表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/9

第2話「密告の影」

――アレン視点――


神の光が降った翌日。


村は、いつもの静けさを失っていた。


鍛冶場の炉の火は朝もやの中で揺れているけど、外からはひそひそ声が絶えない。


俺は鉄槌を握ったまま、ため息をついた。


「……俺、何もしてないのに」


父さんも、いつもみたいに気さくに話しかけてこない。


まるで腫れ物に触るような扱いだ。


昨日までの日常は、もう戻ってこないのかな。


右耳の神環は、やっぱり外れない。髪で隠そうとしても、光の加減で金の線がちらついて、すぐにバレる。


コーリスが「王都に知らせるな」って言ったから、村全体にその方針が回された。


でも、それに納得してない人もいるみたいだ。


「こんな機会、二度とないぞ」


「王都に引き渡せば、村の地位が上がる。鉱山の採掘権だって……」


井戸端や納屋の陰で、そんな声が囁かれてる。


この辺りは昔から山賊が出る地域で、村人たちも盗賊の脅威には慣れてる。


でも今回は、何かが違う――そんな予感が村全体に漂っていた。


鍛冶場の前を通りかかった商人のジムが、外にいた父さんに小声で話しかけた。


「あの子を王都に差し出せば、この村の税は半分になるかもしれん――」


「黙れ」


父さんの声は低くて、怒気を含んでいた。


息子を守ろうとする父の意志が、その一言に込められてた。


ジムは肩をすくめて立ち去ったけど、その目には諦めきれない光が宿ってた。


(……俺のせいで、村が揉めてる)


胸が苦しくなった。


***


夕暮れ時。


商人のジムは、明日王都に向かうための荷造りをしていた。


「これも…必要だな…アレンの作った鉄細工、売れるといいけど…」


ドアをノックする音が聞こえた。


開けると、長い外套を着た女性が立っていた。


セシリア――村に流れ着いて三年になる裁縫師だ。


「明日…王都に行くと聞いたので…」


カゴの中から、精巧な刺繍が施されたハンカチが数枚手渡された。


「ああ、悪い。いろんなことがあって忘れてた」


「いえ…村中その話で持ちきりですしね」


セシリアの刺繍には不思議な力があるって言われてて、王都の貴族の間で重宝されてる。


高値で売れるから、ジムには有り難い商品だった。


「その時、この手紙を渡していただけませんか?」


手紙の封には宛先の名前が記され、封蠟には王都の貴族の紋章が精巧に描かれていた。


この辺境の村で貴族の紋章を知る者はいない。


でも彼女は、なぜかそれを知っていた。


「わかった、手紙も渡そう」


「ありがとうございます」


セシリアが去った後、ジムは荷箱を見つめた。


王都までは約十日。手紙が貴族の手に渡るのは、それくらい先になる。


その頃には、もう一つの重要な出来事が動き始めているはずだった。


***


――ルミナ視点――


同じ頃、王都の大聖堂。


私、ルミナ・フェンリースは深い祈りに入っていた。


昨日、新王カイロス様に神の光が降りた。


でも――何かがおかしい。


まるで、どこか別の場所でも同じことが起きているような…


「二つの光…それは一体…」


白い衣を揺らし、祭壇の前で瞑想を続ける。


まだ明確な神託は降りていないけど、胸の奥に不安な予感が広がっていた。


静寂な大聖堂に、かすかな星の光がちらついた。


それは三日後に降る、重要な神託の前触れ。


***


――セシリア視点――


村の外れ。


私は一人、夜空を見上げていた。


「……ついに、動き出したのね」


手首の古い傷跡に触れる。


数百年前、天界で愛した人の面影が、あの少年に重なる。


金色の髪、緑の瞳、優しい笑顔――ルシアン。


あなたが見た世界を、私は壊す。


神の選定制度を狂わせる術式。


それは、私の数百年に及ぶ復讐の結晶。


二人の王が同時に現れた――計画は完璧に進んでいる。


ジムの馬車は明日の朝に出発する。


十日後、手紙が貴族の手に渡る。


その頃には、王都で重要な出来事が起きているはず。


「さあ、始まりよ」


風に髪を揺らしながら、私は静かに微笑んだ。


そして――村の外れでは、黒いフードの影が動き始めていた。


数百年の復讐が、今、動き出そうとしている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ