乱入して蹂躙して
ルフルド帝国
隣接するは、王国と魔界へと通じる「魔愚の森」
そして、魔愚の森へと通じる平原では異形なる人為らざぬ者達と甲冑を纏った兵達が対立していた
「カハッ!生ゴミ共が揃いも揃って死にに来たか!!」
「フフッ、蔑むのは無意味だと言いませんよ?ベルブラド」
ニタニタと笑うベルブラドと呼ばれた青肌に歪に折れ曲がった角を持った男に対し、言葉を返したのは褐色肌に丸く曲がった角を持った男である
「ハッ!良い子ちゃんぶんじゃねぇよゼルドバド、テメェもゴミだと思ってんだろ?」
「貴方はゴミを蔑むんですか?生物でもない代物を蔑む趣味があるんですか?趣味が悪いですねぇ」
「カハハッ!そらそうだなぁ、すまねぇなゼルドバド」
ケタケタと笑うベルブラドにさも当然というように言葉を発するゼルドバド
「さぁ、さっさとゴミ処分を行いますよ?」
「カハッ!そうだなぁ」
ザッと地面を蹴り、歩き出す
ベルブラドの後ろにゼルドバドを筆頭に魔物達が進行する
「おい!ゴミ共、よぉく聞け!これより魔王軍第二十兵隊隊長ベルブラド様により、帝国とやらを我が領土にする!反論は認めねぇ!」
マントを翻し、大声で帝国軍に忠告するベルブラドを見つつ、クスリと笑うゼルドバド
魔王軍の進行を横目に帝国軍を率いる大男は大声で兵達に言う
「怯むな!奴らは魔物を強化したに過ぎぬ生命体、我が帝国軍に敗北の二文字は無い!全軍、突撃ぃ!」
「「オオオォォォオ!!」」
大男の気合いある言葉に触発され、兵達も燃え上がり、雄叫びをあげ進み出す
しかし、二軍を止めるかのように平原の中央に二人の冒険者が立ち塞がる
黒髪の男は帝国軍の方を向き、茶髪の男は魔王軍の方を向く
背中合わせで立つ男二人に少し、驚愕する二軍
「さぁて、腕試しだ」
ニヤリ、笑う黒髪の男
「生き物を殺すのは心苦しいがこれもまた、自然の摂理…」
目を伏せ、顔を歪める茶髪の男
そんな二人を他所に二軍は言葉を発する
「なんだぁ?あの人間」
「さぁ?ですがゴミが増えただけの話でしょう、ベルブラド」
「まぁ、な」
ベルブラドは警戒していた
黒髪の男からは邪なる気配を感じ、茶髪の男からは聖なる気配を感じたからだ
敵に回してはいけないと本能が叫ぶ
ベルブラドは興奮した、強い相手と戦いたいと思うは戦士の証
唾液を飲み下し、まるで餌の狩る狼の如く唇を舐めた
対して帝国軍
「何故、冒険者《死にたがり》風情がこのような戦場にいる?知っているやつはおるか?」
「生憎ですが誰も知りません、グラバルト将軍」
「そうか…」
大男 グラバルト将軍は値踏みした、どれ程強いか、どれ程難敵かを
しかし、そのような思考は停止した
男二人が武器を取り出したのだ、黒髪の男は太刀を、茶髪の男は扇子を
キィンと音と共に抜かれた刀はまるで魔剣のような美しくも危険な雰囲気を纏っていた
バンッと音と共に開かれた扇子は漆黒の黒塗りにより美しくも怪しい雰囲気を纏っていた
刀は白、扇子は黒
まるで対立するかのように、対であるようにその美しさを際立たせる
「さぁて、何分持つかな?」
「出来れば殺したくは無いが、仕方ないことなんだ」
その言葉を合図に二人の男は軍隊へと走り出す―――
呆気なかった、戦闘等と言えるものではなかった
まさに蹂躙だった
刀はするりと人を通り抜け、真っ二つにする
扇子はくるりと空中で廻り、持ち主に戻ってくる
その際には何匹もの魔物が犠牲になったことか
グラバルト将軍は、ベルブラドは、ゼルドバドは、兵達は戦慄した
余りにも呆気なく、仲間が切り裂かれていくことに
誰かが逃げ出そうとするも見えない壁に阻まれ逃げることも許されなかった
そこはまさに地獄だった、恐怖に支配された者から次々に裂かれ、斬られ、肉の塊へと姿を変える
その中には名の出た彼らも含まれる
まるでツマラナイと言ったように溜め息を吐く黒髪の男
「はぁ…全っ然歯応えねぇな、疲労が溜まるだけじゃねぇか」
唾を吐き、帝国軍の兵達で出来た山を冷めた眼差しで見やる
「すまない、これもまた運命だ。運が悪かったと思ってくれ」
胸に手を置き、苦しそうに顔を歪める茶髪の男
膝を曲げ、地面に片足を置く姿はまるで主に忠誠を誓う騎士のように、または散った魂に懺悔する聖女のように
男は異形なる者達だった肉の塊に言葉を紡いだ