表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/59

10 生身で飛ぶために

体を造るのに卒業間近まで掛かることになったのでその間はボールに代わるものが何かできないか考えたり、勇一が何をやっているか覗いたりしていた。


生身で飛ぶ場合、浮くのに擬似重力を使うのは良しとして、動く力とバランスをとるための力をどうするかだ。

人間の形状に近いものとして関節球体人形を用意していろいろ屋内実験することにする。

魔法で色々な箇所に擬似重力を掛けて浮いた状態にして動かす方向に擬似重力を掛ける。


まずは動画の再現実験、人形全体に均等に擬似重力を掛けて浮かせたり動かしたりを試みる。

これは動画でウケた俺が転がったのと同じ魔法を人形に掛けた状況だ。

無風状態の屋内なら普通に動く、動画の転ぶ前の俺と同じだ。

そこで人形の正面から人形の足元に風を瞬間的に当てて動きを見る。

動画では足が地面に擦って転んだので足元に風を当ててみた。

人形は複雑な回転をしたまま進行方向に進む。

動画では転んだがこれは自身の回転で集中が途切れて魔法を維持できなくなったためだ。


『再現成功かな。最初に転んだ時と同じ感じだな。自分で浮くとふわふわした感じでなんか不安定なんだよな』


人形の頭部に擬似重力を掛けて浮かせたり動かしたりを試みる。

擬似重力は頭だけに掛かっていて、首から下は首で頭にぶら下がっている状態だ。

当然だが頭部が先に動いて他は引かれて動く、速度が遅ければ問題ない。

そこで色々動かしてみたが首に掛かる負荷が凄そうだ、ずっと首つり状態だし、首が捩れる様な回転をしている。


『ちょっと無理だな。鍛えたとしても首が折れそうだ』


人形の頭部・首部・胸部に擬似重力を掛けて浮かせたり動かしたりを試みる。

擬似重力は頭部・首部・胸部に掛かっていて、胸から下と両腕が胸にぶら下がっている状態。

人形の動きは頭に擬似重力を掛けた時と似ているが重心が胸の首近くで首に掛かる負荷はずっと低そうだ。


『下半身と両腕が重力で下に引かれるから上下が定まって安定する感じだ』


他も色々と試してみたが両腕と両脚は重力を掛けたままの方が操作しやすそうだ。

後は首の保護のためのプロテクターを一応は考えておいた方がよさそうだ。

『頭・首・上半身を覆うような感じのプロテクターを作って、プロテクターに魔法を掛けて飛べば見た目は人がそのまま飛んでいる感じにはなるな。』

『プロテクターに人がぶら下がる感じだから屋内であればボールと同じように飛べるようにはなるかな?立ったまま空中を動く感じかな?』

このプロテクターについて沃土に相談したら、すでに似たようなことをやっている人達がいた。


「詳しくは岸さんに聞いてみると良い、岸さんの所属する研究所で似たようなことを遣っている人達がいる。確か着ぐるみみたいなプロテクトスーツを作って飛ぼうとしているはずだ。最初はウイングスーツで試したみたいでそれだと魔法は飛ぶための補助になるから方向性が違うなとなったみたいだけど」


「ウイングスーツは滑空する機能が付いていて確か翼タイプのやつに推進器としてジェットエンジンを付けて飛ぶことが出来るはずだから魔法を使えば普通に飛べるんじゃないかな。でもあれは見た目からして飛ぶ機能が付いているからなぁ。岸さんに聞いてみるよ」


岸さんに聞いてみたら考え方としては俺と同じ感じ、ただ遊具として考えているので普通の人が安全に遊べるように着ぐるみみたいにして全身を保護することにしたみたいだ。

俺は最終的には簡易なプロテクターだけで飛びたいなと思っているから上半身を保護するプロテクター+身体能力の向上にしたけど製品として安全優先で作るなら着ぐるみタイプが先かな?

でもプロ仕様みたいな感じで需要があるかもしれないので岸さんに人形の実験動画を見せて構想を説明しておいた。

人形の動画と構想は沃土にも渡してあるし、魔法を使って飛ぶ関係は沃土が纏めて権藤先生を通してメーカーに送るはずだからこれで良し。

それで呼び出されて休み明けに俺と沃土と岸さんの3人でスポーツ用品メーカーの研究所の製品開発部に行くことになったのだが特に目新しいことは遣ってないと思うし、沃土が纏めて報告していて問題ないはずだけど………

「試作品のプロテクトスーツを着て魔法を使って試して下さい」との話だった。

まず気になっていた首の保護は良さそう、頭部・胴体の保護も問題ない、腕と脚は保護はいいけどこれでは動き難くてだめではないかな?

これは安全面に気を取られてか凄く扱いづらい、膝も腰も腕も軽くしか曲がらない、まともに歩けないし転んだら起き上がれない気がする、飛ぶから良いと考えているのか?

水たまりの上にでも落ちて転んだら溺れて死にそうだ。

飛んでみた………本当に人形が飛んでいるみたいな感じでしか飛べない。

実験だからこれでいいのか?

でも全然楽しくないぞ、これならボールに乗って飛んだ方が楽しい。

拘束衣を着ているみたいで体が不自由だ、これではスーツ型にした意味がない。

安全を気にするなら、床にスタント用のマットでもおいて対処した方が良くないか?


「岸さん、これ着て飛んだことありますか?全然楽しくありませんよ。実験用だからかな?」


「今日初めて実物を見た。3Dモデル画像は見たけどもう少し動き易くしてあると思っていた」


「暑いし、数回使ったら臭くなりますよ。他人が着たのを遊びで着る気になるかなぁ?一人で脱げないからトイレにも行けませんよ。これなら俺はボールで遊びますよ。スーツ型にするメリットもあまりない気がするけど……少なくとも手足は自由に動かないと駄目だと思いますよ」


「傍から見ていると手足もあまり動かないし人型のバルーンが飛んでいる感じかな。人が飛んでいる感じではないな」


「これ製品開発部の人は試してみたんですか?やっぱり実験だから問題ないのかな?」


製品開発部の人とも話したけど上司が安全面を気にしていて「10mの高さから落ちても大丈夫にしろ」とか口を挟んできてこうなったみたいだ。

その上司も初めは君たちに任せるからと言っていたのがある日を境に安全安全と五月蠅くなったらしい。

製品開発部の人も仕事だから仕方なく着ているそうでやっぱり楽しくないからこのままでは製品化は難しいと俺が感じたようなことを理由に少し安全面を緩めた案を出しても安全を盾に拒否される、にも拘らず製品化のスケジュールは変わらずに進めると言っている。

それでこのままでは使えないのは分かるけどさてどうしようかと考えた時に俺から動画と構想が出てきたから「第3者の意見を」となって俺達がここに来ることになった。

俺は社員でも部下でもないから試作品について好き勝手に意見を言った。

「こんな製品は絶対に売れない」

「大体飛ぶのは危険なことなんだ。スカイスポーツは危険を楽しむためにするんだ。その中で出来得る限り安全にするための製品開発だ。楽しむのを犠牲にして安全を優先しすぎるのは本末転倒だ」

「ウイングスーツだってスカイダイビングだって何人も死んでいるそれを踏まえてみんな楽しんでいるんだ。それが嫌な人はやらない」

「安全を優先する人はボールに乗って遊べば良い。安全に楽しむためにボールを考えて製品化したんだ」

「ボールを初級者用としたらスーツは中級者用なんです。ボールより少し位危険でも扱いが難しくても楽しければ遣りたい人はいて需要があるんです。でも安全でも楽しくないと誰も遣りません」

「飛ぶ魔法はボールで飛べれば基本は身についていると考えてスーツはボールで飛べることを前提に飛び方を提示して危険性も注意喚起すれば良い」

「初心者はスタント用のマットかサーカスで使う落下防護用のネットの上でも飛んで練習すれば良い。遊戯施設も同じようにすれば問題ない」

「危険性を注意喚起するためには製品の取り扱いの注意事項を契約書にでもして書いて売ればいい」

「スーツとは別に緊急用のバルーンやパラシュートを開発しておけばある程度は事故が防げる」

「私が上半身を覆うようなプロテクターを考えたのは出来るだけ生身に近い形で飛びたかったからで最終目標はそれもなしに飛ぶことです。そのために魔法を使って体を頑健にすることも始めています」

「とにかく飛ぶ魔法を楽しむための製品を開発したいなら今のままではだめです」

「災害対策用とか用途が違えば安全面を強化する必要もあるでしょうがそれにしても自由度が無さすぎます。災害用と言えばボールは硬質タイプなら津波の時の緊急避難用に製品化されている球状のカプセルに応用できないか考えたことがあるんです。でも飛ぶ必要はないし、魔法でボールが動かせればカプセルも動かせるから態々新しく作る必要はないなと思い止めました……すみません話が逸れました」

「とにかく飛ぶ魔法を楽しむためには今のままではだめです。特に手足が不自由で拘束衣されてるみたいです」

俺は好き勝手なことを言った、製造物責任とかにも関係ない立場だし法律とかもよく知らないからな。

あまり変なことを言うと後で沃土君に関連した法律を纏めて渡される。

でも小神様で覚えることは出来ても理解できるとは限らないし、応用が出来るとも限らない。


俺の話が利いたのかどうかは分からないけど安全性は別の方法を併行して考えることとしてプロジェクトを進めることになった。

俺は飛ぶ魔法に関してはメーカーと契約しているので岸さんを通して色々手伝うことになった。

でもスーツ型で飛ぶ魔法は娯楽施設はボールで飛ぶ事の延長でいいとして屋外で自由に飛べる魔法は出来ていない。

飛び続けるためには魔法回路を維持しないといけないけどこれがすごく難しい。






天谷師匠のところには週一で通っているのだが最近は岸さんの車に同乗している。

岸さんは俺が魔法で飛ぶための体を造るために通っているのを知って自分もそうしたいと一緒に通うことになった。

岸さんが弟子入りした頃はまだ近所の子供たちと大学の農学部の人が5人ぐらいと俺と沃土ぐらいしか弟子はいなかった。

その頃は稲刈りが済んでいて、俺は月曜に大体通っていたのだが沃土は時間が空いたら通っていた。

それが通い始めは近所の子供を除いたら栗原先輩と俺ぐらいしか指導を受けていなかったのが沃土が弟子入りしてから徐々に増え始めて冬になる頃には10人ぐらい一緒に指導を受けるようになっていた。


「天谷師匠、なんか人が増えましたねぇ」


「沃土君が知り合いにいろいろ話をばら撒いたみたいで血筋を整える魔法に興味を持った人が弟子入りしてきて最近は毎日こんな感じだよ。一寸増えすぎたので弟子にするのを制限している。武術を教えるのが本筋なんで魔法重視の方は後回しだね」


「でも話してみたけど武術よりも魔法に興味のある人ばかりでしたよ」


「そうなんだ。医療関係とか遺伝子工学とか品種改良とかに応用したい人が多いんだよ。血筋を整える魔法自体は知りたい人に教えるのは俺の務めなんだけど。武技関係ももう少し教えたいんだよ」


「栗原先輩も家畜の改良に応用する話をしてました。俺は武技関係も鍛錬するつもりですよ。武技関係の魔法にも興味がありますし、沃土は魔法全般に興味があるから続けると言ってましたけど」


「君達は良いんだ。弟子の中では熱心に修練している方だ。後は子供たちはみんな熱心なんだけど。武術家とか格闘家とかの感じの人が全然弟子入りしてこないんだ。体育会系だとスポーツ工学とかの人が2人だったかな。その内の1人は柔道家だから有望そうだけどどうなるかなぁ」


「毎日来ている人もいるんですか?」


「5人ぐらいは毎日来ているよ。週3回の人も2人いるかな。子供たちのデータは毎日取っているし、自分の子供を連れてきている人もいる。熱心だし、俺の知識も色々増えて面白いんだけど。武術自体にはあまり興味がないみたいだ。魔法を使った武技の伝授については栗原君が最初で君達が次になるかな。子供たちはまだ魔法を使えないから仕方ないね」


「宜しくお願いします」


「体が出来てからだからまだ先だね」


「そうだ、血筋を整える魔法について疑問に思っている所があるんですけど良いですか?」


「何か変な説明したかな?」


「あの~身体能力を特定の状態に固定化するんですよね。固定化とは維持することだと思うんですけど魔法回路を維持する方法が分からないんです。飛ぶ魔法を考えた時に浮いたり飛んだりは出来るんですけど維持するのが出来ないんです。魔法回路は意力で維持しないといけないけど意力がどうやっても続かないんです。どうやって続けているんですか?これが分かればもう少し飛ぶのが楽になると思うんですが」


「それを俺に聞いたのは君が初めてだ。不用意に使うのは危険な技術だけど教えようか。人は魔法回路を1度に3つ使うことが出来るけど分かるかな」


「2つの魔法を併用するのも困難なのに3つですか?」


「そう3つだ。君が言っている2つの魔法の併用が困難なのは左右の脳を使い分ける訓練をしていないからだ。それは訓練すれば出来るようになる。であと1つはどこにあるかな?これについては以前君達に話した覚えがあるから思い出してごらん」


「……あ~分かりました。生命エネルギー場が作る生体魔法回路ですね」


「そう正解。固定化はこの生命エネルギー場が作る生体魔法回路に手を加えて行う。この生命エネルギー場と生体魔法回路は互いに維持し合う力が働いていてどちらかを修正して維持すると相手に倣うように修正される。これを利用して固定化を行う訳だ。ただ生体魔法回路は一度に手を加えすぎると反発が起きて壊れてしまう可能性があるからあまり大きな修正はできない。仮に大きく修正できても脳が上手く身体を使えないと思うけどね」


「それで半年も掛けるんですね」


「普通に生活するだけなら半年で充分だね。確かここまでは沃土君にも話したな。でも何かを極めようとするなら一生続けないといけない。ここからが君が聞きたかったことだと思うけど例えばリミッターを外す魔法だけど生体魔法回路に組み込んで適切に修正しながら少しづつ効用を上げていくと体が馴染んできてリミッターを外した状態を長く続けれるようになる。他にも色々あるけど生体魔法回路に組み込むと自身に干渉する場合は意思を必要とせず常時発動するようになるから全てそれを利用する方法だ」


「飛ぶ魔法にも応用できますか?」


「それは分からない。そんな使い方をしたことがないから。ただ言えるのは体を造ってからにした方が良い。俺が教えるのは組み込み方と組み込んだ魔法の使い方だけど組み込んだことのない魔法は分からない。それからまだ勝手に組み込んでは駄目だよ。生命エネルギー場を弄る魔法だから身体に直接影響するからね」


「この話は沃土と岸さんに話してもいいですか?あと何人か部外者に話したいんですけど」


「弟子になら話していいけど。部外者は駄目だ」


「それではあと何人か弟子入りしても良いですか。飛ぶ魔法関係で情報を共有したい人が数人いるので」


「飛ぶ魔法か。俺も興味があるからあと3人なら連れてきて良いよ」


「ありがとうございます。部外者にはどこまで話してもいいですか?」


「今のところ組み込む話はしない方が良い。いずれは公知になるけど危険性も同時に公知にしないとね」


「分かりました。では後日3人連れてきますのでよろしくお願いします」


「うん。なるべく早く連れてきてね。血筋を整えるのは早い方がいいでしょ?」


権藤先生には弟子入りして貰うとしてあとの2人は岸さんに決めて貰えばいいか。

上手く生体魔法回路に組み込めば困難だった飛ぶ魔法の維持ができるかもしれないから考えて実験してみよう。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ