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エステルドバロニア  作者: 百黒
4章 港の国
67/93

17 人狼



 人狼の最上位種【クロセル】。

 エステルドバロニアにおいては最前線にて敵陣に切り込み、真正面から力で捩じ伏せる第二団の軍団長として君臨している。

 高火力高耐久の物理特化。しかし他のステータスも高めなので使い勝手のいいユニットだ。

 加えて、通常攻撃とスキルが範囲攻撃の大槌を装備しており、格下相手の殲滅速度は獣人種の中でも五本の指に入る。

 対してランク7の異形種【アンゼルマータ】、魔幻将軍カルバランは特殊なタイプである。

 隠密行動、屋内戦での優位性とハルドロギアに類似する部分が多い。

 【アンゼルマータ】は特殊な条件を必要とせずに屋内戦闘での優位を取れるのに比べて、【キメラ】は時間こそかかるが強力な力を行使できる。

 アポカリスフェの仕様上、攻城戦は兵の数と強キャラでゴリ押すのが最も効果的だったために使われることはなかったが、決して弱い魔物ではない。

 ここはまだリフェリス王城の敷地であり、地の利だけなら確実にカルバランにある。

 そうカルバラン自身も思っていた。


 だが――


「オラオラオラオラァ! 早く逃げねえと轢き殺すぞォ!!」


 ドカンドカンと豪快な音を立てて、壁も床も天井も粉砕しながら巨大な狼が城の中を猛進している。

 配慮などどこにもなく、思うがままにやりたい放題スレッジハンマーを振り回す姿は、さながら動くダイナマイトだ。

 そんな破壊の権化に追い回される黒霧の蟷螂は、周囲の物体に体を溶けこませて懸命に逃げるしか出来ないでいる。

 それもそうだ。自分と変わらない速さで後ろを追ってくる上に、王国なんか知ったことじゃないと言わんばかりの暴走っぷり。

 表情のないカルバランだが、もしあれば冷や汗が止まらなかっただろう。

 広い廊下を埋める蒼と白の巨狼が通り過ぎたあとは廃墟のように崩壊し、見るも無残な瓦礫の道と化していた。


(なんなの? なんなの? なんなの!?)


 カルバランの困惑は止まらない。

 王国がこの所業を許したのかどうか定かではないが、狼の飼い主が許可したのは間違いない。

 であるならば、何故こんな物理特化を放ったのか。女狼の方が適任ではないのか。

 戦闘になる可能性は考えていたし、誰であっても勝つ自信はあったが、まさか相手が脳筋なのは想定していなかったカルバラン。

 しかしグラドラの性格を知る者からすれば、このタイミングで舞台に上げるのが最も正しいと理解を示すだろう。

 耐えに耐えたのだ。

 部下を、国を、王を愚弄するように嘲り振る舞うカルバランの存在を知りながら手出しせずに今日まで。

 いかに忠義の大狼といえども限度がある。何もかもに黙っていられるほど気は長くない。

 ようやく枷を外されて、おまけに一切の加減は要らぬとも命ぜられれば、こうなるのは必然であった。


「はぁっははははははぁ! 最高の気分だ! てめえもそうだろう!? なあ!!」


 狂気に満ちた咆哮が聞こえる度にカルバランは怯えたように体を震わせる。

 周囲の無機物に溶け込んで泳げるのであれば、別の階や部屋へと移動してしまえばいいと思うが、【アンゼルマータ】の能力はそこまで万能ではない。

 隠密行動中は建造物の構造に合わせた移動しかできないという制約があるのだ。

 そのため、カルバランは隣接する部屋に潜ることができない。壁を破壊することもできず、人間と同じように扉や窓からでなければ別の場所へ移動できないのである。

 気付かれなければ非常に有利だが、一度捕捉されてしまうと一切のアドバンテージを失ってしまう。

 以前ハルーナと戦闘になったときはまだ特性を知られていなかったので逃げ果せることに成功したが、今回はそうもいかない。


 ウェポンスキル・大鎚《クルーエルインパクト》


 横薙ぎに振られたスレッジハンマーが空間を叩くと、衝撃波が通路を破壊しながらカルバランの背後に迫った。

 前方広範囲を一直線に吹き飛ばすその威力は、無機物の中を泳げるアンゼルマータの能力でも逃げ切れぬほど深く届く。

 半狂乱になりながら、カルバランは近くの扉を潜ってエリアを変える。開閉せずともすり抜けるように移動できる強みを最大限に使って。

 だが、グラドラも自身の強みを使って隣の部屋へと乗り込んだ。それは物理という、とても短絡的なものだが。

 破壊された壁の穴から、のそりと体を覗かせる人狼。


「もぉぉいいかああい? ……あぁ?」


 破壊衝動が満たされる感覚に上機嫌のグラドラだったが、飛来してきたナニカに気付いた。


 マジックスキル・呪《ニヴンの翅矢》


 蜉蝣の翅のように薄い刃がグラドラの顔を掠めた。

 頬を通り過ぎた翅の軌跡に、一本の紅い線が走る。


「は、ははっ! そうだと思ってたんだよ? 力任せの馬鹿は魔術に弱いって相場が決まってるんだからね? もう弱点は割れちゃったよ? お前の敗北は……決まったんだ!」


 マジックスキル・呪《インディビジョンプラーナ》


 石床に潜る黒い蟷螂から放たれた禍々しい弾丸が、無防備に突っ立つグラドラへ殺到した。

 淀んだ星空を固めたような怪しい煌めきを放つ呪いは、勇者であっても死に至らしめる力が込められている。

 一発体を貫くだけでも強い毒と幻惑の呪いに蝕まれて、正常な思考を奪う恐ろしい魔術。

 それが、何発も大狼の巨躯に着弾して肉を抉った。

 この世界に来て初めての負傷。魔術防御に劣るクロセルだが、それでも並大抵の術者では体毛にすら傷を付けられない。

 その硬い防壁を穿つ威力のを行使できると確信を持ったカルバランは、ようやく優位に立てたと闇の中でほくそ笑むが、頭上に迫っていた棘付きの柄頭に気付いてすぐ我を取り戻した。


「なっ、なんで!?」


 棒立ちの状態から急加速したグラドラの猛攻は先程以上に荒々しく無差別だった。

 そこにいるかいないかもお構いなしに、目につく全てを諸共瓦礫へと変えていく姿は、見方を変えるなら新しい玩具を与えられた犬のようでもある。

 瞬く間に壊し尽くされた小さな部屋は、グラドラが部屋に飛び込んで十数秒で壁を破壊され尽くし、廊下と繋がる広い空間に変貌を遂げた。


「俺に傷を付けられる奴が、ようやく出てきやがったかぁ!! ついに俺たちを脅かす存在がぁ、っははは! 王よ! 偉大なる我らが王よ! この世界も最高に楽しめることが証明されました! はははっ、いいぞもっと来いよゴミ虫! その調子でもっと俺を滾らせろ!」


 牙を剥いて笑うように叫ぶ。それは歓喜の混じった威嚇だ。

 徐々にギアが上がっているのか、障害物を利用して隠れながら逃げようとするカルバランを、獅子の咆哮のような風切り音をたててスレッジハンマーが周辺ごとまとめて吹き飛ばそうとする。

 しかし、頑なに天井だけは破壊しない。それがカルバランにとって一番つらいところであった。

 吹き抜けになっている場所も、階段もない。外に出られれば壁を伝うこともできるのに、無差別なようにみえてその実しっかりと誘導されていることに気付く。


(それに、人間はどこにいったの?)


 城を壊す轟音と衝撃が一帯に響いているのに、道中一度も人間と出くわしていない。

 逃げている気配もなく、どこに隠れているかも感じ取れず、人質を取る選択も考えていたがうまくいかないでいた。

 つまり、全て計画されていたことになる。

 どうやって悟らせずに実行したのかカルバランには分からないが、一箇所だけ確実に人間がいる場所がある。グラドラに悟らせぬよう、闇の蟷螂は通路を曲がりくねりながら遂に見えた目的の部屋へと飛び込んだ。


「やっ――あ……え……?」


 そこは、舞踏会が行われていた王城の大広間。

 エステルドバロニア主導で貴族王族をまとめて閉じ込めていたはずの部屋。

 だが、今カルバランの目に映っているのは、上下左右全てが白い空間だった。

 加えて、能力を発動させても姿を隠すことができない。

 長く細い鎌の形をした八本の足に、歪な羽をもつ人間大の蟷螂。

 影となり、闇となり、人を惑わせて命を刈り取る災厄の害獣は、縦に割れた顎をカチカチと鳴らしながら少女とも少年ともとれない声で困惑を漏らした。


「飛んで火にいる、とは正にこのことでしょうか。能力に頼るしか能がないとは皮肉なものです」


 ペタン、ペタン。

 背後から聞こえる足音に振り向き、表情の作られない虫の顔から憎悪が溢れ出す。


「お前ぇぇ……雌犬ぅぅううう!」

「御機嫌よう、害虫。駆除されるときが来ましたよ」


 白い狩衣に黒のスカートを身に着けた美しい灰の人狼が、手に符を握って静かに構えを取った。


「【ルナルーガルーヴ】のハルーナ、先日のお礼に参りました」


 マジックスキル・聖《清浄の聖檻》


 ハルーナの使用したエリアを隔離する特殊な魔術は、攻城や防衛で効果を発揮する魔術である。

 対象を拘束するものと違い、術者を殺すか一定時間経過しなければ解除されないので拘束力が高く、一時的に無力化したい敵を隔離するのに有効だ。

 そしてもう一つの強みが、


「やっと捕まえたぜぇ……これでてめえも殺り合わなきゃならなくなったわけだ」


 他の味方ユニットが侵入できることである。

 スレッジハンマーを担ぎながら白い部屋へと入ってきたグラドラの血塗れな姿にハルーナは一瞬驚いたが、すぐ呆れた顔を作った。


「団長、またそのような戦い方を……。カロン様は団長を高く評価くださっていますが、それは乱暴なだけをお求めではないとご理解なさっているはずです。そのように無用な傷を負われては、カロン様が信を置く第二団の団長として相応しい振る舞いでは――」

「ごちゃごちゃうるせえぞハルーナ。とっとと治せ」

「はぁ……」


 子供のように目を輝かせて戦いに飢えるグラドラの姿を見て、これは何を言っても聞かないと判断したハルーナは渋々といった様子で詠唱を始めた。

 二対一の状況で、物理特化と魔術特化の組み合わせはカルバランには最悪の状況だ。


「ひ、卑怯じゃないの? あれこれ言っていたくせに、結局数に頼るつもり? 強者の誇りも捨てた哀れな犬に成り下がるなんて、やっぱりただの人間のペットじゃないかな?」


 一対一なら、勝機があるはずだ。善戦はできるのでは。女を殺せば逃げることも。

 回復を終えたグラドラはその挑発に何も言わず、強く踏み込んで蟷螂の頭部を横からぶん殴った。

 隠れ場のない空間で正確な位置さえ掴まれれば、アンゼルマータの能力など無価値に等しい。

 防御も間に合わずまともに食らったカルバランは、首と胴がバラバラになりそうな威力に声も出せず吹き飛んでいく。


「なにか思い違いしてねえか? 物をしらねえのか? 魔王軍が馬鹿なのか?」


 胸がすく直撃の感触に気分を良くしたグラドラが、下らない考えに唾を吐きつける。


「偉大なるカロン様に俺たちが求められてんのは勝つことだけだ。誰に恨まれようが、憎まれようが、そんなの知ったことじゃねえ。俺の誇りも、命も、王に勝利を齎すためなら幾らでも捧げる。それが忠実な僕ってもんだろうがよ」


 長い長い戦いの歴史、その果てに行き着いた境地は確固たる忠誠である。

 非道も卑怯もしてきたし、されてきた。その上でエステルドバロニアは勝利を掴んできたのだ。

 プライドを優先して無様を晒した経験もある。そこで大きな痛手を被ったことも少なくない。

 そうして学び行き着いた答えを、カロンは忠誠度のパラメーターと呼ぶのだろうが、彼ら軍人は心に強く根付いた覚悟として忠誠を叫ぶ。

 誰もが喉から手が出るほど欲しい臣下の鑑。

 常勝無敗の軍勢が、常勝無敗たる所以であった。


「ヒ、ヒ、ギィィィアアアア!!!」


 壁に叩きつけられていたカルバランが叫ぶ。

 それはグラドラとは違う意味でプライドを捨てるためのものだ。

 力を全て解き放ち、己ごと敵を滅ぼす全身全霊の闘争を危機的状況から選択した。

 身を焦がす黒い炎を吹き上げながら、淀んだ星の弾丸で辺りを埋め尽くしていく。


「はっはぁ! そうこなくちゃなあ! ハルーナ、二度の失態は許さねえぞ!」

「もちろんです。月狼の名に誓って、エステルドバロニアに勝利を」

「シネエエエエエエエ!!」


 虫の顎から鳴る声に合わせて、夥しい数の弾丸が一斉に放たれた。


「見果てぬ数多を退けて尚聳える光輝の護り。悪しきを払い窮極へと至れ! 《ヘキサセイクリッド》!」


 投げられた六枚の符が二人の前に舞い、六角形の透き通る白盾が正面に現れる。

 爆撃のような黒弾の豪雨が殴りつけるように降り注ぐ。一発一発が人間程度ならバラバラにしてしまう威力を持っており、純白の世界をたちまち噴煙で埋め尽くした。

 全て打ち終え、カルバランがもう一度《インディビジョンプラーナ》を放とうと四本の足を掲げる。

 同時に、煙の中からスレッジハンマーを引き摺りながらグラドラが飛び出した。

 重戦車のような重く速い突進で距離を詰めていく。

 浮かび上がる黒き弾丸を前に何一つ臆することはなく、嬉々として死地やもしれぬ間合いへと大きな獣の足で踏み込んでいく。


「クソクソクソォ! お前たちさえいなければァァああ!」

「はっはぁ! 喧嘩を売ってきたのはてめえらの方だぜぇ!?」

「アアAAAあアァアあああAA!!」


 四本の節足が左右に大きく開くと同時に第二斉射が始まるが、グラドラは決して立ち止まらないし振り向きもしない。

 ただ目の前の敵を屠るために生み出された。

 屍山血河の激戦を切り開く獣として望まれた。

 愛する父のために、力だけを伴にして全てを(なげう)つことこそが、第二団の意義であるならば。


「戦いってのはこうじゃねえとなぁ!!」


 ハルーナのヘキサセイクリッドが割れた。

 黒い魔力の塊が、勇者の力に匹敵する魔術には無防備な耐性しか持たないグラドラを穿ち、新しい傷を作っていく。

 しかしその程度では軽傷にもならない。見た目こそ深いが、体力の減りは微々たるものである。

 カルバランは攻撃の手段を切り替え、足元に作った闇の水溜りから魔術を付与した触手を槍のように突き出した。

 グラドラも引き摺っていたハンマーの柄を両手で握り、勢いをそのままに振り抜いた。


 マジックスキル・呪《スヴァラの黒炎》


 最後は、単純明快な接近戦だった。

 カルバランは束ねた触手で受け止めようとしながらグラドラを突き刺す。重く激しい巨大な鉄塊の猛攻は防ぎきれるものではなく、全身をギシギシと軋ませながらも夢中で攻めた。

 グラドラは無防備に体を晒したまま得物を振る。突き刺さる触手を蚊虻くらいにしか思わず、腕白な笑声を上げながら血風の舞う猛攻を放ち続けた。

 どちらが優勢かは語るまでもないだろう。

 次第に触手の動きは鈍り、鋭い凹凸の面によって徐々に削がれていく。


「イヤダァ! 将軍になっタンだァ! 認められたんだ、独りじゃなくなったんダ! もう一人ハ嫌ダァァアア!!」


 上り詰めたことで言葉を与えられて、仲間を手に入れた。

 孤独を生きるために弱者を喰らってきたアンゼルマータがようやく手に入れた居場所。

 それが命とともに失われる恐怖から、カルバランは叫ばずにいられなかった。


「そうかい」


 ふと、猛攻が止む。

 左手に握った大鎚を右から背中の方へと回し、捻れた体を膨張させて力を溜めるグラドラが、笑いを収めて呟いた。


「じゃあ、悔いて死ね」


 ウェポンスキル・大鎚《ディヘルヴェイロン》


 上体を左に大きく傾けながら、片腕で薙ぐ鉄塊が豪速でカルバランの側面に衝突する。

 細長い虫の体を()()()()()()()()()、ソニックブームを巻き起こした高位ウェポンスキルは、固められた防御を無視して振り抜かれた。


「ア――……」


 一瞬にして音速を超えたカルバランの肉体は、あまりの加速と破壊力に耐え切れず、心の叫びを最期にして音の壁を超えると同時に粉々に爆散した。

 斜め後ろに振り下ろされたハンマーは地面に擦って火花を散らし、グラドラの真後ろで静止した。

 飛び散った黒い甲殻と肉片は豪快な軌跡をなぞって半円に広がり白い床を汚している。

 それを斜に見ながら、グラドラは闘争の余韻を味わうように口から大きく白煙を吐き出し、血振りした大鎚を担いでハルーナへと振り返り、


「ハルーナ、てめえ回復一つ飛ばさねえのはどういう了見だ」


 と、いつもの不機嫌そうな雰囲気へと戻った。

 「俺を殺す気か」と大股で近付きながら不満をこぼすグラドラに、ハルーナはまったく気にせず白い結界の解除を行っている。

 相手にしない彼女の後頭部にコツンと柄を当てると、灰の狼はわざとらしく溜め息を吐いた。


「団長の本気を受け止めるように結界を維持するのは大変なんです。最後なんて城の壁を壊すどころか城の一角を消し飛ばせる威力でしたよ?」

「別にいいだろ。俺たちが直すわけでもねえし」

「直しますよ……そのままにしていたらカロン様の悪評に繋がりかねないんですから」

「ちっ……昔馴染だからって好き勝手言いやがって」


 紙を剥がすように結界が消えていく。

 広く豪勢な大広間の姿に戻った部屋の中、淡い緑に光る癒やしの魔術をグラドラに纏わせながら、ハルーナは俯いた鼻先をヒクヒクと動かした。


「……他に、第二団の中で意見する人なんていないじゃない。それに私は昔馴染じゃないわ」


 何倍もある大きな手を、小さな獣の手が包み込み、ぎゅっと甲を抓った。


「幼馴染よ。間違えないで」


 グラドラはハルーナがあまり得意じゃない。

 なんでも見透かすような感じだったり、言わなくても知っている風な感じもそうだが。

 それ以上に、女という生き物の持つ怖さを感じさせてくるのがどうにも苦手だった。

 だからこそ、副団長に相応しいのだが、それでも得意ではないのである。


「ふん!」


 こういうときは、決まって子供のように拗ねることしかできないグラドラに、ハルーナはやはり分かったような笑みを溢すと、わかったように話を切り替えた。


「団長、カロン様から追って連絡などは来ましたか?」

「……まだだ。ただ、相手の軍は門を抜けてこの国目指して直進してるらしい」

「それは?」

「ヴェイオスからの情報だ」

「そうですか。既にこちらは守善様とエレミヤ様の軍が展開しています。我々も早く戦線に加わらなければ」

「わかってるっつーの!」


 激しい戦いの跡は広間に一つも残されていない。

 カルバランの死骸も、ともに消え去っている。

 並んで外へ歩いていたが、グラドラは不意に立ち止まって振り向いた。


「生まれる国が悪かったんだよ」


 恨み辛みなど知ったことではないが、あの寂しさだけは胸に残る。

 ガランとした大広間を見ていたグラドラだったが、ふん、と強く鼻を鳴らして無用な残滓を捨て去った。


「団長?」

「なんでもねえ」


 不思議そうにするハルーナに間髪入れず答えて、またグラドラは歩き出した。

 この部屋には、()()()()()()からと、二度と振り向くことはなかった。


「それより人間どもはどうしたんだ?」

「別の部屋に押し込めてます。だいぶ衰弱しているおかげで素直に従いました」

「元勇者候補がいたって聞いたぜ」

「彼らは丁重に隔離させていただきました。戦が終わる頃には五体満足で出てこれるかと」

「まじか……」





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― 新着の感想 ―
[一言] いやーやっぱイイですわ~グラドラ。すごい好き。 ハルーナとの関係も良いし。 それにしても、ランク6でレベル80の残焔鋼がルシュカに一方的にやられてたのを考えると、相性もあるとはいえグラドラ…
[良い点] グラドラ可愛い
[一言] 更新お疲れ様です。
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