墜ちた女帝。
前回より、マリがワルキューレの門を叩く前の話です。
地球とは違う異世界の上空。
太陽の光は雲に遮られ、僅かな光が照らすだけとなっている。一見曇った空に見えるが、そんな静かな空を轟音を鳴らしながら一機の航空機が飛んでいた。
形から見て単発式のレシプロ機であり、プロペラ回転軸や主翼に機関砲の口径が見える事から戦闘機であることが分かる。
この戦闘機の名はBf109。大戦中のドイツ空軍の戦闘機だ。開発元であるメーサーシュミット社が連絡機をベースにして開発した戦闘機で一撃離脱重視の戦闘機である。今飛んでいる型は最終生産型であり、武装は機首上部に13㎜機関銃、モーターカノンと主翼に30㎜機関砲を搭載した重武装のK-14型だ。
本来はバイエルン航空製造会社の名称の「Bf109」では無く、メーサーシュミット社の「Me109」と付けるべきだが、設計はバイエルン時代なので「Bf」の方が正しいと思われる。
何処でこの戦闘機を手に入れたのかはさておき、一人乗り用のキャノピーには、二人の女性が搭乗していた。操縦席が狭いBf109に二人も乗れば、さぞ狭いことだろう。
操縦席に座るのは、二人とも美形の類に入り込むほどの容姿を持っている。操縦するのは腰まで届く艶やかな金髪の上から飛行帽を被った碧い瞳の白人の美女と、彼女の股の上に座る小柄な少々ピンク色が混じった金髪と宝石のようなスカイブルーの瞳を持つ美女と同じくらいの雪のように白い肌の美少女だ。
少女の胸にはベルトが着けられ、それが女性が座る座席にまで届いている事から、無理矢理付けているのだろう。尚、少女は飛行帽を被っておらず、飛行服を着ているだけである。
操縦する美女の名はマリ・ヴァセレートで、彼女の股の上に座る美少女の方はルリ・カポディストリアスだ。
どういう経緯であったのかこの際置いておき、彼女等が乗る重武装のBf109の前方からは、第二次世界大戦後期に当時のロシア名であるソビエトで設計された戦闘機Yak-9やLa-7戦闘機が向かってくる。
数はLa-7七機を合わせての混合二十一機編隊であり、とでも強引な二人乗りをするBf109では勝ち目がない。だが、なんらかの奇跡があれば、逃れることが出来るかもしれない。マリとルリが乗るBf109を確認したLa-7に乗る編隊長は、敵機と認識して直ぐに撃墜命令を出す。
「各機へ通達! 腹癒せに奴を堕とす! 敵はたったの一機だ、時間を掛けるなよ!」
『了解!』
編隊長は無線機で傘下のパイロット達に指示すれば、部下達から一斉に返答が聞こえる。物の数秒で編隊は二人乗りのBf109を包囲する形で散会し始めた。二十一機以上の戦闘機が散会するのはマリとルリにも見えていた。
「お、お姉ちゃん・・・!」
股の上で操縦桿を握るマリに、ルリは不安そうな表情で前を向く彼女の顔を見る。そんなルリに答えるかのように、マリは笑顔で答える。
「大丈夫よ、怖い物は全部私がやっつけるから!」
そう答えたマリは自分の股の上にいるルリの頭を撫で、しっかりと自分の身体に捕まるよう告げる。
「私の身体に捕まってて。それと気をしっかり持って。絶対に吐いちゃ駄目よ」
「うん、私頑張る!」
マリの言い付けに、ルリは元気よく答え、彼女の身体に抱き付き、強く目を瞑った。それを確認したマリは、空いている左手でルリの頭を撫でた後、三機編隊を組んで真っ正面から向かってくる敵機へ向けてモーターカノンを撃ち込む。
中央にいる長機のキャノピーに機銃が命中して真赤染まり、陸地へ向けて墜落していく。他の二機は直ぐに散会しようとしたが、一機目が主翼の30㎜を受けて主翼をもぎ取られて地面へ落下し、二機目は胴体に13㎜を数発受けて煙を噴き、大破する。
瞬く間に三機が撃墜されたことにより、残り十八機は動揺を見せ始める。
『なっ! 三機が数十秒足らずで撃墜されただと!?』
『一体なんだってんだ!」
動揺した敵パイロットの声が無線機から聞こえる中、マリは次なる獲物を捕らえ、照準に敵機を捉えれば、引き金を引いて敵機に機首の機銃を浴びせる。下から穴だらけにされ、コクピットにも銃弾が貫通し、パイロットは死亡する。パイロットが死んだYak-9は地面へと轟音を鳴らしながら落ちていく。
四機目の撃墜を確認すれば、直ぐに手近な敵機へと向かう。敵機からの攻撃が来るが、彼女は僅かに聞こえてくる機関砲の音で気付き、操縦桿を巧みに動かして機銃を避ける。何発かは被弾したが、大した損害ではなく、照準に標的にした敵機が重なれば直ぐにトリガーを引き、撃墜する。
五機の味方機を堕とされた編隊長は、マリの余りの強さに驚きの声を上げる。
「な、なんて奴だ・・・! 相手は百機越えの撃墜王なのか!?」
編隊長はマリの操縦技術で三桁の敵機を撃墜した撃墜王だと思ったが、マリは撃墜王でもなんでもない操縦経験があるだけであり、実戦経験など一切無い新米だ。ましてや股の上にルリを乗せたまま初戦で五機も撃墜するなど、恐ろしいと言えるレベルである。
そんな彼女は空戦のコツを短時間で覚えたのか、四方八方から来る攻撃を回避しながら編隊を組む敵機のキャノピーに向け、機銃を何発か撃ち込み、パイロットだけを殺して二機を撃墜する。どうやら弾薬の節約の仕方まで覚えてしまったようだ。そのままマリは、敵機を堕とし続ける。
十数分後、二十一機居た敵機は、八機以上になっていた。十三機以上がたった一機の、それも無理な二人乗りの狭い単座な戦闘機によって堕とされたのだ。恐れを抱いた編隊長は、残存機に撤退を指示する。
「て、撤退だ・・・! 奴は化け物だ・・・!」
『奴は疲労しているはずです! 数で一気にトドメを!』
「馬鹿か、奴は化け物だ! 俺達凡才が勝てる筈がない! 良いから撤退だ、早くしろ!!」
『りょ、了解・・・!』
編隊長の撤退命令に異議を唱える部下であったが、大喝されて撤退命令に従う。これを見たマリは、敵が退いていくのを確認すれば、一息ついた。
「ふぅ・・・退いていく・・・良かった・・・」
自分の基地があるであろう方向へと向かう敵の編隊を見て一息つき、追撃はないと判断してしがみついていたルリに安全を告げる。
「もう大丈夫、怖い物は追っ払ったから」
そう優しく告げられたルリは、顔を上げてキャノピーの外を見る。周囲には敵機は居らず、ただ雲の隙間から太陽の光が見えるだけだ。安心感を抱いたルリは、マリにお礼の言葉を述べる。
「ありがとう、お姉ちゃん!」
「あっ、ちょっと・・・! もう、甘えん坊ちゃんなんだから・・・」
お礼の言葉を述べた後に自分の胸に顔を渦くめるルリを見て、マリは笑みを浮かべながら空いた左手で彼女の頭を撫でる。警戒態勢を解いた彼女達に、次なる脅威が襲い掛かる。機銃が機体に何発か命中し、二人は悲鳴を上げて頭を下げる。
「キャッ! まさか戻ってきた? ルリちゃん、頭下げて!」
頭を上げ、周囲を探って脅威を見付けたマリは、再びルリに頭を下げるように言ってから、操縦桿を脅威の方へ向ける。
その方向にいるのは、イギリスのスピットファイアとアメリカのP-40ウォーフォークのまた別機種の混合戦闘機編隊だ。数は十二機ほどであり、機体後部にはワルキューレ、またはヴァルキュリアの兜が入ったマークが付けられている事から、先の敵部隊とは違う所属と分かる。
乗っているのは男ばかりであった通常の軍隊である先程の敵部隊とは違って、今度は女ばかりだ。標的を確認して攻撃した女性パイロットは、上官である編隊長からお叱りの言葉を受けていた。
『こら、まずは投降を呼び掛けてからでしょうが!』
「あっ、すいません。でも、あんな重武装の戦闘機に乗ってるのは貴族だし、投降に応じないんじゃないですか?」
『貴族でも投降を呼び掛けるの! ほら、抵抗しちゃったじゃないの!』
編隊長からのお叱りに、攻撃したパイロットは反論するが、マリのBf109からの反撃を受け、回避行動を取る。彼女等から投降を呼び掛けられたマリは、自分が元女帝であるのは百も承知であり、どのような目に遭うかは想像も出来ていた。
「冗談じゃないわ! 私達はこれから二人で生きていくって決めたのに! ここで捕まったらこの娘も性奴隷になっちゃうじゃない!」
マリは必死で敵部隊を追い払おうとしたが、前の戦闘と先程の被弾で機体は限界であった。それを見てか、十二機は包囲する形で展開し、四方八方から機銃を浴びせ、ジワジワとBf109をなぶり殺しにする。被弾する度に速度も落ちて高度も下がり、戦闘すらままならなくなる。
「言うこと聞きなさいよ、このポンコツ!」
取り乱し始めたマリは計器を叩くが、全くの無駄であり、機体は徐々に高度を下げていく。やがてエンジンにも被弾し、火を吹き始めた。マリの膝の上でルリが頭を上げ、聞こえてくる音がなんなのかを聞いてくる。
「お姉ちゃん、大丈夫?」
「大丈夫よ、これくらい。こんなの天才の私が・・・キャッ!」
ルリを安心させるように答えるマリであったが、次の被弾で機体のコントロールが効かなくなり、墜落し始めた。必死で操縦桿を動かそうにも、機体は言うことを聞かず、地面へと徐々に落下していく。流石のルリでも今起きている状況に気付き、マリに聞いてくる。
「お姉ちゃん、大丈夫だよね? 私達死なないよね?」
「そうよ、私達は死なない! こんな状況は私に掛かれば意図も簡単に乗り越えられる!」
不安な表情を浮かべて聞いてくるルリにそう答え、マリは必死に操縦桿を動かすが、全く言うことを聞かない。生き地獄のような凄まじい激痛を覚悟して操縦桿から手を離し、ルリを庇うように抱き付いたマリだが、奇跡が起こったのか、機体はそのまま地面へ接触して墜落を不時着に変える事が出来た。地面を数百m分削った後、機体は止まる。
「ほら、大丈夫・・・」
衝撃に耐えていたマリは、衝撃が止まったところで顔を上げ、地面に居ることを確認してからルリに告げる。それを聞いたルリも顔を上げ、地面に着地したのを見て、マリに抱き付いた。
「さて、何処へ行こうか・・・」
ルリに抱き付かれ、頭を撫でていたマリは、これからどのような逃亡生活を送るか考えた。
空中戦からの不時着から一年余りが経った頃、マリとルリは逃走生活に明け暮れていた。
素性を隠して市町村に住み、そこで食うために働き、盗みを働いたりもした。素性がバレたり、居られなくなれば、直ぐに出て行き、渡り鳥のように次の市や町、村へと移り住み、素性を隠して生きる。
時には匿ってくれた者達も居たが、「ワルキューレ」と呼ばれるこの世界に進駐してきた倒すことが到底不可能な戦力を持つ軍事組織の将兵に踏み込まれ、逃走を余儀なくされた。
尚、この世界には男は存在しないことになっている。理由は元大帝国の女帝であるマリ・ヴァセレートが強引すぎる手を使って自らの軍隊を使って滅ぼすか、何処かへ追放して女だけの世界にしたからだ。人間の女だけではクローン技術を使って増やすしかないが、それはそれで高度な科学力が必要だ。
しかし、そんな科学力はマリの神聖百合帝国にはない。恰好の種族が居た。女だけの種族である「メガミ人」だ。
女性だけで繁殖行為ができ、更には他の種族までにその種を植え付けることが出来る。それに女性的な優しさでお互いに殺し合ったりしない。都合が良すぎて疑うほどの種族であった。
彼女はその種族を利用して、世界を統一した大帝国「神聖百合帝国」を作り上げたのだ。今となっては、滅んだ帝国であり、異世界から来た侵攻軍との戦いでもはや再建など不可能に近い有様だが。
ちなみに先程の男のパイロット達については、かなり無茶な説明だが、異世界から来た侵攻軍となる。
ワルキューレの方は一応ながら男はいるが、この世界のマリが強引に作り上げたルールに則って、女ばかりの将兵で進駐してくれている。一応ながらのルールは守っているが、敗戦国で好き勝手をする戦勝国の将兵と同じ態度であり、めぼしい物があれば、権限を使って持ち去る。戦後における戦勝国の将兵が敗戦国で好き勝手な行動を取る光景その物だ。
そんな光景が広がる自分の世界を見て、マリは進駐軍の将兵達に見付からぬよう、日々忍びながら過ごし、ルリを空腹にしないように素性を隠して働いた。ルリと共に心中でもすれば楽だが、不法不死が徒となって生き地獄になっている。それでも彼女達は、いつしか来る光を求め、緊迫した日々を送った。
だが、そんな生活は一年と二ヶ月にして終わる。
「良い? 絶対に出て来た駄目だからね、何があっても私がここを開けるまで絶対に出ちゃ駄目よ。それと隠れてなさい。分かった?」
「うん、お姉ちゃんが開けに来るまで、私絶対ここを開けない」
とある町の人気のない裏通りで、箱の中に居るルリに、マリが言い付けている。了承した箱の中にいるルリは返答してから頷き、箱の中に入り、ふたを閉めて身を隠した。それを確認したマリは裏通りを出て、表通りに出る。
表通りの左手にある広場には、大勢の小銃や軽機関銃、短機関銃を持ったワルキューレの進駐軍の将兵達が居た。全員が女であり、周囲を囲む野次馬達もメガミ人と呼ばれる種族か、そのハーフばかりだ。多数の視線を向けられる中、マリは広場まで足を運び、待ち受ける将兵達の前に立つ。
「あら、潔いわね。可愛い可愛い美少女ちゃんと一緒に逃げ出したかと思っちゃった」
リーエンフィールドNo4小銃やステンガンMkⅤ短機関銃を向ける大戦下のイギリス軍装備の兵士達の中から、ベレー帽を被ったグラマラスな体型を持つ妖艶なアングロ系の女性将校が出て来る。胸はマリよりも大きく、ここが女性ばかりだと視線を気にせずにか、豊満な胸を見せびらかすようにそこだけを開いている。
無論、顔は有り得ないと思えるほどこの場にいる全員と同じく整っており、美人の類に入るほどだ。近付いてくる彼女の階級は中佐で、将官とは行かぬほどだが、権限を持っている。そんな彼女はマリに近付き、身体を触り始める。
「クッ・・・あぁ・・・!」
「出て来たって言うことは、フフフ、覚悟はできたようね。じゃあ、始めましょう。女帝さんの公開レイプショーを」
声を我慢するマリを見て妖艶な笑みを浮かべた中佐は、彼女が今着ている平服を破り、下着まで剥ぎ取って彼女を全裸にさせると、数名ほどを呼んで広場の中央に置かれた壇上に突き飛ばされた。周囲にいる住民からは良く見えるほどの壇上であり、マリはこれからこの上で屈辱される。今の彼女はなんの抵抗もせず、ただ呆然とそこで服を脱ぐ女性兵士等を見たまま、抵抗できないように両手両足を押さえられ、そのまま屈辱を受けることとなった。
それからマリの嬌声が響き渡り、箱に隠れるルリにも他の女の嬌声と共に耳に入る。様子を確かめようと、箱から出ようとしたが、ルリはマリの言い付けを守り、外で何が起ころうとも絶対に木で出来た大きな箱から出ようともしなかった。数時間以上経つと、嬌声は聞こえなくなり、代わりにざわついた多数の声が聞こえてくる。
『哀れだよね』
『あれが皇帝陛下の、いや、皇帝の末路なんて』
『逃げ回らずに、大人しく捕まってれば良かったのに』
外から口々にまるで人ごとのように聞こえてくる大衆の声であったが、事態を知らないルリは全く意味が分からない。それから数分後、箱の近くで足音が耳に入ってきた。足音は箱の前で止まれば、三回ほどノックされる。
それをルリは「開けて良い合図だ」と思い、嬉しそうな表情を浮かべて箱のふたを開け、ノックした正体を見た。紛れもなく、自分に合図を教え込んだマリだ。だが、彼女の衣服は引き千切られた後があり、衣服の意味を成して居らず、殆ど裸に近い。
オマケに目から生気が消えており、股には血が付流れ出た跡もある。
そんな彼女に声を掛けようとしたルリであったが、先に口を開いたのはマリであった。
「ルリちゃん、もう隠れないで良いよ」
「えっ、でも・・・隠れて過ごさないと大変な事になるんじゃ・・・」
状況を全く理解してないルリは、逃走生活の終わりを宣言するマリに疑問を居だして問うが、彼女は明確な答えを告げる。
「もうその必要はないの。もうバレたし、それにあいつ等は二度と私達は追ってこないから。これからは盗まずに生きていける。ほら、行きましょう」
「う、うん・・・」
感情がこもっておらず、何処か冷たいマリの言葉に従い、ルリは差し出された彼女の手を取り、箱から出た。
それからの彼女達は進駐軍に追われることもなく、別の町に移動し、そこでただ呆然と食うために働いた。
マリは華やかだった皇帝時代とは違って労働者のように働き、売春に身を落としながらも働いた。
ルリの方は子供でも出来るような仕事に就き、少しでも家計を支えるために売春以外の仕事はしていたが、マリ程でもない。
更に数ヶ月ほどが経ち、二人の生活は安定していたが、マリはメガミ人の客との間に子供を妊ったが、ルリは全く気付いて等いなかった。むしろ妊娠したマリの方がルリに気付かせないようにしていた。彼女にとっては、客との間に出来た子供はルリと二人で過ごす毎日に必要無く、生まれれば即刻孤児院へと預けようと考えていた。
もし、ルリが気付いてでもしたら、育てようと言いかねないからである。
酷いようだが、中絶してこれから生まれる命を未来を奪ってしまうよりかはマシな選択だ。そう考えたマリは、赤ん坊が生まれる日を待ちながら、働く日を過ごした。
初戦でしかも一人用の戦闘機で二人乗り、そして撃墜するマリ・・・
何処かのモヤットボール頭が泣き喚くほどですわ・・・
それと明らかに問題になりますね、これ・・・
なんか、別の意味で人気になっちゃう気がする・・・