1.
「うわ」
「なんだその顔は。私は悪くない」
「いや君の部屋の惨状は君の責任だろ」
「昨日の予報ではよく晴れた、いい一日になると言っていた」
「んー、よく晴れたっつーか、よく降ってるな」
「快晴で洗濯日和だと言っていた」
「洗濯日和というよりは、洗濯物日和だな。主に囲まれて過ごす的な意味で。足の踏み場もありゃしない」
「うるさい」
「でも部屋干しにしといた慧眼は讃えてやろう。いやいや、ここまで降るとは思わなかったからな。まるで台風かタイフーンだ」
「ぐだぐだ言ってないでタオルを使え。それから獣道があるから奥へ来い」
「女の子の部屋なのに獣道ってどうなんでしょうかいやマジで」
「うるさい。急な雨だったんだから仕方ないだろう。来る予定もなかったのに招きいれてやっただけありがたく思え。それともあのままお開きの方がよかったのか。なら帰れ。今すぐ帰れ」
「あ、嘘ですごめんなさい。初めて入る彼女の部屋っていうのにちょっぴり幻想抱いてただけです」
「抱いてたのか」
「超抱いてた。今度干してない時に、また来てもいいか?」
「……いいけど」
「ところで君がベッドに腰掛けてくつろぎモードなのはいいとして、オレは一体どこに座ればいいんだ。どう考えても干し過ぎだろ。獣道以外の上空がおよそ洗濯物に占拠されてるってどういう事態だ。選択肢は道の上か道の上か道の上かなのか。部屋狭いのに一辺に洗濯しすぎだろ。っつーかあらゆる物体を代理物干しとして活用しすぎだろ、などと思います。まる」
「うっさい。だから私は悪くない。雨が続けば洗濯物が溜まるのは仕方ないんだ。私の不精じゃない。そう、悪いのは森田さんだ」
「誰だよ森田さん」
「気象予報士」
「とばっちりだな森田さん」
「きょろきょろしているので言っておく。下着は全部浴室だ。探しても無駄だからな」
「いやいやいやいや、それは濡れ衣だ。オレは安住の地を探してただけであって疚しい事は何一つ考えてないぞ。大体君が着てない下着オンリーに興奮したりしないから」
「そうか」
「そうだ」
「何故目を逸らした。……まあ仕方ない。ご覧の通りの状況だ、ここは勝負の他にないだろう」
「いやこら若干ちょっと待て」
「何だ。怖じ気づいたか」
「ぶっちゃけ何の勝負だいやマジで」
「ベッドか獣道か、腰を下ろしてくつろぐ場所を賭しての神聖なじゃんけんだ。当然ながら一本勝負だぞ?」
「ん~、よかろう。受けて立とうじゃないか。オレにじゃんけんで挑んだ己の愚を悔いるがいい」