兄貴襲来
「ん~、やっぱ一番風呂は最高だな~」
浴槽に体を沈めながら体をほぐすように両手を前に伸ばす。
「風呂は日本の宝だよね。なんで外国の人はこんな良い物に入らないのかな~」
別に俺は風呂愛好家ではないけど、湯船に浸かっているとどうしてもその気持ち良さから素晴らしさを言わずにはいられない。……ってちょっと親父臭いかな。
「ま、たまにはこういうのもいいよね」
夕方から入る一番風呂を贅沢感を得ながら、鼻歌交じりに満喫する。
「んっと、さすがにこれくらいにしとくか」
さすがにこれ以上入っていたら逆上せてしまう。俺は浴槽を出て脱衣所へと向かう。
「ふぅーいい湯だった! さてと着替え着替え……」
バスタオルで体を拭きつつ着替えに手を伸ばした、その時だった。
「はぁー突然の豪雨とか、マジでないわー」
ガラガラと勢いよく脱衣所のドアが開かれた。
「でもこういう時実家が近くて良かったわー」
俺の存在に気づくことなくドアを開けた人物は脱衣所の中へと入ってくる。
「……」
その様子を俺は某然と眺めていた。……いや、正確には体が硬直して眺めていることしか出来なかった。
「さてと、タオルタオル……ん?」
そこでようやく俺の存在に気づいた侵入者。パッと向けた目が俺の目線とぶつかる。そして起こる暫しの沈黙。
「あ、あああ兄貴!?」
咄嗟に持っていたタオルで体を隠す、と同時に驚きでわなわなと震える唇で入ってきた人物、俺の兄である城山涼に向かって叫んだ。
「なんだ、いたのか」
そんな俺をよそにその人物は軽い言葉を俺へと掛ける。
「いたのか、ってちゃんとノックして確かめろよ! 馬鹿兄貴!」
タオルで体を隠したままドア付近にいる兄貴に向かって文句を投げかける。
「わりぃわりぃ、まさかお前がいるとは思わなくてよ」
「玄関の鍵開いてただろうが!」
「あーそういえばそうだったかもな。雨で急いで家の中入ったから気づかなかったわ」
頭をわしゃわしゃとかきながら笑顔でそう言う兄貴。なんも悪いって思ってないな、あれは。
「ていうかよ。別にそんな気にするようなことでもないだろ? 兄弟なんだからよ」
「兄弟でも恥ずかしもんは恥ずかしいんだ! ていうかとっとと出てけ!」
そう言って俺は近くにあったタオルを兄貴へと投げつける。
「っと、はいはい」
それをなんなくキャッチした兄貴はまったく悪びれる様子もなく脱衣所から出ていった。
「ったく、……最悪だ」
風呂で得た良い気分を全て台無しにされ、不快な気分を感じながら俺は火照った体をタオルで拭くのだった。