門を叩く
授乳とかあるけど・・・大丈夫かな・・・?
それに指きりげんまんのまじないを歌ってるのもあるし・・・
妊娠したマリは、それをルリに隠し続け、売春で生計を立てながら数ヶ月後、遂に出産直前まで来た。
流石にルリにも気付かれるところだったが、「目眩がする」等の嘘付いたり、彼女が余り頭が良くないのが幸いして何とか誤魔化すことに成功する。次に「病院にまでつきそう」などと言ってきたが、これも奇跡なのか、ただルリが馬鹿だったのか、誤魔化すことに成功し、無事に出産できた。
生まれたのは元気な産声を上げるのは、茶髪の女の子だ。本来であればマリからは金髪の子が生まれるのだが、それは高い確率の場合である。現に彼女は、今生まれたばかりの茶髪の子を含めて八人以上を出産しており、黒髪の娘もいる。
出産直後、マリは年配の助産師から生まれたての乳幼児をどうするのかを問われる。
「この生まれたてのあんたの子・・・一体どうするつもりだい?」
産声を上げる赤子を抱いたまま問う助産師に、マリは暗い表情を浮かべながら答える。
「施設に預けるわ」
「あら、この前にこの病院で生んだ兵隊さんと同じ答えなのね」
普通、自分で育てるように説得する物であるが、ルリを食わせていかねばならない理由を持つマリ等を含め、食費にしか有り付けない者達に取ってはそんな事は言えぬ生活感だ。
今のこの世界での経済状況下では、赤子を育てて生活するには大変難しい物であり、施設などに預けるのが正しい選択だそうだ。惨いようだが、我が子と一緒に餓え死にするか、生んだ我が子を売るよりは遙かに真っ当な選択だ。
そのマリの答えを承知した助産師は、生まれたての赤子を大きな布で覆い、部屋から出て行った。
後日、仕事帰りのルリが見舞いにと、マリが居る病院へと来る。
「おねえちゃーん!」
大きな声を出しつつ、ルリはマリが居る個室へ駆け込み、ベッドの上にいる加除のに抱き付いた。抱き付いたルリは、出産の影響でいつもより大きくなった彼女の胸に飛び込み、顔を渦くめる。身も心もマリに捧げている彼女は、その大きな胸の感触も覚えており、いつもと違うことに若干気付く。
「あれ? お姉ちゃんのおっぱい、こんなに大きかった?」
胸に顔を渦くめながら、ルリはマリの顔を覗きつつ問う。それに対してマリは、またもルリを出産直前と同様に誤魔化した。
「えっ、ピルの所為じゃないの? あれって身体に妊娠してるって誤魔化すそうだし」
「へぇ、そうなんだ。でも大きいから良いの!」
「それもそうね。元に戻っちゃうけど、それもそれで違ったのが出来るから」
自分の胸に顔を顔を渦くめるルリの頭を撫でつつ、マリは出産したことを悟られずに済んだ。この時、マリの乳輪から母乳が吹き出ており、今着ている患者服にそれを表す跡を浮かばせていた。濡れた感触を覚えたルリは、胸から顔を離して「出ている」とマリに知らせる。
「母乳出てる」
「あら、ピルの影響かしら?飲む?」
「うん!」
母乳が出たことで、マリはまたも誤魔化し、患者服のボタンを外して上半身部分を開き、自分の妊娠の影響で大きくなった胸を露出させ、ルリに母乳を飲むかどうかを聞いた。乳輪から吹き出る白い母乳を見たルリは、マリの乳輪にむしゃぶりつき、母乳を口に含み、赤ん坊のように飲み始める。
「あぁ・・・! おっきな赤ちゃんね」
強く噛まれたので一瞬喘ぎ声を上げた後、マリは自分の胸にむしゃぶりついて母乳を飲むルリに向けてそう告げた。無論ながら病院内でその淫らな行動は現金であり、丁度、彼女等が居る個室を通りかかった看護師に見られ、叱られた。
退院後、マリはルリと共に元の生活へと戻った。
マリは肉体美を生かしての売春、ルリは全く危険の無さそうな裁縫工場。
帰宅最中、ルリは進駐しているワルキューレの女性兵士に手を掴まれ、連れて行かれそうなことがあったが、危機はマリが救い、連れて行こうとした女兵士を自分の手で骨抜きにし、全裸のまま路地裏へと放置した。
この間にマリは、募集してあるワルキューレの入隊希望所に願書を出していた。理由はもちろん、給与の良さだ。
元来、軍隊は生死を分ける職業であるため、給与は良く、生活が苦しい家庭を助けるべく、家庭の大黒柱か長男が軍に志願する。あわよくば下士官、つまり職業軍人になろうとする。何故なら下士官の方が兵より給料が上であるからだ。
マリもそのつもりであり、下士官の上で兵とは段違いの給料である士官を目指す。その高い給与で安泰出来る地に屋敷か城を建て、そこでルリと共に永遠なる幸せな日々を送るが目標だ。
ある日の仕事終わりの夜、マリはルリと共に一糸まとわぬ姿で一つのベッドに横にながら、目の前の少女のブロンドの髪を撫でつつ、ワルキューレに入隊することを告げた。
「ねぇ、ルリちゃん。私、軍隊に入隊する事にしたの」
「え、お姉ちゃん軍隊行っちゃうの・・・?」
不安な表情を浮かべながら、ルリはワルキューレの入隊を告げたマリに問う。そんな彼女に、マリは尤もな意見を述べながら答える。
「だって生活厳しいじゃん。私が兵隊になったら、今の生活も楽になるわ。それにルリちゃんも学校行けるし」
「そんな・・・私学校なんて行かなくて良い!お姉ちゃんと一緒が良い!」
それを聞いたルリはマリが居なくなるような感覚を覚え、ベッドから上半身を起こす。それに合わせてか、マリも上半身を起こし、幼い子供のように駄々を捏ねるルリの両肩に手を置き、安心するように告げる。
「大丈夫。私は死なないし、変わらない。それもルリちゃんだって同じでしょ?」
「う、うん・・・」
「お金が沢山あれば、静かな場所に私達のお家かお屋敷、お城を建てればそこで一生幸せに暮らせるわ。そこまでなるのは大分時間が掛かっちゃう上に長く戻れない事があるけど、休みを貰ったら必ずルリちゃんに会いに行くから。安心して」
優しい表情を浮かべるマリにそう告げられたルリは、安心した表情を浮かべ、そのことを理解する。
「分かった。私も学校行って、卒業して就職したって待ってる・・・約束だよ」
理解したルリは、マリの目線の前に、フック状にした右手の小指を出す。
「あっ、それ」
「うん。日本のお約束」
笑みを浮かべるルリに、マリは同じくフック状の右手の小指を出し、彼女の小指に絡め合わせる。
それは日本の厳守の約束を誓う為に行われるゆびきり。
遊郭の遊女が客に心中立てとして、小指第一関節から指を切ったことから由来している。
これにはかなりの激痛を伴い、それ程愛しているという意味であり、それを貰う客もそれ相応の思いに答える気構えが必要だ。だが、実際に小指を切る遊女は少なく、代わりに小指の模造品などを送ったと言う。こうして「指切り」が一般大衆に広まり、約束を必ず守る風習へと変わっていったと言う。
指を絡ませた二人は、おまじないの言葉を歌いながら絡ませた指を上下に振る。
『ゆびきりげんまん、うそついたら針千本飲ーます。ゆび切った!』
歌い終えた二人は絡ませた指を外した。右手をベッドの上に置いたマリは、歌詞の本当の意味を知っており、それを敢えてルリに伝えずに小さく笑いながら口を開く。
「相変わらずちょっと怖いおまじないの言葉ね。でも、これなら約束守れそうかも」
「守らないと、針千本飲まされちゃうよ」
「それは幾ら死なないとはいえ、ご勘弁ね」
そう二人は笑いながら、いつの日か来る入隊日まで過ごすのであった。
数日後、遂にその日はやって来た。朝から僅かな手荷物を入れたボンサックを持って家を出ようとするマリに、ルリは抱き付いて止めようとする。そんな彼女を見たマリは、ルリくらいの身長くらいまでに姿勢を低くし、目線を合わせて頭を撫でる。
「大丈夫よ、私は死なない。それに変わらない」
抱き付いたルリは涙を浮かべており、それを必死で我慢していた。マリはルリの頭を撫でながらそう告げて安心させようとする。
「ほんとに戻ってくる?」
「約束したじゃない、針千本飲ますって。必ず帰ってくるから」
それでも不安げな表情を浮かべて聞いてくるルリに対し、マリは笑みを浮かべながら答え、彼女を抱き締める。
「それじゃあ、行ってくるわね。ちゃんと学校行って食べるのよ」
「うん。私も約束する。言い付けはちゃんと守るから・・・」
「はい、良くできました」
ルリから離れたマリは褒めれば、彼女の額にキスをしてから立ち上がり、再開するまでの挨拶をする。
「じゃあ、行ってくるわね」
「行ってらっしゃい」
そう挨拶したマリは手を振るルリの声を聞きつつ、背中を見せながら入隊希望所を目指した。
そして、ワルキューレの入隊希望所へ着いたマリは、ワルキューレの軍門への門を叩くのであった。
次からは訓練。
宇宙の戦士みたいに長く無いよ~