家事係
玄関で弘樹と別れた俺は特に寄り道などもせずに真っ直ぐに家へと帰宅した。
「ただいまー」
ドアを開けて声を掛けてみるが、返事はない。そりゃそうだ。ウチには今俺以外誰もいないのだから。
ウチは俺と両親、それに兄貴の四人家族だ。だが両親は共働きで夜の帰りが遅いし、兄貴は去年からここから数十キロ離れた県内の大学に通っている為一人暮らし。だからまだ昼過ぎのこの時間帯には俺以外家には誰もいない。
だから別に帰りの挨拶する必要なんてないんだけど……なんとなく習慣になってるので家に入ると自然と出てしまう。
ま、誰もいないのなんていつものことなので返事がなくても別に寂しいと感じることはないけど。
「さてと」
帰ってすぐに部屋へと向かい、着替えを済ませた俺はある物を持ってリビングへと向かった。
「んしょ、と。それじゃ始めますか!」
そして長袖のTシャツを腕めくりして俺は作業を開始した。
「おらおらおら! そんなとこに隠れてても俺にはお見通しだぞ!」
華麗なフットワークと共に家の中を駆け回る。
「粘っても無駄だ。俺の手さばきから逃げるなんて十年早いわ!」
繊細かつ素早い動作で手を上下左右に動かす。
え? なんの作業をしてるのかって? そんなの決まっている。
「はははっ、俺の手にかかれば家の家事など造作もない!」
そう言って俺はピッカピカに磨き上げた風呂場を見ながら一人叫んだ。
なんで俺がこんなことをしているのか? そんなの至って単純な話である。この家に俺しか家事をする人がいないからだ。さっきも言ったようにウチの両親は共働きであり、どちらも仕事人間なので基本家のことには無頓着。兄貴も兄貴で家事についてはからっきしなので必然的に家事は俺しかやる人がいない、というわけだ。
なので入学式、始業式だけで半日授業の今日にいつもは休みにまとめてやることが多い家事を片している、というわけである。
とはいえ、ここまでガッツリやったのは久しぶりだ。ここまでやるつもりはなかったんだけど、なんかやり始めたらとことんやらなければいけないような気になってついついやり混んでしまった。例えるならテスト前にいつも以上にはかどってしまう部屋掃除、みたいな?
「ふぅー」
風呂掃除も一通り終えて俺は一つ大きく息を吐く。
「結構やったな」
携帯で時刻を確認すると掃除を始めてから二時間近く経過していた。
「さてと、どうしたものか」
掃除は一通り終わったし、かと言って夕飯には少し早い。
「うーん」
考えながら額から流れる汗を服の裾で拭う。
「そういや結構汗かいたな」
思いのほか張り切ってやったものだからまだ四月の頭だというのに結構な汗をかいていた。Tシャツもどことなく湿っている。
そしてそんな俺の前にあるピッカピカに磨かれた風呂。
「……せっかくだから入っちゃうか」
まだ夕方だけど先に入ってあとくのも悪くないだろう、汗も流したいし。
そうして俺は洗いたての浴槽にお湯を溜め始めた。