恐怖の天使と悪魔
「黒髪の男が魔王候補です、お父様」
開いていた扉から現れた少女は、一緒に入ってきた数人の内の一人、やたらと豪華そうな服を身に纏う男に耳打つ
「……うむ。兵共よ、黒髪の男を引っ捕らえよ」
スゥッと自然な動きで黒髪の少年を指差す男
「ハッ!勇者候補殿は如何なさいましょう」
「丁重に客室に案内なさい」
兵の問いに答えたのは、豪華そうな服を身に纏う女であった
「ハッ!仰せのままに、女王陛下」
カチャリ、腰にぶら下がった戦闘に不向きな美しい装飾を纏う剣を抜き、少年二人に近付く兵士達
そんな中、少女と偉そうな男女に呆れた溜め息を吐く黒髪の少年
「俺が一体何をした?その候補ってのが原因ならそれは只の無差別だ、アホらし」
蔑み、冷めた眼差しで彼らを見ていると兵士の一人が口を開く
「貴様!陛下になんと申すか!場を」
「いいえ、彼の言葉は真実ですよ?」
兵士の言葉を塞ぎ、言葉を並べたのは茶髪の少年である
「俺も彼の無差別発言に同意です。そんな理不尽野郎の言葉を聞く意味もないね」
にこりと笑う茶髪の少年に頬を赤く染める少女、しかしその目線を見るや否や顔を青ざめたものに変える
彼ら、特に兵士を抜かす三人に対して“人”ではなく“肉の塊”を見る目をしていたのだ
「こっちは無理矢理召喚されたんだ、それなのにこの仕打ち…ねぇだろ(笑)俺は、城から出ていくから安心しろ」
「俺も同意だよ。唯一無二の親友で共に召喚された同じ境遇の人と離れろだなんて、生憎だけどそれで分かったって言える程に俺は鉄の精神を持っていない只の一般市民でね」
そこで言葉を区切り、周りの人々《おろかもの》を見る
「それに、俺達には“召喚された”って事実がある」
「それってようするに誘拐…だよね?そこに彼を処刑するって事実が追加されたら立派な犯罪だよね?」
「重罪だよな、言い訳や反論する余地もなく、な?」
にこりと純粋に笑う茶髪の少年、ニタリと悪巧みを企む笑みの黒髪の少年
周りは怒りで顔を赤にする者、自分達がやった罰に気付き顔を青にする者に分けられた
「まるで天使と悪魔だ」
そう、この場に居る誰かが呟いた
「はっ!今までの評判と同じだ、面白味も無いな」
「聞きあきちゃったね」
黒髪の少年は、まるでアホらしいと鼻で笑う
茶髪の少年は、まるで残念だと眉を下げに笑う
「さて、そろそろお喋りを終わりにしようか。俺達はここから出ていきますね」
「手を出してみろ、魔王や魔神、地中に眠るバカデカイ怪物の方がまだマシだと思う程にコテンパンにしてやる」
にこやかに言い放ち、様々な感情に支配され固まる彼らをよそに横を素通る二人
「あ、追いかけてこないで下さいね?生き地獄すら可愛いと思える目に遭わせますから、ね?」
にこりと念を押すように微笑む茶髪の少年
こうして二人は何事もなく世界の意思を壊して自身で決めた行方の分からない道を歩みだした