クラス替え
さて、どうしてこんな状況になっているのか? 話は約一ヶ月前に遡る。
四月三日。麗らかな春の陽射しを浴びて希望と夢に胸を膨らます新入生達を横目に見ながら俺、城山葵は新学期初日の通学路を歩いていた。
「ああ、そっか。今日は入学式か」
ウチの学校は入学式と始業式を同じ日に行うので新入生のうやうやしい姿をこうして見ることが出来る。
「今日から俺も二年なんだな」
一年前に自分があんな感じだったのかと思い返し、少し懐かしいような、そして月日の経つ早さにしみじみとする。
「って、新学期初日から何考えてんだか」
新学期なんだからもっと前向きにいかないと!
「よしっ!」
バシッと両頬叩き、俺は生徒玄関前の掲示板へと向かった。
そこには大勢の生徒が我先にといった感じで群がっていた。
「まあ、そうだよな」
その光景を見て俺は一人納得する。彼らは一体なぜそんなに掲示板こ前に群がっているのか? 答えは簡単。クラス発表を見る為だ。在校生にとってそれは新入生の入学式と同じくらい重要なイベントだ。なんたってそれで一年間同じクラスで授業を受ける仲間が決まるのだから。そりゃ誰だって出来ることなら友達と同じクラスになって楽しい高校生活を送りたいに決まってる。こうしている今この時もあちらこちらから友人同士で喜びあう声やはぁーといった落胆の声が聞こえてくる。
まあかく言う俺も気になってはいるわけだけど……
「仕方ない」
一向に減りそうにない人の多さに溜息をつきつつ、俺は自分のクラスを確認する為人ごみの中に飛び込んだ。
「ちょっと、すみません」
人ごみの僅かな隙間を縫うようにして俺は掲示板の方へと進む。
「……っぷはぁ。はぁ、はぁ……ようやく出れた」
人に押され、流されながらもなんとか掲示板の前にまで出ることが出来た。さてと、俺のクラスは……
「えーと……あっ、あった」
掲示板の一番左、一組のところに自分の名前を見つけた。
「一組か……」
一組って玄関から一番遠いんだよな~とか考えながら他のクラスメイト達を確認する。
「よっ!」
「っ!?」
突然誰かが肩に手を回しながら声を掛けてきた。
「……なんだ、弘樹か」
俺はいきなりそんな慣れ慣れしく絡んできた友人、北谷弘樹に溜息混じりに言葉を掛ける。
「なんだとは大層だな、親友に対して」
「親友? 悪友の間違いじゃないのか?」
「おお、なんという言われよう……せっかく今年も同じクラスになったというのに」
「え?」
弘樹に言われて改めて一組のところを見てみると確かにそこには弘樹の名前があった。
「またか……ここまで来ると腐れ縁というか、呪いじみたものを感じるな」
「おいっ! 確かに中学からずっと同じクラスなのは違いないが……それは酷くないか?」
肩に手を回したまま、こっちの顔を覗きこむようにして弘樹が反論する。
「ま、とにかく今年も同じクラスだ。よろしくな」
正面へと移動し、明るい笑顔をこちらに向ける弘樹。
「……ああ、よろしく」
俺は顔を少し俯きながらそっけなく言葉を返す。
「ほらっ、いつまでもここにいないでさっさと教室行くぞ」
そう言って俺は弘樹を置いて先に歩き出す。
「ちょ、ちょっと待てよ。一緒に行こうぜ」
そんな声を出しながら弘樹は後ろからついて来る。そんな能天気な弘樹をよそに俺の心臓の鼓動はさっきから早いままだった。