第16話:事情説明(前編)
「……ええと、あの」
部屋の隅にいた十矢が、初めて声を出す。消え入りそうなほど小さな声に、根巳と深命が顔を上げた。
「まだ、ちゃんと名乗ってもいないから。……ボクは十矢瑠衣と言います。銘谷高校に通ってて……」
「……僕は深命明彦。2人と同じ学校で、生徒会の書紀でした」
「オレは根巳裕太! アキとルイとは高校が同じで、あの大穴に落ちたときに、そのことを思い出したんだよ」
少年たちが続けて言う。浦見は彼らの話を聞いて、真顔になった。
「……そういや、俺が警察官だったことを思い出したのも、落下の途中だった気がするな。てことは全員そうなのか?」
そう呟いて、彼は口元に手を当てながら考えこむ。その様子を横目で見ながら、坂井は座ったまま口を開いた。
「私は芒野高校だから、あなたたちとは違うわね。名前は坂井柚希。おじさんには、前のゲームから助けてもらってるわ」
「……私、ホリー。ごめんなさい。他には、何も……」
金髪の少女が、男が着ているスーツの袖をギュッと掴んで、鈴の音のような声をだす。それで男は、我に返った。
「……っと、すまねえ。俺は浦見宏紀だ。さっきも言ったが、元は警官だったからな。一般市民を守るのは、義務みたいなもんだ」
その言葉に、少年たちが目を見開く。坂井とホリーも、さすがに驚いたような顔をしていた。浦見はそれを見て、苦笑を浮かべる。
「だからってわけじゃねえが、今は成り行き上、こいつらの面倒を見てる。ついでに助けてくれってんなら、俺は断る気はねえよ」
「……じゃあ……!」
根巳が目を輝かせる。浦見はすかさず、釘を刺した。
「ただし、あくまでも全員、まとめてだ。あまり期待しすぎるなよ。これだけ人がいると、俺1人では守りきれねえ可能性もあるからな」
「……まあ、そうですよね」
深命が男の言葉に納得する。十矢もウンウンと頷いていた。
「……じゃあ、結局ここにいるしかないってこと?」
根巳が落ち込んだ様子を見せる。浦見は腕を組んで告げた。
「……そのことだがな。お前ら、まだ高校生なんだろ? ライターを持ってるって話だったが、それはどこで拾ったんだ」
「……ええと、確か道に落ちてたんだよ。真っ黒で血が付いてて、オレは持ちたくなかったけど。何かに役立つかもしれないって、アキがハンカチに包んで、持ってきたんだ」
「なるほどな」
話をしながら、浦見はホリーに目を向ける。彼女は腕に、ペットボトルを抱えていた。
「……実は、前にも追っ手を倒したんだ。そのときは、これが出てきたんだが……。あの黒い奴は、倒すと持ち物を落とすことがあるのかもしれねえ。だとしたら、ここにいるのは危ねえぞ」
1/我に返る
「はっと気がつく。意識をとりもどす。また、他の事に気を取られていたのが本心にかえる。正気にかえる」
2/釘を刺す
「相手の行動を予測してきつく注意する」
この後書き内での説明は、コトバンクの『精選版 日本国語大辞典』から引用したものです。




