の検討をしたり、天谷師匠やシイャン師匠に魔法や武技の指導を受けたりして過ごしていた。


シイャン師匠に使い魔の魔法を習い、さっそく家の犬を使い魔にしようとしたらすでに妹の綾が使い魔にしていた。

最近は散歩に連れて行くと思ったらそういう事か、当然の様に家の猫は姉の愛里の使い魔になっている。

猫なんて俺が2年前に拾ってきた猫じゃないか!

仕方がないので話だけでもと妹の綾にどんな感じか聞いてみたが「犬とは感じ方が違うから良く分からない」とのことだった。

どうやら5感自体の捉え方が違うため犬からの情報が入っても人の脳がその情報を上手く処理できないみたいだ。

犬は人より嗅覚や聴覚が優れているため当然その情報が人に伝わるのだが人の脳はそれ程優れていない嗅覚や聴覚の処理しか普段はしていないため過剰情報となり、人には痛みとかの別の感覚で捉えられたり、人の感覚の範囲内でしか分からなかったりするのだ。

これらは慣れていくしか対処方法がない。

犬の方はどう感じているんだろう?


使い魔の魔法は人と動物の生体魔法回路を繋げる魔法である。

使い魔として使役する動物は使役する目的に沿って術者が選択して充分に飼い馴らしてから互いの生体魔法回路を繋げて使い魔にする。

この魔法を行使すると繋がった動物の体験情報が人に流れ込むようになる。

これは双方向なので動物の方にも人の体験情報が流れ込むようになる。

この魔法は人と動物の間に信頼関係が無いと上手くいかない。

繋がる事は強制ではなく相手の了承が無いと拒否されるからだ。

繋がった後でも拒否する事は可能なので信頼関係を傷つけるような事をすると繋がりを断たれることになる。

そして信頼関係とともにある程度の主従関係が無いと命令を聞いてはくれない。

まぁ、使い魔を使っての斥候とか監視とかを必要とする状況が普通の日本人にそうそうあるとは思えないので主従関係の方は多少問題があっても支障はない。

飼い主と猟犬とか番犬との間に信頼関係が結ばれていれば使い魔にすると声に出して命令しなくても良いので便利ではある。

人と人でも繋ぐことが可能だが普通の人は他人と常時繋がって体験情報を共有することにまず耐えれない。



そんな感じで俺が過ごしていた初夏のある日、アメリカの研究者が魔法の研究中に死んだ。

その結果、世界中の国で非常事態宣言が出された。

死んだ研究者は魔法だけで核分裂反応が再現できるか検討していて色々試していたのだが上手く行かなかった。

これは世界中の研究者が挑戦しているけど上手く行ってはいない。

まぁ、上手く行くはずがない、魔法では物質は創れない、物質に干渉できるだけだ。

そこでその死んだ研究者は微量のウランを触媒にして魔法を試していたところ、臨界量にすることが不可能な量にも関わらず核分裂が連鎖反応になり核爆発を起こした。

爆発の規模自体は一人の研究者が死亡し研究室が無くなる程度であったが本人の死亡によりこの魔法の情報は世界中に拡散された。

先進諸国は国内の核関連の施設や研究室に警察もしくは軍隊を派遣して常時3人以上を配置するようにして一時的に封鎖した。

空港、港、国境の警備は厳重になりどんなに微量でも核物質を許可なく所持するものはテロリストと判断され国によっては即時射殺可となった。


勇一と隆弘は島谷教授とシイャン師匠に相談して一時的処置でもいいから核物質を無害化する魔法を公表しようとの流れになった。

公表するのは核物質を魔法で一時的に無害化してアイテムボックスに取り敢えず入れてしまい恒久対策は別に考えようと言っていた方法だ。

因みに恒久対策はまだ考え付いていないため、これまでは公表するのを控えていたのだ。

当面の目標としていた一時的な処置として魔法で核物質を放射線と熱エネルギーの発生なしに核分裂させることには取り敢えず研究室レベルでは成功して、アイテムボックスへの回収にも成功していた。

そしてアイテムボックスに入れると核物質に戻ることもアイテムボックスから出して確認した。

ここまでを公表して、恒久対策については全世界の研究者にも一緒に考えてもらうことにしたのだ。

沃土は今迄の研究結果を動画に纏めてあくまで一時的処置であることとその危険性も強調して「これで原子力発電所で事故があってもとりあえずは大丈夫」と宣言してインターネット上で魔法の概念を公開した。

勇一と隆弘は一躍時の人となり俺と沃土は核物質の無害化を優先して俺は飛ぶ魔法については後回しにして暫く過ごすことになった。


そこから先の世界は目まぐるしく動き、世界中で魔法の開発競争が始まって1年も経たないうちに遠隔地から核兵器を無効化する魔法の概念をアメリカの大学院生が公表した。

遠隔地から核兵器を無効化すると言ってもさすがに基地に有って人が管理する兵器については難しいが発射した後のミサイルであれば人が乗っている訳ではないので無効化が可能だ。

その魔法の概念自体は応用が利くため通常兵器を爆発させたりする魔法にも展開できる。

ここで問題になるのが自爆テロには魔法では対処がしにくいところだ。

それでテロリスト対策として空港、港、国境の警備は益々厳重になった。

先進諸国は核物質の魔法による無害化の公開情報を基に更なる魔法の開発と核兵器に対する防護、原子力発電所の防護、原子力事故の対処を進めていた。

核物質は上手く管理しないと対外的には脅威にならないのに自らの脅威には充分成り得る。

核物質は少量なら自爆テロには使えるが兵器としては使い難い物になってしまった。

先進国間では核兵器による脅しは効果を失い核兵器を持つことによって軍事的優位を保っていた国の政府や軍隊の権威は失墜した。


混乱の中国は益々混乱し、核兵器による脅しが対外的には無効になったことで共産党の権威は完全に失墜してしまった。

朝鮮半島は中国の混乱と北側の核兵器が無効化されたことにより、経済的に優越する南側が有利になった状況だ。

南側の政府は日本政府に対し、日本が半島を統一するための援助をすることが当然の様に援助を要求し始めた。

日本政府は半島が統一するかどうかは半島に住む人間が決め半島に住む人間が自助努力で行うべきことであるとして世界的混乱の中で日本にも余裕がないことを理由に拒否した。

中国の混乱に対して「周辺諸国で連携して対処しましょう」と日本政府が働きかけた時に南側の政府は拒否するのみならず中国共産党政府と一緒になって日本を非難したのだ。

これでは日本国内に半島を援助しようと働きかける勢力があっても大多数の日本国民がそれを許さない状況にある。

世界的混乱の中でアメリカの国力が落ちていてアメリカ政府は世界中のアメリカ軍の国内への撤収を決めており、中国は内乱状態で対外的な脅威度も落ちているため、日本列島からアメリカ軍はすでに撤収を始めていて、日本にとって半島は早々どうでも良い地域になっている。

日本人の大多数は「仲間になることを拒否して敵になることを選択したくせに援助しろとか言って、奴らは頭がおかしい」と思っている。

半島からは日本を非難する声が上がっているが、今の日本に頭がおかしい奴らを相手にしている余裕はない。



日本政府は非常事態宣言から1年で非常事態を解除した。

俺は核物質の無害化については一段落ついたと判断して、飛ぶ魔法について研究を再開した。

天谷師匠の弟子として武技の鍛錬は欠かさず遣っているので当初の予定より鍛え上げられた。

うちの大学は魔法による核物質の無害化の端緒を開いた事で注目されている。

農学部の栗原先輩による整形質魔法を使った家畜の品質改良も公表されている。

整形質魔法の人への使用結果についても天谷師匠の弟子の医療関係者の方々が近々公表するようだ。

天谷師匠を隠すために血筋を整える魔法は整形質魔法の名で公表された。

天谷師匠は夫婦揃って大学で囲い込んでいたんだが魔法による核物質の無害化を公表後に政府関係者が大学を訪れて国が秘かに囲い込むことになった。

天谷師匠達の功績については暫くは秘密にするとのことで公表されていない。


天谷師匠は1年近く週に一度、楽しそうに陸上自衛隊の駐屯地に武技の指導に行っている。

指導の初期には左右の脳を別々に魔法で使う鍛錬に良いとの事でデータボックスを使いながらボールに乗って魔法で飛ぶ訓練を行ったと聞いた。

指導が俺達に行ったものと同じであれば生体魔法回路への武技関係の魔法の組み込みもかなり進んで戦闘力も大幅に向上しているはずだ。

特に優秀な人については休日に特別指導を行っていると聞いた。


弟子である医療関係者の整形質魔法の習得は一通り済んでいてそろそろ免許皆伝となり単独での施術を天谷師匠が許可するそうだ。

整形質魔法については俺も一通り習得済みで今は家のペットに施している最中だけど、まぁ俺は医者ではないから今の所は人に整形質魔法を施す予定はない。

そんなわけで整形質魔法については医療関係者の弟子の方々に天谷師匠は伝えた。

「私が免許皆伝した時点であなた方には弟子を採ってこの魔法を伝える義務が生じます。私も師からそう言われました。あなた方に伝えることでやっと義務が果たせます。少しづつで良いので広げて下さい。方法はお任せします。必要なら大学で講義として弟子を採っても構いません」


俺はそれを聞いて天谷師匠にこう聞いた。

「俺も早々弟子を採る必要がありますか?」


「血筋を整える魔法は武技とは別枠だから、君達には武技も伝えるから当分先だよ。術師の弟子でもあるし、少なくとも3年は私達の下で修業して、それから実践して熟して、さらに数年間熟してからかな。飛ぶ魔法の事もあるし、日本は平和だから実践と言っても時間が掛かるよね。自衛隊にでも入るかい?これから海外派遣も増えるだろうし日本にいるよりは熟せると思うよ」


「今の所、自衛隊に入る気はありませんけど。そんなに違いますか」


「武技に関しては自衛官の弟子の方が君達より習得が速いんだ。元々の基礎が彼らの方が出来ていたのもあるけど彼らにとっては生死に関わるからね。術師の方も似たような感じではないかな。まぁ、組織の中で選別されている訳だし使命感もあるみたいだからみんな真剣だよね」


「俺も真剣に修行しているつもりですけど……強くなるのは嬉しいけど個人的な話だからなぁ」


「彼らは志願兵だからね。お隣の国は日に日に状況が悪化しているみたいだし、状況的に切実だよね」


「沖縄は大変みたいですよ。アメリカ軍が撤収開始しているでしょう?いつ武装偽難民が押し寄せるか分からないし、以前は沖縄から基地を無くせとか沖縄に基地はいらないとかデモがあったみたいだけど。今は自衛隊が来るのは当然みたいな感じで、これではまだ少ないとか言ってますからね。デモをしていた連中はアメリカ軍が撤収しない前提で安心してデモをしていたみたいだから、今は怖くて沖縄に行かずに国会とか自衛隊の駐屯地の前でデモをしているみたいですよ」


「戦争反対とか平和憲法守れとかだろう。戦争反対デモは戦争をしている国で遣らないと意味はないし、日本国内の平和を守るために憲法を改正するのに平和憲法守れでは何に抗議しているデモなのか分からない。彼らは何がしたいんだろう」


「日本政府の足を引っ張りたいだけで理由は何でも良いんだと思います。中国共産党政府と同じですよ。中国共産党政府は都市で暴動が激化する前に中国国内で中国人が起こしている暴動に対して日本のせいだと日本を非難していましたから。一部のマスコミが『本当に憲法を守りたくてデモをしているんですか?』とデモの参加者に問いかけたらほとんどの人が『ノーコメント』と答えたそうです。どう考えても昔と違って嘘が付けないからですよね」


「日本は平和だよね~」


「そうですよね~国によっては捕まって刑務所行きでしょう。いまだに許可さえ取ればデモで何を言っても許されますからね」


日本は平和だ、来年には培養肉が販売開始するみたいだし、海外に技術提供する話もニュースになっていたよなぁ。

以前のニュースでは肉塊と言っていたけどネットでは難しいとの意見が多かったしどんなかなぁ?


「天谷師匠は培養肉については上手くいっていると思いますか?魔法を使っているみたいなんですけど」


「何言ってるの?あれは君の父親の関連会社で遣っていて、君の父親が中心になって遣っていることじゃないか」


「え~と。何の話ですか?」


「君は本当に知らないの?医療関係者以外でも沃土君の紹介で同時に弟子になった人が何人かいたんだけど、君の父親の部下だよ。君とは顔を合わせてはいないけど沃土君はよく一緒に行動していたけどなぁ。弟子の農学部の学生何人かはもう君の父親に囲い込まれているし、栗原君も博士論文を仕上げた後は誘いの話を受けるか大学に残るか迷っている所でこの前相談しに来た」


「父は家では仕事の話はしないし、沃土からも栗原先輩からもそんな話は一言も出てませんよ」


「君は中心にいて関わっているのに本当に何も知らないんだねぇ。君の父親が肉の培養を始めた切欠は君が魔法を使って鶏肉を牛肉に変換しているのを見たことなんだよ。君は『牛肉を培養して増やそうとしたのに何か変だ』とかブツブツ言っていたんだろう?君の父親は細胞が死んでいて培養できるはずがないと考えると同時に会社の技術を利用すれば魔法を使って肉の培養が可能になるかもと思いついたそうだ」


「父はあの時、『生きている細胞を使わないと上手くいかないだろう?』と確か言っていました」


「少なくとも君の父親は君が切欠で培養肉を製品化するに至ったわけだ。勇一も君がいなかったら魔法で核物質を無害化するなんて遣り始めなかった感じだし」


「勇一が始めたことに俺は全然関わっていませんよ。沃土は初めから関わっていたけど」


「君は勇一に聞かれたことが有るだろう?『どうして危険なのに魔法で飛ぼうとしてるの?古代人はみんな失敗しているのに』って」


「勇一が成体になったばかりの頃ですね。こう答えたんです『失敗した古代人は科学も何も知らないどうやったら飛べるのか知らない人達だ。俺は人が技術を使えば飛べることを知っているし、調べれば飛ぶ方法も分かる。だから科学知識を利用すれば魔法を使って飛べる気がするんだ。実際にボールを使えば安全に飛べるだろう?まだ不完全だけどな。技術で安全を確保して魔法で飛んだわけだ。魔法は科学技術と併用すればもっと色々出来る様になると思うんだよね』まぁ、理由は受け売りや後付けで本当はただ飛びたいだけなんですけど」


「勇一はそれを聞いて遣る事を決めたみたいだよ。魔法を使えば出来るんじゃないかって」


「へぇ~それは知らなかった。本当はただ飛びたいだけなんですけどねぇ」


「切欠なんてそんなもんだろう。何が人を動機付けるかなんてわからないもんだ」


そんな感じで平和に遣っていたんだが、もうすぐクリスマスのある日、中国でテロ事件が発生して日本では非常事態宣言が出された。


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