白波少年の不安
茶髪の少年-白波菊杜は隣で共に歩く黒髪の少年-黒檻荊を盗み見、溜め息を溢す
「(あんな大口を叩いて出てきちゃったけれど、大丈夫かな?脅しを無視して追っ手が来たらどうしよう…)」
菊杜は心配だった
あの男達が脅しを無視して追っ手を出した時のことが心配で仕方なかったのだ
もし、追っ手が来た場合、隣の少年は容赦無用とこの国の全てを滅ぼし荒野にしてしまうような性格をしているのだ
それと、あの時彼等に言った言葉に胸を苦しめていた
彼、白波菊杜は仏様のような寛大な優しい性格をしているのだ、所謂ドを越したお人好し
対して隣の少年、黒檻荊は悪魔のような暴虐無人のような鞭しか持たない性格をしているのだ
黒檻荊は、なにも考えずに逃亡を図るような男ではない
しかし、菊杜はそれでも心配だった
「……荊、これからどうするの?追っ手が来た場合はどうするの?」
不安げに眉を下げる菊杜に対し、クスリと控えめに笑う荊
表情は穏やかだが、瞳は確信の色が滲み出ていた
そして、清々しい程に淡々と言葉を紡ぐ
「隣国に行けばいいさ。其れに…アイツ等は追ってこないさ」
「え?どうしてだい?」
菊杜は問う、荊は肩をすかし口を開く
「簡単な話さ。“言葉”には力が宿る、人は無意識に使っているものさ、その力を最大限に活用し、文字通り釘を刺したのさ、言葉の刃でね」
至極つまらなそうに解答を言い放つ荊に少し、顔を歪める菊杜
何か、思い当たったかのようだ
「そうかい、君にしては穏便に済ませたってことだね」
今までにあった彼の“正当防衛”を思い出し、益々顔を歪める菊杜の耳に楽しそうに控えめな笑い声が届く
「ふふっ、当たり前じゃないか。初日に問題を起こすような愚か者では無いんだよ、俺は」
まるでこれから問題を起こしますと堂々と言ってのける荊に呆れた眼差しと溜め息を吐く菊杜