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【完結】俺は王に向いていない ―神が選んだ二人の王―  作者: 川浪 オクタ
第2章 運命の邂逅

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第11話「響く声」

 ――アレン視点・広場側――


 橋が破壊されてから三日が経った。


 俺は広場の一角で、避難してきた人々の世話をしていた。


 最初は困惑と不安の入り混じった視線を向けられた。


「村の子供が王だって?」


「血筋もないのに」


「本当に俺たちを守れるのか?」


 でも、レオニードとセリアという二人のおかげで、少しずつ民衆の誤解も解けていったようだ。


「アレン様、薬草の調合が終わりました」


 セリアが報告してくれる。


 子爵令嬢の彼女が、身分を気にせず治療に専念してくれている。


「ありがとうございます。怪我人の様子はどうですか?」


「皆さん回復に向かっています。アレン様の薬草の知識のおかげです」


「レオニードさんの組織力もすごいです」


 レオニード――カイロス様の側近だった彼が、今は俺を支えてくれている。


「アレン様の指示は的確です。民衆の皆さんも、だんだんお慕いするようになっています」


 確かに、最初と比べて人々の表情が柔らかくなっている。


「あの子、案外しっかりしてるじゃないか」


「薬草のこと、よく知ってるな」


「セリア様やレオニード様が支えてるなら安心だ」


 村にいた頃とは違う仲間たちだけど、みんな同じ想いを持っている。


 この国を、少しでも良くしたいという想い。


「アレン」


 振り返ると、ドルンが立っていた。


 いや、違う。ドルンは市場側にいるはずだ。


「すみません、アレン様」


 声をかけてきたのは、王宮の使用人の青年だった。


 農民の出身らしく、素朴な顔立ちをしている。


「向こう側の様子はどうなんでしょうか?」


「カイロス様は無事です。でも、俺たちと同じように混乱していると思います」


 青年の表情が曇る。


「このままじゃ、また貴族たちの思う壺ですね」


 そうだ。


 分断されたままでは、何も変えられない。


 カイロス様一人では、民衆の現実を理解するのは難しい。


 俺一人では、政治の仕組みを変えることはできない。


(でも、何かできることはないか?)


 その時、広場側の聖女ノアが駆け寄ってきた。


「アレン様!大変なことになりました!」


「どうしたんですか?」


「市場側のルミナ様から、エーテルコールで連絡がありました」


 ノアの瞳が輝いている。


「ルミナ様が、エーテルコールを応用して、国中に声を届ける方法を考えついたそうです」


「国中に?」


「はい。詳しい仕組みは私にもよく分からないのですが...ルミナ様が『やってみたい』と」


 俺は考えた。


 これは、チャンスかもしれない。


 カイロス様と一緒に、全国の人々に直接話しかけることができれば――


「やりましょう」


 俺は迷わず答えた。


「ノアさん、協力してもらえますか?」


 俺はノアの手を握った。


「この国のみんなのために。そして、カイロス様と一緒に話すために」


「アレン様...」


 ノアの目に涙が浮かぶ。


「分かりました。私も、お手伝いします」


 ***


 ――カイロス視点・市場側――


「全国に声を届ける術?」


 俺はルミナの言葉を聞き返した。


 市場側で過ごした三日間、多くのことを学んだ。


 商人たちの苦労、職人たちの誇り、子供たちの純粋な笑顔。


 ドルンという青年からは、アレンの村での生活について聞いた。


「アレンはいつも、困ってる人を放っておけないんです」


「村のみんなが、アレンを慕ってました」


 アレンの人柄を知るにつれ、俺は確信を深めていた。


 この少年と一緒なら、本当に国を変えられる。


「はい。エーテルコールを応用して、理論上は可能だと思うんです」


 ルミナの表情が真剣になる。


「ただ、やったことがないので、どうなるかは...」


 どうなるかは分からない...


 それでも、やるしかないのか。


「他に方法は?」


「申し訳ございません。これ以外には...」


 俺は拳を握った。


 このまま分断されていては、また貴族たちに好き放題されてしまう。


 民衆は苦しみ続け、アレンとも会えないまま。


(アレンなら、どうするだろう)


 彼の顔が脳裏に浮かぶ。


 村で育ち、人を思いやることを自然に身につけた少年。


 きっと彼は、危険を承知でも人々のために立ち上がるだろう。


「分かった。やろう」


 俺は決意を込めて言った。


「アレンと俺が、同時に全国の人々に声を届けることができるんだな?」


「はい。それこそが、この術の目的です」


 ルミナが頷く。


「分かった。やってみよう」


 俺は亀裂の向こう、広場側を見つめた。


「二人の王が力を合わせれば、この国を変えられる。そのことを、みんなに示したい」


 ***


 ――ルミナ視点・術の準備――


 夕刻。


 私は市場の中央で、複雑な魔法陣を描いていた。


 ノアも広場側で同じ準備をしている。


 全国の聖女たちも、それぞれの場所で待機している。


「ルミナ様、本当に大丈夫ですか?」


 ドルンが心配そうに声をかけてくる。


「正直に言うと...分からないんです」


 私は苦笑いした。


「でも、やらなければならないことってありますよね」


 ドルンが心配そうにルミナを見つめたが、やがて静かに頷いた。


「アレン様とカイロス様が一緒に話してくださるなら、きっと全国のみんなに想いが届く。それを聞いてもらいたいんです」


 魔法陣が完成した。


 淡い光が円を描いて輝いている。


「準備ができました!」


 カイロス様とドルンが近づいてくる。


「ルミナ、本当にありがとう」


 カイロス様が深く頭を下げる。


「お礼なんて。私こそ、このような大切な役割をいただいて」


 私は微笑んだ。


 少し怖いけれど、やり遂げたい。


 この二人の王なら、きっと国を変えてくれる。


 そして、私の力が少しでもお役に立てるなら...


 ***


 ――エーテル・ネットワーク発動――


「それでは、始めます」


 私は魔法陣の中央に立った。


 全身に光が宿り、意識が拡散していく。


 遠く離れたノアの存在を感じる。


 さらに遠くの聖女たちの魔力も。


「繋がった...」


 全国の聖女たちの力が、私を通じて一つになる。


 巨大な光のネットワークが、王国全土に広がっていく。


 山間の村も、海沿いの街も、すべてが光で繋がった。


 でも、この術は私の魔力を激しく消耗していく。


 体の奥から力が抜けていくのを感じる。


(でも...二人の王様のために...)


「カイロス様、アレン様、どうぞ」


 私の声が全国に響く。


 ***


 ――二人の王の演説――


『全国の民よ』


 カイロス様の力強い声が、王国中に響いた。


『俺はカイロス・ヴァルステッドだ』


『アレン・ルーフです。トルナ村で鍛冶屋をしていました』


 アレン様の声が続く。緊張しているけれど、誠実さが伝わってくる。


『今、この国は腐敗した貴族たちに蝕まれている』


 カイロス様が説明を始める。


『君たちから税を搾り取り、武器を奪い、声を封じようとする者たちがいる』


『でも、僕たちは皆さんと同じです』


 アレン様が続けた。


『僕も村で、重い税に苦しんできました。カイロス様は戦場で、民を守るために戦ってきました』


『そうだ。アレンの言う通りだ』


 カイロス様の声に温かみが混じる。


『俺たちは、お互いを補い合える。戦場の経験と、村での知恵を合わせて』


『一人では変えられなかったことも、二人なら変えられる』


 アレン様の声が力強くなった。


『具体的に説明しよう』


 カイロス様が政策を語り始める。


『まず、税制を見直す。貴族が隠し持っている財産を明らかにし、適正な負担をしてもらう』


『そして、道を良くしたいんです』


 アレン様が続ける。


『僕が村から来る時、本当に大変でした』


『商人さんたちも、荷物を運ぶのに苦労していますよね』


『みんなが行き来しやすくなれば、きっともっと良い国になります』


 二人の声が重なる。


『君たちの声を聞かせてほしい。一緒に、この国を変えよう』


『皆さんの知恵と経験が必要です。僕たちだけでは、本当の改革はできません』


『今すぐ王都に来てくれとは言わない。でも、君たちの村で、町で、できることから始めてほしい』


『困っている人がいたら助ける。不正を見つけたら声を上げる。そんな小さなことから』


 私は必死に魔力を保っていた。


 でも、二人の想いが伝わってくる。


 この声を、絶対に全国に届けたい。


『最後に、一つだけ約束させてくれ』


 カイロス様の声が真剣になる。


『俺たちは、君たちを裏切らない』


『僕たちは、皆さんと同じ目線で考えます』


 アレン様が誓う。


『一緒に歩もう。二人の王と、この国のすべての民で』


 ***


 ――全国の反応――


 演説が終わると、王国中から歓声が上がった。


『素晴らしい!』


『あの二人なら信頼できる!』


『村の代表者を選ぼう!』


『王都を助けに行こう!』


 各地の村長や商人たちが立ち上がる。


 馬車に物資を積み、王都に向かう準備を始める人々。


 私は演説の成功を確認すると、安堵した。


 でも――


「あ...」


 急に視界が真っ白になった。


 魔力を使い果たしたのだ。


 意識が遠のいていく。


「ルミナ!」


 カイロス様の声が遠くに聞こえる。


 でも、微笑むことはできた。


(届いた...みんなに届いた...)


 私は幸せな気持ちで、深い眠りに落ちた。


 ***


 ――大司教マクシミリアンの決断――


「ルミナよ...あなたは前例のない術を成功させた」


 私の意識が戻った時、大司教様が枕元に座っていた。


「でも、この術はあまりにも危険すぎる」


 大司教様の表情が厳しい。


「今回あなたが無事だったのは奇跡だ。一歩間違えれば命を落としていた」


「大司教様...この術は本当に初めて使ったもので、私もどこまで消耗するか分からずに...」


「他の聖女の皆さんは...大丈夫でしたか?」


 私の不安そうな声に、大司教様が頷く。


「心配していたのは、そこでしたか。全国の聖女たちからも報告が入りましたが、皆魔力を消耗しただけで命に別状はありませんでした」


「本当に...?」


「ええ。あなたは皆を危険に晒したと思っているのでしょうが、未知の術にも関わらず、誰も深刻な被害は受けていません」


 大司教様が優しく微笑む。


「あなたは国を救ったのです。そして、仲間たちも守り抜いた」


「だが、この術の使用を今後永久に禁止する」


「はい...」


 私は頷いた。


 確かに、あの時は死ぬかもしれないと思った。


「エーテル・ネットワークは、今回限りの奇跡とする。この術の使用を永久に封印する」


 ***


 ――教会の支持表明――


 その日の夕方。


 大司教マクシミリアンが正式な声明を発表した。


「我が教会は、長きにわたり腐敗した貴族たちの横暴に心を痛めてまいりました」


 王宮の大広間に、貴族たちが集まっている。


「民から搾取し、神の教えに背く者たちをこれ以上放置することはできません」


 ガーウィン侯爵の顔が青ざめる。


「カイロス王とアレン王の改革こそ、神の意志に叶うものと確信いたします」


「教会は二人の王を全面的に支持し、新しい国造りに協力することをここに宣言いたします!」


 拍手が響く。


 もはや腐敗貴族に味方する者はいなかった。


 ***


 ――先王の重臣たちの決起――


「私も支持いたします」


 立ち上がったのは、元宰相ヴィクター・アードレー。


 先王に仕えた重臣の一人だ。


「先王ロベルト様は、常に民を第一に考えておられました」


 老人の声に威厳がある。


「カイロス王のお考えこそ、先王の遺志の体現です」


「元財務卿エルウィン・ストーンです。腐敗貴族の隠し財産を調査し、適正な税制を構築いたします」


「元軍務卿ロジャー・グレイです。忠誠心ある将軍たちと共に、新体制を軍事的に支援いたします」


 次々と重臣たちが立ち上がる。


 もはや、ガーウィン侯爵とその一派は完全に孤立していた。


 ***


 ――全国からの支援――


 翌日から、続々と支援が到着した。


「木材をお持ちしました!」


「鉄材もあります!」


「人手も提供いたします!」


 各地の村から、馬車の列が王都にやってくる。


 カイロスが市場側で的確に指示を出している。


「この木材はここに積んでください。鉄材はあちらの倉庫に」


「お年寄りの方は無理をしないでくださいね」


「子供たちは安全な場所で待っていてください」


 戦場での指揮経験が、ここでも活かされている。


 人々がカイロスの的確な判断を信頼し、自然に協力している。


「カイロス様って、あんな感じに話すんですね」


 ドルンが少し驚いたように呟く。


「ああ、お母様が庶民の出身だからな。普段は王としての振る舞いを心がけているが、こういう時は素が出るんだ」


 レオニードが微笑みながら説明する。


「...そうだったんですか」


 ドルンが頷いて、カイロスの方を見つめる。


「でも、俺は今のカイロス様、すごく好きです」


 その言葉に、レオニードも温かい笑みを浮かべた。


 一方、広場側ではアレンがレオニードやセリアと共に、貴族たちとの調整を進めていた。


 最初は「村の子供が王?」と冷たかった貴族たちも、アレンの誠実さと二人の支援を見て、態度を変え始めている。


 ***


 ――橋の再建開始――


「みんな、ありがとう!」


 カイロスが市場側で民衆に向かって叫ぶ。


「一緒に橋を架けよう!今度こそ、壊されない強い橋を!」


「おう!」


「任せろ!」


「二人の王のためだ!」


 人々の士気が高い。


 全国から集まった職人たちが、それぞれの技術を持ち寄っている。


「今度は石造りにしよう」


「魔法で強化もできます」


「地盤もしっかり固めましょう」


 アレンも広場側で指揮を執る。


 今度こそ、カイロスと手を取り合える日が来る。


 ***


 ――セシリアの困惑――


 遠くからその様子を見ていたセシリアは、困惑していた。


「こんなはずでは...」


 数百年かけて練った復讐計画が、まったく違う方向に進んでいる。


 二人の王は対立するはずだった。


 国は混乱し、制度は崩壊するはずだった。


 でも現実は――


「あの二人のせいで、制度が浄化されている...」


 民衆は団結し、腐敗は根絶され、希望に満ちている。


「これは本当に...復讐なのかしら?それとも...」


 セシリアの心に、初めて迷いが生まれた。


 ***


 一週間後。


 新しい橋が完成した。


 石と鉄で作られた、頑丈で美しい橋。


 アレンとカイロスが、それぞれの端に立つ。


「今度こそ」


「ああ、今度こそ」


 二人は歩き始めた。


 橋の中央で、ついに手を取り合う。


「よろしく、相棒」


「こちらこそ、相棒」


 周囲から歓声が上がった。


 二人の王が、ついに本当の意味で出会ったのだ。

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