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元女帝の従軍期  作者: ダス・ライヒ
入隊後
8/8

祖国へ帰れぬ者達

クソ久々の更新。

後でピクシブの方へ上げておきます。

 市街地制圧より三日ほど、マリが属する歩兵師団は戦力を回復し、損害を受ける前の状態にまでなる。

 編成を終えた後、上層部の命令で残党軍制圧任務を受け、その地へと進軍する。

 制圧する残党軍は、まだ百合帝国の占領下であった世界から志願して元の世界へ帰れなくなった人間の将兵達であり、要塞を占拠して立て籠もっている。数は四千人編成の一個旅団ほどであり、迫撃砲、対空砲、対戦車砲、高射砲、重砲と言った重装備を持っていた。戦闘車両は装甲車や軽戦車程度で、大火力で攻めれば容易に制圧できる程だ。

 しかし油断は禁物だ。入念に敵陣地を偵察し、徹底的に砲撃か爆撃して七割ほどの敵戦力を削るべきである。十分な装備を調えた任務を担当する歩兵師団は到着次第、直ぐに攻撃に移った。


撃て(ファイヤー)!!」


 首に双眼鏡をぶら下げた砲兵士官の怒号で、綺麗に並べられたBL5.5インチ砲が連続して火を噴き、砲声を響かせた。各榴弾砲が一発目を撃ち終えれば、直ぐに装填手が二発目を装填し、再び敵陣へと榴弾が撃ち込まれる。

 およそ一個砲兵連隊分の砲撃が続けられる中、マリが属している軽歩兵連隊を含める三個歩兵連隊と、一個機械化歩兵連隊、二個戦車大隊が残党軍が立て籠もる要塞へ向けて進軍する。

 数十分間、まんべんなく榴弾を撃ち込んだ後、砲撃は終わった。これで進軍と思いきや、念には念を入れて、一個中隊分のランカスター爆撃機による空爆が開始される。爆撃は対空砲や高射砲の脅威もあって数分で打ち切られたが、それでも敵の損害は計り知れない物である。

 トドメを刺すように、歩兵部隊と戦車部隊が砲撃でズタズタとなった敵要塞に接近した。


「戦闘工兵、前へ! 各中隊から歩兵一個小隊を随伴させて!」


 障害物などの撤去を行うため、まずは戦闘工兵が前に出る。その護衛のためか、中隊長クラスの士官は、マリが属している小隊に戦闘工兵に随伴するよう指示を出す。


了解(イエッサー)! 第三小隊、戦闘工兵に随伴!」


「なんで一緒に行かなくちゃいけないの…」


 M1トンプソン短機関銃を持つ小隊長の指示で、リーエンフィールドNo4小銃を抱えるマリは、悪態をつきながらも小隊の兵員等と共に戦闘工兵の後ろへ続いた。小銃持ちやブレン・ガン持ちは接近戦に備えて銃剣を着剣した。短機関銃であるステンガンはMkⅡタイプが殆どであったため、MkⅤ持ちの下士官以外着剣せずに前進した。

 複数の手榴弾を投げて仕掛けられた対人地雷や対戦車地雷を強引に撤去すれば、戦闘工兵が障害物の撤去を行う。彼女等が障害物の撤去に勤しむ中、マリ達は敵兵が顔を出すであろう塹壕へ向けて銃口を向け、周囲警戒を行った。いつ敵が出て来るか分からないため、マリ以外の将兵達は緊張して銃を握る手を震わせる。物の数分後に、戦闘工兵が障害物の撤去が終わったことを知らせる。


「終わりました」


 その知らせを聞けば、小隊長は後方で待機している本隊に合図を送り、進路が確保されたことを報告した。それを受けた本隊は戦車と共に前進し、敵要塞への突撃を行う。

 このまま行けば、二時間ほどで駐屯地へ帰れる。

 誰もがそう思ったが、現実そうは甘くなど無かった。

 塹壕の方から様々な東欧の言葉が聞こえ、シュタールヘルムを被った灰色の軍服を着た男達がkar98k小銃やMP18にMP28短機関銃、MP40短機関銃、MG42機関銃、MG8重機関銃等を持って上半身を出し、視界に入った戦闘工兵や随伴歩兵を手当たり次第に撃ち始める。

 装備は百合帝国の物もあったが、中には鹵獲品なのか、モシンナガンM1891/30小銃やDP28軽機関銃、PPsh41短機関銃等を持っている将兵が見えた。


「敵歩兵!!」


 塹壕から敵兵達が頭を出したところで、一人の兵士が全員に聞こえるような声量で知らせたが、既に遅く、数十名の戦闘工兵と歩兵が一斉射撃の前に倒れた。迫撃砲による砲撃も相次ぎ、更に損害が出た。不老不死であるマリは伏せなくても良いが、服が血塗れになることを嫌って地面に伏せ、こちらに小銃の銃口を向ける兵士に反撃する。他の将兵等も伏せながら反撃する。


「衛生兵!」


「戦車まだ!?」


 大分混乱した様子を見せるが、まだ将校は生きているので、直ぐにでも体勢を立て直し、砲撃の後に出来たクレーターに身を寄せ、そこから大量の手榴弾を敵の塹壕へと投げ込む。投げられた手榴弾は幾つかは塹壕に入り、塹壕内から悲鳴が聞こえてくる。これで少しはマシになる。

 M5A1スチュアート軽戦車やM3A5リー中戦車を初めとした戦車部隊が現場に到着し、いざ前進かと思いきや、Pak40対戦車砲が無事であり、前に出た二両が砲撃を受けて大破した。


「対戦車砲、まだ無傷です!」


「だったらさっさっと破壊しなさい! あんたと他数名、援護するからと突撃!!」


 対戦車砲を確認した兵士が知らせれば、小隊長はマリを含める足の速い隊員に敵対戦車砲まで向かうよう指示を出す。それを直ぐに断ろうかと思ったが、拒否権も無しに小隊長は直ぐに援護射撃を開始した。


「行って!」


 塹壕から撃ってくる敵兵等の頭を封じた後、無理にでもマリ等を突撃させた。仕方なく彼女等は突撃し、敵の対戦車砲まで近付こうとする。しかし敵兵等が黙っている筈もなく、塹壕に入ったところで小銃や短機関銃を撃ってくる。


「キャッ!」


 一人が胸を撃たれて倒れたが、マリは早撃ちで反撃して後方の安全を確保した。前方の方は、戦友が短機関銃を乱射して確保してくれた。短機関銃持ちの上等兵を前にして、対戦車砲を目指す。道中にも敵が出て来るが、マリが姿が見えた瞬間に撃ったので、犠牲が出ぬまま対戦車砲まで到着する。


「さぁ、手榴弾」


 対戦車砲の近くまで来れば、上等兵が手榴弾を手渡すように言ったので、マリは安全装置を外したミルズ手榴弾を一つ渡した。それを手に取った上等兵は、時間を調整させてから手榴弾を対戦車砲に向けて投げ込む。物の数秒差で対戦車砲の近くに落ちた手榴弾は爆発し、多数の破片を受けた砲兵等は死ぬか、悶え苦しんだ。


「対戦車砲撃破! 合図送って!!」


 対戦車砲を破壊した上等兵は一等兵に合図を送るよう指示を出した。先程破壊した対戦車砲はこの辺りから来る敵戦車を封じるのを担っていたらしく、開いた穴から味方の戦車や装甲車が続々と押し寄せてくる。

 パンツァーファウストを持った敵兵等が戦車の侵入を防ごうと、壕を辿って向かってくるが、歩兵を抑えている機関銃手は戦車に全てやられてしまったため、侵入してきたワルキューレの将兵に撃ち倒された。敵兵等も何とか押し返そうとしているが、その辺りに歩兵や戦車が殺到してきているので、撃たれるか銃剣に刺される。

 既にこの場での抵抗は無意味と判断してか、敵兵等は塹壕を捨てて第二防衛ラインに当たる場所まで撤退しようとする。途中で逃げ切れなかった二名敵兵は、武器を捨て両手を挙げてマリ達の前に出た。


「〈投降する! 俺は帰りたいんだ!」〉」


「〈メガミ人達に無理矢理徴兵されたんだ! 頼む! 家に帰してくれ!〉」


「えっ、何言ってんの!?」


 必死でグルジア語で投降を呼び掛けるも、マリ等を含める将兵等はグルジア語は理解できなかった。無視して味方部隊の後へ続こうとしたが、二人の西アジアの男達はマリや隣の一等兵の肩を掴んで無事に家へ帰してくれるようせがんでくる。その手を振り払っても、しつこく言い寄ってくる。


「〈頼むよ! 家に帰りたいんだ!〉」


「あぁもう! 煩い!!」


 触られたくもない男に何度も触れられたのか、マリは銃床で殴り、起き上がろうとする無抵抗な二人の敵兵を腰のホルスターから抜いたエンフィールドNo2回転式拳銃で撃ち殺した。この行為は立派な戦争犯罪だが、他のワルキューレの将兵もそんなことを気にせずに分からない言葉を叫びながら投降してくる敵兵等を撃ち殺していた。上官である軍曹や伍長を含める同僚等は、死んだ二人の西アジアの敵兵のことなど気にすることもなく、二人の敵兵が何て言っていたのかを問う。


「こいつ等何言ってたの?」


 その問いに対しマリは、冗談を交えてジェスチャーをしながら答えた。


「ママ、手を洗ってたよって」


「へぇ、そう言ってたんだ」


 答えを聞いた上官と同僚等は、要塞へと突撃する味方の列に加わった。

 敵の抵抗は激化を辿っており、88㎜高射砲や対戦車砲、三脚に付けられたMG42による掃射で中々近付けない状態となっている。更には砲撃で無事であったⅢ号戦車M型やⅢ号突撃砲G型、ヘッツァー軽駆逐戦車が現れ、戦闘車両の損害も増えつつある。損害を抑えようと、対戦車投擲器PIAT(ピアット)や、携帯式無反動砲のM1バズーカを持つ対戦車班を前に出させる。

 ここでまた、マリが属する部隊がその護衛を命じられた。今度は中隊単位であり、拒否権も無しに彼女等は対戦車班を殺そうとする敵兵等から守るべく、大物を担いだ女性兵士等を守りながら敵戦車へと近付いた。


「左から敵兵二十名接近!!」


 対戦車班の左翼についている将兵の一人が知らせれば、直ぐに小銃や軽機関銃による弾幕が張られ、敵を遮蔽物へと押し込む。マリが居る右翼にも敵兵等が殺到してきたが、脇からやって来たダイムラー装甲車の主砲である2ポンド砲で蹴散らされた。

 それから数十秒後に数両ほどの敵戦車が対戦車班の手によって撃破された。だがこちらの損害が皆無ということは無く、数十名以上の死傷者が出ており、味方の戦車も何両か撃破されている。要塞からの砲撃もあるので、被害が増える前に決着を付ける必要がある。装甲の厚いチャーチル歩兵戦車を前に出し、要塞へ向けて前進した。

 自走砲を加えた榴弾砲による砲撃も再開され、先程の砲撃や爆撃でほぼ半壊状態となっているので、もうこれ以上は持たないだろう。


「これはもう終わりよね」


 砲撃が再開されて数分、既に要塞は半壊し、後一撃でも食らえば完全に倒壊する程であった。後のトドメは歩兵と戦車部隊に任せてか、砲撃は中断され、歩兵と戦車を中心とする陸上部隊が突撃を始めた。既に敵は虫の息であり、後に残されたのは対戦車砲が数門と歩兵が千人編成の一個大隊程度だ。それでも敵は抵抗を続けていたが、その銃声は少なかった。


「うわぁ…臭っ!」


 要塞内部へと突入したワルキューレの将兵等を待ち構えていたのは、悪臭と原形をとどめぬ死体と四方を失った痛みで悶え苦しむ敵兵達であった。周囲に転がる無惨な形となった死体から発せられる悪臭で、マリは思わず鼻をつまんでしまう。他の将兵等も同じく鼻をつまむが、中には嘔吐する者まで居る。そんな彼女等の元に、砲撃の影響で全身がズタズタになった敵兵達が部屋から出て来る。よろよろと動きながら呻き声を上げ、まるでゾンビのようだ。


「あぁ…あぁぁ…」


「気持ち悪…!」


 彼女等にとっては気持ち悪かったのか、瀕死の敵兵等を思わず撃ち殺す者達が続出した。瀕死の敵兵等の中には、未だに小銃を握っている者も居たが、小銃は砲撃の影響でただの棒切れに変わっており、持ち出したところで敵を殴る程度にしか出来ない物であった。

 そんなこの世とは思えない光景の中を進んでいけば、これ以上の抵抗は無意味と判断した敵兵達が両手や白旗を挙げながら出て来る。武器は持って居らず、彼らの軍服は血で真っ赤に染まるかボロボロになっていた。


「終わった…」


 両手を挙げて列を成す降伏した敵兵等を見て、戦闘が終わったことを将兵等は実感する。

 マリは銃の安全装置を掛けてから銃床を堅いコンクリートの上に着け、その場に座り込み、水筒の水を一口含んで一休みする。それからは負傷者を運ぶ捕虜の集団を眺めた。

読者の皆様は東方大隊ってご存じですかな?

ナチス・ドイツに存在した東方系の国々の出身者を集めたドイツ陸軍の部隊です。

独ソ戦が始まってから一年後に創設されました。

主に参加している国々は、当時のソ連ことロシア人を初め、グルジア人、ウクライナ人、アルメニア人、ベラルーシ人、バルト三国人など、様々な人種で編成されました。

陸軍のみならず、海軍や空軍、武装SS義勇兵にも居ました。

彼らの運命はもちろん、武装親衛隊に志願した西欧諸国や北欧諸国の義勇兵と同じく、国に強制返還させられて裏切り者と罵られるか、強制収容所に送られる末路を辿っています。


今回、百合帝国側で西アジアの人種で編成されている部隊が敵として登場しましたが、彼らは少しでもメガミ人の戦死者を減らすために強制徴兵された可哀想な方々です。

もちろん、彼らも運命もモデルとなった東方大隊と同じく悲惨。装備は捕獲した物ばかりで、中古の軍服は戦時悪化に要略されたM43野戦服やM44野戦服という酷すぎる物。

理由はぶっちゃけ百合帝国が占領下で好き勝手やりすぎた所為ですが。


それでは眠くなったので、ここで失礼いたします。

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