第3話 別れ
この日は、朝からの雨だった。ふわふわのいかにも高級そうな布団から出たロイはカーテンを開けて外を確認する。もちろん天候は雨。
「おいおい、勘弁してくれよ。また雨かよ・・・。」
そう呟いているとドアのノックの音。はいと合図をすれば入ってきたのは先日から世話になっている世話係のユザだった。
「おはようございますっ、ロイ様っ。」
相変わらず元気だなとロイは思った。
ここにきて今日で四日目。雨があまり好きではないロイは、晴れの日の出発を望んだ。が、結果は雨ばかり。雨月(6月)になり、雨期に入った村。これでは、この城から出られそうになかった。よし、とロイは決意した。
「ユザ、今日まで世話になった。」
「えっ。」
朝食の準備をしていたユザは持っていたティーカップを落とした。ティーカップが割れて紅茶が派手に飛び散った。ユザは腕で顔を隠して、
「すぐにタオルを持ってきます。」
と部屋を出て行った。ちょっと泣き声っぽかったのは気のせいだろうか?
床には赤の美しいティーカップがばらばらに割れていた。
それから、約一時間が経過した。ほぼロイの身支度は整っている。ロイがサンム村まで送ってきた、ケルは帰りもロイに依頼していたが、晴れの日の出発に付き合いきれなくなり、サンム村で一番優秀な兵士と共に帰ったのだが、先日のファイアーモンキーの一件を見る限り、今頃死んでるんじゃねえか、と不安になる。
そして、帰り送らなかったせいで報酬も半額にダウンした。まぁ、これはロイの自業自得なのだが・・・。
しかし、次の村へ行く分はゆうに超してるのでまぁ、いいかとあまり深くは考えなかった。
「ロイ様、本当に行かれるのですか。」
不意に後ろから声を掛けられたロイは扉に手をかけたところで振り返った。そこにはミトとユザだった。ミトは完全なる年寄りだが、ユザは笑顔がかわいい子だった。
「あぁ、ありがとう。楽しかったよ。じゃあ。」
と言って再び扉に手を伸ばした。
「待って。」
その声に反応してまた後ろを見てしまう。その声の主はユザだった。ユザは泣いていた。だが、泣きながらも、やはり無理に笑っていた。自己紹介のユザを思い出す。
「ロイ様、あなたの世話係のユザです。ほら、ユザ、しっかり自己紹介しなさい。」
その時、ユザはミトに引っ張られてきていた。」
「すみませんね、この子、初めての世話係でしかも、人見知りなもんで・・・。」
とミトが笑って言った。ロイも笑い返す。
「ちょ、無理だって、なんでいきなりこんな偉い人なんですかっ。」
「あなたが、やりたいって言ったんでしょ?しかも、ロイ様を見てから。そう言えばあなた一番初めの人はかっこいい人にして下さいって言ってなかったっけ?」
ユザが赤面していく。
「もうっ。」
こんな二人の様子を見ていたロイはこれじゃ終らない・・・。と、自分から声をかけた。
「初めまして、ユザさん。オレは知っての通り、ロイって言います。よろしく。」
そう言ってほほ笑むとユザの顔はタコのようになってしまい、その隣でミトがひゅーひゅーとせかしていた。
「私はユザって言います。新人なので、あまりうまくはできないかもしれません。が、常に笑顔を絶やさず行こうと思ってます。よろしくお願いします。」
そう、このセリフをとぎれとぎれに言ったのをロイは思い出した。
「私は初めて世話係になって、とても緊張したけど、楽しかったです。」
この四日間がひどく懐かしいように思えた。
「ロイ様が初めての客で良かったです。ありがとうございました。」
「おいおい、ここは宿じゃないんだから。それにオレも楽しかったよ。お前が世話係で良かったって心から思ってるよ。」
そう言ってほほ笑みかける
ロイは、自分の気持ちに気付いた。
馬鹿な、オレが人を好きになるなんて、あり得ないぞ。オレは、色騎士だ。人間とは遠くかけ離れた存在。人と付き合うなんてことはできるはずがないんだ。
もうこれ以上、その気持ちが深まらないうちにロイは城を飛び出していた。
# # #
「ひゅーひゅー、熱いねぇ。」
村を抜けて森を歩いているとそんな声を掛けられた。反射的に剣を抜いていた。
「おいおい、そんな物騒なもの出すなって。」
木にもたれかかりながらそう言ったのは男だ。まだ若かった。
「お前か・・・。いくら視力がいいからって覗き見は賛成しないな。いつか、殺されるぞ。」
「ほぉ、俺が誰かに殺されるか・・・。そんなやつとは対等に楽しみたいね。まぁ、色騎士と魔族が数名くらいだがな・・・。」
「まぁ、そうだろうな。だが、いくらお前に緑の能力があるからってオレには敵わないだろ。」
男は噴き出した。
「ぷっ、お前には敵わないどころか勝負にもならないと思うぜ。次元が違う。お前に勝てるのは白くらいだろ?」
「だから、覗き見はやめておけと言っているんだ。一般人ならともかくな。」
と、ここで会話がいったん切れた。次に話しかけたのは、ロイだ。
「で、お前は今からどこに行くんだ。」
「オレはこの大陸でぬるい任務だ。あるグループが問題を起こしてるみたいでな。それをかたずけに行かなければいけないんだ。」
「なるほどな。」
「で、お前は?」
「まぁ、オレは別の大陸にいかないといけないんだが、遠くてね、すこし手下を雇おうと思うんだ。まぁ、奴隷商人の町を今から目指す予定だ。」
「お前に手下はいらないだろっ。」
そう言うと再び沈黙が空間を支配した。今回の沈黙を破ったのは、男だ。
「あ、そう言えば紹介してやったガルドンはどうだった?」
「あぁ、あの化け物か。あいつはファイアーモンキーをやらせてやったが、ファイアーモンキー程度で実力は測れないな。」
プッと、また男が吹いた。
「おま、ファイアーモンキーとガルドン戦わせたの?鬼だな。」
「あぁ、今はガルドンの胃袋にいる。」
「赤騎士、お前、やっぱ最高だわ。また戦おうぜ。」
「あぁ、じゃあな。」
と、ここで男が醸し出す空気が変わった。
「あ、それとゴミは俺が処理しとくぜ。」
「あぁ、任せたわ。」
そう言って、ロイはさっさと歩いて行った。ロイが丁度見えなくなったころ男に弓矢が一斉に降り注いだのだった。
第4話に続く
後書き
えー、今回はユザが担当します。
今回もロイ様は抜群でしたね。すごくかっこよかった。
これでお別れだと思うとさみしいですが、気を引き締めてやって行こうと思います。では、今回はロイが出会った男に関して迫っていきたいと思います。
この男、ロイ様の知り合いでしたよね。
そして、ロイ様に「いくらお前が緑の能力を持っているからって」と言われています。だとするならば、この男はもしかして緑騎士!?さぁ、果たしてどうなのか?
結果は次回のお楽しみで!
では、次回予告のコーナーです!
次回予告
次回、この男の能力が明らかに!
頭の上に降り注ぐ矢をどうやって男は防ぐのか?
そして、新たな街でまたもや問題発生。
次は内戦!?
次の話しも見逃せない!
では、お楽しみに!