表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/11

第4話「旅立ちの決意」

――アレン視点――


盗賊が去った後、村には不思議な静寂が訪れた。


いつもの夜とは違う、緊張を孕んだ静けさ。


村人たちは家々に明かりを灯して、扉に鍵をかけて眠りについていた。


***


ルミナ到着から二日目の昼下がり。


俺は診療所の外から、中の様子を見ていた。


小さな男の子が膝の擦り傷を押さえて泣いてる。


ルミナが静かに膝をつき、男の子の膝に手をかざした。


温かい光が傷口を包んで、みるみるうちに擦り傷が消えていく。


「痛くない…」


男の子の目が驚きで丸くなった。


「すげぇな…本当に傷が消えた」


振り返ると、幼なじみのドルンが立っていた。


狩猟の帰りだろう、弓を背負ってる。


「ドルン…いつからいたんだ?」


「さっきからだよ。村中で聖女様の噂になってるから、見に来たんだ」


二人とも、ルミナの治癒の光に見入っていた。


***


その夜。


鍛冶場の奥で、俺とルミナは向かい合って座っていた。


炉の火が二人の顔を赤く照らして、影が壁に踊ってる。


「今日の治療…すごかったです」


「ありがとうございます」


「俺とそんなに年も変わらないのに、あんなふうに人を助けられるなんて」


ルミナは少し考えてから答えた。


「15歳の時です。最初は戸惑いました。なぜ自分に、こんな力が与えられたのかと」


「俺と同じだ…」


「でも、人を助けられる力があるなら、使わなければと思うようになりました」


俺は右耳の神環に触れた。


「俺も…そう思えるようになるかな」


「もう一人の王のことを、話してください」


俺の声は静かだったけど、決意に満ちてた。


ルミナは頷いた。


「カイロス・ヴァルステッド。現在の国王です。あなたと同じ神環を持つ、もう一人の選ばれし者」


「なぜ二人なんですか?王は一人じゃ……」


「私にも分からない。でも、強い予感がするんです。二人の王が出会わなければ、この国に災いが降りかかると」


ルミナは困惑したように眉を寄せた。


「実は…この村にいる間、神託がはっきりと降りてこないのです。まるで何かに阻まれているような…」


「そして、あなたを狙う闇の魔力も感じます。一刻も早く王都へ」


「でも俺は……ただの鍛冶屋の息子です。王様に会って、何ができるんですか?」


「それは会ってみなければ分からない。でも確実に言えることがある」


ルミナは立ち上がって、窓の向こうを見つめた。


「あなたがここにいる限り、この村の人々も危険に晒される」


***


ルミナが村に来て三日目の夕刻。


俺は家族と共に夕食を囲んでいた。ルミナも一緒だった。


しばらく談笑した後、ルミナが外に出た。


父さんが重い口を開いた。


「アレン…お前はどうしたい?」


「父さん、母さん…」


俺は立ち上がった。


「俺、王都に行こうと思う」


母さんの手が震えた。


「聖女様の言う通りかもしれん。だが、王都は危険な場所だ」


父さんの声は重い。


「……でも、もう一人の王を助けないと」


「俺がここにいることで、皆に迷惑をかけられない」


母さんが涙ぐんだ。


「まだ16なのに……こんな重荷を背負わせるなんて」


俺は母さんの手を握った。


「帰ってくる。必ず。…でも行かなきゃ」


その声に、少年から青年への変化を感じ取った父さんは、深くため息をついた。


「……分かった。行け。だが、無理はするなよ」


「ありがとう、父さん」


家族の承諾を得た俺の表情が、少しだけ明るくなった。


***


――王都:カイロス視点――


同じ夜。


俺は執務室で、明日の布告について最終確認をしていた。


武器徴収法案――民衆の反発は必至だ。


だが、貴族議会の決定を覆すことはできなかった。


執務室の扉が静かにノックされた。


「陛下、お休みになられては?」


入ってきたのは、近衛騎士団長レオニード・グラスト。21歳の彼は俺より少し年上だが、戦場で共に戦った数少ない理解者だった。


「ああ…でも、眠れそうにない」


窓の外を見つめる。


明日、民衆にどう向き合えばいいんだ。


その時――右耳の神環が、わずかに温かくなった。


まるで、遠くの誰かが同じように悩んでいるかのように。


(もう一人の王…本当にいるのだろうか)


もしいるなら、会いたい。


この孤独な王座を、一人で背負い続けるのは――もう限界かもしれない。


***


――トルナ村:ドルン視点――


その夜、俺は弓の手入れをしながら考えていた。


アレンが王都に行く。


親友が、危険な場所に向かう。


(一人で行かせるわけにはいかない)


村の有力者の息子である俺が勝手に村を出ることは、大人たちが許すはずがない。


でも――どうしてもアレンを一人で行かせたくなかった。


俺は密かに旅支度を整え始めた。


弓矢の手入れ、携帯食料の確保。


父に気づかれないよう、少しずつ準備を進める。


(待ってろ、アレン……)


***


しかしその夜、誰も知らない。


王都では、民衆の怒りが臨界点に達しようとしていることを――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ