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決定的

「って、やっぱり部活始まってるか」

グラウンドの中へと入った瞬間から部活動の騒がしい音が耳に入ってくる。

ウチの学校のグラウンドはそこまで広いわけじゃない。。何年か前に野球部が奇跡的に甲子園に出て、大量に入った寄付金でグラウンドを少し拡張したらしいけど、それでも四百メートルトラックと野球部のダイヤモンド程度の広さのスペースがあるくらいだ。ま、それでも都会の学校に比べたら広いんだろうけど。

で、そんなスペースの中に陸上部、サッカー部、野球部が所狭しとひしめき合って練習をしている。

ウチの学校は運動部が少ないから必然的にメジャーなそういった部活の部員数は多いわけで……まあ、そりゃ騒がしくもなりますよね。

「で、野球部は……っと」

グラウンドの端の方で練習している目線を向ける。どうやら今はバッティング練習中らしいマウンドらしき膨らみの付近、左右から打撃投手らしき選手がホームベース付近にこちらも左右に二人分かれて立っている選手に向かってボールを投げ込んでいる。そしてその投げ込まれた球をホームベース付近で構えた選手が鋭いスイングで打ち返す。グラウンド内に選手がそれぞれのポジションで構えており、打ち返された球をキャッチする。いわゆるフリーバッティングってやつだ。他の部活動もいるこんな狭いグラウンドでそんなことしたら危険なんじゃ? なんて思う人もいるかも知れないがそこは大丈夫。あらかじめトラック前に複数人の選手が配置されていて飛んできたボールがトラックを走る陸上部の選手にボールが当たることのないようにちゃんと配慮されている。

全部の部活が安心して使えるように上手く考えているんだなーなんて初めて見た時は思ったっけ。野球部の練習見るのは別に初めてってわけじゃない。入学してすぐの頃見学したこともあるし、弘樹に誘われて何度か見に来たこともある。

「っと、その弘樹は……」

グラウンドの入口から弘樹の姿を探すが、如何せんグラウンドの端で練習している野球部員の顔が良く見えない。何をしているのはわかるけど、誰なのかはわからないって感じだ。たぶん時間的にもまだ練習始まったばかりだろうから今打っているのは三年生だろう。野球部は基本年功序列だからな。だとすると弘樹は守備についてると思うんだけど……

「うーん、もう少し近づくか」

俺はグラウンドの隅を歩きながら野球部の練習するグラウンドの端の方へと接近する。

近づくにつれて大きくなっていく野球部の掛け声。その声を聞きながら俺はどこか懐かしさを覚える。

昔は俺もあんな感じだったのかな?

なんて中学の頃を思い出しながら歩いていたその時だった、

「危ない!」

突然の大声が俺の耳へと届いた。その声に反応して顔を上げると、

「え?」

すぐ目の前にボールが迫っていた。

一直線にこちらへと迫るボール。おそらくあと一秒足らずでそれは俺へと到達するだろう。

あまりに突然の出来事に俺は避けることも、腕で体を守ることも、驚くことすら出来ない。俺に出来るのはただ目を瞑り、そのボールが俺の体にぶつかる瞬間を待つことだけ。

「っ! ……」

だがいつまで経ってもその瞬間は訪れなかった。体に痛みどころか何かがぶつかったような感触もない。とっくにボールは俺に届いてなければおかしい、それぐらいの時間は経っているはずなのに。

俺は恐る恐る目を開いた。

「……え?」

目を開けたその先にあったのはボールではなくオレンジ色のグローブだった。それはまるで俺を守るかのように俺の顔の前に立ちはだかっている。

「おい! 大丈夫か!」

状況がわからず呆気に取られている俺に聞き覚えのある声が前方から聞こえてきた。

「ひ、ろき?」

俺の前にあるグローブ。そのグローブを構えたままこちらを向いているその人物は……弘樹だった。

「大丈夫か! どこか怪我してないか?」

体を完全にこちらに向け、俺の肩を掴みながら矢継ぎ早に問いかける弘樹。

「あっ、うん。別にどこも怪我はないけど……」

「ほんとか? ほんとにどこも痛くないのか?」

「う、うん」

「そ、そうか」

俺がそう答えると弘樹は安心したようにふぅーと息を吐き、肩を落とした。

「なんとかギリギリ間に合ったってことだな。良かった」

「ギリギリ?」

ふと弘樹がしているグローブに目を向けるとそこには一つのボールが収まっていた。

「もしかして、お前がキャッチしてくれたのか? 俺に当たる前に?」

「え? いや、まあそうだけど……お前の方にボールが飛んでくのが見えたから慌てて……」

そう言って恥ずかしそうに頬を掻く弘樹。

「そうか、お前が助けてくれたのか」

「別に助けたとかじゃねえよ。野球部として他の生徒に被害が出ないように当然の役割を果たしただけだ」

「そうだよな。でも確かに俺はお前に助けられた。だからこれだけは言わせてくれ」

俺は俺より少し背の高い弘樹の目を見上げるように真っ直ぐに見つめ、

「ありがとう」

素直に感謝の言葉を伝えた。

「っ!? 」

その言葉を発した瞬間、ボッと火でもついたかのように一瞬で弘樹の顔が赤くなった。今までまともにお礼なんて言ったことないから恥ずかしくなったのか? ぶっちゃけ俺も少し恥ずかしいし。って、そうじゃないだろ。俺は弘樹に言うことがあってここに来たんだから。

「あのな、弘樹。実はお前に話が……」

俺はここぞとばかりに弘樹に話をしようとしてそして気がついた。顔を真っ赤にした弘樹がいつかのように俺のことをボーッと見つめていることに。

「ひ、弘樹?」

「え? あっ、いや、その……わりぃ!」

俺が声を掛けるとここ最近と同じように逃げて行く弘樹。

「お、おい! 弘樹!」

俺の呼び止める声にも反応することなく、弘樹は真っ直ぐに走って行き、そのままグラウンドの外へとその姿は消えた。

あいつ部活中じゃなかったの?

グラウンド内にはどこかへと走り去ってしまった弘樹を呼ぶ……というか怒鳴るような声も聞こえる。

「あいつ、一体どうしたんだ?」

そんな弘樹を見ながら俺は弘樹の行動に対する疑問をさらに深めるのだった。


結局弘樹はそれから一時間ほどしてようやく戻って来たが、先輩や監督にどやされていた為、俺はその日弘樹にちゃんと話をすることが出来ず、疑問が解消されることはなかった。

だがその疑問が全て解消される大事件が起きたのはそれから三日後のことである。


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