14 生体魔法回路への組み込み
血筋を整える魔法を始めてやっと半年経った。
高校はもう卒業で予定通り大学進学も決まり、順風満帆だ。
血筋を整える魔法はこれからも調整するが一段落だ。
背は5cmほど伸び体格は細マッチョの予定が唯のマッチョだ。
服を着ると少し太って見える。
プロレスラーみたいに服を着たらデブよりはマシか。
ちぇ、途中までは細身のボクサーみたいでいい感じだったのに仕方がないな。
元々は細く少しヒョロッとした感じで貧弱だったので良くなったことは確かだし。
あくまで魔法で身体の基礎能力レベルを上げただけで運動をしないと筋肉が衰えるのは同じなので運動は必要だ。
まぁ、俺の場合は不摂生しても以前よりはマシかな。
体を造り込むのは上手く行ったようなので天谷師匠の指示の下でデータボックスの魔法回路を生体魔法回路に組み込む。
データボックスやアイテムボックスは元々世界に干渉するタイプの魔法ではないので組み込むこと自体はそんなに難しくはないしリスクも低い。
データボックスは最初に組み込む魔法としては丁度良い魔法だ。
ただ組み込んだ後で生命エネルギー場にどのような影響が出るか分からないので適切な指導の下行った方がリスクがさらに下がる。
幸い今の所は特に問題ないがこれから1ヶ月は様子見だ。
今まで常時使っていた片側の脳が空いたので何か変な気持ちだが特に身体的な異常はない。
情報を引き出す時に意力は必要なのだがそれは今までと同じだ。
試してみたがデータは今までの纏めたものが保持されていて問題ない。
良し、成功だ。
1ヶ月後にアイテムボックスを組み込むことはもう決めている。
それまでの間、アイテムボックスの魔法を片側の脳で常時使用して使い熟すことになる。
幸い今の所アイテムボックスはあれば便利程度の魔法なので実験の度に止めるため、実験に支障はない。
2ヶ月後に何を組み込むかはまだ決まっていない。
空を飛ぶ魔法は発展段階の魔法で熟練したとは言えないし検討も不充分なので当分は組み込む対象ではないな。
天谷師匠に相談したらその時点で決まっていなければ気を鍛錬して生命エネルギーを強化する魔法かリミッターを解除する魔法が汎用性があって応用が利くそうだ。
どちらも身体に馴染ませながら少しづつ能力を強化する技術なので早めに組み込んだ方が良い魔法だ。
うん、どちらかにしよう。
栗原先輩は両方ともすでに組み込み済みで結果は良好とのことで今は天谷師匠の指導の下で血筋を整える魔法を家畜に施すことに取り組んでいる。
これについては弟子の畜産関係者だけではなく医療関係者の方々も興味を持って協力している。
当然か、彼らはこれを身に着ける為に弟子になったようなものだからな。
血筋を整える魔法については俺も身に付けなければいけないので少しづつ教わっている所だ。
他人に施すかどうかは別にして自身に施された魔法を調節出来るようにしないといけないからな。
因みに生命エネルギーの強化もリミッターを解除するのも魔法を使わなくても出来る。
魔法が使える様になる前の世界で仙術とか武術でその技術は継承されていて実際使える人がいた。
ただ魔法の補助が無いと身に着けるのが非常に難しい技術で名人とか達人とか仙人とかには一部の人しかなれなかった。
魔法を使う事によってこれらの習得が容易には成ったが修行が必要な事に変わりはない。
習得した後は使うために魔法は必要ないが力を維持するためには魔法を使った方が楽だ。
まぁ、一旦身に付けたら少し位衰えても身体が覚えているから習得し直すよりは楽に元に戻るんだけどね。
大学に入学した訳だが俺は高校から大学にそのまま上がるだけだったから入試とかは中学に入る時に1度経験しただけだ。
去年から大学受験は混乱していて入試の頃には受験生のほとんどが成体で今までの試験なら満点続出になるので今年からはほとんどの大学が試験の最後に小論文を入れている。
暗記科目においては試験の部分は勉強をしてきたかどうかの確認の意味合いしかない。
小論文も今何に興味があるかとか将来何になりたいかとか試験の内容には関係ない問に答えさせて終了後に書いた内容が嘘じゃないことを本人に直接確認して嘘だったら落とすとかおかしなことをしている。
大学側としては何とかして落とす人を決めないと全員合格には出来ないからな。
去年は時間が無くて大学側が何も対応できなかったので、今まで通りの入試が行われた訳だが試験が出来たからと言って全員合格にすることも出来ず、幼体の人は圧倒的に不利な状態なので不満が続出、結局最後は前年度の合格ラインを参考に合格ラインを設定し暫定合格にして後は抽選みたいな大学が殆どになった。
今年も最後は去年と同じ様に抽選みたいな大学が多かった。
高校入試の方がもっと問題でかなりの幼体がいるからもっと揉めている。
うちの大学は殆どが系列高校からそのまま上がってくるだけで他は推薦入学のみとなった。
お役所とは揉めたみたいだけどじゃあどうすれば良いんだとなるとお役人では結論が出せない。
お役人は以前の様に遣ってくれと言うだけで大学側は以前の様に遣りたくても遣れないから揉めているんだからどうにもならない。
入試なんかしたら殆どの受験生が満点をとるんだから選別で揉めるに決まっている。
それにどうせ満点をとる能力があるなら推薦でも同じではないか。
大体、少数だけど幼体の扱いはどうしたらいいのかな、推薦なら何とかできるけど入試だと殆どが不合格になるよ。
他にも多数の私立大学が同じことをして政治問題化したが結論は中々でない。
入試制度自体が破綻しているのだ今のままの法律で対処できるわけがない。
義務教育だって幼態期はともかく変態期には対処できてはいない。
大学入試を人がほぼ確実に成体になる19歳以降にしても選別で揉めるのは目に見えている。
結局は1大学で対処できる問題ではないので政府の方針が決まるまではこのままでとなった。
どうなるんでしょうね。
それで気が付いたら天谷師匠が夫婦そろって大学に籍を置き魔法関係の職員になっていた。
地位とか扱いはよく分からないけど権藤先生を中心としたグループが出来て定期的に会合を開いている。
沃土と権藤先生が動いて天谷師匠夫婦を囲い込んだみたいだ。
天谷師匠も武術関係以外の弟子が増えすぎていたから話に乗ったみたいだ。
天谷師匠夫妻は家業を優先して空いたときに大学に来て教えることになった。
俺達の様に天谷師匠の家に通っていた者についてはそのまま通っても良しで今後の弟子については主に大学で教えることになった。
天谷師匠夫妻は武術関係は家で教えたいようで大学では教える気が無い。
大学側の腹積もりは世間が混乱している間に魔法関連で実績を上げて生き残りを図るようだ。
今までの学問では上がたくさんいるが魔法関連はこれからだからな。
うちの大学は理系よりの総合大学で理学部・工学部・農学部・社会学部がある。
以前から、社会学部以外からは何人か天谷師匠の弟子になって通っていた。
医学部が無いのに医療関係者が天谷師匠の弟子になったのは沃土が俺の父親の伝手でコンタクトを取ったからみたいだ。
もちろん1高校生だけでは無理だから権藤先生も1枚噛んでいるんだが俺は全然知らなかったよ。
今の所、魔法関係の法律はなく、血筋を整える魔法を使っても国が取り締まる方法はない。
でもいずれは医療行為又は医業類似行為にはなるだろうことを見越して権藤先生が動いたみたいだ。
大学側は既に魔法学部の設立を予定していて、取り敢えず来年には各学部に魔法○○研究室とかを色々作るみたいだ。
権藤先生は今の研究室は准教授に任せて新しく作る研究室に移るつもりでいる。
実際は看板が変わって本人は動かず、動くのは名前だけ渡された准教授になるけど。
研究室が増えて席が増えることで准教授から教授になるから文句はでないんだろうなぁ。
勇一と隆弘のテーマである核物質の無害化については少しづつ進展している。
俺も時々ミーティングに参加して魔法について意見を出したりしている
核物質は不安定核を持ち核分裂反応により2つ以上の軽い元素の物質になる。
この時に発生する放射線が人体に悪影響を与えるので問題になっている。
放射線には粒子放射線と電磁放射線の2種類あり、連鎖反応は放出された粒子放射線のうちの中性子が他の核物質に吸収されることで新たな核分裂反応を起こすことが指数関数的に増加する状態のことをいう。
この連鎖反応を制御することで爆発するようにして利用するのが核分裂爆弾で、この連鎖反応を制御することで発生する熱エネルギーを利用するのが原子力発電だ。
核物質の無害化を考える場合、核物質に対して下手に分解する魔法を作用させると核分裂を促進して被害が大きくなる。
普通の毒であれば魔法を使って分子レベルで分解すれば化学的性質も変化して無害化することも可能だがそのままでは核物質に対しては使えない。
単純に考えると魔法で核分裂を促進させるなら発生する放射線と熱エネルギーを何とかしないといけない。
ただし魔法で核分裂させた場合どうなるかは分からない。
危険なので下手な実験は出来ないしな。
以前はここらあたりで勇一と隆弘は手詰まりの状態になっていた。
シイャン師匠も交ざって検討したところ、魔法は世界を騙す行為なので上手くすれば放射線と熱エネルギーの発生なしに核分裂が可能かもしれないことは分かった。
ただしこの場合は確実に元に戻ろうとするので騙し続けないといけなくなる。
放射線と熱エネルギーが発生すれば核分裂で完全に別物質になっているがそれらの発生が無い場合は魔法で世界が騙されている状態なので元の状態に戻ろうとする。
一時的な処置としては良いのだがこのままでは恒久対策としては採用できない。
有用ではあるので慎重に実験してこの魔法の作成を進めることになった。
別の魔法と併用すれば恒久対策に利用できるかもしれないしな。
俺は一時的な処置として無害化した物質についてアイテムボックスに収納することを提案した。
アイテムボックスに入れれば時間経過は無視できるから良いと思ったんだ。
でもシイャン師匠に条件付きで使用可にされた。
魔法で騙された状態の物質をアイテムボックスに入れると世界と切り離されることにより元の物質に戻ってしまい、取り出す時には騙された状態ではないそうだ。
アイテムボックスから物質を取り出さなければ問題ないが魔法の行使者が死ねば世界に戻されてしまうのであくまで一時的な処置で恒久対策足り得ない。
やはり恒久対策として必要なのは核分裂反応で発生する放射線と熱エネルギーの無害化だ。
これが出来れば問題は解決である。
核物質が少量であれば核分裂で発生する放射線と熱エネルギーも少ないので既存の魔法で対処可能との結論が出た。
核分裂を促進して出来た元素と粒子放射線はアイテムボックスに収容してしまえば良い。
電磁放射線は魔法で波長を変えてしまえば唯の光か電波に出来る。
だから体内被曝も核物質が少量であれば魔法で対処可能だ。
問題なのは大量の核物質の処理である。
まず一時的にアイテムボックスに収容して核物質の拡散を防ぐ。
この前段階として前述したように魔法で一時的に無害化した方が取り扱いが楽だ。
一時的な処置として魔法で核物質を放射線と熱エネルギーの発生なしに核分裂させることを当面の目標にした。
アイテムボックスは魔法回路で亜空間を保持しそこに物を入れる、物を世界から隔離する魔法である。
物をアイテムボックスに入れると世界の理からも隔離され物が魔法で騙されたことも無かった事に成る。
実際の所、アイテムボックスの亜空間で物質がどんな状態にあるのかは分かっていない。
分かっているのは取り出した時に入れた時と同じものが出て来る事だけだ。
アイテムボックスに生物を入れることが出来ないのは入れようとするとアイテムボックスの魔法回路と生物の生体魔法回路が反発するからだ。
アイテムボックスが魔法である以上、生物は生体魔法回路により保護されて魔法に掛かり難い。
去年はボールの製品化と併行して行う予定だった増員がスケジュールの前倒しで間に合わなくなり、俺達が夏休み明けまで色々なところに駆り出されたが今年のプロテクトスーツの製品化は何とかなるようだ。
ダンサー達の魔法で飛ぶアクロバティックな動画も上がったが去年ほどのインパクトはない。
去年以降は似たような魔法で飛ぶ動画も色々上がっているから仕方がないな。
実用的なところではダンサー達が舞台で色々な魔法の技術を公開して話題にはなっている。
動画公開後はダンサー達との接触禁止が解けたので俺もいろいろ教わった。
後はワイヤーアクションがワイヤーなしでも出来るようになったことぐらいかな。
この魔法は特撮物では重宝すると思う。
俺の生体魔法回路への魔法の組み込みもスケジュール通り順調に進み、体の造り込みも問題ないのでそろそろ簡易なプロテクターだけで飛ぶ魔法を試そうか思案中だ。
ワイヤーアクションレベルであれば今でも可能だが空を自由に飛ぶレベルではまだない。
空を自由に飛ぶのは生体魔法回路に組み込まないと無理なんだけどその前に空をある程度まで飛べるように意力魔法を使い込まなくてはならない。
そして生体魔法回路にどのような魔法を組み込むか決めなくてはいけない。