訓練と演習
ここで初の実戦をやるつもりでしたが、8000字以内に納めるため、やもえず投稿。
ルリと別れを告げ、入隊手続きを済ませてワルキューレに入隊したマリは、新兵訓練所へと向かうトラックへと乗り込もうとしていた。
屋根付きの荷台には、同じ様な理由で入隊してきた女性だけの種族であるメガミ人達が左右の座席に腰を下ろしている。全員がやはり、顔の形が整った種族なだけに皆美人である。端から見れば、女優の集団を乗せたトラックと思われるだろう。
マリが最後であったのか、荷台に彼女が乗り込んで空いている席へ座れば、それを確認したリーエンフィールドNo4と言うWW2イギリス連邦軍の小銃を持つ女性兵士が運転手に知らせ、トラックを出させた。
揺れるトラックの荷台で、マリは席に座る彼女等の顔を見た。全員が彼女と同様の白人の美人であるが、表情は暗いままだ。沈黙を決め込む彼女等の様子を見ている内に、マリ達を乗せたトラックは訓練所へと到着した。
訓練所は弊で覆われ、そこからは怒号や銃声が聞こえてくる。
この訓練所は元々神聖百合帝国陸軍が使っていた物だが、今はワルキューレの陸軍の所有物となり、訓練用施設が一部変えられただけで運用が行われていた。今のところ、数々の市町村から集められた訓練兵達が基礎訓練に励んでいる。他に歩兵科の各兵科の訓練も実施中である。
停車したトラックから降りたマリ達は、入隊したての者達が入る施設へと入る。
「全員右手の二番目の部屋に入りなさい」
廊下の真ん中で立っている略帽を被った下士官の言うとおりに、右手の二番目の部屋に入っていく。マリ達以外にも別の市町村から入隊して連れてこられた者達もおり、全員同じ部屋へと入る。
部屋の中は中央に映写機、全員分のパイプ椅子、壁のボードの上から貼られた映像用のシートだ。 ボードの隣に立っているのは、長い桃色の髪を持ち、髪型をツインテールにしてその上から略帽を被り、ミニスカの軍服を着た女性兵士だ。顔は童顔であり、周りのスカートを履いた女性兵士達よりも小柄なこともあってか、少女と見られることもある。マリを含めた何人かは、立っている彼女の容姿を一目見て可愛いと思った。
そんな彼女は入隊した志願者達が全員パイプ椅子に座ったのを確認すると、中央に立って口を開き始めた。
「これで全員ね。じゃあ、始めるわよ」
「か、可愛い声・・・」
目の前に立つ彼女の第一声を聞いた一人が、発する声が余りにも可愛らしい声色だったので、遂、口にしてしまう。だが、彼女は気にせずに進める。
「私はあんた達ワルキューレに入ったばかりの卵に解説をするアンジェラ・マグナリア中尉よ。これからあんた達に私達ワルキューレの敵を教えて上げるわ。サニヤ、映写機回して」
「イエッサー」
アンジェラはサニヤと言う女性下士官に指示を出すと、彼女に映写機を回させる。映写機から映し出される映像を良く見せるために、部屋の明かりを消し、真っ暗にさせる。
映写機からシートに映し出されているのは、ワルキューレの敵となる勢力だが、どれもこれもが基本国家の敵となる物ばかりであった。
例として上げるなら、政治的や関係悪化等で自国が保有する資源目的で攻撃兼侵攻してくる敵国、違法行為で治安を悪化させる非合法組織、自国の施設でテロ行為を行うテロリスト兼武装組織、自国領域内の海域で活動する海賊、現政権転覆を謀ろうとする反政府活動等を行う組織である。
例外とするならば、異次元からの侵略者や魔物であることだろう。
だが、この世界に住むメガミ人達は自らの帝国には例とも呼べる敵対組織が無かった所為か、例外の物しか知らなかったらしい。これには解説役を担当するアンジェラも驚いたようだ。この状態を作り上げた元女帝の女が居るが、気付いている者が黙っている所為か、誰も気付かない。
「まぁ、知ってたのは知ってたけど、まさかこんな風だとは・・・」
アンジェラは驚いた事を口にした後、細かい敵の組織力を解説した。ボードに写されている画面に指示棒で示し、事細かな解説を行う。
例えば、敵国家は正規の訓練を受けた将兵であって正規戦が好ましいや、非合法組織、テロ組織、民兵組織、反政府組織は正規の訓練を受けていない場合や受けた場合で非正規な戦闘が好ましい、特殊部隊は厄介で、物量、火力押し、戦術的が必要だ等のそんな所だ。
それを耳で聞きつつ、マリは小さな顎に手を添え、映像を見ていた。
「これで私の解説は終わるわ。ご苦労様。次の部屋へ行きなさい」
一時間ほど経てば解説は完了し、一同は次の部屋へと移される。どうやら訓練を担当する小隊を決める抽選だそうだ。テーブルの上に置かれた箱の前に並び、自分の出番が来れば手を入れ込み、そこから中にある紙を取る。
マリが手に取った紙に書かれているのはF。全部で八人の教官が立っている事から、AからHがあることが分かる。なんたって志願者は百人以上はいるからだ。司会役の女性下士官が次の指示を出す。
「では、紙に書かれた英文字の通りに並びなさい」
指示の後、マリはHの文字が立っている方へ向かう。Hに立っているのは、妙におっとりした感じの金髪な女性教官だ。特徴は童顔の巨乳であり、他の教官とは違って余り威圧感のない。
そんな教官を見て、マリは余り良くないことを小声で発する。
「全然、教官って様じゃないじゃない」
彼女の声は誰にも聞かれることもなく、司会役は抽選を終わらせる。
「では、これで各小隊の抽選を終わらせる。明日から訓練に入る。各自、所定の兵舎へ向かえ。以上」
司会役の指示に、AからHの訓練小隊は決められた兵舎へ向かう。マリは他のH小隊と教官と共に兵舎へ向かい、中へ入っていく。兵舎の中には二段ベッドが人数分用意されている。
「さぁ、皆さん。私、ベアトリックス・ベイリーと言います。この箱から紙を取って、書かれた文字に決められたベッドに入ってください」
教官が紙を出すと、訓練兵は箱の前に並んで紙を取る。マリもそれを取って、決められたベッドへ向かう。同じベッドの黒髪の女性が歓迎する。
「ねぇ、あんたも同じベッド?」
聞かれたマリは無言で頷き、隣の棚に自分の私物も置く。それを確認した同期は、マリに手を伸ばす。
「握手しましょうよ、これから一緒に汗を流す中だし」
握手を求める同期に対し、マリは無言で手を出して握手する。
「口数少ないけど、素直じゃん」
手を出してきたマリに、同期は笑みを浮かべながら手を握った後、手を離して両手を後ろへ回す。
それからベッドの上に乗り込み、訓練に対しての説明を受け、昼食を取る。昼食後に訓練期間で自分の友であり恋人であり、共に訓練期間を過ごす小銃であるリーエンフィールドMkⅢを渡される。
分解方法と組み立て方法の訓練を完全に覚えるまで受ける。弾の装填方法を受けたが、撃たせては貰えず、安全装置の解除すら教えて貰えなかった。
夕食の時間帯まで訓練を受けた後、就寝時間まで自由時間まで過ごし、翌日から行われる早朝の訓練に備えて就寝時間に入った。
翌日、基礎訓練初日が始まる。起床ベルが鳴り響いた後、ベッドから飛び起き、整列する。
「は~い、皆さん。起きましたね。全員起きているか点呼しますよ~!」
教官が宿舎へと入ってきて、全員起きて訓練用の地味な色の作業服に着替えているか確認し、点呼を開始する。入ってくればそう告げ、点呼を開始する。それと同時に起きてくる者も居たが、なんとか一人が起きてこないことで連帯責任として全員が初日から罰を与えられずに済みそうだ。
マリも点呼に参加し、自分の出番が来れば自分の番号を声に出す。
「十七番!」
「よしよし、初日からのミスは無いわね。では、朝食前のランニングに行きますよ~!」
初日から寝坊した者が居ないことで喜びの声を上げた後、訓練兵達に宿舎から出るよう指示し、早朝ランニングを行う。全四周のランニングだ。ランニングが終われば、体操が待っている。
宿舎から出たマリを含めた訓練兵達は、早朝からのランニングに入った。数分後にランニングは終了。マリは余裕であったが、何人かは息切れを起こして呼吸を乱していた。
次は体操へと入る。それが終わると、朝食に移る。朝食を終えれば、基本教練の始まりだ。
ここからはマリの人間離れした運動神経が発揮され、教官と他の同期達を驚かせる事となる。
「あ、あの・・・ヴァセレートさん・・・貴方は一体・・・?」
教官は体力の練成訓練を受けるマリの超人的な運動神経を見て、呆然としたまま彼女に問う。
「なにって、普通にやってるだけよ」
驚いた表情を見せる彼女等に、マリは普通にそう答えた。これが彼女の飛び級の原因となる。
教官は直ちに上官である教育部隊指揮官に、マリのことを報告した。報告を聞いた初老の肥満体型な女性指揮官は、マリだけに全ての基本教練を受けさせるよう、隣に立つ若い黒髪のショートカットの少尉に指示を出す。
「ヴァセレート訓練兵に、全ての基本教練を受けさせなさい。少尉」
「はっ、教育部隊指揮官殿」
これに対し、マリの担当の教官は異議を唱える。
「お待ち下さい指揮官殿! 一人だけ特別扱いするなど・・・」
「この女はあんたじゃ扱いきれないわ。よってヴァセレート訓練兵は特別枠として扱う。さぁ、文句言ってないで、あんたは担当の訓練に身を入れなさい」
「は、はい・・・」
上官に反対意見を唱えるも、そう返されてしまい、自分が担当する小隊の訓練に戻る。彼女が部屋を出て行ったのを確認すると、上官は少尉にマリの訓練を担当するよう指示を出した。
「さぁ、ファニー・ケイン少尉。例の訓練兵の担当に、基本教練を全て終えれば、戦闘技術の訓練に移りなさい」
「イエッサー!」
ファニー・ケインと呼ばれる少尉は上官に向けて敬礼した後、飛び級したマリの訓練を受け持つ事となった。マリが座っている席の前に立ち、自分の名前を名乗り上げ、担当であることを告げる。
「私がこれから貴様の訓練を担当するファニー・ケイン陸軍少尉だ。早速貴様用に立ち上げたスケジュール通りの訓練を始めるぞ」
「イエッサー」
スケジュール表を持つファニーからの指示にマリは敬礼し、早速自分だけに立てられたスケジュール通りの訓練に向かう。
僅か二日間の内に基本教練が終わり、次に戦闘技術の訓練へと移った。
そこからは現役の兵士等と共にディフェンドゥーと呼ばれる近接格闘術を受け、ナイフや銃剣が着剣された小銃、スコップ、警棒等の武器を使った白兵戦の訓練も受ける。次に拳銃、小銃、軽機関銃等の射撃術も受けた。格闘術と射撃術が尋常じゃないほど高かった為、ファニーからは「もう演習をして良いほどの腕前」と表された。
偽装、野戦築城は少々問題があったが、任務には支障を来さない程で、余り気にする事は無い。運動、爆破、火力支援、偵察、斥候、伏撃、航法、通信は優秀レベルであった。
対戦車戦闘、対空戦闘、市街戦、室内戦、塹壕戦等の特定の戦闘訓練も申し訳ないほどの成績の良さ。これに驚いたファニーは、訓練期間終了後にマリを何処かの演習する予定の歩兵連隊に属させるよう上官に願い出る。
「指揮官殿、マリ・ヴァセレート訓練兵は優秀すぎます。もう士官学校へ入れる方が良いですが、本人はそれを断り、演習をさせろと申しております。よって、演習予定の陸軍の軽歩兵連隊に入れようかと思いますが・・・どうですか?」
「成る程ね・・・」
ファニーからの申し出に、上官は暫しの沈黙の後、答えを出した。
「良いわ。演習予定の歩兵師団傘下の軽歩兵連隊にマリ・ヴァセレート歩兵科二等兵を入れさせる。丁度欠員が居るらしいからね」
「感謝いたします!」
上官へ向けてファニーは感謝の意を表する敬礼をした後、部屋を退室した。
これにより、同期より早く戦闘部隊配属となったマリは歩兵個人装備一式を身に付け、配属予定の軽歩兵連隊が居る演習場へと、サイドカーに乗り込んで向かった。
演習場へ着いたマリは、早速軽歩兵連隊所属の小隊の新兵として挨拶を行い、演習に参加した。演習は大多数の歩兵と一個砲兵中隊、機甲二個中隊による市街地制圧作戦だ。これから何かの作戦を行うと予期させる物だ。
砲兵隊が持つ野砲が火を噴けば、それを合図に演習が始まった。
『進軍開始!』
遠くから連隊長が拡声器を使って指示を出せば、イギリスの偵察車であるダイムラーの後から、大戦下のアメリカの軽戦車であるM5A1スチュアートとイギリスのMkⅧハリー・ポプキンス軽戦車、カナダのラム巡航戦車で編成された戦車部隊が市街地に先行する。
他には当時の首相の名を持つ歩兵戦車チャーチルも後へ続く。機動性がない所為か、歩兵が走る程度の速度しか持たず、先行する戦車部隊に遅れてしまう。
チャーチルが歩兵を満載したアメリカ製ハーフトラックのM5ハーフトラックやイギリスのユニバーサル・キャリアが追い越していく中、市街地近くまでに先行した部隊が接近すれば、歩兵部隊の出動も入り、歩兵の進軍も行われる。
砲撃が終わる頃には偵察車と共に戦車部隊が市街地へ突入し、制圧が行われていた。ハーフトラックから降りた機械化歩兵による制圧も行われ、後からマリ達が属する歩兵部隊が乗った数十台のトラックが町に突入し、更なる制圧に掛かる。
数時間後、市街戦の演習は終了し、息切れを起こした歩兵が出て来る。彼女等は水分補給をした後、反省会を行い、自分等の野営地へと帰った。
次からは初戦です。