青い扉のぷりえてさん
ある街の、石畳が続く坂道の途中に、小さな青い扉のお家がありました。そこには「ぷりえてさん」という名前の人が住んでいます。
ぷりえてさんの趣味は、街のみんなの「小さな記憶」を拾い集めることです。
例えば、誰かがふと道端で四つ葉のクローバーを見つけた気持ちや、
お気に入りの飴玉を口に入れた時の甘い香り。
そんな、どこに落としたか思い出せないほどの小さな、でも素敵なものを、ぷりえてさんは散歩しながら集めて空に撒くのです。
ある風の強い日のこと。ぷりえてさんが大きな背丈ほどの銀色のハサミを持って、庭に出てきました。
「おや、このままじゃ記憶がしめってしまいますね」
ぷりえてさんがそう言ってハサミを空中で「チョキン」と鳴らすと、あら不思議。雲の隙間から、まるで金色のリボンのようなお日様が顔を出しました。
「ぷりえてさーん」
大変!子供達が遊びに来た!
ぷりえてさんはハサミを子供が届かない高さまで持ち上げます。
あれ?なぜかたっちゃんが泣いています。
「お母さんに怒られちゃった……もう家なんて帰らない!」
「あらあら」
「お母さんと友達だったんでしょ?!僕の気持ちなんて分からないよ!」
ぷりえてさんは革のポシェットを取ってきて言いました。
「たっちゃん、いいものを、ひとつお裾分けしましょうね」
お散歩に出かけるときにいつも肩に付けている、そのポシェットの中には
さっきたっちゃんが落とした「雨上がりの虹を見た驚き」や、「お母さんに褒められた時のくすぐったい気持ち」が、キラキラとした金平糖のような形になって、ぎっしりと詰まっています。
「美味しい!ありがとう」
「帰ってみない?きっと、大丈夫。」
「……分かった」
たっちゃん達が帰った後、ぷりえてさんが空に向かってハサミを「シャキン」とひと振り。
すると、ポシェットから溢れ出した誰かの楽しい記憶が、目に見えない光の粒になって、怒っているお母さんの鼻先にふわりと舞い降ります。
「……? なんだか、楽しいことを思い出しちゃった」
「ただいま〜ぷりえてさんの家で遊んでた〜」
「ぷりえてさん?って……誰?」
ぷりえてさんのハサミは、悲しみを切り離すためのものではありません。
明日をもう少しだけ明るくするために、雲を切り、光の通り道を作るための、大切な道具なのです。
今日もぷりえてさんは、街のどこかに住んでいます。
もしも、余りにも悲しくなったり、大切なことを忘れそうになったりした時は、少しだけ立ち止まって耳を澄ませてみてください。
「チョキン」
遠くの空で、銀色のハサミが鳴る音が聞こえたら、それはぷりえてさんからの合図です。
あなたの落としてしまった「素敵な記憶」が、キラキラ光る金平糖になって、また手のひらに戻ってくるかもしれません。
坂道の途中の、青い扉のお家。
今日もどこかで
ぷりえてさんは誰かの「忘れてしまってもいい幸せ」を、そっと拾っています。




