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勘違いシリーズ

夫婦はイワシ

作者: 朝山みどり
掲載日:2026/11/03

これは昔、読んだエッセイを思い出して書いています。


勘違いって誰でもしますよね。


夫婦はイワシ


 小学校に入ったばかりの頃、校長先生のお話には、難しい言葉がたくさん出てきた。


 戦前のことである。


 講堂に並んでいると、床の冷たさが上履きの底から伝わってきた。前の子の背中を見ながら、早く終わらないかと足の指を動かす。隣の子が身じろぎをすると、先生の目がすっとそちらを向いた。


 だから、顔だけはまっすぐ前へ向けていた。


 壇上では、校長先生が教育勅語を読み上げている。私には、意味のわからない言葉が、切れ目もわからず続いているように聞こえた。


 ところが、その途中に、一か所だけ、よくわかるところがあった。


「……夫婦はイワシ……」


 イワシ。


 私は少しうれしくなった。


 イワシなら知っている。魚屋の店先で、何匹も並んでいる銀色の魚だ。母が買ってきて、夕飯のおかずにもなる。


 ただ、夫婦のイワシというのは、まだ見たことがなかった。


 私の頭の中に、青い海が広がった。


 大きなイワシが一匹、すいすい泳いでいる。その横には、ひとまわり小さなイワシがいた。こちらは目が大きくて、なんとなく愛嬌がある。


 大きいほうが旦那さんで、小さいほうが奥さんだった。


「おい、こっちだよ」

「そんなに急がなくてもいいでしょう」


 旦那さんが尾びれを振ると、奥さんも小さな尾びれを動かす。旦那さんは少し先へ行ってから振り返り、奥さんが追いつくのを待った。


 二匹のお腹が、海の光を受けてきらりと白く光る。


 私は、それをたいそうよい眺めだと思った。


 「お勅語」でわざわざおっしゃるのだから、イワシの夫婦は、よほど仲がよいのだろう。


 長くて難しい言葉の中で、そこだけは、いつも楽しみだった。


 後年、それが「夫婦相和シ」だとわかった。


 

 夫婦が仲よくするという意味だったのだ。


 なるほど、それならわかる。けれども、あれほどはっきりイワシと聞こえたのは、どういうわけだろう。


 校長先生は、少しなまっていらしたのかもしれない。



いつも読んでいただきありがとうございます!


誤字、脱字を教えていただくのもありがとうございます。

とても助かっております。

楽しんでいただけましたら、ブックマーク・★★★★★をよろしくお願いします。

それからもう一つ、ページの下部にあります、「ポイントを入れて作者を応援しよう」より、ポイントを入れていただけると嬉しいです。

よろしくおねがいします。


「 黒と青、金と青、銀と紫」の投稿を再開しました。読んでみてください。

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