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番外編4「カイロス・ヴァルステッドの夢」~カイロス②~

 意識の底で、カイロスは夢を見ていた。


 ***


【12歳・初陣前夜】


「母様、俺は本当に戦場に出て良いのでしょうか」


 幼いカイロスが、母の膝に頭を預けている。


 貴族の父と庶民の母――その血を引く自分の立場は、この屋敷でも常に曖昧だった。


「カイロス、血筋なんて関係ない。大切なのはあなた自身の心よ」


 兄アルフレッドが自分を見る時の冷たい視線。


「庶民の血が混じった弟」「家の汚点」――使用人たちの囁き声。


 だからこそ、戦場に出ることにした。ここでは血筋より実力が評価される。


「きっと大丈夫よ。あなたには人を守る優しさがある」


 母の声が、夢の中で遠くなっていく。


 ***


【戦場での日々】


 剣を握る手に血が滲んでいた。戦場で多くの命を救い、多くの仲間を失った。


 レオニードは頼れる兄のような存在だった。


 仲間の一人は、いつも守るべき者を最優先に考える勇敢な騎士だった。


 軍人として過ごした7年間。


 血筋ではなく、実力と判断で評価される世界。そこには確実に、自分の居場所があった。


「カイロス、お前は本当に良い指揮官だ」


 仲間たちの言葉が、温かく胸に残っている。


 共に戦い、共に泣き、共に笑った日々。


 あれが、自分の青春だった。


 ***


【19歳・王位継承の困惑】


「神の光が降りました!ヴァルステッド家次男カイロス様が選ばれました!」


 まさか自分が王に選ばれるとは。


 庶民の血を引く自分が、純血の貴族たちを治めることになるとは。


 玉座に座った瞬間の重圧。


 金と赤の装飾に囲まれ、大勢の視線を一身に受ける。


「所詮は成り上がりの軍人」「庶民の血が王になるとは」


 戦場なら、出自など関係なかった。それなのに、この玉座では血筋が全てを決める。


(俺一人で、本当にこの国を変えられるのか?)


 ***


【貴族議会での孤立】


「陛下のお考えは理想的すぎます」


 民のための政策を提案しても、貴族たちの冷たい視線。


「武器徴収案、賛成多数で可決」


 王宮での自分の味方は、レオニードとセリアくらいしかいない。


 王でありながら、王ではない。この矛盾した立場。


 だが、広場で民衆に語りかけたあの瞬間――


「武器徴収は一ヶ月延期する!その間に、村ごとの自警団を整えよう!」


 希望の光が民衆の顔に宿ったあの瞬間。


(これだ。これが俺の目指すものだ)


 ***


【ルミナの手紙】


 夢の中で、レオニードの声が響く。


「『二人の王が存在するかもしれません』」


 二人の王――もう一人の選ばれし者。


 自分が一人で背負っている重荷を、分かち合える相手。


 戦場で青春を過ごした自分とは、まったく違う環境で育ったもう一人の王。


 その違いこそが、きっと大切なのだろう。


 ***


【意識の回復】


「カイロス…カイロス…」


 レオニードの声が、だんだんはっきりしてくる。


「レオニード…?」


「カイロス!目を覚ましたか!」


 騎士団長の安堵の表情。


「市場側の様子は?」


「あちら側にも、指揮を執っている方がいるようです。茶髪の少年ですが、まるで戦場の指揮官のような的確さで…いえ、それ以上かもしれません。民衆が心から従っている様子でした」


 茶髪の少年――まさか。


(もしかして、あれが…もう一人の王?)


 カイロスの胸に、奇妙な感情が湧いた。


 出会ったこともない相手なのに、なぜか懐かしいような。


 右耳の王家の環が、微かに温かくなった。


 ***


「一刻も早く、向こう側と連絡を取りたい」


 王座は重い。一人では背負いきれないほどに。


 しかし、もしかすると――今度は一人じゃないかもしれない。


 窓の外には、分断された王都の夜景が広がっている。


 深い亀裂の向こう側で、もう一人の王が同じ空を見上げているかもしれない。


「明日こそは…」


 カイロスは静かに呟いた。


 母の言葉が、心に蘇る。


「あなたには人を守る優しさがある」


 そして戦場で学んだこと。


 一人では戦えない。仲間がいるから、強くなれる。


 もしかすると、もう一人の王も同じことを感じているかもしれない。


 希望という名の、小さな光を胸に抱きながら。


 カイロスは、新しい明日を待った。


 ――番外編5「もう一つの旅立ち」に続く

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