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はじめまして、旦那様。離婚はいつになさいます?  作者: あゆみノワ@書籍『完全別居〜』アイリスNEO
4章

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この上ない味方 4

 その日の夜シオンの家族全員と話し合い、状況が落ち着くまでルンルミアージュと身重のリリアンヌは安全な場所に移ることに決まった。


 これはフェリクスの提案だった。


『アグリアはすでにクロイツに目をつけられているから仕方ないとしても、さすがに身重の女性と子どもは心配だからね。しばらく王城の一室に身を隠すといい』

『えっ? ルンルミアージュとリリアンヌさんを……王城に、ですか!?』

『あぁ。すぐに用意を整えさせるから、明日にでも移っておいで。ミリーにも同じように伝えてあるしね』

 

 そんなこんなでふたりはしばらく屋敷を離れ、王城に身を隠すことになったのだった。

 フェリクスが寄越した馬車に乗り込む寸前、リリアンヌがジグルドを振り返った。 


「お義父様とお義母様ことはお願いね、あなた……。それからアグリアさんの身にも危険がないように気をつけてあげてね」

「あぁ、わかっている。リリアンヌ。こちらのことは何も心配しなくていい。君はルンルミアージュと自分の体のことだけ考えていればいい。……すぐに会えるよ」


 リリアンヌの大きくなりはじめたお腹を、ジグルドがそっと愛おしげになでた。

 

 ほんの束の間の別れとは言え、愛する家族を引き離してしまう結果になって胸が苦しい。けれど確かにフェリクスの言う通り、それが一番安全に思えた。


「ごめんなさい。私がきたばっかりにこんなことになって……」


 申し訳なさからそう口にすれば、ルンルミアージュが明るく笑った。


「大丈夫よ! お母様には私がついてるものっ。何の心配もいらないわ」

「ルンルミアージュ……」


 ルンルミアージュはどん、と胸を張って続けた。


「それにアグリア、あの領地で生まれ育った子は皆強いんでしょ! マルクみたいになんでもできて、どんな困難だって吹き飛ばして立ち上がるんだって、マルクが言ってたわ」


 きっと元気づけてくれているのだろう。大好きなシオンに疑いがかかっている上、父親とも引き離されて心細いはずなのに。


「だから、アグリアも頑張って! 必ずシオンを助けてね……。絶対にシオンは悪いことをするような人じゃないんだから! だからこっちのことは心配いらないわ」


 そう言ってルンルミアージュは、にっこりと笑ったのだった。


 こうしてお屋敷での生活が再びはじまった。


 とは言っても、寝起きする場所が変わるだけだけど。

 朝から午後までおかみの店で働き、タリオンやフェリクス、モンバルトらと連絡を取り合い続けた。


 屋敷の周囲にも店への行き帰りも、姿は見えないけれどフェリクスがつけてくれた護衛が四六時中張り付いてくれているらしいから、安心だ。

 

 義家族にすべてを打ち明け何の隠し事もなくなった今、心はすっきりと前を向いていた。かつての寂しさや孤独をひとりで抱え込んでつぶれそうになっていた自分も、もういない。

 ともにシオンを助けたいと願う味方は、こんなにもたくさんいてくれるのだから。


「じゃあそろそろ私、お店にいってきますっ」

「えぇ、気をつけていってらっしゃい! 皆さんにもよろしくね」

「はいっ」


 元気よく屋敷を出て、ひんやりとした早朝の風を切るように歩く。


(待っていてね……、シオン。必ず……必ずあなたを助け出してみせるから……。もう少しだけ、待っていてね!)


 心の中で、力強くつぶやいた。


 必ず牢の中から、クロイツの罠からシオンを助け出す。そして無事に戻ってきたシオンと、今度こそ真っすぐに向き合いたい。心からの素直な思いで、シオンと話がしたい。

 その結果が、どんなものになるのだとしても。


 もう足取りに何の迷いもなかった。


「おはようございます! おかみさん」


 明るく店内の掃除に励むおかみに声をかけ、さっそく料理の下ごしらえに取りかかった。


 シオンが牢に入れられて、二日が過ぎた。中でどんな扱いを受けているのか、情報は何もない。


 その日の午後、やっとクロイツの筆跡鑑定の結果が出た。


「間違いない。これを書いたのはクロイツ本人だ。多少年月の経過で変質してはいるが、紙とインクもクロイツの私物であることがわかった」


 タリオンが力強く断言した。


「フェリクス殿下が手を回して、奴の私物まで調べ上げたんだ。いやぁ、そんなすごい人の補佐に任命されるなんて、今も夢を見てるみたいだよ」


 興奮した口ぶりでフェリクスのことを話す様子からすると、フェリクスの補佐の仕事は安泰そうだ。


「そういえば、クロイツは今どこで何してるの? 今は軍本部にいるんでしょう?」


 シオンの取り調べに、クロイツも一、二度顔を出していたらしいとは聞いた。


 けれどもはやシオンは、刑の確定を待つだけの身だ。シオンに接触する必要もないはず。


 するとフェリクスが、険しい顔で告げた。


「そのことなんだが、実は少し前からクロイツに出世話が持ち上がっていてね。もちろん主導しているのは、ガイクスだ」


 フェリクスによれば、それは異例の大抜擢と言えるらしい。

 いくらそれなりの力のある伯爵家とは言え、何の功績もなく引き立てられれば周囲の反感を買いかねない。


「おそらく六年たった今になってシオンの口を封じようとしたのは、そのせいだろう」

「つまり、余計なことをしゃべられたらせっかくの出世がふいになるかもしれないから、先に手を回して消そうとしたってこと?」


 その問いに答えたのは、モンバルトだった。


「それだけじゃないだろうな。シオンを国を裏切った罪人としてつるし上げた功績を自分のものにする気だろう。自分の部下だった事実をもみ消してしまえぱ、火の粉はかからないしな」

「……最低!」  


 あまりの醜悪さに、思わず眉間にしわが寄った。


 ようは自分の出世の障害になりそうなシオンを、ここぞとばかりに消そうと六年もたった今になって罠をしかけてきたというわけだ。

 

 ようやくこれでクロイツの本当の目的がわかった。


「ってことは、ガイクス殿下もすべてを知った上でクロイツを引き立てようとしてるってことよね! ふたりとも地の底に落ちてしまえばいいのに!」


 思わず毒を吐けば、フェリクスがにやりと笑った。


「うん、そのつもりだよ」

「……え?」

「これからあのふたりと、ふたりにこれまで手を貸してきたごみ共を一掃するつもりなんだ。手を貸してくれるかい? アグリア。それにモンバルトも」


 黒い笑みでほくそ笑むフェリクスに驚きつつも、モンバルトと顔を見合わせ大きくうなずいた。


「もちろんよっ! 何をすればいいの?」


 シオンをひどい目に遭わせ、ランソルを死に追いやった男を国の中枢でのさばらせておくわけにはいかない。シオンのためにも、シオンを守ろうとしたランソルのためにも。そしてシオンを思う家族のためにも。

 

「そう言ってくれると思っていたよ。じゃあさっそくだけど……」


 いよいよクロイツの罪を暴き白日の下にさらす日が、近づいていた。

 そしてシオンが解放されるであろう日も――。

 

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