11 左右の脳の使い方1
権藤先生には魔法回路を維持する方法が見つかったことと天谷師匠のことを話して弟子入りを勧めたところ、以前に沃土から聞いて興味があったみたいですぐに弟子入りした。
岸さんも製品開発部の若手2人を連れてきて弟子入りさせていた。
権藤先生・天谷師匠・沃土の三人は魔法全般についてよく話している。
天谷師匠の基本的な科学知識は行方不明前のレベルで専門家から魔法に応用出来そうな知識を得るのは楽しいみたいだ。
確かに神様情報があっても解析して理解できなければ応用できないから纏まった知識を持った人から学ぶことは重要なことだ。
だから俺達も天谷師匠の魔法の実践経験と知識を学びたくて弟子入りした訳だ。
血筋を整える魔法なんて神様情報にはあったけど俺は解析も理解もできなくて天谷師匠に弟子入りして何とか理解の入り口に立つことが出来た。
魔法回路を保持する方法に目途が付きそうなのも天谷師匠に弟子入りしたおかげだ。
沃土なんて初めは胡散臭いなんて言っていたのに時間が空くと天谷師匠のところに来ている。
でも今のところ天谷師匠がどうやって魔法についての知識を得たかは謎で胡散臭いままだ。
3人が魔法全般について話しているのを聞いて幼体がなぜ魔法を使えないのか理由が分かった。
幼体は生命エネルギーが弱く且つ成長過程にあるので生命エネルギー場が不安定である。
人は意力で魔素の流れを操作して魔法回路を造るのだが生命エネルギーが弱いと意力が弱くなる。
また生命エネルギー場が不安定だと生体魔法回路に魔素の流れを認識する回路が不完全にしか形成されないため魔素の流れを認識できない。
幼体は意力が弱く且つ魔素の流れを認識できないため魔法回路は造れない。
同様に幼体が神様との繋がりを認識せず神様情報が使えないのは生体魔法回路の神様に対する受信回路が不完全にしか形成されなくて受信した情報を無意味な雑音と認識するからだ。
血筋を整える魔法は身体の成長に影響を与えるために幼体の生体魔法回路に組み込むと成体になるまで定期的なチェックを行い適宜に調整する。
気の鍛錬のための魔法は固定化する魔法で生体魔法回路に組み込む必要がある。
幼体の内にこれを組み込むと生命エネルギー場を弄ることになるので身体の成長にどんな影響を及ぼすか分からない。
だから魔法を使った気の鍛錬による生命エネルギーの強化は幼体の間は施さない。
他の生体魔法回路に組み込む魔法も同様に身体の成長を優先して幼体には施さない。
成体の俺が体を造った後で気の鍛錬の魔法を生体魔法回路組み込む事になっているのも同じ理由だ。
天谷師匠は「君は成体だから血筋を整える魔法と気の鍛錬の魔法ぐらいは併行して組み込めないこともないけど分けてやることにした。少しでも安全な方が良いから。それに自分で使い熟した魔法を組み込んだ方が生体魔法回路に馴染み易いんだ」と言っていた。
気の鍛錬の魔法は既に倣って毎日行っているけど生体魔法回路に組み込んで常時発動にするかしないかで体への影響が違うみたいだ。
天谷師匠が「冬休みに子供たちをボールに乗せて魔法で飛んでみたい」と言ったので田んぼでボールを飛ばすことになった。
ボールは岸さんが会社の研究所にあった評価用の最新製品の予備を実験用として持ち出してきた。
俺と岸さんはこれ幸いにと天谷師匠の生体魔法回路に飛ぶ魔法を組み込むことを提案したが却下された。
「飛ぶ魔法と言っても人によって違うだろう?まず普通に魔法で飛べるようになってからそれをどのように組み込んだら使い勝手が良いか考えて組み込む必要がある。人の考えた魔法なんて参考にしかならないからいきなり組み込むなんてできないよ」
「そうですよね。魔法は自分で使い易いように造るものですもんね」
「そうそう。だから色々な魔法を試して自分に合った魔法を見つけて使い込んで熟練して、組み込みを検討するのはその後だ」
「いつ頃に組み込めるようになりますか?」
「君達は飛ぶ魔法に関してはもう熟練しているのかな?でもまだ体は造っている最中だ。俺は逆に体はこのままで良いとして飛ぶ魔法についてはこれからだ。俺が生体魔法回路に組み込むとしても君達と同じぐらいの時期なると思うよ」
どう考えても飛ぶ魔法を生体魔法回路に組み込むのは俺が大学に入ってからだ。
こればかりはどうしようもない。
俺が一度だけ天谷師匠とボールに同乗して飛んでみせると天谷師匠はボールに乗って飛ぶのは直ぐに出来るようになった。
「あぁ、思っていたより簡単だ。自分が武技で使っている魔法が応用できる」
「そうですか?これでも色々考えて結構苦労したんですが」
「それはどんな魔法でも最初に考えた人はみんなそうだ。特に君達は魔法については碌な体験の蓄積もなく始めたんだろう?仕方ないよ」
「でも始めたころは飛ぶ魔法は危険だとかいう情報ばかりでしたよ。まぁ、危険でしたけど」
「それは仕方ないよ。古代魔法人の情報を見ても飛ぶ魔法に失敗して死んだ人の情報しか出ないだろう?神様情報を調べても危険だという情報しか出てこない。殆どの人はそこで諦めたとゆうか別に魔法を使わなくても飛ぶ方法はあるから追及するのを止めたんじゃないかな」
「ウイングスーツやハンググライダーに魔法を応用する人はいましたよ」
「それは魔法を飛ぶための動力や補助として使っているのであって別に魔法でなくても良い」
「まぁ、そうですね。魔法を使わなくても飛べるんだから飛べて当たり前だと思っていますから。それに俺は生身で魔法を使って飛びたい訳ですから道具に飛ぶための機能があるのは趣旨に反します」
「普通はそこで飛べるんだからいいじゃないかと考えるか。飛ぶ方法はあるんだし、危険だから止めておこうと考える。そして君のような少数の人達が拘って挑戦する」
「いやでもネットでは魔法を使って生身で飛んでみたい言っている人は結構多かったけど」
「それは言っているだけだ。プロ野球選手に成りたいと子供が言っているのと同じだ。ほとんどの者は憧れているだけで実行は伴わない」
「そういえば周りを見ても生身で飛ぶ事に拘っているのは俺だけですね。岸さんもプロテクトスーツで上手く飛ぶために来ている訳だし。沃土は魔法の仕組みに興味があるからだし。一緒に実験した仲間も別のことに興味が移っているもんなぁ」
「そうだろう。そんなもんだ。俺だって君が技術を確立しなければボールに入って飛ぼうとなんて思わなかった。生身で飛ぶ事だって君が弟子でなければ君が技術を確立してから検討したはずだ」
「でも弟子にならなかったら体を造る段階で行き詰って、魔法回路を維持することも生体魔法回路の事を知らないから行き詰って、技術が確立するにしてもだいぶ先になったと思いますよ」
「うん、俺もそう思う。君を弟子にしなかったら医療関係者等の弟子がこんなに急に増えることはなかった。血筋を整える魔法も生体魔法回路の事も世間に拡がるのが遅くなっていたと思う。俺はこの田舎から徐々に広まっていけば充分だと思っていたからな」
「そうなったら俺は生身で飛ぶ事は棚上げしていたと思いますよ。今頃はまだ体を造る方法を考えて古代魔法人の情報を解析しているか魔法回路を維持しようとして色々試していたかな?魔法回路を自立させるとか考えていましたから」
「それはそれで面白かったかもしれないね。前に話したと思うけど魔法回路を自立させるとは意識を持たせて魔素生命にすることだ。自立した時点で魔法回路を維持するのは魔素生命の意志になるから人は魔素生命には干渉を出来なくなる。持たせた意識レベルによっては指令すら聞かない。武術家は使わないけど術師なんかが式神とか言って使っている。監視とか簡単な伝令とかに使っていたかな。でも面倒なんだよ。魔素生命は他者とも繋がれるからそれを防ぐために色々しないといけないしね。あと魔素生命は魔法を使わないから飛ぶ魔法には使えないと思うよ」
「魔素生命が魔法を使わない事は初めて聞きましたけどなぜでしょう?」
「魔法回路は意力を使って魔素の流れを操作して作る。意力は生命エネルギーに意志を乗せて出来る力だ。魔素生命は意志を己の魔法回路を維持することに使っているから別の魔法回路を造ることは出来ない。自身の魔法回路で世界に干渉するのにも意力が必要だけど意志は魔法回路を保持することに使っているから干渉出来ない。繋がっている者の生命エネルギーを使うとしても魔法回路を保持するために修正することぐらいにしか使えない」
「でも人は魔法回路の維持と干渉を同時にしていませんか?」
「君は魔法回路を維持していると思っているけど君の場合は片側の脳を使って魔法回路の作成と世界への干渉を交互に遣っているんだ。連続しているから維持していると感じているだけだ。この場合は魔法回路は世界へ干渉するたびに霧散しているから魔素生命がこれをやると消えてしまう。以前君は魔法回路を意力で維持する話をしていたけど維持するだけなら意志だけで出来る。仕組みは分からないけど魔法回路を維持するだけなら意志か生命エネルギー場のどちらかがあれば維持できる」
「そうなんですか。君の場合はと言っていましたが違う遣り方もあるんですか?」
「左右の脳の意志を魔法回路の維持と世界へ干渉するための意力に分けて使えば出来るけど。でも君は片側の脳の意志をデータボックスの魔法回路の維持に使っているから今は出来ない。魔素生命も意志は一つしかないから無理だな」
「あぁ、それでかデータボックスは簡単に維持できているのに他の魔法は維持するのが難しいなとは思っていたんですよ。干渉対象の有無で違うのかと思っていたんですが………ふと思いついたんですが生体魔法回路を魔素生命にすることもできると思うんですけどどうなりますかね」
「それは過去の情報を調べたら良い。今のところ普通に魔素生命が出来るだけみたいだけど中には生神様みたいに成ろうとした人もいたみたいだから。でもそれは術師の領分かな?生体魔法回路はその元となる生体と生命エネルギー場に常時干渉している。武術家はそれを利用して体を鍛えたり、技の威力を上げたり多彩にしたりしている。術師によると個々の生命エネルギー場は生態系のエネルギー場に繋がっているから生体魔法回路も生態系の魔法回路に繋がるとか言っていた。飛ぶ事に関係するとは思えないけどね」
「それはあまり飛ぶ事に関係するとは思えませんね。因みに術師の方とは会うことが出来ますか?何か参考になる魔法とか知っているかもしれないので話してみたいんですが」
「あぁ、別にいいけど。術師と言っても式神と使い魔を使役するぐらいだよ。家の奥さんだけど」
「えっ、奥さんも武術家で女子を教えているんじゃないんですか?」
「うん、武術家が本業かな?術師としてはまだ中級者にもなっていないはずだ。話をしたいなら話しておくけど」
「宜しくお願いします。沃土も一緒でいいですか?興味があると思うので」
「良いよ。他にも話したい人がいれば弟子なら別に構わない。ただ術師としての弟子ではないから何でも聞けるわけではないと思うよ」
「術師の弟子になることは出来ますか?」
「どうだろうマスターじゃないからな弟子は取れないはずだけど。でもマスターはいないからな。その件も話しておくよ」
「宜しくお願いします」
術師とか式神とか使い魔とかなにか話がどんどん胡散臭くなってきた。
でも天谷師匠は嘘は言っていない、これは確かだ。
天谷師匠絡みの胡散臭い話は全て棚上げにするのが一番だ、これも確かだ。
胡散臭いかどうかは置いといて役に立ちそうな情報を少しでも多く手に入れることが重要だ。
沃土には天谷師匠と話した内容を伝え「弟子入りできるかどうかは分からないけど術師とかの話は胡散臭くて面白そうだろう?」と言っておいた。
「天谷師匠とはよく話しているんだけど術師とかは初めて聞くなぁ。生体魔法回路への組み込みと魔法の維持への応用も修から聞いたし、これなんて血筋を整える魔法の生体魔法回路への組み込みの話は俺が先に聞いてるのになぁ。どうしてだろう?」
「それは沃土が天谷師匠と話す時に聞きたいことを明確に話して聞きたい話が終わったら次の聞きたいことに話を移すからだ。俺と話す時みたいに話が逸れても合わすようにすれば天谷師匠の話も色々な方向に話が飛ぶからこんな話も出てくる様になる」
「それは難しいな。話している最中にも聞きたいことが出て来るんだ。どうやったらそんなことが出来る?」
「話している最中に聞きたいこと出て来るのは俺も同じだと思うけど何故だろう?」
『俺が飛ぶ魔法絡みの事しか頭にないからかな?違うな、俺も飛ぶ事に関係なくても興味があれば聞くよな。情報の取り方が違うのかな?沃土は魔法の分析や解析に興味がある。俺は魔法の応用に興味がある。だから何か違うんだ』
「考えたんだけど沃土と俺では興味の対象と視点が違うんだ。沃土は魔法の分析や解析に興味があるんだろう?俺は魔法の応用に興味があるんだ。特に今は飛ぶ魔法への応用だ。何かの魔法の話が出ると俺は飛ぶ魔法に応用できることはないかなとかどうしたら応用できるかなとか考えながら話しているんだけど沃土はその魔法についてどうしてそうなっているのか考えながら話すんだろう?沃土は対象を絞り込むように質問して、俺は対象を広げるように質問しているんじゃないかな」
「あ~きっとそんな感じだ。俺は天谷師匠が魔法全般について俺より知識があるから天谷師匠が知っている前提で疑問点を聞き出す感じだ。修は相談する感じだよな。天谷師匠も飛べなかったからな。これは今のところどうしようもないな。魔法についての知識量が全然違うからなぁ。そうだ、勇一と隆弘の遣っている実験の相談でもしてみようか。これなら天谷師匠も出来ないだろう」
「勇一の実験て魔法を使って核物質を無害化するってやつ?隆弘も一緒にやってるの?」
「うん、勇一が誘ったんだ。2人とも親戚が原発事故で逃げてきた人みたいで関心があったみたいだ。島谷教授も乗り気で勇一を連れて行って紹介したらすぐに始めた」
「隆弘も一緒なのか。放射能とかだったら術師の方かな?なんか毒とか扱っていそうな感じじゃないか」
「そうだ2人とも誘ってみようか。武術には興味が無いみたいで誘っても来なかったんだよな。術師なら来るかも」
「沃土が誘っても来なかったんだ。勇一は一度誘ったけど確かに興味無さそうだった。誘うだけ誘ってみたら。天谷師匠は核物質の無害化の話をすれば弟子入り出来ると思うから。そうだ天谷師匠の奥さんって知ってる?俺、見たこともないんだけど」
「俺も会ったことが無い。栗原先輩情報だと美人の外国人だって話だけどそれ以上は分からない」
「へ~そうなんだ。確かもう子供もいたよな。2人だっけ」
「女の子2人だよ。会ったことないけど」
「そうだ、冬休みに入ったら田んぼで子供たちを乗せてボールで飛ぶんだけど沃土も来る?」
「俺は日程が合ったら行くよ」